【鹿島】媚びずに信念を貫く柴崎岳。渇望する欧州行き、代表定着のために求められるものとは?
田中 滋
2016年03月03日
2016年は勝負の年。渇望する欧州行きの実現には、“分かりやすさ”が大事になる。
今季から10番を背負う柴崎は、急性虫垂炎で2月9日に手術を受けるも、驚異の回復力で開幕に間に合わせた。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)
「思ったよりも良い状態です。開幕戦にも間に合うと思います」
2月28日の開幕戦まで約2週間という時期に、急性虫垂炎の手術で3日間入院した柴崎岳は、自身の回復具合に手応えを感じ、クラブスタッフやドクターに“行ける”と伝えていた。
さすがに術後1週間あまりしか経過しておらず、ドクターもすぐにはゴーサインを出すわけにもいかなかった。そのことから判断は保留され、さらに1週間の経過を見ることになったが、開幕戦3日前の練習からチームに部分合流すると、翌日からフルメニューをこなし、開幕戦に間に合わせるという離れ業をやってのけた。
2月5日に打ち上げた宮崎キャンプまでは、順調に過ごしているように見えた。期間中、練習場の管理で世話になったスタッフに、自分が使っていたスパイクをそっと手渡し、感謝の意を示す。「おつかれさまでーす」という声はとても軽やかだった。
だが、鹿嶋に戻ってわずかなオフを楽しんだ後、急性虫垂炎が発覚。練習を再開したチームメイトから離れ、9日に手術を受けなければならなかった。
それでも柴崎は、並々ならぬ決意を胸に開幕メンバーに戻ってきた。2016年は勝負の年。渇望する欧州行きを実現させるためにも、結果を示して道を開拓していくしかない。そのためには“分かりやすさ”が大事になる。
「デュエル」という言葉を多用する指揮官には、柴崎が不適格に見えたのかもしれない。
ハリルホジッチ監督の就任以降、微妙に代表での立ち位置が変わってきた。日の丸を付けてピッチに立ったのは、昨年10月13日のイラン戦が最後だ。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)
昨季の前半、柴崎のプレーは分かりやすかった。アジアカップにアギーレジャパンの一員として臨み、先発のチャンスこそ巡って来なかったが、準々決勝のUAE戦で値千金の同点弾を決めるなど、目に見える結果を残していた。
その後、ハビエル・アギーレ監督が解任され、日本代表での立場は変わってしまったが、Jリーグで新たなシーズンが始まると圧倒的なパフォーマンスを披露。ひとりで試合を決めてしまうことも、しばしばあった。
しかし、ヴァイッド・ハリルホジッチが日本代表の新指揮官に就任すると、その流れは微妙に変わってしまう。代表に選出されても試合出場がないまま鹿島に戻る回数が多くなり、それに伴って柴崎のコンディションも落ちていく傾向が見られた。
立場を変えてしまったのは、プレーの分かりやすさよりも、人間的な分かりやすさだったのかもしれない。
「デュエル」という言葉を多用して球際の戦いを重視するハリルホジッチにとって、表情を変えずに黙々とプレーする柴崎は、感情の読めない選手に映ったようだ。ボランチに、ボールに食らいつき歯を食いしばって闘うことを求めれば求めるほど、柴崎は不適格に見えたに違いない。ゲームメイクが安定しない試合展開でも、決してボランチで起用されることはなく、指揮官の思いと柴崎の思いが交わることはなかった。
トニーニョ・セレーゾ前監督も指摘したが、柴崎がスタンスを変えることはなかった。
鹿島のトニーニョ・セレーゾ前監督も、柴崎に感情をむき出しにすることを求めた。(C)SOCCER DIGEST
柴崎自身には、いつも自分のスタイルを変えることなく結果を残してきた自負がある。
「僕はその監督によって、その監督の好みによって、そこに合わせるように自分を変えてきたわけではありません。だから、いつも同じようなスタンスで、それぞれのチームに戦術の違いはあれど、同じようなプレースタイルで臨んできました」
自分がやっていることは間違っていない、という気持ちは今も変わらない。
「もしかしたら、僕のあまり感情や表情が豊かではないところが、(ハリルホジッチ監督に)そう思わせてないのかもしれない。でも、ずっとこんな感じでやってきましたし、もっと激しく激昂しながらやってくれと言われても、それは急にはできないことでもある」
ただし、それは鹿島のトニーニョ・セレーゾ前監督も指摘したことだった。もっと感情を露わにしてプレーすることを、この激情的な監督も求めたが、2年半ほどの間、柴崎がそのスタンスを変えることはなかった。
しかし、柴崎にとって幸運なのは、そうした柴崎のパーソナリティを理解しつつ、長所を活かそうとする人物が、所属クラブの指揮官に就任したことだ。
幸運だった石井監督の就任。今の鹿島のスタイルは、欧州の薫りが漂う。
選手個々のキャラクターを尊重する石井監督の就任は、柴崎にとって追い風になったに違いない。写真:佐藤 明(サッカーダイジェスト写真部)
さらに、そのサッカースタイルは極めて現代的に変化した。アグレッシブにボールへアタックを繰り返し、ひとたび奪い獲ればスピーディにゴールを目指す。昨季途中から鹿島の監督になった石井正忠は、欧州のサッカークラブと同じ薫りを感じさせる戦い方を選手たちに求めている。
悲願である欧州行きは、今オフも実現できずに終わったが、この鹿島のスタイルで結果を残すことは、実際に欧州でプレーした時の指標となるだろう。激しくボールに寄せてボールを奪い取り、ゴールに絡むプレーを見せることができれば、誰もが彼の地でプレーする柴崎の姿を思い描くことができるはずだ。
永木亮太や三竿健斗、小笠原満男とのポジション争いを制し、鹿島で結果を残すことは、ヨーロッパへの入り口を大きく広げることへとつながる。そして、日本代表監督が評価を改めることにもつながるだろう。
文:田中 滋(フリーライター)
チンチロリン
岳について綴る田中滋氏である。
岳のブレぬ気持ちが良く伝わってくる。
石井体制の下、圧倒的なパフォーマンスを魅せ、鹿島にリーグタイトルをもたらすのだ。
さすれば欧州移籍も見えてくる。
背番号10の躍動を楽しみにしておる。
チンチロリン