昨日は残務整理、そして本日、ヘトヘトになって実家に戻り、いろいろいと野暮用をこなし、これから宴会とパーティの二本立てへ顔を出してきます。
全く自分の楽しみが無いというか、こういう時こそ、個人的に密かな楽しみに浸りたいということで、本日の1枚は――
■Water Babies / Miles Davis (Sony)
1976年末に突如発売された、マイルス・デイビスの未発表曲集です。当時のマイルスは隠棲中でしたから、レコード会社としては窮余の一策という事情があったのですが、内容は素晴らしい部分を沢山含んでいます。
それは1960年代後半のマイルス・バンドの変化、ロックへの挑戦を含んだ流動的な実態が明らかにされる、その刹那の一瞬を楽しむという、いささかマニアックなものですが、しかし虚心坦懐に聴いても、なかなか良いアルバムだと思います。
まずA面は全てウェイン・ショーターのオリジナルで占められており、演奏メンバーはマイルス・デイビス(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)、ロン・カーター(b)、そしてトニー・ウィリアムス(ds) という、所謂黄金のクインテットです。
1曲目の「Water Babies」は、1967年6月7日の演奏とされており、これはリアルタイムで発売されたマイルスの傑作アルバム「ネフルティティ」のタイトル曲と同日の録音とあって、そのミステリアスな雰囲気やテンションの高さは遜色ありません。特にショーターは最高です♪
2曲目の「Capricorn」は同年6月13日の演奏で、このバンドだけの暗黙の了解的な4ビートが心地良いのですが、なにかひとつ、物足りない雰囲気が濃厚です。ただしロン・カーターとトニー・ウィリアムスのリズム・コンビーネーションはジャズの本質を突いています。
3曲目の「Sweet Pea」は同年6月22日の演奏とされていますが、これは諸説あるようです。肝心の演奏は、これもショーター十八番のミステリアス路線で、ミディアム・テンポを基調に各人がフリーのアプローチも披露しつつ、裏に表に絡みながら進行していくテンションの高さが快感です。
ちなみに以上3曲は、2年後の1969年夏にウェイン・ショーターが自己名義でリメイクし、ブルー・ノートから発売した傑作アルバム「Super Nova」に収録して極みつきの演奏を聴かせてくれますので、そのあたりを鑑みると、ここでのバージョンへの興味は尽きないものがあります。
そしてこのアルバムのハイライトは実はB面で、録音は1968年11月とされており、何と前述のメンバーにチック・コリア(key) とデイブ・ホランド(b) が加わっての擬似ロックビート・セッションになっています。もちろんチックとハービーはエレピを弾いていますし、ロン・カーターがエレキ・ベース、デイブ・ホランドが生ベースという変則体制が異様な緊張感を生んで行きます。
まず1曲目の「Two Faced」はトニー・ウィリアムスのラテンロック的なポリリズムのドラミングと絡み合うキーボード、自由に飛翔するベースのウネリが、後年の電化マイルスの礎をしっかりと聞かせているのが愕きです。
またそれに挑むがごときショーターのダークなアドリブ、全く負けていないリズム隊の強靭さが最高です。もちろん主役のマイルスも奮闘しますが、はっきり言って精彩がありません。というよりも、他のメンバーが凄すぎるというべきでしょうか……。所々に現れては消えていくキメのリフの心地良さは◎
そしていよいよクライマックスのオーラスという「Dual Mr.Tillman Anthony」はゴスペル・ラテン・ロック・ジャズとでも申しましょうか、とにかく躍動的なビートのゴッタ煮状態が最高に楽しく、聴き手の血圧は上昇する一方でしょう。特に前半のリズム隊オンリーの部分は強烈です。
それに煽られて登場するマイルスも力強く、ちょっと何時とは別なフレーズも吹いていきますが、やや???でしょうか……。
しかしそれを救うのがショーターの異次元テナー・サックスです! このあたりは完全に後年のウェザー・リポートになっているのは、言わずもがな♪ リズム隊と共謀してのストップ・タイムの緊張感と暴虐的なアドリブの嵐は最高です。つまりこれではこの演奏がオクラ入りしてしまうの当たり前という快演になっているのです。続くハンコックのエレピ・ソロも痛快!
ということで、繰返しますが、主役のマイルスが冴えていません。しかし反面、子分達の奮闘が眩しく力強いという、これはとんでもない問題作で、発売された当時は賛否両論でした。もちろん名盤扱いにはなっていません。
しかしウェイン・ショーターのファンは大歓迎♪ そのひとりである私には、密かな愛聴盤となっている1枚なのでした。