OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

硬派な一面、柔和な側面

2006-02-26 19:37:31 | Weblog

日頃、柔和な友人が思わぬ場面で硬派な姿勢を見せたりすると、愕くと同時に、何か嬉しかったりもするんですが、本日はそんな1枚を――

Two Of A Mind / Paul Desmond & Gerry Mulligan (RCA)

ポール・デスモンド(as) とジェリー・マリガン(bs) は、本場アメリカでモダンジャズ全盛期にダントツの人気があった白人プレイヤーですから、その2人の共演盤ともなれば、おそらく夢のような和みの世界が展開されると期待してしまいますが、とこがどっこい、このアルバムは真剣勝負の緊張感に満ち溢れた仕上がりになっています。

と、最初から結論を書いてしまいましたが、実際、2人とも平素は豊かな歌心と柔らかい音色、そして抜群のノリの良さで大衆の人気を集めていたのですから、その部分に期待して何が悪いのか? というのが正直な気持ちです。

メンバーはデスモンド、マリガンの2人を中心に、リズム隊がジョン・ビール(b)、ウェンデル・マーシャル(b)、ジョー・ベンジャミン(b)、コニー・ケイ(ds)、メル・ルイス(ds) がセッション日毎に入れ替わって務めてはいるものの、どちらかというとリズム・キーパー的な役割なので、それほど気にする必要は無いと思います。もちろん全員がきっちりした快演です。

A-1 All The Things You Are (1962年7月3日録音)
 モダンジャズでは説明不要の定番スタンダードを、デスモンドとマリガンはテーマ部をフーガ形式で演じ、続けて快適なテンポでアドリブしていきます。その先発はデスモンドが何時もながらの豊かな歌心を発揮して楽しくリードしますが、途中でマリガンがちょっかいを出す場面もあります。しかしそれは、けっして成功しておらず、それが響いたか、自分のソロ・パートでも調子がイマイチ出ていません。それでもドラムスのコニー・ケイが必死で煽るので、徐々にペースを掴んでいくところが、ジャズを聴く楽しみになっております。
 で、クライマックスはデスモンドとマリガンがアドリブで絡みながらラスト・コーラスへ突入していくところで、ここもクラシックからの影響があり、何とそのまんま、締め括りのテーマを奏さずに、ピタリっと演奏を止めてしまうのでした。

A-2 Stardust (1962年7月3日録音)
 有名ポビュラーヒット曲をこの2人がという趣向なので、もう夢のような世界を期待するのですが、愕く無かれ、あのテーマを吹かずにいきなりアドリブで絡みあって演奏が進んでいくという、当に真剣勝負の極みがこれです。
 しかもそのアドリブから極力、甘い歌が省かれて、お互い、如何に鋭いフレーズを出し合えるかを競っている雰囲気になりますから、聴いていて疲れること請け合いです。あぁ、なんでだろぅ……。もちろん2人の魅力であるソフトな音色は互いに守っているのですが……。当に剣豪が対面し、刀を抜く前に駆け引きをしているようです。

A-3 Two Of A Mind (1962年8月13日録音)
 デスモンドのオリジナルで、一転してアップテンポで鋭くスイングする演奏ですが、タイトルどおり、テーマ部分~アドリブパートに至るまでデスモンドとマリガンの絡みで進行していきます。ちなみにこのアルバムはステレオ盤では、右チャンネルにデスモンド、左チャンネルにマリガン、真ん中にドラムスとベースという振り分けなので、そのあたりがなかなか面白く聴けます。
 しかしマリガンのアドリブパートは一人舞台なので、マリガンの物凄いスイング感が満喫出来て痛快です。そしてデスモンドと刃を合わせんとするソロの対決が絡みに転じていくところが、スリルの極みになっているのでした。

B-1 Blight Of The Fumble Bee (1962年8月13日録音)
 これはマリガンのオリジナルですが、もちろんネタ元はコルサコフの「熊蜂の飛行」ということで、アドリブ先発のマリガンは本領発揮の豪快なソロを展開します。そしてそれに対抗するデスモンドは、あくまでもソフトな情感で勝負♪ この対象美が本当に魅力です。ただしデスモンドは甘いフレーズはひとつも吹いておらず、あくまでも硬派な姿勢を崩していません。ですからマリガンとの絡みは真剣そのものですが、全くつけ入るスキがありません。ついにマリガンはドラムスとのソロチェンジで怒りを爆発させますが、その後のサックスコラボレーションは一糸乱れぬところが、流石の聞き物です♪

B-2 The Way You Look Tonight (1962年8月13日録音)
 これもモダンジャズでは定番のスタンダードで、ここでもかなり早いテンポで演じられるお約束がきちんと守られています。もちろんテーマ吹奏は2管の絡みで、裏になり表になりして展開されるあたりは、最高です。
 デスモンド、マリガン、共に快演ですが、何とクライマックスに至ってはデスモンドのアルトソロが多重録音され、結果的に3管の絡みになるのですから強烈です。う~ん、これは本当に必要だったのかなぁ……? 確かに気持ち良いんですが、なんか違和感が無きにしもあらずです。

B-3 Out Of Nowhere (1962年8月13日録音)
 ちょっとアラビアン・モードのイントロが印象的ですが、テーマはお馴染みの旋律をそれほど崩さずに、しかもデスモンドとマリガンの絡みで演奏されるのですから、気持ちの良い展開です。

ということで、実は聴き終わってみれば緊張感ガチガチのスタートから、最後は解れた和みも多少感じられるという作品です。ただし、そこまで聴くのが疲れるというか、体調を整え勝ておかないと、あまりの意外性にKOされるでしょう。それはズバリ、こちらの先入観念をブチ破るエネルギーに充ちているということで、自宅で聴くより、大音量のジャズ喫茶向きのアルバムだと思っています。

もちろんデスモンドもマリガンも友人ではありませんが、またひとつ、彼等が好きなった1枚です。

コメント
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