YS Journal アメリカからの雑感

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神なき国アメリカ

2010-03-28 10:24:59 | アメリカ政治
健康保険改革法案を追っていくうちに、この議論は健康保険改革の皮を被った宗教闘争ではないかという思いが強くなった。(このエントリーの追記に少し書いた

ジュデオークリスチャニティー(judeo-christian)を建国精神の基盤としたアメリカが、建国理念を離れ、神なき国になる分岐点に立っている。

政府が神の座を取って代わろうとしているのである。

啓蒙思想が民主主義の始まりであった。フランス革命の混乱を経て、アメリカ独立があるのだが、アメリカは、フロンティアであったため、当然、王族や貴族と言う特権階級が存在せず、まず手始めに排除する人々がいなかった幸運があった。又、啓蒙思想の基本は、人間の理性には普遍性があるということから始まるが、時代的なラッキーもあり、建国の父たちは啓蒙思想そのものには毒されず、キリスト教を基盤に建国する事が出来た。(興味ある人は独立宣言を読んでみて下さい)

アメリカの建国がユニークなのは、ジュデオークリスチャニティーを建国精神の基盤としながら、建国の父たちのそれぞれの教派が違ったため、それぞれを容認する事となり、結果的に、他宗教をも容認すると言う事になるのである。しかし、拡大解釈しても、アメリカは神のご加護にある国であると言う事になる。

一方、民主党の基盤であるリベラルは、基本的に啓蒙思想に毒された上に、(本人がどういおうと)完全にキリスト教徒ではなくなっている。

一番分かりやすい例で、カソリックを取り上げてみよう。カソリックを巡る話題で大きいのは、同性愛(ゲイ)問題と中絶問題である。カソリック協会は、ゲイの存在さえも認めておらず、中絶には反対の立場である。

自分の信じる宗教を政治信念よりも根本的なものと考えるのが、人間らしい生き方ではないかと信じている。幸い、凡庸な日本人の宗教観は、融通無碍なので、ゲイにしても中絶にしても、宗教観まで遡って考える事はしなくて良い。ゲイの場合は、世界的な人権の流れのなかで処理できるし、中絶は経済的や世間体と言う観点から現実的に対応出来る。

キリスト教の場合、その辺は厳格なはずであるが、どちらの問題も特にカソリックのリベラルは、軽々と神の教えを無視している。

まず、ゲイの問題であるが、これはカソリック教会の対応の悪さがあるので、理解は出来る。人権問題の最終問題として、ゲイを受け入れ準備をするべきであったが、未だに存在を否定すると言う時代錯誤ぶりである。これがリベラルに逆に免罪符を与えた事になったのではないか。奴隷、人種、性別と次々に解放してきた流れからするとゲイ解放は、当然の帰結であった。

宗教の自由を気にするあまり、政治的に積極的になれなかった事、元々考えていなかった人権問題が出てきた事で、寡黙になってしまったのである。

いろんなことから自由になれることを経験したリベラルが、中絶、つまり望まない妊娠から自由になる事を望むのも当然のことのように思われる。(典型的なリベラルのオバマ大統領はインタビューで、自分の娘たちが間違いを犯した時の選択肢として中絶は必要であると述べている。)

よって、リベラルにとって宗教的、キリスト教的な縛りは何も無いのである。つまり自分たちの考えだけが正しいのである。

健康保険改革法案に話を戻すと、全ての人が健康になる権利があるという究極の理想的な考えがそこにある。

そういった考えの勢力が、政府を運用するとどのようなことが起こるかは簡単に想像出来る。運営にお金がいるので、健康、命の合理化が絶対に始まるのである。例えば、70歳以上のガン治療をしないとか、ティーンや遺伝子異常の妊娠は中絶させるとか、と言う事になる。つまり、運用上人間の生き死にをコントロールする事に正当性が与えられる。

このような政府による神をも恐れぬ行為に反発が出るのは当然の帰結である。中絶を容認するカソリック議員といった偽善がまかり通っている事への不信感もあり、保守系つまり信仰心の強いと思われる人々のつ積もり積もった不満、我慢が限度に達しているのである。キリスト教でもなく、凡庸な日本的宗教観しか持たない私であるが、キリスト教を冒涜する政策、その上、宗教問題として議論出来ない、保守派の欲求不満は痛い程理解出来る。

アメリカの世論、政治が余りにも政治的に不適切な発言に神経質な事で、宗教色を出す事がタブーになってしまったが、建国の精神を論じると避けて通れない道であるはずで、遅かれ早かれ、宗教論争は出てくると思う。

一つ言えるのは、人智を超えた存在(神と考えるのが手っ取り早いが)を認めない人々が行う政治は危ない。

リベラルは、人智を超えた存在を認めない人たちである。神に代わる事が前提であるので、自分を全知全能と考える人たちである、よって頭の良い、勉強の出来るエリートたちが絡め取られた上に、同類を増やす方向(洗脳)に必ず走るのである。

今、アメリカは神を信じない人々が神の役割をしようとしている。その人々は、ホワイトハウスに居て、連邦議会の過半数を占め、司法の場にもいる。歴史は、政府(独裁者でも同じ)が神の座を占める事が出来ない事を証明しているが、歴史は違う顔をして同じ過ちを繰り返すのである。アメリカがそうならないこと祈るだけである。

オバマ大統領を社会主義者と批判する声があるが、社会主義が啓蒙思想の究極、つまり宗教(神)を認めないということで、結実したものと考えると、当たっていないわけでもない。

健康保険改革法案の成立で、リベラルは正当性を証明したと考えているようであるが、保守回帰の流れはより強くなるような気がする。

キリスト教でもない私が、「神なきアメリカ」を心配するのも変な感じなのだが、アメリカは今こそ、本格的な宗教論争をすべきだと思う。いろんな変遷、危機を乗り越えてきたキリスト教が、その最強の実効部隊であるアメリカの変質から救えなければ、日本の葬式仏教、結婚式神道みたいになる。イスラム教に普遍的な救いが無い以上、キリスト教には頑張ってもらうしか無いのである。


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