FHC編3回目。今回はドイツの世界一の科学力の粋を集めたビックリドッキリメカを見ていきますよ。
今更ながら館内はこうなってるんです。格納庫を利用した展示館というのは、収蔵機体を詰めるだけ詰めてしまった結果機体全体が超見づらいということが間々あるんですが、ここは仕切りに遮られて機体に寄ることは出来ないもののゆとりを持って機体が配置されていて、いろいろな角度から観察できて好印象です。
9機目、ドイツ軍の秘密兵器シリーズその1、報復兵器2号ことV-2ロケット。ズゴゴゴと大気圏外まで上昇していってその後は自由落下してロンドンとベルギーを叩き潰しにいく、要は人類初の弾道ミサイルです。
人類史上初めて大気圏外へこんにちはした人工物でしょう。基礎研究は戦前から進んでいたとはいえ大戦中にこんなの開発するなんてドイツすごすぎ。そりゃあシュトロハイムも「我がナチスの科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィイイイイ」と言いたくなるわな。
ちなみにこれの開発者はヴェルナー・フォン・ブラウン、アポロ計画のサターンロケットを造った人だすな。あとはガンダム知ってる人なら月面都市に同じ名前が付けられています。私が最初にフォン・ブラウンを知ったのは後者からでした。
今の弾道ミサイルがそうであるように自由落下して地上に激突するとなると迎撃はもう無理ですから、撃ちだされたらオシマイということで連合軍は血眼になってこれの発射基地を潰しに行きました。ドイツもこりゃイカンとなって発射台を移動式にしてました。
ただ当時は精密誘導装置なんてないですから、3000発発射して命中率は4%程度しかありませんでした。命中したとしても炸薬量は980kgとこの後出てくるV-1より少し多いくらいですから図体の割には・・・とも取れます。ただ軍人や市民への心理的効果はV-1よりも大きかったと思います。こんなのが前触れ無く降ってくると思うと怖いものな。
報復兵器2号の運用もむなしくドイツの旗色がますます悪くなってくると、アメリカやソ連はこれらドイツの秘密兵器やその技術者たちの獲得競争に出ます。V-2を始めとしたビックリドッキリメカはその時に結構な数が鹵獲されているのです。フォン・ブラウンもその時に米軍に投降してそのままアメリカに連れてかれたのでした。
ただしFHCのV-2はアメリカが持ち帰ったものではなく、1990年代にノルトハウゼンの地下工場から見つけ出したもの。
このV-2は外板の一部が外されていて内部構造の見られるようになっていますが、「V-2?それなんてガンダム?」程度の認識だった当時の私には関心がなく、こんな写真しか撮ってないのよという有様。しくしく。
ハンガーからはみ出て建てられた空間にドイツ秘密兵器軍団が鎮座しています。まずは軍団の先鋒V-1飛行爆弾シリーズ。2つ置いてありますが、右と左で少し異なっています。
ちなみにこれら秘密兵器軍団、なにせ先端技術の固まりなんで、上でも書きましたが大戦末期から戦後にかけて連合国が研究のために片っ端からかっぱらっていったため、その後それらを譲り受けたものが今でも結構な数残存しています。V-1はその筆頭で欧米のあちこちの博物館で見ることが出来ます。
なんというか調べていくうちに、ドイツの科学力すごいしってなるし、工業力でそれに対抗する連合軍もすごいしってなるし、翻って我が日本は・・・・・・となると、段々情けなくなってきますな。チーン。
10機目、ドイツ軍の秘密兵器シリーズその2、報復兵器1号ことV-1飛行爆弾。V-1のVとは報復 Vergeltungswaffe(読めない・・・)のVです。V-2も同じ。V-2が弾道ミサイルの元祖だとしたらV-1は巡航ミサイルの元祖と言えます。
占領下のフランスにある発射台からシュゴーッと発射されてドーバー海峡を渡ってロンドンを火の海にしてやるぜという兵器。動力は当時最先端のパルスジェットエンジン(胴体後ろについている筒)を用い、ジャイロコンパスで方角を、気圧高度計で高度を、先端についているプロペラの回転数で飛行距離を割り出し、設定した距離に到達するとエンジンが停止し目標に向かって落下するという自動操縦装置を持っていました。
