【Jリーグ】鹿島がナビスコカップ優勝。明暗を分けた世代交代の"伝統"
浅田真樹●文 text by Asada Masaki
梁川 剛●撮影 photo by Yanagawa Go
![](https://farm7.static.flickr.com/6055/6298418305_9cee12f885_b.jpg)
決勝ゴールを決めた大迫をはじめ、着実に若い選手が育ってきている鹿島。
ナビスコカップ決勝の前夜祭でのことである。浦和が優勝した2003年大会の決勝を振り返りながら、司会者が原口元気に尋ねた。
「当時はユースチームの選手たちも、スタンドで見ていたそうですね」
すると、原口がポツリとひと言。
「いや、僕はまだ小学生だったんで……」
傍(かたわ)らに立っていたキャプテンの鈴木啓太は、堀孝史監督と顔を見合わせて、苦笑いするしかなかった。その決勝でピッチに立っていた鈴木にしてみれば、改めて歳の差を思い知らされた、といったところだろう。
実際、原口に代表されるように、浦和は若い選手が増えた。だが、言い方を変えると、世代交代があまりにも急激に進み過ぎた。
延長の末に0-1で鹿島に敗れ、8年ぶりのナビスコカップ優勝を逃した試合を振り返り、堀監督は「鹿島のほうが、試合運びが一枚上だった」と言った。そして、「一枚上」の要因として挙げたのが、「経験」だった。
「前半、(浦和の選手は)積極的にゴールへ向かおうとしていたが、そこで(ボールを)引っかけられてカウンターを受けるという場面が、想定していた以上に出てしまった。もっと余裕を持って、どのタイミングでゴールへ向かうのがいいのかを考えなければならなかったし、私も指示すべきだった」
確かに試合運びという点で、両者の間には経験の差が感じられた。浦和に退場者(山田直輝)が出たことをきっかけに、がっちりと試合の主導権を握り、それを最後まで放さなかったあたりは、さすが鹿島だ。
とはいえ、決勝ゴールを決め、MVPを獲得した大迫勇也や、高卒ルーキーの柴崎岳に象徴されるように、鹿島でも世代交代は進んでいる。
にもかかわらず、堀監督のコメントを引くまでもなく、鹿島からは経験不足ゆえの不安定さをそれほど感じることはなかった。
もちろん、選手個々の素養によるところもあるだろう。中堅の立場に立つ29歳の青木剛は、19歳の柴崎について「自分が1年目のときは、あんなに落ち着いてプレイできなかった」と、冷静なプレイぶりに舌を巻く。また、大迫についても「高校時代に練習参加に来ているときから、すでにプロのDFを背負って堂々とやっていた」と振り返る。
だが、決してそれだけではない。黄金世代のひとりとして、数々のタイトルを鹿島にもたらしてきた中田浩二は言う。
「(ナビスコカップ決勝のような)こういう試合で、勝つと負けるとでは大きな違い。勝って気づくことがあるから。自分も若いときは(年齢が)上の人に助けてもらって、いろんなことを学んだ。今日は、僕らが(柴崎)岳たちにそうしてあげられたと思うし、彼らもまた、下の世代に伝えていってくれればいい」
鹿島はこのナビスコカップでこそ、優勝という最高の結果を手にしたものの、J1では波に乗り切れていない。首位・柏と勝ち点差17の6位(第30節終了時点)は、すでに優勝はおろか、AFCチャンピオンズリーグ圏内の3位の可能性も消えている。その状況は、世代交代途上ゆえの苦しみに見えなくもない。
しかし、オズワルド・オリヴェイラ監督は「今季はチャンスを作っても決め切れず、引き分ける試合が多い。ゴール数がチャンスの数と質に見合っていない」と拙攻(せっこう)を嘆きながらも、「ゲームコントロールは、私が監督になってからの5年間で一番安定している」と自信を見せた。
世代交代がひとつのキーワードとなった、今年のナビスコカップ決勝。交代出場も含めれば、21歳以下の選手が5人もピッチに立ち、見た目のインパクトで勝ったのは浦和である。
