山上俊夫・日本と世界あちこち

大阪・日本・世界をきままに横断、食べもの・教育・文化・政治・歴史をふらふら渡りあるく・・・

『貧困化するホワイトカラー』を読んで総選挙結果を考える

2009年09月02日 08時07分02秒 | Weblog
 経済学者の森岡孝二さんの『貧困化するホワイトカラー』(ちくま新書2009年5月)を読んだ。本書は08年世界同時恐慌の進行を見据えた上で書かれているので、賞味期限切れの心配がなく、おすすめの1冊だ。
 90年代からの新自由主義の導入、その思想原理にもとづく規制緩和・労働法制の連続改悪によって、労働環境はさんたんたるものになった。正社員の派遣へのおきかえ、派遣切り、正社員の死に至るあるいは精神を病むまでの労働、成績主義の名の下での賃金引下げである。ひとこといえば人間破壊である。
 これへの回答が、今回の総選挙での自公政権の歴史的退場・民主党政権登場であった。民主党の政策への賞賛ではない。人間破壊の新自由主義への反撃だ。ラテンアメリカで大規模にすすんでいる反新自由主義革命とつらなる要素をもつ。その意味で、今回の選挙は革命の始まりになるかもしれない。ラテンアメリカほど情熱的ではないが。
 本書は、アメリカ経済にくわしい森岡さんならではの、アメリカのホワイトカラーの働き方・働かされ方を詳しく紹介し、これとの対比で日本のホワイトカラー労働者を論じている。ジュリエット・ショアの『働きすぎのアメリカ人』『浪費するアメリカ人』などの成果を取り入れて叙述する。森岡さんの翻訳の『浪費するアメリカ人』(岩波書店2000年)は、以前読んで、アメリカで出現した新しい消費主義の実態におどろいたことを思い出した。
 かつて植木等の時代は「気楽な家業」といわれたサラリーマンも、ここにきて大幅に人が減らされ、成果主義で搾られ、過労死・過労自殺・精神疾患がまとわりつくようになった。本書では、これに対するたたかいについても詳述しており、世間のビジネス本とはまったく違う。書店もこんな本を平積みにすべきなのだが、くだらない本を盛んに推奨する。
 本書で、気持ちがすっとしたのは、「阻止されたホワイトカラー・エグゼンプション」の章だ。忘れもしない安倍内閣がたくらんだものだ。機敏な反対運動で国会上程阻止においこんだ。アメリカをまねて、自由で自律的な働き方という欺瞞をふりまいて、残業ただ働きの長時間労働制度で、財界の意をうけて政府がもちこもうとしたものだ。新自由主義批判・格差批判がすでに相当すすんだ2007年だったので、安倍首相は断念した。引っ込めたにもかかわらず、安倍自民党は参院選で大敗した。労働問題で財界の有能な代弁者としてかならず出てくるのが、八代尚宏氏だ。目のギョロッとしたひとで、賃下げ・労働破壊があたかも天国であるかのように言いくるめる詭弁の天才だ。この八代氏が大活躍して推し進めたエグゼンプションが頓挫した、労働側からはこれを阻止した、ここらあたりが新自由主義とのたたかいの潮目だったのではないか。ついでながら、この八代氏を『朝日』がいまだに登場させているのは納得できない。
 新自由主義・規制緩和は、社会の破壊・人間の破壊と引き換えに利益を手に入れる。本書がいう、まともな働き方、人間らしい働き方をもとめるたたかいこそが、持続可能な社会をもたらすだろう。
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