YS Journal アメリカからの雑感

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健康保険改革法案 いよいよ大詰め

2010-03-06 09:22:21 | アメリカ政治
健康保険改革法案 ウルトラ C Reconciliationで、自分でもハッキリ理解しないまま説明をしているが、いよいよ議会での最終戦が始まりそうである。

上記の反省を込めて、具体的に民主党がどのような議会運営で法案を通そうとしているのか説明しておく。

法案として議会を通す為には、全く同じ法案を上院、下院で通す必要がある。民主党は1月のマサチューセッツ州の敗北で、絶対過半数(60議席)を失ったため、現在、上院を通過している法案は去年のクリスマスイブに可決された上院案のみである。これとは別に11月に下院で可決された別法案がある。(今後、上院で新たな健康保険改革法案を通すのは非常に困難である)

上院を通す(通っている)のは、現存する上院案だけである。(当たり前だが)よって、この上院案を一字一句変えずに下院を通過させれば、両院可決という事になり大統領がサインすれば成立する。下院は上院とは違い単純過半数で可決出来るからである。

では、なぜ下院で435議席中255議席を占める民主党が採決しないかと言うと、過半数の票読みが出来ないからである。

下院案を可決した時が220票。それも調整を重ねながらの可決であった。最後の最後まで揉めたのが、中絶の扱いであった。民主党の中にも Pro-Life (中絶反対派)がいて、政府からのお金が中絶に使われない事を強く盛り込んだ修正案を追加する事でやっと可決したのである。

上院案は、中絶に関しては下院案の様に厳しくないので、中絶反対派は上院案に賛成出来ないのである。そこで飛び出したのが Reconciliation という飛び道具だ。(上院案には、最後まで賛成に回らなかった民主党上院議員の出身州への優遇など、憲法違反と思われる条項も入っている)

両院で可決された法案の予算に関する修正は、上院、下院の単純過半数で出来る。オバマ大統領及び民主党首脳部がゴリゴリ押し進めているのは、先に修正案を準備しておいて、現在の上院案を可決後直ぐに修正案を成立させるというものである。

しかし、問題は、上院案を下院が可決すれば、Reconciliation しなくても大統領がサインすれば法案成立となるのである 又、本来、Reconciliation は、法案の予算に関する修正のみ可能という限定された議会運営上の手法で、政策条項自体には適用出来ないのである。(全ての修正は予算変更が伴うので可能であると、妙な認識が民主党首のから既に出ている)

つまり、上院案に反対の下院議員は、先ず自分の政治信念に基づくと反対の法案に、修正を入れる約束(大統領が署名したら反故になる)と、その約束さえ手続き上の難点がある事を覚悟の上で、賛成しなければならないのである。

現在、オバマ大統領、ホワイトハウス、民主党首脳部が、躍起になって民主党の下院議員を説得(脅し?)しているのは、上記のトリックを納得させる為である。

それにしても、上院案にしても、下院案にしても、「より多くの人に、より安いコスト(保険料)で、質の高い医療サービスの提供」という本来の趣旨から大きく外れたひどい法案であるが、その行方が中絶の扱いに集中している事は興味深い。

カトリック教会の目覚めで、アメリカの宗教と政治信念の乖離について少し触れているが、クリスチャン、特にカトリックでありながらリベラル(限定的に言えば、中絶賛成)であるのは、矛盾しているとしか思えない。さて、一度目覚めたかに思えたカトリック教会だがが、その後目立った動きは無いが、最終局面でどのような役割を果たそうとするのか全く予想が出来ない。

下院の中絶修正法案 (Stupak―Pitts Amendment) を主導した民主党議員(Bart Stupak: 奇しくもミシガン州選出)と同じくPro-Life (中絶反対派)の民主党議員11人も、Reconciliation 前提の上院案への賛成投票への拒否を表明している。Bart Stupak はカトリックで、ここのところ宗教団体と関係が報道されてきているのは、あながち偶然とはいえないと思う。

健康保険改革法案で、政治的に保守回帰の機運が盛り上がっているのだが、この機運はキリスト教への回帰をも内包している事は看過出来なさそうである。

宗教の話は政治以上に深みに入りそうなので、この辺にしておくが、健康保険改革法案はやはり命、「生き、死に」の問題が絡むので、宗教観の話になる事は避けられないと思う。よって、政治論議のかわを被った宗教論議である事も考慮しておく必要があると思う。

オバマ大統領は3月18日から外遊予定がある事、4月に入ると議会がイースターの休暇になるので、民主党首脳部はそれまでの法案成立を目指しているようである。本当に最後の大詰めに来ている。

それにしても昨年のクリスマスイブに成立した上院案が、様々な困難を経て、もし、イースターで可決すれば、いろんな意味で不気味なジョークに思える。


追記
エントリーした後で、改めて宗教と政治の関係について考えていました。アメリカの独立宣言の冒頭に、"Life, Liberty, and the Pursuit of Happiness" (生命、自由、そして幸福の追求)は、Creator (造物主、つまり神)から与えられた奪う事の出来ない権利と定めてある。つまり、キリスト教を基礎としながら、啓蒙思想から自由なのである。

なぜエリートや勉強が出来る人にリベラルが多いのかいつも不思議だったのですが、結局はこの人たちは啓蒙思想の末裔と考えれば腑に落ちる。つまり、理性、人間が考える事に普遍性があると考えているのだ。一方で、不変性については考慮が無く、人間の理性が考え出す事には、いつも揺らぎや解釈が出てくる事になるのだ。

"Life, Liberty, and the Pursuit of Happiness" について、理性で定義を行えば、いろんな解釈が出てくるのは当たり前であろう。

健康保険改革法案の問題で最後に中絶に対する賛否を巡る票にスポットが当たった事は、偶然というより必然の様な気がする。

お断りしておくが、私個人は非常に日本的で凡庸な宗教観の持ち主である。宗教とは "Way of Life" 日々の暮らし方という思いが強い。アメリカに20年以上住んでいるので、そのような体感から何と無くキリスト教的な宗教観も持ちつつあるかなーという感じだ。