しかし中田が言うように、鹿島には19年間、淀みのない世代交代で確実に受け継いできた「強さ」があった。この試合でも先発11人中30代が5人と、高齢化が目立つ鹿島だが、頼もしい若手は確実に育ってきている……、というより、頼もしくなるよう育てているわけだ。
今年のナビスコカップ優勝で15冠目のタイトル獲得。世代交代において一日の長があったのは、やはり鹿島のほうである。
ナビスコカップ決勝戦後、「これは冗談です」と言ったオリヴェイラ監督
90分では勝ちきれずとも、120分戦えば勝利の確率が上がる鹿島のサッカー
Text by 後藤 健生
鹿島アントラーズのオズバルド・オリヴェイラ監督は、記者会見の最後に立ち上がって挨拶をした後、「先ほどの話は冗談だった」とわざわざ言い残し、拍手を受けながら会見場を去っていった。オリヴェイラ監督が「冗談だった」と言ったのは、会見の冒頭に「今シーズン、攻めていながら点が取れずに引き分けに終わった試合がいくつもある。今日のように延長まであれば勝てていたはず。来シーズンから、Jリーグは延長120分まで戦うようにしたらいい」と言ったことである。
当然、冗談である。当たり前だ。
わざわざ、「冗談です」と言わなくてもいいじゃないかとも思うが、何しろ、この国のサッカージャーナリストはすぐに発言を真に受けてしまう傾向がある。岡田武史監督が「会長に『私が監督をやっていていいでしょうか?』と聞いた」と冗談を言ったら、真に受けた新聞が本気で「岡田監督が進退伺い」と記事を書いてしまった事件すらあった。「一応、『冗談です』と言っておかないと、また何か書かれてしまうかもしれない」とオリヴェイラ監督は思ったのだろう。
そう、リーグ戦で延長をやるべきだなどというのは、もちろん冗談である(もっとも、Jリーグ発足当初は、実際にリーグ戦でも延長・PK戦をやっていたのだが……)。しかし、よく考えてみると、この発言は、じつは冗談のようであって、真実を衝いた発言だったのかもしれないような気もする。なぜ、鹿島アントラーズはあれだけ一方的に攻め続けながら、90分までに決着を着けることができず、なぜ、延長まで戦わなければならなかったのか?それは、鹿島というチームが無理な攻めをしないチームだからだ。ナビスコカップ決勝の浦和レッズ戦。鹿島は、120分間、試合を完全にコントロールし続けた。
山田直輝の退場で鹿島が1人多くなった30分間だけではなく、青木剛の退場で再び同数になった後の40分間も、そして山田退場の前の50分までも、すべての時間帯で鹿島は優位に立っていた。低迷する浦和を相手にして、鹿島にとって怖いのは速攻くらいのものだったろう。そこで、パスの出し手にプレッシャーをかけることよりも、受け手が入り込むスペースを消すことによって、鹿島は浦和の速攻の芽を完全に摘み取った。時折、エスクデロが上がってくるのを、中田浩二と青木の急造CBコンビが捕まえきれずにピンチを招いた場面があったが、それ以外には浦和にはチャンスらしいチャンスはなかった。
こうして、鹿島はしっかり守ってから、攻撃に移った。CBの2人はもともとがボランチの選手だけに、パスセンスがある。さらに、名手、小笠原満男からのロングボール。そして、野沢卓也の正確なロングボールが噛み合って、鹿島は浦和陣に攻め込み続けたのだ。だが、点は入らない。それでも、強引な攻め、無理はけっしてしない。したがって、前半の45分はどちらにもビッグチャンスがほとんどな膠着状態にも見えた。だが、「ゆったりした展開の膠着状態」というのは、鹿島側がイメージしていた通りの展開だったのだろう。