パルスジェットエンジンの出す音は数km先からも聞こえるやかましい特徴的な音で、イギリス軍からは「バズボム(ブンブン爆弾)」と呼ばれてました。その音が聞こえなくなった時はつまりV-1が落下する合図ということなので、市民へ恐怖心を与えました。ただし後期型はエンジンを切らずに落下していったそうな。
ただこれも精密誘導出来ないんでやはり命中率が良くなく、ロンドンへは約9000発発射されて命中したのは約2400発。大部分は外れたり敵機に撃墜されたそうな。なお全体では約2万2000発発射されたそうで、V-2に比べるとやはり生産性は高いですね。命中率も良くないとはいえV-2と比べると高いです。さらに炸薬量は850kgとV-2と大差ない数字です。100kgそこらの違いで威力にそう差がでるとも思えませんし、V-2って見た目は派手ですけどコストの割には微妙なのかも。
で、V-1も例に漏れず連合軍に鹵獲されまくり、アメリカなんかは戦後にこれのコピーを造りまくったりもしたんですが、このV-1は1990年代にノルトハウゼンの地下工場から発見されたもの。ノルトハウゼンには報復兵器軍団を製造するための地下工場があったんで、たぶん上のV-2と同じ場所でしょう。ていうか戦後半世紀にもなって見つかるというのはちょっと遅すぎない?という気がしないでもない・・・と思ったら、ノルトハウゼンは東ドイツだったので、なんとなく腑に落ちたような。東西統一までは調査されなかったんだろうなきっと。
地下工場だと保存性高そうだから意外と原型を保っている個体なのかも知れません。それを見分ける術は持ってないんですけど。
11機目、ドイツ軍の秘密兵器シリーズその3、人間爆弾ことFi103R。V-1の有人型ですがV-1とは呼ばれずに区別されています。Rとはチェコの都市リベレツのドイツ語読みライヒェンベルク ReichenbergのR。ちなみにV-1はドイツ宣伝省が付けた通称で、正式名称はFi103なんですけどV-1の方が有名すぎてみんな覚えてくれない。
大陸反攻を図る連合軍艦艇への対艦兵器として設計されたもの。無人機のV-1は目標が大きくかつ移動しない都市や基地を標的としていたものの、それに比べると点のように小さくかつ避けられてしまう艦艇では全く使えないじゃんチクショーメ!となってしまうので、現時点で揃えられる最強の誘導装置ゲルマン民族を載せることで対艦攻撃でも有効性を出しました。
人間はどこに乗るかというとエンジンの手前です。風防があるのが分かるでしょうか。これにより自動操縦装置は外されています。V-1には付けられていた機首のプロペラが無いのが風防の有無と並ぶ両者の識別点です。
こんなの特攻やんと思うんですが、敵艦に向けてのコースを決めた後は脱出するように一応言われていたとのこと。でも、あんな窮屈な操縦席から脱出するの見るからに難しいし、身体を乗り出せたとしてもコックピットの真後ろにはジェットエンジンの吸入口がありまして、頭か手か脚が吸い込まれてミンチにされるのは火を見るより明らかでして。脱出できるよなんてのはまあ建前で、本質的には日本の神風兵器と同じでしょう。軍隊、追い込まれるともう何でもありになってきますね・・・。
ただ、幸いにも実戦投入はされませんでした。パイロット養成にかかるガソリンの量が確保できなくなったから(1人養成するのにガソリン5トン)という身も蓋もない理由なんですが・・・。
このFi103RもV-1やV-2と同じ場所で発見されています。やたら残っているV-1と違ってFi103Rは6機しか現存しておらず、貴重な1機のひとつと言えましょうぞ。そもそも生産数150機くらいですしね。
12機目、ドイツ軍の秘密兵器シリーズその4、ロケット戦闘機ことメッサーシュミットMe163B「コメート Komet」。何だお前ナメてんのかといった格好をしてますが、今のところ唯一のロケットモーターを動力にした戦闘機なのです。次に現れるのはガミラス星人が地球を攻めてくる辺りか人類がスペースコロニーに移住する辺りでしょう。
