12月7日、高谷道路のトンネルへ工事の視察に行く。前回、延期になったのは台風のせいだが、12月6日は寒波が来て、翌7日の天気も心配された。集合時間の11時に国交省河川道路事務所へ行くと、雲はかかっていても鳥海山が見える良い天気だった。12時半に発破が行われると、途中47号線と高規格道路の説明を、移動中の車の中で聞きながら、あっと言う間に現場に着いた。
実は、トンネル工事の視察は初めてではない。日沿道の温海や堅苔沢のトンネルも何カ所か見に行った事はあったが、トンネルの入り口辺りで説明を受けただけで、トンネル工事の前線に行くことはなかった。ましてや発破工事を体験出来るなんて、ちょっと嬉しい。トンネルの入り口でマスクと耳栓を各自渡される。歩いて中に入るのかと思ったら、車のままトンネルに入った。
工事区間は3.2kmで、その中間点より少し行った辺りで降りて、説明を受ける。トンネルの中は、音楽が流れていた。
発破1分前になると、その音楽は「スパイ大作戦」の曲に変わり、導火線がチョロチョロ燃えていく画面が思い出され、なかなかチョイスが面白いなと考えている内に、所長さんから発破の爆風で小石が飛んでくるので、車の陰に隠れるようにと指示される。私は車から半身を覗かせて、↓の動画を撮してみた。
このトンネルの地質の特徴は、有り難い事に漏水や湧き水は少ない。だが、メタンガスが発生するので、通常の倍の送風機が付いている。この天井に設けられた大きなパイプが、それである。
それが発破の爆風で、ぐんにゃり、どかぼかと激しく動いた。
発破のすぐ後に、大量の空気を前線に送るのだそうだ。1回の発破で進めるのは、1mちょいだそうだ。工事は、日曜日を除いて24時間、交代制で続けるそうだ。
この後、トンネルの工事の概要を教えて頂く。緑のライトが当たっている所は、削り取ったトンネルの表面にコンクリートを吹き付けたもの。アーチ型の支柱はH鋼で、ピッチは1.2m。その大きさも、コンクリートの厚さも、想像を超える薄いものだった。ただ、コンクリートの中央に四角いボルトのナット部分が見えるだろうか、そのボルトの長さは3mを超え、これで地盤とトンネルを固定させるようだ。
下に見える黒い物は、岩盤を発破した後の砕石を運搬するベルトコンベアーである。トンネル用のコンクリートも現場で製作しているので、その骨材に出来るのではと思ったが、大きさも大きいし、バラツキもあるので、外の現場の埋め戻しや盛り土用にと、場外搬出するのだそうだ。
吹き付けられたコンクリートの表面に、メッシュとシートの2重の防湿と防水用のシートを貼り付ける。これで、外部からの漏水をトンネルの中に流さない構造になるのだと思う。
綺麗である。先ほどの現場からは歩いて説明を受ける。
シートを固定する。
配筋する。
どうやって型枠を取り付けるのだろうと思っていたら、この機械が型枠とコンクリート注入を同時に行う秘密の機械なのだ。
右側が型枠を保護している部分。中央がコンクリートを打ち終わった部分。
コンクリートは長さ10mちょっとをいっぺんで打つ。一番困るのがコンクリートに気泡が入り込む事で、通常ジャンカと呼ばれるものだが、型枠からコンクリートの打たれている状況を見る小窓が付いている。打ち終わったコンクリートの表面に四角い跡がついているのがそうだ。
次に、養生部分。コンクリートは打ち終わった後に水を掛けたりする。熱も出るし、水中で養生するのが一番強度が増すのだが、このシートはコンクリート面が湿潤になる仕掛けがあり、ここで一定期間養生する。
そんな事で、順調にトンネルは出来ていく。壁の中には、消火栓やら、色々な設備を埋め込むスペースも必要で、その都度異なった凹みが出来ていた。
コンクリートの厚みは通常300mm。余程弱い地質の場合は350mmになることもあるが、嬉しいことに高谷道路の地盤は良いそうだ。
何時だったかの、トンネルの天井落下事故の影響で、このトンネルには天井は設けない。仕上げも兼ねるコンクリートの表面は、十二分に美しかった。
ここで改めて工事の説明を受ける。
トンネル工事の総延長は2.926m。もっと長いトンネルになると、サブの緊急用のトンネルが同時に造られるが、ここは短いので単独での工事だそうだ。それと、両側から掘り進めるのではなく、入り口から出口まで掘り抜く。よって中央で行われる貫通式はなさそうだ。
この断面の左は東側、右が西側で、東側から掘り進んでいる。山の一部がへっこんでいるが、ここには沢が流れている。国道47号線を走ると、橋の部分になる。断面の下に矢印が付いているが、ここが工事の前線で、発破が行われた場所である。我々は発破の所から200m下がって見学をしていた。
普通のトンネルは左のように行う。地盤が悪い所だと、右側の様に、スラブ厚を厚くするだけで無く、下部の圧縮部分を補強した工事になるのだそうだ。
安全管理が、声がけも徹底して、厳しいほどに行われていた。左右に伸びた送風機。右側の足場の上には砕石運搬のベルトコンベア。トンネルの上部中央には、化粧木と呼ばれる鳥居の様な存在がある。山の神に敬意を表し、工事の安全を祈願する為に設けられている。この形は、伊勢神宮本殿の屋根の飾り木を模倣している。
昔は土木工事、取り分けトンネル工事は女人禁制だった。山の神は女性だそうで、他の女性が入ると嫉妬すると言われていたが、24時間工事を続けて行かねばならない状態に風紀を乱すことを避けたのだと思う。時代は変わって、土木女子なる面々が現場に多量に出現する。特に重機やトラックダンプの運転手にも女性は多い。工事中のトンネルにも女子が入っても良い時代になった。寒くて着ぶくれしている我々は、ぽんぽこ狸 女子と呼べるのだろうか。
トンネル工事に関する故事として、女人禁制の他に、汁かけ飯を食うなと言われる。味噌汁や汁をかけると、ご飯が崩れる様子が「山が崩れる」を連想させるそうだ。もう一つ、トンネルの坑内では、口笛を吹いてはならないと言う。山の神は使いの山犬と共におり、口笛で犬が騒いで落盤を起こす。この犬は獰猛なのだそうだ。
自然に対峙しての工事を行う為に、自然に畏敬を表することが大事なのだと思う。