OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

ウェスはやっぱり凄い人

2006-02-23 15:23:58 | Weblog

昼メシ後に、ふらっとソフト屋に入ってみたら、なんと紙ジャケット復刻のCDが山のように出ていました。ディープ・パープル、デイブ・メイソン、マーク・ベノ、吉田拓郎……、本当にキリが無いですねぇ。こっちの財政も考えて欲しいもんです。と嘆きつつも、結局、買わざるをえない心境に追い込まれて、何枚か入手しましたが、それは後でご紹介することにして、本日の1枚はこれ――

Goin' Out Of My Head / Wes Montgomery (Verve)

ジャズの世界には短命な天才が大勢おりますが、ウェス・モンゴメリー(g) もそのひとりで、しかも極めてジャズ的な演奏で広く一般に人気が出た絶頂期に、あっけなく天国に召されたのですから残念至極です。

このアルバムはその端緒の1枚で、録音は1965年11月20日と12月22日とされておりますが、全ての演奏にはオリバー・ネルソン編曲・指揮のオーケストラがついていることから、後に若干のオーバーダビングがあったのではないか? と推察しております。

ただしウェスの演奏パートについては、ハービー・ハンコック(p)、ロジャー・ケラウェイ(p)、ジョージ・デュヴィヴィエ(b)、グラディ・テイト(ds) 等をリズム隊に据えての一発録りが基本だと思います。その内容は――

A-1 Goin' Out Of My Head (1965年11月20日録音)
 なかなか愛らしいメロディの素敵な曲で、オリジナルは多分、リトル・アンソニーの1964年秋のヒット曲だと思いますが、これをウェスはソフトロックに演奏しています。なにしろアドリブパートがほとんど無く、メロディを奏でるだけなんですから! これでは物足りないっ! と思うのがジャズ者の性……。しかしこれが、ここでは良いんですねぇ♪ オリバー・ネルソンのアレンジ&オーケストラ伴奏も厚みがあって歯切れ良く、とことんウェスのギターが浮き出すようになっていますし、またそれに負けないウェスのギターは言わずもがなの素晴らしさで、単に原曲のメロディを弾くだけで説得力があるのは、驚異のオクターブ奏法があればこそです。3分に満たない演奏ですが、中身は濃いです。ちなみにシングル盤も出ていましたですね。

A-2 O'Morro (1965年12月22日録音)
 有名なボサノバ曲をウェスが優しく奏でてくれます。バックのオーケストラも趣味が良いアレンジですし、その中でウェスが縦横無尽にアドリブしていくのですから、醸し出される独特の浮遊感が最高の気持ちよさです。

A-3 Boss City (1965年11月20日録音)
 ラテンリズムの楽しい曲はウェスのオリジナルで、しかもサビではファンキー味までも楽しめるという構成です。アドリブでも最初から凄いフレーズの連続で、全く出し惜しみしないその姿勢は自信の表れでしょうか。バックのオーケストラが完全に引張られている雰囲気で、終いにはウェスがリードして4ビートのノリに転じるあたりが、スリル満点です。

A-4 Chm Chm Cheree (1965年12月22日録音)
 ミュージカル「メリーポピンズ」からの有名な1曲を題材に、ウェスは真ジャズギタリストの神髄を聞かせてくれます。ドライブする単音弾きからオクターブ奏法、そして迫力のコード弾きへと展開していく様は痛快です。しかもそのアドリブメロディが全て「歌」になっているのです♪ バックのオーケストラが控えめながら、その色彩豊かなアレンジも特筆物です。

A-5 Naptown Blues (1965年12月22日録音)
 これもウェスのオリジナルで強烈なブルースが演奏されます。イントロはオーケストラのパートで、やややっ、これはマイルス・デイビスの「天国への七つの階段」じゃないか!? という仕掛けも楽しいところです。そして続くのが全篇ド迫力のブルース演奏! ウェスは絶好調のフレーズを連発していきますが、バックのオーケストラもハードドライブなリフを炸裂させており、痛快の極みです。

B-1 Twisted Blues (1965年12月22日録音)
 これも「A-5」と同じ趣向のブルースですが、その演奏は一層凄まじく、ウェスの神業には口がアングリ状態になること請け合いです。低い蠢きから余人の思惑を超越したコード弾きの連続技に至るところなど、当に白熱のドライヴィング・ギター! そして3分18秒目から思いっきり盛り上げて、スキッとアドリブを終わらせるところは、あぁ、もっと聴いていたいっ、とこちらに思わせる最高の演出です。

B-2 End Of A Love Affair (1965年12月22日録音)
 前曲の熱い興奮を冷ましてくれるのが、この演奏です。カラフルなオーケストラに包まれてふわっ、と出てくるウェスのオクターブ奏法の響きは、もう最高です。全体はスローな展開ですが、その中でウェスのアドリブには思いっきり情熱が込められており、これには後にA&Mレーベルで大輪の花を咲かせる萌芽が感じられます。

B-3 It Was A Very Good Year (1965年12月22日録音)
 囁くようなウェスのギターが、とてつもなく魅力的♪ リズム隊はかなり刺激的なツッコミを入れてくるのですが、この繊細なところを最後まで崩さないあたりが、天才の証明でしょうか……。仄かなスパニッシュ調が感じられる静謐な演奏になっています。

B-4 Golden Earrings (1965年12月22日録音)
 これも前曲のムードを引き継いでいるような静かな出だしから、お馴染みの哀愁が漂うテーマを、ウェスはじっくりと弾いていきますが、その秘められた情熱は感動的! アドリブパートへの持っていき方も流石で、テンポを上げて4ビートで勝負に出れば、もう恐いものなしの演奏になっていきます。それにしても、よくこれだけ歌心のあるフレーズが出るもんだ! と呆れかえるほどですよ、これはっ♪ ちなみにアレンジはギル・エバンス調になっているのが微笑ましいです。

ということで、このアルバムはブルースからソフトロック、さらにボサノバからムード音楽まで包括した、完全に出来過ぎの1枚です。しかしウェスは徹頭徹尾、ジャズ演奏家としての姿勢を崩しておりませんし、その神業ギターには、誰をも寄せ付けない凄みがあります。

オリバー・ネルソンのアレンジもシャープで緩いところがありませんし、個人的には、後に大ヒットとなるA&Mレーベルでの作品群と同一の出来だと思っています。曲毎の演奏時間が短いのとオーケストラが付いていることで食わず嫌いになっている皆様には、ぜひとも聴いていただきたい作品です。

コメント (4)
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