彗星の名に違わぬ超速い上昇力と高速性を持ち30mm機関砲2門を装備し、こりゃ手の届かないところを飛んでるB-17もイチコロだぜ!となったのです。但しエンジン点火から8分まで。
エンジンの燃焼時間はたったの8分間なため航続距離は極めて短く、攻撃のチャンスは多くて2回程度。燃焼後はグライダーとなって滑空するだけで、敵戦闘機にとってはいいカモ。で、「あいつ足短すぎね?」ということに気づいた連合軍は、爆撃機の飛行経路をMe163がやって来れないようなルートに変更してしまい、たちまち無力化されてしまいましたとさ(悲
ちなみに機体についている車輪ですが、軽量化のために離陸後はなんと外してしまいます。着陸する時は胴体下面についているソリ(黒い部分)を使うという豪快な設計。こんな狭いソリで着陸できるわけないやん・・・。
横から。やっぱ戦闘機としてはふざけた形してるよなぁ。アニメかよ。
主翼は後退翼になっているのね。
ついでに機首のプロペラも何で付いているのかが長年の謎だったんですが、機内の発電機発電用なんですってね。
後ろから。
あれ、こいつ尾翼無いでやんの。
あのお尻の穴から燃焼させた燃料を飛ばすのじゃ。意外とあっさりしたものね。これに搭載していた燃料はえらく爆発しやすく、飛ばす時はもちろん普段地上においている時も危険で大変だったそうな。
この機体は完成前に工場間をグライダーとして使っていたそうな。連絡機だったのかな?その後1945年5月8日、つまりヨーロッパ終戦記念日にイギリス軍によりやはり珍しかったんでしょう、例によって鹵獲され評価試験のためファーンボロ王立航空機関へ移送。1961年にダックスフォードの帝国戦争博物館に寄贈されたんですが、どういうわけか2005年にFHCが取得。
帝国戦争博物館って今もバリバリやってる博物館なんですけど、よく手放したなぁって感じです。なんだか金の匂いがするぜ。ていうかここの収蔵品、ポール・アレンの資金に物を言わせてかき集めたって感じがしないでもない。マネー・イズ・パワーだね。
Me163のエンジンHWK 109-509。ちっせぇな。これで高度1万mまで飛ぶもんなんですね。
写真の殆どが潰れてるし、仕組みに関してはスルーで(手抜き
ドイツの超兵器軍団はこれでおしまい。Me262やHe162といったジェット戦闘機はありませんでしたが、一箇所にこれだけ集めたのは大したもんだと思います。
ロケットエンジン繋がりってことでここに展示されてるのかしらというXLR99ロケットエンジン。これも意外と小さいなという印象。ただ、エンジン自体は小さくても燃料の搭載スペースを食うんだろうな、ロケットエンジンは。
超超音速と超高高度での飛行、さらには宇宙空間に近いところまでの飛行性能を調査するための実験機X-15の搭載エンジンです。宇宙空間となるともう飛行機じゃなくて宇宙船だね・・・。
推力は2万6000kgで、最大出力で83秒間の燃焼が可能。地上から燃焼すると燃料が持たないからか、B-52に運ばれて高度4万5000フィート上空から射出され、燃料を使いきった後は滑空しながら地上へ着陸という方式でした。航空機の最高速度マッハ6.7、高度35万4200フィートという世界記録を未だ持っています。
このエンジンの出処は不明です。新しい物に交換されて用済みになったエンジンか、墜落した3号機のエンジンか、というところですかね。X-15は3機造られていて、1号機と2号機はそれぞれスミソニアンとアメリカ空軍博物館に収蔵されています。
んー、じゃあついでにこれも置いとくかという感じで吊り下げられてるベルX-1の模型。スケールは書いてなかったんで不明。
今は56種類くらいあるXプレーンズの最初の1機種目で、1947年10月14日に史上初の音速を突破した航空機として知られています。この時のパイロットはチャック・イェーガーで、X-1ともども某ストパン界隈では有名な・・・はずよね?
これも動力はロケットエンジンで、プロペラじゃあまず無理、ジェットエンジンもまだ怪しいってことでロケットエンジンになったそうな。
この模型は映画の撮影かなんかで使われたらしい。で、肝心の実機はスミソニアンが持ってます。いつか行きたいなぁ、スミソニアン。
今回はここまで。
その9へ→