OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

悲しき大当り……

2005-12-09 15:22:17 | Weblog

あ~ぁ、今日は珍しいなぁ、大当たり! 午前中だけで、車のフロントガラスに飛び石が3発、直撃ですよ。

最初の時は、傷ペッタンシールで隠れる小さいものだったんですが、2発目は大きくて、円形状態でヒビが入りました。そして3発目がっ!

どうなってんだぁ~、車両保険入っていて良かったとは言え、後々の事を考えると、それも使えないかも……。すると10万円位は覚悟かぁ……。今月は車検もあったし、お金が……。

眩暈してきました。ということで、本日の1枚は――

Bud ! / Bud Powell Vol.3 (Blue Note)

バド・パウエルこそモダンジャズで一番偉大なピアニストです。今日「パウエル派」と呼ばれるスタイル&ジャンルが存在しているほど、その影響力は絶大で、同じく「エバンス派」という流儀を作り出したビル・エバンス(p) でさえも、バド・パウエルの影響から脱しているとは言えません。

一言でいえばバド・パウエルは天才ですが、その称号の前に「不幸な」という形容詞がどうしても付いてしまうのも、また事実で、実際、天才とキ●ガイは紙一重という精神構造があればこその演奏が多々、残されています。

ところが、その天才が最高度に発揮された録音は、パウエルの生涯では、ほんの少ししか無く、それゆえに不滅の輝きがあるのですが、パウエルの偉大なところは、そういう天才の閃きが失せた後も、当に天才だけの存在感、限りない懐の深さを感じさせる演奏を繰り広げた事です。

否、むしろ人気があるのはそういう演奏で、出来不出来に係わらず、特に1957年頃から渡欧して帰米する1964年位までの間に発表したアルバムに人気盤が多いのです。この作品もそうした1枚で、録音は1957年8月、メンバーはバド・パウエル(p)、ポール・チェンバース(b)、アート・テイラー(ds)、そしてB面にだけカーティス・フラー(tb) が加わっています。

ですからA面は全曲パウエルのオリジナル曲によるトリオ演奏で、まず1曲目はパウエルにしては珍しいスローなブルース「Some Soul」が、乾いた感性を前面に出して演じられます。それはブルースにありがちな黒っぽい、ファンキーなものでは無く、所々にセロニアス・モンク(p) の影響が覗える不協和音ギリギリの音使いがあったり、また音の選び方、アドリブの構成に物凄い緊張感があったりして、聴き手を惑わせるのでした。

2曲目はマイナー調の「Blue Pearl」で、これは今日、人気ジャズ・スタンダード曲になっている「You'd Be So Nice To Come Home To」に似ているとして好まれていますが、ただしコード進行は全く同じではありません。しかし仄かな翳利を帯びたパウエルのアドリブ・メロディとその展開はジワッと心に染みてまいります。

そして3曲目の「Frantic Fancies」はアップテンポで、パウエル流ビバップ・ピアノの奥義が存分に味わえます。そこにはもちろん指の縺れとか危ない場面が多々あって、とても全盛期の神がかった凄みはありませんが、逆にある種の必死さが感じれる、つまり人間的な演奏なのです。それをサポートするポール・チェンバース&アート・テイラーの温かい職人技も流石♪

4曲目は、このアルバムでは一番の聴き物かもしれない「Bud On Bach」です。原曲はタイトルどおり、バッハの息子であるカール・フィリップ・エマニエル・バッハが作曲した「Solfeggietto」だと思われますが、パウエルはこれを高速フレーズも披露するソロ・ピアノで聴かせてくれます。ちなみにパウエルはライブでもスタジオでも、リハーサルの時にはクラシック曲の断片をよく弾いていたと云われており、もしかすると、この演奏もそれを録音したのかもしれません。後半では得意のビバップ・フレーズに置き換える場面さえ聞かれます。

A面ラストはリラックスしたブルース演奏ですが、ファンキー味はそれほどでも無く、徹底したパウエル流ビバップが味わえます。そしてこれが、私は好きです。何と言うか、一抹の哀愁と厳しさがあり、和んでいながら本物のジャズだけが持つ緊張感が漂っていて、あぁ、ジャズを聴いていて良かったという瞬間が、何度も訪れるのです。

それはB面のホーン入りセッションでは特に顕著になり、パウエルも久々のブローイング・セッションとあって、張り切っているようです。

まず1曲目の「Idaho」では、テーマを朗々と吹奏した後、ハードバップそのものといったカーティス・フラーのアドリブが溌剌としています。対するパウエルもビバップ伝統のイントロ、テンション・コードいっぱいの伴奏、そしてアドリブ・ソロではストライド・ピアノ風の展開も聞かせて、本当に楽しい演奏になっています。

ちなみにカーティス・フラーは俊英として、この頃からニューヨークで注目され始めていた存在とあって、ブルーノート・レーベルは売り出しに力を入れていたそうで、このパウエルとのセッションもその一環だったと思われます。もちろん、出来は期待を裏切っていません。

それは続くスロー・ナンバー「Don't Blame Me」でも素晴らしく、ハスキーで情感たっぷりのカーティス・フラー、幻想的なコードワークが見事なパウエルと、いずれも印象的です。

さらに最後の「Moose The Mooche」は、ご存知チャーリー・パーカーの代表的ビバップ曲ですが、それをここではハードバッブ色強く、つまり楽しく新解釈して聞かせてくれます。この和やかな雰囲気は、リラックス&グルーヴィンとでも申しましょうか、ジャズの魅力が満点です。パウエルは得意(?) の唸り声も交えて、当にパウエル節を全開させていますし、他のメンバーも余裕たっぷりで、和みます。

ということで、実はパウエルは好・不調の差が大きい天才だったのですが、ここでの演奏は比較的好調な時期を見計らってのレコーディングだったようです。これはアルバム製作にあたって、ミュージシャンとの交流を密にし、リハーサルもギャラを支払ってきちんと行う等々、名門ブルーノート・レーベルの方針が存分に発揮された結果とも言えるのでしょう。

残された演奏の良し悪しは、結局、プレイヤー本人が一番分かっているはずですが、ファンとしてはその全てを知りたくなるのが、天才の宿命だとしたら、このアルバムはその踏絵ともなる傑作盤だと思います。

ジャケ写から試聴してみて下さいませ。

コメント
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