わっはっはっ、やはりオリンピックで金メダルが取れないと、寂しいことが分かりました。良くやった、荒川静香♪ 顔見世演技では極小ビキニでも着て、思いっきり跳んで、開脚してちょうだい! なんて今日は浮かれ気味ですが、いつかフィギュアでもジャズを使ってほしいなぁ。特にこのアルバムの「B-2」あたりをねっ♪
■Keith Jarrett Standards, Vol.1 (ECM)
最初に断っておきますが、私はキース・ジャレットという人は好きではありません。あの演奏中に自己陶酔しての唸り声とか尻振りダンスが、どうしても生理的に受け付けません。しかし悔しいかな、キース・ジャレットが発表する作品の素晴らしさは、認めざるをえません。
例えば初期ピアノトリオで演じたディランの「My Back Pages」が入っている「Somewhere Before (Atlantic)」は傑作だし、ソロピアノの「Solo Concerts (ECM)」は、やっぱり良いし、さらにカルテットでも「宝島(Impulse!)」や「My Songs(ECM)」は素敵だと思います。
そして、この「Standards, Vol.1」です。実はキースがオールスターのトリオでスタンダードを演奏したアルバムを出すと知ったとき、あぁ、キース、お前もか……!? とさして期待もしていませんでした。なにしろ当時、1983年頃はフュージョンが一段落してジャズが4ビートに回帰し、若手は新伝承派と称され、またベテランは如何にもジャズファンの顔色を覗ったようなレコード会社主導の作品ばかりを出す風潮になっていたのです。特に潜在的に人気があるピアノトリオ盤については、例えばハンク・ジョーンズのグレイト・ジャズ・トリオとか、トミー・フラナガンのスーパー・トリオ等々のアルバムが、日本のレコード会社によって製作され、それなりに売れていました。
ただし一部硬派のジャズファンは、けっしてそういうブツを歓迎していませんでした。否、むしろ金のためにやっている、やっつけ仕事として軽蔑すらしていたのです。で、そこへキースのこのアルバムですから、聴く前からなんとなく……。
なにしろメンバーはキース・ジャレット(p)、ゲイリー・ピーコック(b)、そしてジャック・ディジョネット(ds) という、当時のジャズ界では人気と実力を兼ね備えたバリバリの看板が3人揃ったのですから、御託を並べる前に聴かなければなりません。ちなみに録音は1983年1月とされています――
A-1 Meaning Of The Blues
「スタンダード」というわりには、いきなりシブイ曲が選ばれてしまいました。演奏もキースがじっくりと元メロディを熟成させるがごときの展開で、ゲイリー・ピーコックも控えめな自己主張に徹しています。しかし何となくディジョネットにやる気が感じられず、最初聴いた時は、ほら、みたことか! と心の中で拍手喝采したのですが、聴き進むうちに、これはっ……! と驚嘆させられるのです。それはキースのメロディ展開の上手さ、ディジョネットのリズムの鋭さ、ゲイリー・ピーコックのハーモニー感覚の恐さ、そういうものが全く地味なここでの演奏世界に充ち満ちているからです。もちろんキースは終始、唸っていますよ。
A-2 All The Things You Are
モダンジャズでは定番のこの曲を、トリオは全力疾走で演じます。しかしけっして熱くなりません。否、むしろ冷めていて当然という風情が漂います。そしてそれにノセられ、手に汗握ってしまうこちら、いったいどうなんだっ! という憎たらしさがあるのです。これも計算ずくのことなんでしょうが、それなら唸るなよっ、キース! と私は思わず激怒です。本当に参ってしまいますよ……。
A-3 It Never Entered My Mind
マイルス・デイビスの名演があまりにも有名なスタンダード曲ですが、ここでも定石どおりにスローな展開から、トリオは熟達の技を披露していきます。特にゲイリー・ピーコックの出来は素晴らしく、ベースばかりを聴いてしまうほどです。
B-1 The Masquerade Is Over
結論から言うと、B面に入って突如、このトリオは燃え上がるのですが、まずこの曲はキースの唸り声がいつも以上に派手な快演が展開されます。それが煩いので、私はディジョネットのドラムス中心に聴くようにしていますが、ゲイリー・ピーコックのベースがまたしても素晴らしい♪
B-2 God Bless The Child
ビリー・ホリディの名唱が有名なこの曲を、トリオはゴスペル・ジャズロックに焼き直すという荒業を聞かせてくれました。おぉ、これがキースの真髄じゃなかろうかっ♪ 私は大好きです、こういうのっ♪ ディジョネットの重たいビート、イナタさを含んだゲイリー・ピーコックのベース、さらにせつなく歌うキースのゴスペルピアノ♪ 本当に最高です。演奏時間は15分以上あるんですが、それもあっという間の夢の時間です。
ということで、悔しいけれど良いアルバムです。ジャズ喫茶でもリクエストが頻発して私は何回も聴かされましたが、それでも買ってしまったほどです。特に「B-2」は毎朝起き抜けに聴いていたほどです。なんか気合が入るんですよね。
そして当然、セールスも好調で、以降キースはこのトリオ活動を継続し、このアルバム以上の名演・名盤を残していくのですが、まずはこの作品はその端緒の1枚として、虚心坦懐に聴いていただきとうございます。えっ、ケルンについて触れてないって? それはまた、別のお楽しみです。