こうして、無理をせず、焦らずに攻めていればいつか点が入る。点が入らなくても、相手のDF陣に足を使わせることによって、相手を追い込んでいける。そして、チャンスの到来を辛抱強く待つ。それが、鹿島アントラーズのサッカーである。攻めていても、浦和も人数をかけてしっかり守っており、なかなかシュートまで行かない。シュートを打てるような場面でも、鹿島の選手はより安全な、より確実な状況を作り出そうと、さらにパスを回す……。もっと積極的にできないのか!とも叫びたくなる。そんな展開が続いた。
最後は、そういったコンセプトが功を奏して、浦和DFの足が止まっていたところを衝いて、鹿島が決勝ゴールを決めた。左サイドの興梠慎三がボールを受け、ドリブルに入ると、マークしているべき山田暢久が付いていけずに、田代有三とパス交換した興梠が抜け出し、最後は逆サイドをフリーで走りこんだ大迫勇也が決めて、これが決勝ゴールとなった。たしかに、これは必然のゴールだった。鹿島のロジカルな勝利と言うこともできる。だが、もし、これが延長のないリーグ戦だったら、試合は0-0の引き分けとなっていた。
そして、重要なのは、そういう展開になったのは、けっして偶然の出来事ではないということだ。点が入らなかったのは、シュートが雨あられのように飛んで、バーやポストに嫌われ続けたからではない。鹿島の攻めが慎重で、なかなか強引なところからはシュートを打たなかった。相手が疲れてから仕留めようとしていたからなのである。そう、オリヴェイラ監督が会見場で語ったように、「リーグ戦でも延長があったら」鹿島の勝点はかなり伸びていたはずなのだ。そういう攻め方をしているからである。
それは、ゆっくり、正確にパスを回して攻め続け(ただし、無理はせずに)、最後に相手の足が止まったところでトドメを刺す。それが、鹿島のサッカーなのだ。きわめてロジカル。ではあるが、相手の足がなかなか止まらないと、なかなか点が取れないまま90分が過ぎてしまう危険もあるわけだ。120分やれば、必ず、完全に相手の足を止められるが、しかし、90分では抵抗が続くこともある。そういえば、ワールドカップ3次予選の初戦、北朝鮮との試合がそうだった。日本が攻めに攻め、相手の足が止まり、そして後半のアディショナルタイムに吉田麻也のヘディングが決まって、日本が勝点3を確保した、あの試合だ。
あれも、もし、「0-0で終わった場合には30分の延長」というレギュレーションだったとしたら、日本は確実に勝てたはずだ。だが、90分だと、最後まで守りきられてしまう(勝点2を失う)可能性が残る。ううん、延長の30分間がどうしてもほしいのはオリヴェイラ監督ではなく、いつもベタ引きの相手と戦わなければならないザッケローニ監督の方なのかもしれない……。
ナビスコカップ決勝、黄金世代と新世代が融合。鹿島が15冠目のタイトル
Text by 元川 悦子
東日本大震災の影響でリーグ戦が1ヶ月半中断されるなど、混乱が続いた2011年のJリーグ。ヤマザキナビスコカップも大会日程が大幅に変わり、準々決勝以降のホーム&アウェー方式も取りやめになった。そういう難しい環境の中、ファイナルまで勝ち進んだのは浦和レッズと鹿島アントラーズ。浦和は1回戦から参戦し、モンテディオ山形、大宮アルディージャ、セレッソ大阪、ガンバ大阪と合計6試合を戦ったが、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)のため2回戦までを免除された鹿島は横浜F・マリノス、名古屋グランパスとの2試合に勝っただけで、決勝までやってきた。
この過程を考えると、浦和の方が勝者に相応しかったのだが、やはり試合巧者の鹿島は要所要所を確実に締めてくる。29日の決勝戦でも危なげない戦いを見せ、大迫勇也が挙げた決勝点を守りきって1-0で勝利。クラブ15冠目のタイトルを手中にした。
