無知の知

ほたるぶくろの日記

炎症反応について

2010-07-10 00:05:50 | 生命科学
最近炎症が注目されています。先日、鉄のフェントン反応が発がんを促進しているらしい、ということを書きました。C型肝炎などで慢性的な炎症反応があり、赤血球が分解され、鉄を含んだヘモジデリンが沈着します。そこでフェントン反応がおこり、発がんの引き金をひくことになっているようです。瀉血療法(血液を抜く治療)が効果するという知見が得られていますし、また実験的にも証明されつつあります。

またクローン病などの自己免疫疾患も基礎にはウイルスや細菌の感染、炎症反応があることがわかってきています。抗生物質などがある程度の効果を見せることなどもわかっており、最近の論文ではノロウイルスの感染もクローン病発症の一因であるかもしれないという報告がされていました。最近話題のリウマチの薬エンブレルも抗サイトカイン(抗TNFα製剤)ですが、劇的に効く方がおおいようです。これも炎症反応を抑制することが目的です。

また、消化管腫瘍におけるアスピリンの抗腫瘍効果も目覚ましいものがあります。実際、私の職場でも炎症反応を促進してやりますと腫瘍数、腫瘍径ともに増大することがわかっておりますし、逆に炎症反応を抑制する遺伝的要素を組み込んでやりますと、腫瘍は激減します。

ところで炎症とはなんでしょうか?これもまた、免疫系の働きです。本来は外来性の異物を排除するための防御反応なのですが、それが過剰に発揮されたり、制御が不十分であったりすることで自己免疫疾患がおきたり、がんを発症させたりするのです。

先日亡くなられた多田富雄先生も強調されていたように免疫系とはネットワークです。沢山の免疫担当細胞が絶妙のバランスをとりながら維持しているシステムです。下手にいじることによって決定的にバランスを崩す危険があり、治療には細心の注意が必要です。現代の医学はそのバランスをなんとか自己治癒能力が発揮されるところまで支えてやることを目標にし始めています。がんにもその考え方は次第に応用されるようになっていくことと思います。

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