厳しい冬は始まったばかりですが、今年は仕事が異常に忙しいので、泣きが入りそうです。本日も物凄い風雪で、そういえば山形県では大きな列車事故がありましたですね。何時、何事が起きるか、一寸先は闇だと痛感しております。遭難された皆様には、こころからお見舞い申し上げます。
ということで、本日は原点回帰のこれを――
■Cliff Craft / Cliff Jordan (Blue Note)
日頃目立たないけれど、実は良い仕事をしている人は、どんな業界・業種にも必ずいるものです。ジャズの世界ではクリフ・ジョーダン(ts) が、そういう中のひとりでしょう。
スタイル的にはR&B派でも、コルトレーン派でも無く、しいて言えばハンク・モブレー風の王道派ですが、黒人でありながら黒っぽさは控えめという、まあ、ある種のスマートさを持ったプレイヤーです。
しかし、その仕事ぶりは堅実で、あらゆるタイプのバンドに加わって録音を残していますし、そのどれもが一定のレベル以上の出来になっています。もちろん自己のリーダー盤でも、所謂ジャズの名盤と認定されるブツはありませんが、ジャズ喫茶の人気盤は沢山あり、このアルバムもそのひとつです。
メンバーはクリフ・ジョーダン(ts) 以下、アート・ファーマー(tp)、ソニー・クラーク(p)、ジョージ・タッカー(b)、ルイス・ヘイズ(ds) という、これも地味ながら間違いの無い仕事人ばかりというあたりが、マニア心を刺激します。
録音は1957年11月10日で、A面は全てがクリフ・ジョーダンのオリジナルで占められています。そしてまず初っ端がラテン系哀愁ナンバー「Laconia」、しかし、このホレス・シルバー調の素敵な曲がイマイチ消化不良……。う~ん、何故だ? ちなみにこのセッションの参加メンバーでは、クリフ・ジョーダン、アート・ファーマー、ルイス・ヘイズの3人が、当時のホレス・シルバー(p) のバンドメンバーだったのですから、ますます???です。
しかし次の「Soul-Lo Blues」はミディアム・テンポの快演で、ファンキーでカッコ良いリフのテーマとメンバー全員の充実したアドリブ・ソロが、まろやかで黒っぽい雰囲気を醸し出しています。中でも剛直に生ベースを弾くジョージ・タッカーが縁の下の力持ち! またソニー・クラークも何時ものクラーク節全開で最高です♪
そしてA面ラストの「Cliff Craft」は、これぞハードバップというアップテンポ曲で、アルバムタイトルに偽りなしの名演! クリフ・ジョーダンは地味~な出だしから徐々に印象的なフレーズを炸裂させて盛り上げて行きますし、アート・ファーマーも淀みない歌心を披露、そしてソニー・クラークはもちろんファンキーです。
ところがB面に入ると、初っ端の有名ビバップ曲「Confirmation」が脱力感……。なんか、ピリッとしません。
しかし続く「Sophisticated Lady」はムード満点、クリフ・ジョーダンは黒くてソフト、都会的な解釈で、この有名なエリントン・ナンバーをじっくりと聞かせてくれます。
そしてオーラスは、またまたビバップ定番曲の「Anthropology」が、今度は熱く演奏されるのです。その原動力はルイス・ヘイズの躍動的なドラムス! アート・ファーマーは完全に尻を叩かれていますし、このあたりの雰囲気は、今しもホレス・シルバーの団子弾きピアノが聞こえてきそうですが、実際はソニー・クラークの控えめな伴奏になっているのが勿体無い限り……。しかし、まあ、それは無いもの強請りですね。
そしてその物足りなさをぶっ飛ばすのが、クリフ・ジョーダンのツボを外さないテナー・ソロ♪ 音色は灰色、ハートは黒く、醸し出す雰囲気はモダンジャズの魅力そのものです。さらに続くソニー・クラークがピュアなビバップ魂を噴出させるのですから、たまりません。
ということで、やや仕上がりにバラつきが感じられる内容ですが、リーダーのクリフ・ジョーダンに限っていえば、今回も良い仕事でした。原盤ジャケット裏の解説でも、実際の現場では人望があったというクリフ・ジョーダンは、けっこう安心して仕事を任せられる人だったようです。
それ故にいろいろなバンドで長く活動し、リーダー盤も数多く出していますが、若干、企画に溺れたような作品があり、また、そっちばかりが取上げられるところが、クリフ・ジョーダンの不幸かもしれません。その意味でこのアルバムは基本に忠実というか、原点の1枚として好感が持てるのでした。