またまた激しい雪になりました。春は本当にやってくるんでしょうか? こんな時は熱いボーカルを聴きます。例えば――
■Slow Dancer / Boz Scaggs (Sony)
ロック黄金期のイメージといえば、男の長髪だと思いますが、それがいつしか短めに戻ったのは、おそらくAORが流行した1970年代後半からだと思います。
そしてそのきっかけは、ボズ・スキャッグスの大ブレイクでしょう。永遠の名盤「シルク・ディグリーズ」は、音楽に止まらず、その後の世相にまで影響を与えたわけですが、実はその直前に、とても素敵なアルバムを出していました。それがこの作品です。
しかしジャケットが酷いですねぇ。海パン一丁で砂浜をトボトボ歩くボズ……。全然、ロックしていません。否、実はそれで良かったのです。なんと中身は極上のブルー・アイド・ソウル!
なにしろプロデューサーがモータウンのスタッフ・ライターだったジョニー・ブリストルですから、ここでもその味が非常に強く、そこへ青白い声質に黒い節回しの歌いっぷりというボズの特質がズバッと急所に命中した仕上がりになっています。
まずA面1曲目の「You Make It So Hard / つのる想い」が、まったく西海岸モータウンサウンドで、心ウキウキ♪ 重厚なブラスとモータウン伝来のリズムパターン、弾ける女性コーラス、そして楽しいメロディが最高に上手く混じり合った傑作です。ボズの歌いっぷりも完全にツボを掴んだ熱唱を聞かせます。
続く2曲目の「Slow Dancer」は、アルバムタイトルにしただけあって、メローな感触が横溢した、これも名曲です。流麗なストリングスが、せつないサビの展開をグッと盛り上げ、ほどよい女性コーラスが、これまた素敵♪ ボズも熱唱ですが、バックのリズム隊ではエレキベースが寄添うようにドライブするところが隠し味です。
3曲目の「Angel Lady」は一転してファンキーに迫り、これは次作アルバム「シルク・ディグリーズ」に直結する雰囲気です。ボズのボーカルとコーラスの絡みの上手さは、プロデューサーのジョニー・ブリストルが十八番のアレンジでしょう。
4曲目の「There Is Someone Eles / 愛を見つけて」は再びミディアム・スローの展開ですが、ストリングスとコーラスの分厚い音の壁、大技・小技を存分に披露するリズム隊に支えられて、ボズが思いっきり熱唱を聞かせます♪
そしてA面ラストはファンキー・ロックな「Hercules」で、作曲はニューオリンズのファンキー男、アラン・トゥーサンなんですから、たまりません。ただしここでは、重厚なストリングスとブラス、歯切れのよいリズム・アレンジを用いて、曲本来の野性味を中和したというか、都会的な味を強調してありますので、好き嫌いがあるかもしれません。
B面に移っては、初っ端の「Pain Of Love」がホワイト・ゴスペル丸出しの展開で、エルビス・プレスリーが歌ったらなぁ……、という思いも過ぎりますが、なるほどボスだってエルビスの影響からは逃れられないわけですから♪ ちなみにイントロのギターのフレーズが、私は最高に好きです。
続く「Sail On White Moon」もミディアム・スローな展開ですが、これがジョニー・ブリストルのオリジナルとあって、ボスというよりもジョニー・ブリストルの世界が全開しています。それは勿体ぶった節回しと内に秘めた情熱というところですが、それはソウル・ミュージックのひとつの魅力ですらか、ボズもその世界に必死に迫っています。
しかし一転してB面3曲目の「Let It Happen / 愛の始まり」はカントリー・フレイバーが漂う名曲です。これはボズとジョニー・ブリストルの共作ということで、絶妙なブルー・アイド・ソウル♪ 全体を通して聴くと、この曲だけがちょっと浮いているのですが、ボズの熱唱、バックのアレンジ等々は、間違いなく次のステップに直結していると思います。
おまけに次の「I Got Your Number」はゴスペル・ファンキーなんですから、もうたまりません♪ ただしアレンジが、今日の耳にはやや古臭く、このあたりが結果論からいうと、このアルバムがリアルタイムでヒットしなかった要員かもしれません。
そして締め括りがお洒落なスロー・ナンバー「Take It For Granted / 愛のあやまち」です。全体にアコースティックなアレンジが施されており、ボズの歌もほどよく力が抜けております。そこが物足りなくもあり、もっと聴いていたいというところで終わってしまうという、考えようによっては上手いラスト・シーンではありますが、CDならば、ここでA面トップにリピートすると、永遠に聞き飽きない名盤というわけです。
ということで、ジャケットと中身があまり上手くマッチしていない隠れ名盤がこれです。ご存知のように次作「シルク・ディグリーズ」がメガヒットとなった後、ジャケットを変更して再発されるのですが、私のようなオールド・ウェイブな人間には、通称「海パン」と呼ばれるジャケットの雰囲気も含めた、この作品の持つイナタサがたまらなく愛しいのです。たとえ真冬だろうと……♪
ちなみにバックの演奏はエド・グリーン(ds)、ジェームス・ギャドソン(ds)、ジェームス・ジェマーソン(b)、ジョー・サンプル(p)、ワー・ワー・ワトソン(g) 等々、書ききれないほどの名手が大勢参加しておりますので、名盤になるのも、ムベなるかなです。
まあ、とにかく聴いてみて下さい。なんか心が温まりますよ。