とはいえ、今季の鹿島は順風満帆というわけにはいかなかった。3月の大地震で本拠地のカシマスタジアムやクラブハウスが被災。福島第一原発事故の影響もあって、一時は活動休止にまで追い込まれた。その後、再び始動したものの、序盤はチームがかみ合わずに大苦戦。鹿島最大の武器である堅守が崩れ、さらには昨季限りでチームを去ったマルキーニョスの穴が大きく、決定力不足にあえぐことになったのだ。カルロン、本田拓也など期待の新戦力たちも思うようにフィットせず、西大伍もケガからのスタートを余儀なくされたうえ、小笠原らベテラン勢もコンディションが上がらないなど、あらゆる意味で誤算が続いた。
このため、やっとの思いで1次リーグを2位通過したACLもラウンド16で早々と敗退。リーグ戦でも足踏み状態が続いた。夏以降調子を上げてきて巻き返したものの、序盤戦の取りこぼしの影響が大きく、柏レイソル、ガンバ大阪、名古屋グランパスの上位陣とは大きな差をつけられてしまった。
オズワルド・オリヴェイラ監督はこの苦境を乗りきるために、若手とベテランをローテーションさせながら使うという策を推し進めた。サイドバックなら新井場徹とアレックス、西、ボランチなら小笠原、青木剛、増田誓志、柴崎岳、FWは興梠慎三、大迫勇也、田代有三というように、1つのポジションを複数メンバーにやらせて、穴ができないように配慮したのだ。層が薄かったセンターバックにしても、岩政大樹がケガをしたら、青木を下げたり、新人の昌子源を起用したりと、使える陣容をできる限り増やした。
そんな指揮官の「選手層の充実」と「緩やかな世代交代」の効果が、この浦和との大一番に出たといえるのではないか。
立ち上がりの鹿島は守護神・曽ケ端準、最終ラインを統率する中田浩二、中盤の要・小笠原満男の黄金世代トリオがチームを締めていた。98年入団で、鹿島の10個のタイトルに貢献してきた彼らが軸にして、同世代の新井場と野沢拓也が脇を固めることで、それ以外の若手たちも安心して戦えたに違いない。そしてプレッシャーのかかる場の空気に慣れた時点でキャプテン・小笠原を下げ、増田を起用。ボランチを増田と野沢にして、攻撃にさらなるてこ入れを図ったのだ。
勝負のかかる一番重要な局面で、小笠原を下げるというのはリスキーではないかと正直、思った。だが、増田が積極的ミドルで相手を脅かし、不慣れな右サイドに入った柴崎が相手の裏を取りつつ、強烈シュートをクロスバーに当てる働きを見せ、興梠や大迫も足がつりそうになりながら前線に飛び込み続けるなど、小笠原がいない影響は攻撃陣には全くなかった。
もちろん、曽ケ端と中田浩二、新井場というベテランが守備をリードしていたことが大きかっただろうが、若手たちも自信を持って堂々と自分たちの力を発揮していた。その結果として延長前半15分の大迫のゴールが生まれる。これも田代が得意のポストプレーで敵をひきつけ、興梠が快足を生かしてスペースを突き、大迫が逆サイドで飛び込むというそれぞれの長所が前面に押し出されたゴールだった。
「今のウチは年齢バランスがすごくいいと思う」と小笠原も語っていたが、鹿島はいい具合に世代交代を推し進めつつある。今回のタイトルは、黄金世代と新世代が融合して取った初めてのタイトルといっていい。かつて栄華を誇ったヴェルディ川崎やジュビロ磐田らができなかった「世代交代しながらの勝利」を鹿島は確実に遂行しつつある。来年には大学ナンバーワンMFといわれる山村和也(流通経済大)や内田篤人(シャルケ)の後釜といわれる伊東幸敏(静岡学園)ら大きな可能性のある若手も加入する。彼らが不安のある守備陣の一角を占めるようになれば、鹿島の選手層はさらに厚くなるだろう。
オリヴェイラ監督の手腕ももちろん大きいが、巧みなクラブ強化はJリーグのいいお手本。他クラブの強化関係者も彼らの15冠獲得にいい刺激を受け、学んでほしいものだ。
浅田氏、後藤氏、元川女史のコラムである。
それぞれ見解・視点が異なって面白い。
しかしながら、結果的にタイトルを得た鹿島を褒め称えることとなる。
今年のナビスコ杯優勝だけでなく、ここまで積み重ねてきた実績・経験がこの結果を呼び込んだこととなろう。
これからも、歴史を積み重ね、更なるタイトルを狙っていきたい。
それが鹿島アントラーズである。
浅田真樹●文 text by Asada Masaki
梁川 剛●撮影 photo by Yanagawa Go
![](https://farm7.static.flickr.com/6055/6298418305_9cee12f885_b.jpg)
決勝ゴールを決めた大迫をはじめ、着実に若い選手が育ってきている鹿島。
ナビスコカップ決勝の前夜祭でのことである。浦和が優勝した2003年大会の決勝を振り返りながら、司会者が原口元気に尋ねた。
「当時はユースチームの選手たちも、スタンドで見ていたそうですね」
すると、原口がポツリとひと言。
「いや、僕はまだ小学生だったんで……」
傍(かたわ)らに立っていたキャプテンの鈴木啓太は、堀孝史監督と顔を見合わせて、苦笑いするしかなかった。その決勝でピッチに立っていた鈴木にしてみれば、改めて歳の差を思い知らされた、といったところだろう。
実際、原口に代表されるように、浦和は若い選手が増えた。だが、言い方を変えると、世代交代があまりにも急激に進み過ぎた。
延長の末に0-1で鹿島に敗れ、8年ぶりのナビスコカップ優勝を逃した試合を振り返り、堀監督は「鹿島のほうが、試合運びが一枚上だった」と言った。そして、「一枚上」の要因として挙げたのが、「経験」だった。
「前半、(浦和の選手は)積極的にゴールへ向かおうとしていたが、そこで(ボールを)引っかけられてカウンターを受けるという場面が、想定していた以上に出てしまった。もっと余裕を持って、どのタイミングでゴールへ向かうのがいいのかを考えなければならなかったし、私も指示すべきだった」
確かに試合運びという点で、両者の間には経験の差が感じられた。浦和に退場者(山田直輝)が出たことをきっかけに、がっちりと試合の主導権を握り、それを最後まで放さなかったあたりは、さすが鹿島だ。
とはいえ、決勝ゴールを決め、MVPを獲得した大迫勇也や、高卒ルーキーの柴崎岳に象徴されるように、鹿島でも世代交代は進んでいる。
にもかかわらず、堀監督のコメントを引くまでもなく、鹿島からは経験不足ゆえの不安定さをそれほど感じることはなかった。
もちろん、選手個々の素養によるところもあるだろう。中堅の立場に立つ29歳の青木剛は、19歳の柴崎について「自分が1年目のときは、あんなに落ち着いてプレイできなかった」と、冷静なプレイぶりに舌を巻く。また、大迫についても「高校時代に練習参加に来ているときから、すでにプロのDFを背負って堂々とやっていた」と振り返る。
だが、決してそれだけではない。黄金世代のひとりとして、数々のタイトルを鹿島にもたらしてきた中田浩二は言う。
「(ナビスコカップ決勝のような)こういう試合で、勝つと負けるとでは大きな違い。勝って気づくことがあるから。自分も若いときは(年齢が)上の人に助けてもらって、いろんなことを学んだ。今日は、僕らが(柴崎)岳たちにそうしてあげられたと思うし、彼らもまた、下の世代に伝えていってくれればいい」
鹿島はこのナビスコカップでこそ、優勝という最高の結果を手にしたものの、J1では波に乗り切れていない。首位・柏と勝ち点差17の6位(第30節終了時点)は、すでに優勝はおろか、AFCチャンピオンズリーグ圏内の3位の可能性も消えている。その状況は、世代交代途上ゆえの苦しみに見えなくもない。
しかし、オズワルド・オリヴェイラ監督は「今季はチャンスを作っても決め切れず、引き分ける試合が多い。ゴール数がチャンスの数と質に見合っていない」と拙攻(せっこう)を嘆きながらも、「ゲームコントロールは、私が監督になってからの5年間で一番安定している」と自信を見せた。
世代交代がひとつのキーワードとなった、今年のナビスコカップ決勝。交代出場も含めれば、21歳以下の選手が5人もピッチに立ち、見た目のインパクトで勝ったのは浦和である。
しかし中田が言うように、鹿島には19年間、淀みのない世代交代で確実に受け継いできた「強さ」があった。この試合でも先発11人中30代が5人と、高齢化が目立つ鹿島だが、頼もしい若手は確実に育ってきている……、というより、頼もしくなるよう育てているわけだ。
今年のナビスコカップ優勝で15冠目のタイトル獲得。世代交代において一日の長があったのは、やはり鹿島のほうである。
ナビスコカップ決勝戦後、「これは冗談です」と言ったオリヴェイラ監督
90分では勝ちきれずとも、120分戦えば勝利の確率が上がる鹿島のサッカー
Text by 後藤 健生
鹿島アントラーズのオズバルド・オリヴェイラ監督は、記者会見の最後に立ち上がって挨拶をした後、「先ほどの話は冗談だった」とわざわざ言い残し、拍手を受けながら会見場を去っていった。オリヴェイラ監督が「冗談だった」と言ったのは、会見の冒頭に「今シーズン、攻めていながら点が取れずに引き分けに終わった試合がいくつもある。今日のように延長まであれば勝てていたはず。来シーズンから、Jリーグは延長120分まで戦うようにしたらいい」と言ったことである。
当然、冗談である。当たり前だ。
わざわざ、「冗談です」と言わなくてもいいじゃないかとも思うが、何しろ、この国のサッカージャーナリストはすぐに発言を真に受けてしまう傾向がある。岡田武史監督が「会長に『私が監督をやっていていいでしょうか?』と聞いた」と冗談を言ったら、真に受けた新聞が本気で「岡田監督が進退伺い」と記事を書いてしまった事件すらあった。「一応、『冗談です』と言っておかないと、また何か書かれてしまうかもしれない」とオリヴェイラ監督は思ったのだろう。
そう、リーグ戦で延長をやるべきだなどというのは、もちろん冗談である(もっとも、Jリーグ発足当初は、実際にリーグ戦でも延長・PK戦をやっていたのだが……)。しかし、よく考えてみると、この発言は、じつは冗談のようであって、真実を衝いた発言だったのかもしれないような気もする。なぜ、鹿島アントラーズはあれだけ一方的に攻め続けながら、90分までに決着を着けることができず、なぜ、延長まで戦わなければならなかったのか?それは、鹿島というチームが無理な攻めをしないチームだからだ。ナビスコカップ決勝の浦和レッズ戦。鹿島は、120分間、試合を完全にコントロールし続けた。
山田直輝の退場で鹿島が1人多くなった30分間だけではなく、青木剛の退場で再び同数になった後の40分間も、そして山田退場の前の50分までも、すべての時間帯で鹿島は優位に立っていた。低迷する浦和を相手にして、鹿島にとって怖いのは速攻くらいのものだったろう。そこで、パスの出し手にプレッシャーをかけることよりも、受け手が入り込むスペースを消すことによって、鹿島は浦和の速攻の芽を完全に摘み取った。時折、エスクデロが上がってくるのを、中田浩二と青木の急造CBコンビが捕まえきれずにピンチを招いた場面があったが、それ以外には浦和にはチャンスらしいチャンスはなかった。
こうして、鹿島はしっかり守ってから、攻撃に移った。CBの2人はもともとがボランチの選手だけに、パスセンスがある。さらに、名手、小笠原満男からのロングボール。そして、野沢卓也の正確なロングボールが噛み合って、鹿島は浦和陣に攻め込み続けたのだ。だが、点は入らない。それでも、強引な攻め、無理はけっしてしない。したがって、前半の45分はどちらにもビッグチャンスがほとんどな膠着状態にも見えた。だが、「ゆったりした展開の膠着状態」というのは、鹿島側がイメージしていた通りの展開だったのだろう。
こうして、無理をせず、焦らずに攻めていればいつか点が入る。点が入らなくても、相手のDF陣に足を使わせることによって、相手を追い込んでいける。そして、チャンスの到来を辛抱強く待つ。それが、鹿島アントラーズのサッカーである。攻めていても、浦和も人数をかけてしっかり守っており、なかなかシュートまで行かない。シュートを打てるような場面でも、鹿島の選手はより安全な、より確実な状況を作り出そうと、さらにパスを回す……。もっと積極的にできないのか!とも叫びたくなる。そんな展開が続いた。
最後は、そういったコンセプトが功を奏して、浦和DFの足が止まっていたところを衝いて、鹿島が決勝ゴールを決めた。左サイドの興梠慎三がボールを受け、ドリブルに入ると、マークしているべき山田暢久が付いていけずに、田代有三とパス交換した興梠が抜け出し、最後は逆サイドをフリーで走りこんだ大迫勇也が決めて、これが決勝ゴールとなった。たしかに、これは必然のゴールだった。鹿島のロジカルな勝利と言うこともできる。だが、もし、これが延長のないリーグ戦だったら、試合は0-0の引き分けとなっていた。
そして、重要なのは、そういう展開になったのは、けっして偶然の出来事ではないということだ。点が入らなかったのは、シュートが雨あられのように飛んで、バーやポストに嫌われ続けたからではない。鹿島の攻めが慎重で、なかなか強引なところからはシュートを打たなかった。相手が疲れてから仕留めようとしていたからなのである。そう、オリヴェイラ監督が会見場で語ったように、「リーグ戦でも延長があったら」鹿島の勝点はかなり伸びていたはずなのだ。そういう攻め方をしているからである。
それは、ゆっくり、正確にパスを回して攻め続け(ただし、無理はせずに)、最後に相手の足が止まったところでトドメを刺す。それが、鹿島のサッカーなのだ。きわめてロジカル。ではあるが、相手の足がなかなか止まらないと、なかなか点が取れないまま90分が過ぎてしまう危険もあるわけだ。120分やれば、必ず、完全に相手の足を止められるが、しかし、90分では抵抗が続くこともある。そういえば、ワールドカップ3次予選の初戦、北朝鮮との試合がそうだった。日本が攻めに攻め、相手の足が止まり、そして後半のアディショナルタイムに吉田麻也のヘディングが決まって、日本が勝点3を確保した、あの試合だ。
あれも、もし、「0-0で終わった場合には30分の延長」というレギュレーションだったとしたら、日本は確実に勝てたはずだ。だが、90分だと、最後まで守りきられてしまう(勝点2を失う)可能性が残る。ううん、延長の30分間がどうしてもほしいのはオリヴェイラ監督ではなく、いつもベタ引きの相手と戦わなければならないザッケローニ監督の方なのかもしれない……。
ナビスコカップ決勝、黄金世代と新世代が融合。鹿島が15冠目のタイトル
Text by 元川 悦子
東日本大震災の影響でリーグ戦が1ヶ月半中断されるなど、混乱が続いた2011年のJリーグ。ヤマザキナビスコカップも大会日程が大幅に変わり、準々決勝以降のホーム&アウェー方式も取りやめになった。そういう難しい環境の中、ファイナルまで勝ち進んだのは浦和レッズと鹿島アントラーズ。浦和は1回戦から参戦し、モンテディオ山形、大宮アルディージャ、セレッソ大阪、ガンバ大阪と合計6試合を戦ったが、アジアチャンピオンズリーグ(ACL)のため2回戦までを免除された鹿島は横浜F・マリノス、名古屋グランパスとの2試合に勝っただけで、決勝までやってきた。
この過程を考えると、浦和の方が勝者に相応しかったのだが、やはり試合巧者の鹿島は要所要所を確実に締めてくる。29日の決勝戦でも危なげない戦いを見せ、大迫勇也が挙げた決勝点を守りきって1-0で勝利。クラブ15冠目のタイトルを手中にした。
とはいえ、今季の鹿島は順風満帆というわけにはいかなかった。3月の大地震で本拠地のカシマスタジアムやクラブハウスが被災。福島第一原発事故の影響もあって、一時は活動休止にまで追い込まれた。その後、再び始動したものの、序盤はチームがかみ合わずに大苦戦。鹿島最大の武器である堅守が崩れ、さらには昨季限りでチームを去ったマルキーニョスの穴が大きく、決定力不足にあえぐことになったのだ。カルロン、本田拓也など期待の新戦力たちも思うようにフィットせず、西大伍もケガからのスタートを余儀なくされたうえ、小笠原らベテラン勢もコンディションが上がらないなど、あらゆる意味で誤算が続いた。
このため、やっとの思いで1次リーグを2位通過したACLもラウンド16で早々と敗退。リーグ戦でも足踏み状態が続いた。夏以降調子を上げてきて巻き返したものの、序盤戦の取りこぼしの影響が大きく、柏レイソル、ガンバ大阪、名古屋グランパスの上位陣とは大きな差をつけられてしまった。
オズワルド・オリヴェイラ監督はこの苦境を乗りきるために、若手とベテランをローテーションさせながら使うという策を推し進めた。サイドバックなら新井場徹とアレックス、西、ボランチなら小笠原、青木剛、増田誓志、柴崎岳、FWは興梠慎三、大迫勇也、田代有三というように、1つのポジションを複数メンバーにやらせて、穴ができないように配慮したのだ。層が薄かったセンターバックにしても、岩政大樹がケガをしたら、青木を下げたり、新人の昌子源を起用したりと、使える陣容をできる限り増やした。
そんな指揮官の「選手層の充実」と「緩やかな世代交代」の効果が、この浦和との大一番に出たといえるのではないか。
立ち上がりの鹿島は守護神・曽ケ端準、最終ラインを統率する中田浩二、中盤の要・小笠原満男の黄金世代トリオがチームを締めていた。98年入団で、鹿島の10個のタイトルに貢献してきた彼らが軸にして、同世代の新井場と野沢拓也が脇を固めることで、それ以外の若手たちも安心して戦えたに違いない。そしてプレッシャーのかかる場の空気に慣れた時点でキャプテン・小笠原を下げ、増田を起用。ボランチを増田と野沢にして、攻撃にさらなるてこ入れを図ったのだ。
勝負のかかる一番重要な局面で、小笠原を下げるというのはリスキーではないかと正直、思った。だが、増田が積極的ミドルで相手を脅かし、不慣れな右サイドに入った柴崎が相手の裏を取りつつ、強烈シュートをクロスバーに当てる働きを見せ、興梠や大迫も足がつりそうになりながら前線に飛び込み続けるなど、小笠原がいない影響は攻撃陣には全くなかった。
もちろん、曽ケ端と中田浩二、新井場というベテランが守備をリードしていたことが大きかっただろうが、若手たちも自信を持って堂々と自分たちの力を発揮していた。その結果として延長前半15分の大迫のゴールが生まれる。これも田代が得意のポストプレーで敵をひきつけ、興梠が快足を生かしてスペースを突き、大迫が逆サイドで飛び込むというそれぞれの長所が前面に押し出されたゴールだった。
「今のウチは年齢バランスがすごくいいと思う」と小笠原も語っていたが、鹿島はいい具合に世代交代を推し進めつつある。今回のタイトルは、黄金世代と新世代が融合して取った初めてのタイトルといっていい。かつて栄華を誇ったヴェルディ川崎やジュビロ磐田らができなかった「世代交代しながらの勝利」を鹿島は確実に遂行しつつある。来年には大学ナンバーワンMFといわれる山村和也(流通経済大)や内田篤人(シャルケ)の後釜といわれる伊東幸敏(静岡学園)ら大きな可能性のある若手も加入する。彼らが不安のある守備陣の一角を占めるようになれば、鹿島の選手層はさらに厚くなるだろう。
オリヴェイラ監督の手腕ももちろん大きいが、巧みなクラブ強化はJリーグのいいお手本。他クラブの強化関係者も彼らの15冠獲得にいい刺激を受け、学んでほしいものだ。
浅田氏、後藤氏、元川女史のコラムである。
それぞれ見解・視点が異なって面白い。
しかしながら、結果的にタイトルを得た鹿島を褒め称えることとなる。
今年のナビスコ杯優勝だけでなく、ここまで積み重ねてきた実績・経験がこの結果を呼び込んだこととなろう。
これからも、歴史を積み重ね、更なるタイトルを狙っていきたい。
それが鹿島アントラーズである。