OLD WAVE

サイケおやじの生活と音楽

バードランドは名盤製造所

2005-12-06 13:54:08 | Weblog

最近、子供を狙った悲惨な事件が頻発していますが、実際、学校の行き帰りに父兄や先生が子供達をガードしなければならない国になったとは、正直言って、情けない限りです。不審者狩りも結構ですが、結論は打つ手無しというのが本音でしょうか……。

それはさておき、本日に1枚は――

Meet You At The Jazz Corner Of The World Vol.1 / Art Blakey (Blue Note)

モダンジャズで最も強いリーダーシップを発揮したドラマーがアート・ブレイキーであることに異論は無いでしょう。常に有能な若手を登用した自己のバンド=ジャズ・メッセンジャーズを率いての活動は、マイルス・デイビスよりも評価されるべきものだと、思います。

そのジャズ・メッセンジャーズは1961年のお正月に初来日し、我国にモダンジャズ~ファンキー・ブームを巻き起こしたことは歴史になっていますが、その来日時と同じメンバー、つまり、リー・モーガン(tp)、ウェイン・ショーター(ts)、ボビー・ティモンズ(p)、ジミー・メリット(b)、そしてアート・ブレイキー(ds) によって、その直前の1960年9月にライブ・レコーディングされたのが、この作品です。

とは言っても、内容は大ヒットパレード大会ではありません。当時のバンドがリアルタイムで新しいレパートリーとしていた曲が、あくまでも前向きに演奏されているのです。

まずA面1曲目の「The Opener」がスピード感いっぱいで演奏され、ここではショーターのソロが、コルトレーンでもロリンズでも無い新感覚を撒き散らして素晴らしい限りです。もちろんモード手法によるアドリブの展開になっているわけですが、随所で閃きのあるフレーズを聞かせてくれます。そして続くリー・モーガンも激しく突っ込むアドリブで熱気全開ですし、ボビー・ティモンズは本来ファンキー&ゴスペル系の人と思われがちですが、ここでは直線的なノリで流れを阻害していません。もちろんブレイキーのドラムスもバックに、ソロに大活躍しています。

2曲目はリー・モーガン自作のゴスペル味のブルース「What Know」で、これは既に前年の夏、ウイントン・ケリーの傑作盤「ケリー・グレイト」のセッションで、ショーターも交えて演じていた曲ですから、ツボを完全に掴んだ大ファンキー大会♪ 要所で被さるバックのリフもカッコ良く、アドリブ・ソロでは、まずショーターがクールで熱い不思議なフレーズを駆使して素晴らしい! そしてお待ちかねのリー・モーガンは最初のワン・フレーズが驚異のファンキー度数で、悶絶させられます。ハードバップのファンは、恐らくはこの瞬間を聞くだけで満足させられるでしょう。もちろん続くアドリブの展開も真っ黒な雰囲気が横溢しています。おまけにボビー・ティモンズがお得意のゴスペル的な展開でブロックコード弾きを炸裂させ、それに被さるハーモニーのリフが、また最高に高揚感があるという、本当に全盛期のジャズ・メッセンジャーズの底力を味わえる演奏です。もちろんそれを支えているのは、ブレイキーの強烈に粘っこいドラムスです♪

演奏はこの後、スピード感に満ちたテーマが演奏され、ライブ盤としての楽しみを倍加してくれるのでした。

そしてB面に入っては、初っ端からモダンジャズの人気曲「Round About Midnight」が、文字通り、深夜の雰囲気満点に演奏されます。もちろんここでは、リー・モーガンがマイルス・デイビス(tp) に挑戦するという楽しみが♪ 結果は十人十色の感想でしょうが、ショーターが絶妙な助け舟を出したりして、なかなか聞かせてくれます。それにしても、この日のショーターは絶好調で、ここでも激しく、そして新しいフレーズを連発して圧倒的です。さらにボビー・ティモンズが怖ろしいバックをつけているあたりも要注意で、これはショーターの名演に間違いなく入るバージョンだと思います。

ただしリー・モーガンも負けてはいません。最後の最後に素晴らしいアドリブ・ソロを展開してクライマックスを作り、ラストテーマの後の無伴奏ソロまで緊張感が持続しています。

それは最後の「その風と私」でも感じられることで、この有名人気曲に不安感が満ちたイントロをつけ、一転、爽やかにテーマを吹奏するアレンジは秀逸です。そしてアドリブ・ソロの先発は、ショーターが元メロディを大切にしつつも、モードで新解釈を聴かせて鮮やかです。それに比べてリー・モーガンは、やや保守的なアドリブを展開していますが、それがある種の安心感に繋がっているのも、また確かで、それがジャズの楽しみでもあると思います。ちなみにこの演奏パターンは、他のいろいろなバンドにコピーされていますので、やはり名演の証明になっているのでした。

ということで、これはアート・ブレイキー全盛期を代表するアルバムになっています。この続篇として「Vol.2」も出ており、そちらも当然、名演・名盤ですが、何よりも特筆したいのが、当時のジャズ・メッセンジャーズは果敢に新曲にチャレンジしていたということで、おそらく実際の巡業では過去のヒット曲も演奏していはずですが、同時に新しい最先端の演奏も、しっかりとリアルタイムで聞かせていたことが、このアルバムから分かります。

それにしてもアート・ブレイキーのドラムスは、本質が変わらずとも新しい演奏に対処出来る普遍性があって見事です。と言うか、実はバンドのメンバー全員を自己のペースに巻き込んでしまうというのが本当のところで、それが新しい事をやっているのに保守的と受け取られますが、その部分は本物のジャズを愛する熱い気持ちと、私は感じているのですが……。

ちなみに「The Jazz Corner Of The World」とは、数々の名ライブ盤を生んだニューヨークのクラブ「バードランド」の事で、ここにまた1枚、名盤が誕生したというわけです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする