鹿島岩政ロスタイム弾!連覇見えた/J1
ヘディングで決勝ゴールを決める鹿島DF岩政(右)。左は磐田DF駒野
<J1:鹿島1-0磐田>◇第33節◇29日◇カシマ
鹿島がDF岩政大樹(26)の劇的なロスタイム弾で優勝にさらに近づいた。磐田戦は0-0のまま終了寸前となったが、土壇場で岩政がFKから会心のヘッドを決めて大きな1勝をつかんだ。12月6日の最終節札幌戦に勝てば、無条件で2連覇が決まる。混戦の08年度リーグVは、30日に札幌と戦う名古屋を含めた3チームに絞られた。
スタジアム中に充満していた期待を、岩政がかなえた。後半ロスタイムも残り数十秒。ゴール左でのFKは、まさにラストプレーだった。MF増田が思いを託したキックをニアに突く。スペースを見つけた岩政が、187センチの肉体をボールにぶつけるようにヘッドをたたき込んだ。ドラマのような決勝弾。新井場に引きずり倒されたヒーローは、次々に折り重なる仲間の中で吠(ほ)え続けた。
「僕のプロ初ゴールも同じ状況だったから、何かあるかも知れないと思った」。数週間前に、ホーム最終戦のこの日の劇的な勝利を予告。「野沢の活躍で勝つと思った。一番可能性が低いけど、自分のゴールで勝つこともあるかなと思った」。後半ロスタイムにヘッドでプロ初得点となる決勝点を挙げた、4年前のホーム磐田戦を再現した。
久々に的中した「予言」だった。昨年は苦境だった夏場にリーグ優勝を言い当て、初の代表選出、天皇杯優勝も予言した。だが今年は「1月か2月に代表デビュー」の予言は外れ、左足首痛に悩まされた。昨年6得点でDF得点王だった男は1得点止まり。「この1年はもどかしかった。得点が少ないことを周りから言われることもあった」と責任を痛感していた。
天性の素質がないことは自覚している。だがあきらめることは性分に合わない。一般入試で入った東学大では岩政より才能がある選手がほとんどだった。だが母英子さんには「僕よりうまい選手しかいない。でもそういう選手が部をやめる。自分がここまで続けてこられたのは、誘惑に負けない気持ちがあるから」と決意を明かしたことがある。強い気持ちが宿っているからこそ、今でも逆境を乗り越えることができる。
「内容はよくない。でも劇的な勝利の方が乗っていける」。最終戦のアウェー札幌戦での連覇達成を予言するかのように、決勝弾の直前からスタンド後方の北の空には鮮やかな虹が架かっていた。【広重竜太郎】
[2008年11月30日8時8分 紙面から]
鹿島・岩政決めた!ロスタイム“V手中弾”
2008.11.30 05:04
試合終了直前、値千金の決勝弾を決めて喜ぶ岩政【フォト】
第33節第1日(29日、カシマほか)首位鹿島は残り5秒で、DF岩政大樹(26)が値千金の決勝ヘッド。磐田に1-0の劇的勝利を挙げて勝ち点を60に伸ばした。12月6日の札幌戦(札幌ド)に勝てば、無条件で2連覇が決まる。優勝の行方は1シーズン制導入後、4季連続で最終節にもつれ込んだ。残留争いも最終節に決着することになった。浦和はG大阪に0-1で敗れ、1試合を残して6季ぶりの無冠が決定した。
劇的な勝利の瞬間、祝福するかのような七色の虹が鹿島の夕空に架かった。苦しみ抜いた末に、連覇に王手だ。
0-0のまま、4分間の後半ロスタイムはすでに過ぎていた。誰もが引き分けを覚悟したとき、ドラマを演出したのは岩政だった。
「信じられないです。今年はゴール数が伸びていなかったので、本当にうれしい」
MF増田のFKに1メートル87の長身からヘッドでズドン。5バックの超守備的な磐田のゴールをこじあけた。終了のホイッスルの5秒前。鹿島イレブンは優勝したかのようにピッチに倒れ込み、幾重にも重なった。客席のスタンディングオベーションに、岩政はガッツポーズを繰り返した。
昨年はDFとして、Jタイ記録となる4戦連発を記録。しかし、今季はこれが2得点目。「少なくて周りからも(文句を)言われていた。少し報われたかな」と振り返る。プロ初ゴールは04年の磐田戦のロスタイムだけに「実はちょっと予想していました」と、はにかんだ。
3月のゼロックス・スーパー杯で退場処分になり、開幕戦は欠場したが、残り32試合はフル出場。チームの要として引っ張ってきた。数学の教員免許を持つ知性派で、オリベイラ監督は「ボクのアイデアに上積みをプラスできる選手」と評価する。若手選手にはズバリ問題点を指摘する“先生役”も務めている。
劇的な勝利に、指揮官も興奮しきりだ。ホーム最終戦のためマイクの前に立つと、あふれる感情が爆発。泣きながら絶叫した。「もう1度タイトルを取れるように、がんばります!!」。高井通訳も、声を震わせて絶叫した。
「まだ優勝したわけじゃない。次にむけてスタートしたい」と岩政は冷静だが、札幌戦に勝てば文句なしで2連覇が決まる。黄金時代の復活へ、波に乗った王者をもう誰も止められない。(峯岸弘行)
鹿島あと1勝!ホーム最終戦で劇的な逆転劇
後半44分、ゴールをきめた鹿島・岩政(中)はガックリの中山(左)ら磐田イレブンの横で喜び爆発
Photo By スポニチ
【鹿島1―0磐田】鹿島が連覇にあと1勝と迫った。J1第33節第1日は29日に6試合を行い、鹿島はホームで磐田と対戦し1―0で白星を飾った。DF岩政大樹(26)が後半ロスタイムに起死回生のゴールを決め激闘に終止符を打った。今季のホーム最終戦を劇的な勝利で飾り、連覇に王手。3位以内確定で来季ACL出場も決定した。12月6日の札幌との最終戦に勝てば、無条件で2年連続6回目の優勝が決まる。
劇的なドラマは最後の最後に待っていた。後半のロスタイム4分はすでに経過。まさに最後の1プレーだった。1点が欲しい鹿島は左コーナーフラッグ付近で反則を誘い、FKを得た。磐田の選手が陣形を整える前に素早く蹴った増田のFKに岩政が得意の頭で合わせると、ボールは磐田のGK川口の脇を抜けてゴールネットに突き刺さった。その直後に試合が終了。ベンチ前には歓喜の輪が広がり、スタンドは総立ちに。ゴール裏のサポーター席に向かって走りだしたオリヴェイラ監督の目からはすでに大粒の涙があふれ出ていた。殊勲の岩政も「頭が真っ白になった」と興奮で声を震わせた。
みんなの気持ちが乗り移ったゴールでもあった。試合前のロッカールームにはこの日、見慣れない光景があった。普段は私服でスタジアムにやって来るベンチ外メンバーたちも、ユニホームに身を包んでいた。「一つになるぞ!」。スタッフを含めたチーム全体での円陣。小笠原の離脱以来ゲームキャプテンとしてチームを引っ張るDF新井場の怒号が響き渡った。
実は、小笠原が午前中にクラブハウスでリハビリを終えたあと、ホペイロ(用具係)の増川氏にこう頼んでいた。「全員のユニホームを包んでくださいよ」。故障でピッチに立てない小笠原主将の粋な計らい。これでチームの闘争心は最高潮に達し、キックオフから気合のこもったプレーを展開した。その気持ちをゴールという最高の形で体現した岩政も「きょうのゴールは、サポーターを含めたみんなの気持ちがこもったゴールだった」と感激の声を上げた。
岩政自身にとっても大きな得点だった。2月の日本代表の東アジア選手権で左足首を負傷。それ以来、左足首の原因不明の痛みに悩まされ続けている。その影響で昨季6ゴールを叩き出した得点は激減。周囲からは「ゴール数が去年より少ない」と言われることも少なくなかった。それだけに、貴重な今季2点目に「数が減った分、貴重な点を取りたいと思っていた。それがこの重要な試合で生まれて、今までの苦しみが報われた」と笑みを浮かべた。
チームはこれで連覇に大きく前進。「優勝しないときょうのゴールも意味がなくなる。優勝を決めて帰ってきたい」と岩政。劇的な勝利を飾ったチームの勢いは、もう誰にも止められない。
[ 2008年11月30日 ]
鹿島V2決定的 ロスタイム!ラストプレー!岩政Vヘッド…J1第33節
後半44分、鹿島・岩政がFKからのボールをヘッドで押し込み決勝点を挙げ喜ぶ
◆J1第33節 鹿島1―0磐田(29日・カシマ) 鹿島がリーグ連覇に王手をかけた。後半ロスタイム、セットプレーからDF岩政大樹(26)がヘディングで決勝弾。8月16日東京V戦以来の今季2得点目で、磐田を1―0で下した。最終節の札幌戦(12月6日・札幌ド)で引き分け以上なら優勝が決まる。これで3位以内が確定。来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得した。
連覇への執念がドラマを引き寄せた。ロスタイム4分が経過し、スコアレスドローがちらついたラストプレー。MF増田の左FKから、DF岩政が「これが最後」とファーサイドからゴールの混戦をかき分け、突進する。何度か相手DFのチャージを受けたが、よろけない。ゴール前正面からのヘディングシュートがゴール左隅のネットを揺らした。
計4度の決定機をものにできなかった89分間。そのうっぷんを晴らす決勝点に、瞬く間に1人、2人と人山が出来上がる。7人の下敷きとなったヒーローは「苦しいよ」とピッチを手のひらでたたくだけ。「大事なところでゴールを入れたかった」起き上がった岩政は、ほおに無数の芝をつけたまま、選手席へ向かって拳を突き上げた。
キックオフの2時間前からドラマは始まっていた。5キロほど離れたクラブハウスで、負傷離脱中の主将MF小笠原はリハビリを終え「試合に出ない選手の分のユニホームをスタジアムに運んでください」と、用具担当に依頼。スタジアム入りするとベンチ外選手12人を集め、試合直前のロッカールームへと向かった。
普段ならベンチ入りメンバーだけで行われる試合直前の出陣式。「何でいるのか、ビックリした」とMF青木。入ってきた12人が私服の上にユニホームを着て、円陣に加わったという。「これでモチベーションが高まらないなんてサッカー選手じゃない」とオリヴェイラ監督のゲキが飛ぶ。DF新井場が「一つになるぞ」と叫んだ。
「今日のゴールは試合に出られなかった人やいろんな人の気持ちが乗り移った得点だった」と、岩政は振り返る。プロ初得点は04年6月19日の磐田戦。そのときもロスタイムだった。「何かあるかもとは思っていたけど、本当に入るとはね。今も信じられない」
次節、札幌戦(12月6日、札幌ド)で勝てば、2位名古屋の結果にかかわらず1シーズン制では初めてのリーグ連覇が決まる。試合後、決勝点が飛び込んだゴール側の空に虹が浮かんだ。地元には鹿島連覇を確信する栄光へのアーチが架けられていた。
(2008年11月30日06時05分 スポーツ報知)
鹿島、連覇へ王手
2008/11/30(日) 本紙朝刊 地域 A版 14頁
岩政、劇的決勝ヘッド
Jリーグ1部(J1)第33節第一日は二十九日、各地で五試合があり、首位鹿島は後半ロスタイムにDF岩政がヘディングシュートを決め1―0で磐田を下し、連覇に大きく前進した。勝ち点差3で追う川崎も勝ったため、優勝は十二月六日の最終節へと持ち越されたが、鹿島は引き分けでも濃厚となった。
鹿島は前半からボールを支配、終始試合を優位に進めたが、なかなか得点を奪えなかった。後半も決定機をつくりながらシュートを外していたが、ロスタイムにMF増田のFKを岩政が頭でゴール左隅に押し込んだ。
この結果、優勝争いは鹿島、名古屋、川崎の三チームに絞られたが、鹿島は得失点差でも優位に立っており、最終節のアウェー札幌戦で負けない限り、二年連続六度目の優勝が決まる。
■鹿島 1-0 磐田
【評】鹿島は0-0の試合終了直前に増田の左FKを岩政が頭で決め、劇的な決勝点を挙げた。序盤の得点機を逃し、単調な攻めが続いたが、ラストチャンスを生かした。
【写真説明】
鹿島-磐田 後半ロスタイム、鹿島・岩政(右)がヘッドで合わせ決勝ゴールを決める=カシマスタジアム
ロスタイム、気持ち結集 鹿島
2008/11/30(日) 本紙朝刊 地域 A版 14頁
0―0で迎えた終盤。ロスタイムの4分をほぼ経過し、サポーターの目の前で最後のFKを得た。勝利を願うサポーターのボルテージは最高潮。そのエネルギーを力にしてボールに飛び込んだのは鹿島の闘将、DF岩政大樹だった。普段は冷静な男が「興奮してます。まだ信じられない」と振り返った満身のヘディングシュートがネットを揺らし、スタジアムは歓喜に沸いた。
チーム、サポーターの思いが詰まったゴールだった。試合前のロッカールームには、ベンチ外の選手のユニホームも用意されていた。ホーム最終戦を全員で戦う。全員で円陣を組んで気合を入れ、気持ちを受けてピッチに立った選手らは、苦戦の中でも勝利を信じて疑わなかった。
その気持ちが結集した最後のFK。「田代のマークをブロックしようと思っていたが、ボールが僕のほうにきたので」と振り返った岩政。「決めたのは僕だが、青木にはニアでつぶれてくれるように願っていた。みんながいろいろなことをして生まれたゴール」とチーム力を強調。サポーターにも「みなさんの気持ちが乗り移って入った」と感謝した。
岩政自身、苦しいシーズンだった。2月に代表の東アジア選手権で左足首を痛め、その後も痛みが引かなかった。それでも「けがは誰でも抱えている」と弱音を吐くことなくピッチに立ち続けた。「1年間もどかしい部分があった。ゴール数も少ないと言われていたし、いいところで取りたいと思っていたので良かった」と口元を緩めた。
優勝に王手。「きょうのゴールがしっかりとした意味を持つようにしたい」と語る表情は自信があふれていた。この勢いを最終戦の北の大地に持ち込み、栄冠を勝ち取るつもりだ。
増田、岩政の決勝点演出
2008/11/30(日) 本紙朝刊
MF増田誓志が後半38分、MF中後雅喜に代わって出場。ロスタイムに見事なFKで、DF岩政大樹のヘディングシュートを演出した。
4分間のロスタイムも、いつ終了の笛が吹かれても不思議でない時間に、FWマルキーニョスが倒されFKを得た。増田はキーパーの位置を確認しながら「岩政さんが飛び込んできてくれたらうれしい」という位置を目掛け、けり込んだ。このボールに岩政がきっちりと反応。ゴールを確認すると「ベストのところにけれた」と胸を張った。
試合後、増田は今季のこれまでを「全然チームに貢献できていない」と振り返ったが、ワンチャンスとは言え、しっかりアシストできたことに多少ほっとした様子。最終節札幌戦に向け「苦しい時こそベンチが助けなければいけない。『お前が出て良かった』と言われるよう頑張りたい」と気合を入れ直した。
オリベイラ監督 「素晴らしい試練だ」
2008/11/30(日) 本紙朝刊 スポーツ A版 5頁
「去年は感動的な優勝をすることができた。今年はもっと苦しい状況を乗り越え、タイトルを手にできるかもしれない。これは神が鹿島に与えた素晴らしい試練だ」。ホーム最終戦を劇的な勝利で飾った直後、目に涙をためたオズワルド・オリベイラ監督からサポーターに向けて、フライング気味の優勝宣言が飛び出した。
「選手には『しっかりやってくれ』と言っただけ。そして、しっかりやってくれた」と特別な指示は出さなかった。「心臓には悪かった。でも、チャンスはでき、決めるのを信じていた」。決勝点が入った瞬間は、ベンチ前で喜びを爆発させた。
試合終了と同時に、カシマスタジアムの北に虹がかかった。キリスト教で虹は「神との契約」を意味し、日本でも縁起の良いものとして信じられている。くしくも最終戦は虹の先にある大地。指揮官の目にも連覇が見えたはずだ。
【写真説明】
力強くあいさつするオリベイラ監督=カシマスタジアム
劇的岩政弾か優勝王手かといったところに小笠原の粋なはからいが報じられておる。
ロッカールームでこんな一幕があったとは驚きである。
まさにチームが一つとなったと言えよう。
ヘディングで決勝ゴールを決める鹿島DF岩政(右)。左は磐田DF駒野
<J1:鹿島1-0磐田>◇第33節◇29日◇カシマ
鹿島がDF岩政大樹(26)の劇的なロスタイム弾で優勝にさらに近づいた。磐田戦は0-0のまま終了寸前となったが、土壇場で岩政がFKから会心のヘッドを決めて大きな1勝をつかんだ。12月6日の最終節札幌戦に勝てば、無条件で2連覇が決まる。混戦の08年度リーグVは、30日に札幌と戦う名古屋を含めた3チームに絞られた。
スタジアム中に充満していた期待を、岩政がかなえた。後半ロスタイムも残り数十秒。ゴール左でのFKは、まさにラストプレーだった。MF増田が思いを託したキックをニアに突く。スペースを見つけた岩政が、187センチの肉体をボールにぶつけるようにヘッドをたたき込んだ。ドラマのような決勝弾。新井場に引きずり倒されたヒーローは、次々に折り重なる仲間の中で吠(ほ)え続けた。
「僕のプロ初ゴールも同じ状況だったから、何かあるかも知れないと思った」。数週間前に、ホーム最終戦のこの日の劇的な勝利を予告。「野沢の活躍で勝つと思った。一番可能性が低いけど、自分のゴールで勝つこともあるかなと思った」。後半ロスタイムにヘッドでプロ初得点となる決勝点を挙げた、4年前のホーム磐田戦を再現した。
久々に的中した「予言」だった。昨年は苦境だった夏場にリーグ優勝を言い当て、初の代表選出、天皇杯優勝も予言した。だが今年は「1月か2月に代表デビュー」の予言は外れ、左足首痛に悩まされた。昨年6得点でDF得点王だった男は1得点止まり。「この1年はもどかしかった。得点が少ないことを周りから言われることもあった」と責任を痛感していた。
天性の素質がないことは自覚している。だがあきらめることは性分に合わない。一般入試で入った東学大では岩政より才能がある選手がほとんどだった。だが母英子さんには「僕よりうまい選手しかいない。でもそういう選手が部をやめる。自分がここまで続けてこられたのは、誘惑に負けない気持ちがあるから」と決意を明かしたことがある。強い気持ちが宿っているからこそ、今でも逆境を乗り越えることができる。
「内容はよくない。でも劇的な勝利の方が乗っていける」。最終戦のアウェー札幌戦での連覇達成を予言するかのように、決勝弾の直前からスタンド後方の北の空には鮮やかな虹が架かっていた。【広重竜太郎】
[2008年11月30日8時8分 紙面から]
鹿島・岩政決めた!ロスタイム“V手中弾”
2008.11.30 05:04
試合終了直前、値千金の決勝弾を決めて喜ぶ岩政【フォト】
第33節第1日(29日、カシマほか)首位鹿島は残り5秒で、DF岩政大樹(26)が値千金の決勝ヘッド。磐田に1-0の劇的勝利を挙げて勝ち点を60に伸ばした。12月6日の札幌戦(札幌ド)に勝てば、無条件で2連覇が決まる。優勝の行方は1シーズン制導入後、4季連続で最終節にもつれ込んだ。残留争いも最終節に決着することになった。浦和はG大阪に0-1で敗れ、1試合を残して6季ぶりの無冠が決定した。
劇的な勝利の瞬間、祝福するかのような七色の虹が鹿島の夕空に架かった。苦しみ抜いた末に、連覇に王手だ。
0-0のまま、4分間の後半ロスタイムはすでに過ぎていた。誰もが引き分けを覚悟したとき、ドラマを演出したのは岩政だった。
「信じられないです。今年はゴール数が伸びていなかったので、本当にうれしい」
MF増田のFKに1メートル87の長身からヘッドでズドン。5バックの超守備的な磐田のゴールをこじあけた。終了のホイッスルの5秒前。鹿島イレブンは優勝したかのようにピッチに倒れ込み、幾重にも重なった。客席のスタンディングオベーションに、岩政はガッツポーズを繰り返した。
昨年はDFとして、Jタイ記録となる4戦連発を記録。しかし、今季はこれが2得点目。「少なくて周りからも(文句を)言われていた。少し報われたかな」と振り返る。プロ初ゴールは04年の磐田戦のロスタイムだけに「実はちょっと予想していました」と、はにかんだ。
3月のゼロックス・スーパー杯で退場処分になり、開幕戦は欠場したが、残り32試合はフル出場。チームの要として引っ張ってきた。数学の教員免許を持つ知性派で、オリベイラ監督は「ボクのアイデアに上積みをプラスできる選手」と評価する。若手選手にはズバリ問題点を指摘する“先生役”も務めている。
劇的な勝利に、指揮官も興奮しきりだ。ホーム最終戦のためマイクの前に立つと、あふれる感情が爆発。泣きながら絶叫した。「もう1度タイトルを取れるように、がんばります!!」。高井通訳も、声を震わせて絶叫した。
「まだ優勝したわけじゃない。次にむけてスタートしたい」と岩政は冷静だが、札幌戦に勝てば文句なしで2連覇が決まる。黄金時代の復活へ、波に乗った王者をもう誰も止められない。(峯岸弘行)
鹿島あと1勝!ホーム最終戦で劇的な逆転劇
後半44分、ゴールをきめた鹿島・岩政(中)はガックリの中山(左)ら磐田イレブンの横で喜び爆発
Photo By スポニチ
【鹿島1―0磐田】鹿島が連覇にあと1勝と迫った。J1第33節第1日は29日に6試合を行い、鹿島はホームで磐田と対戦し1―0で白星を飾った。DF岩政大樹(26)が後半ロスタイムに起死回生のゴールを決め激闘に終止符を打った。今季のホーム最終戦を劇的な勝利で飾り、連覇に王手。3位以内確定で来季ACL出場も決定した。12月6日の札幌との最終戦に勝てば、無条件で2年連続6回目の優勝が決まる。
劇的なドラマは最後の最後に待っていた。後半のロスタイム4分はすでに経過。まさに最後の1プレーだった。1点が欲しい鹿島は左コーナーフラッグ付近で反則を誘い、FKを得た。磐田の選手が陣形を整える前に素早く蹴った増田のFKに岩政が得意の頭で合わせると、ボールは磐田のGK川口の脇を抜けてゴールネットに突き刺さった。その直後に試合が終了。ベンチ前には歓喜の輪が広がり、スタンドは総立ちに。ゴール裏のサポーター席に向かって走りだしたオリヴェイラ監督の目からはすでに大粒の涙があふれ出ていた。殊勲の岩政も「頭が真っ白になった」と興奮で声を震わせた。
みんなの気持ちが乗り移ったゴールでもあった。試合前のロッカールームにはこの日、見慣れない光景があった。普段は私服でスタジアムにやって来るベンチ外メンバーたちも、ユニホームに身を包んでいた。「一つになるぞ!」。スタッフを含めたチーム全体での円陣。小笠原の離脱以来ゲームキャプテンとしてチームを引っ張るDF新井場の怒号が響き渡った。
実は、小笠原が午前中にクラブハウスでリハビリを終えたあと、ホペイロ(用具係)の増川氏にこう頼んでいた。「全員のユニホームを包んでくださいよ」。故障でピッチに立てない小笠原主将の粋な計らい。これでチームの闘争心は最高潮に達し、キックオフから気合のこもったプレーを展開した。その気持ちをゴールという最高の形で体現した岩政も「きょうのゴールは、サポーターを含めたみんなの気持ちがこもったゴールだった」と感激の声を上げた。
岩政自身にとっても大きな得点だった。2月の日本代表の東アジア選手権で左足首を負傷。それ以来、左足首の原因不明の痛みに悩まされ続けている。その影響で昨季6ゴールを叩き出した得点は激減。周囲からは「ゴール数が去年より少ない」と言われることも少なくなかった。それだけに、貴重な今季2点目に「数が減った分、貴重な点を取りたいと思っていた。それがこの重要な試合で生まれて、今までの苦しみが報われた」と笑みを浮かべた。
チームはこれで連覇に大きく前進。「優勝しないときょうのゴールも意味がなくなる。優勝を決めて帰ってきたい」と岩政。劇的な勝利を飾ったチームの勢いは、もう誰にも止められない。
[ 2008年11月30日 ]
鹿島V2決定的 ロスタイム!ラストプレー!岩政Vヘッド…J1第33節
後半44分、鹿島・岩政がFKからのボールをヘッドで押し込み決勝点を挙げ喜ぶ
◆J1第33節 鹿島1―0磐田(29日・カシマ) 鹿島がリーグ連覇に王手をかけた。後半ロスタイム、セットプレーからDF岩政大樹(26)がヘディングで決勝弾。8月16日東京V戦以来の今季2得点目で、磐田を1―0で下した。最終節の札幌戦(12月6日・札幌ド)で引き分け以上なら優勝が決まる。これで3位以内が確定。来季のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)出場権を獲得した。
連覇への執念がドラマを引き寄せた。ロスタイム4分が経過し、スコアレスドローがちらついたラストプレー。MF増田の左FKから、DF岩政が「これが最後」とファーサイドからゴールの混戦をかき分け、突進する。何度か相手DFのチャージを受けたが、よろけない。ゴール前正面からのヘディングシュートがゴール左隅のネットを揺らした。
計4度の決定機をものにできなかった89分間。そのうっぷんを晴らす決勝点に、瞬く間に1人、2人と人山が出来上がる。7人の下敷きとなったヒーローは「苦しいよ」とピッチを手のひらでたたくだけ。「大事なところでゴールを入れたかった」起き上がった岩政は、ほおに無数の芝をつけたまま、選手席へ向かって拳を突き上げた。
キックオフの2時間前からドラマは始まっていた。5キロほど離れたクラブハウスで、負傷離脱中の主将MF小笠原はリハビリを終え「試合に出ない選手の分のユニホームをスタジアムに運んでください」と、用具担当に依頼。スタジアム入りするとベンチ外選手12人を集め、試合直前のロッカールームへと向かった。
普段ならベンチ入りメンバーだけで行われる試合直前の出陣式。「何でいるのか、ビックリした」とMF青木。入ってきた12人が私服の上にユニホームを着て、円陣に加わったという。「これでモチベーションが高まらないなんてサッカー選手じゃない」とオリヴェイラ監督のゲキが飛ぶ。DF新井場が「一つになるぞ」と叫んだ。
「今日のゴールは試合に出られなかった人やいろんな人の気持ちが乗り移った得点だった」と、岩政は振り返る。プロ初得点は04年6月19日の磐田戦。そのときもロスタイムだった。「何かあるかもとは思っていたけど、本当に入るとはね。今も信じられない」
次節、札幌戦(12月6日、札幌ド)で勝てば、2位名古屋の結果にかかわらず1シーズン制では初めてのリーグ連覇が決まる。試合後、決勝点が飛び込んだゴール側の空に虹が浮かんだ。地元には鹿島連覇を確信する栄光へのアーチが架けられていた。
(2008年11月30日06時05分 スポーツ報知)
鹿島、連覇へ王手
2008/11/30(日) 本紙朝刊 地域 A版 14頁
岩政、劇的決勝ヘッド
Jリーグ1部(J1)第33節第一日は二十九日、各地で五試合があり、首位鹿島は後半ロスタイムにDF岩政がヘディングシュートを決め1―0で磐田を下し、連覇に大きく前進した。勝ち点差3で追う川崎も勝ったため、優勝は十二月六日の最終節へと持ち越されたが、鹿島は引き分けでも濃厚となった。
鹿島は前半からボールを支配、終始試合を優位に進めたが、なかなか得点を奪えなかった。後半も決定機をつくりながらシュートを外していたが、ロスタイムにMF増田のFKを岩政が頭でゴール左隅に押し込んだ。
この結果、優勝争いは鹿島、名古屋、川崎の三チームに絞られたが、鹿島は得失点差でも優位に立っており、最終節のアウェー札幌戦で負けない限り、二年連続六度目の優勝が決まる。
■鹿島 1-0 磐田
【評】鹿島は0-0の試合終了直前に増田の左FKを岩政が頭で決め、劇的な決勝点を挙げた。序盤の得点機を逃し、単調な攻めが続いたが、ラストチャンスを生かした。
【写真説明】
鹿島-磐田 後半ロスタイム、鹿島・岩政(右)がヘッドで合わせ決勝ゴールを決める=カシマスタジアム
ロスタイム、気持ち結集 鹿島
2008/11/30(日) 本紙朝刊 地域 A版 14頁
0―0で迎えた終盤。ロスタイムの4分をほぼ経過し、サポーターの目の前で最後のFKを得た。勝利を願うサポーターのボルテージは最高潮。そのエネルギーを力にしてボールに飛び込んだのは鹿島の闘将、DF岩政大樹だった。普段は冷静な男が「興奮してます。まだ信じられない」と振り返った満身のヘディングシュートがネットを揺らし、スタジアムは歓喜に沸いた。
チーム、サポーターの思いが詰まったゴールだった。試合前のロッカールームには、ベンチ外の選手のユニホームも用意されていた。ホーム最終戦を全員で戦う。全員で円陣を組んで気合を入れ、気持ちを受けてピッチに立った選手らは、苦戦の中でも勝利を信じて疑わなかった。
その気持ちが結集した最後のFK。「田代のマークをブロックしようと思っていたが、ボールが僕のほうにきたので」と振り返った岩政。「決めたのは僕だが、青木にはニアでつぶれてくれるように願っていた。みんながいろいろなことをして生まれたゴール」とチーム力を強調。サポーターにも「みなさんの気持ちが乗り移って入った」と感謝した。
岩政自身、苦しいシーズンだった。2月に代表の東アジア選手権で左足首を痛め、その後も痛みが引かなかった。それでも「けがは誰でも抱えている」と弱音を吐くことなくピッチに立ち続けた。「1年間もどかしい部分があった。ゴール数も少ないと言われていたし、いいところで取りたいと思っていたので良かった」と口元を緩めた。
優勝に王手。「きょうのゴールがしっかりとした意味を持つようにしたい」と語る表情は自信があふれていた。この勢いを最終戦の北の大地に持ち込み、栄冠を勝ち取るつもりだ。
増田、岩政の決勝点演出
2008/11/30(日) 本紙朝刊
MF増田誓志が後半38分、MF中後雅喜に代わって出場。ロスタイムに見事なFKで、DF岩政大樹のヘディングシュートを演出した。
4分間のロスタイムも、いつ終了の笛が吹かれても不思議でない時間に、FWマルキーニョスが倒されFKを得た。増田はキーパーの位置を確認しながら「岩政さんが飛び込んできてくれたらうれしい」という位置を目掛け、けり込んだ。このボールに岩政がきっちりと反応。ゴールを確認すると「ベストのところにけれた」と胸を張った。
試合後、増田は今季のこれまでを「全然チームに貢献できていない」と振り返ったが、ワンチャンスとは言え、しっかりアシストできたことに多少ほっとした様子。最終節札幌戦に向け「苦しい時こそベンチが助けなければいけない。『お前が出て良かった』と言われるよう頑張りたい」と気合を入れ直した。
オリベイラ監督 「素晴らしい試練だ」
2008/11/30(日) 本紙朝刊 スポーツ A版 5頁
「去年は感動的な優勝をすることができた。今年はもっと苦しい状況を乗り越え、タイトルを手にできるかもしれない。これは神が鹿島に与えた素晴らしい試練だ」。ホーム最終戦を劇的な勝利で飾った直後、目に涙をためたオズワルド・オリベイラ監督からサポーターに向けて、フライング気味の優勝宣言が飛び出した。
「選手には『しっかりやってくれ』と言っただけ。そして、しっかりやってくれた」と特別な指示は出さなかった。「心臓には悪かった。でも、チャンスはでき、決めるのを信じていた」。決勝点が入った瞬間は、ベンチ前で喜びを爆発させた。
試合終了と同時に、カシマスタジアムの北に虹がかかった。キリスト教で虹は「神との契約」を意味し、日本でも縁起の良いものとして信じられている。くしくも最終戦は虹の先にある大地。指揮官の目にも連覇が見えたはずだ。
【写真説明】
力強くあいさつするオリベイラ監督=カシマスタジアム
劇的岩政弾か優勝王手かといったところに小笠原の粋なはからいが報じられておる。
ロッカールームでこんな一幕があったとは驚きである。
まさにチームが一つとなったと言えよう。