池井戸 潤/講談社文庫
この本も面白かった。
ある運送会社の運転するトレーラーのタイヤが外れて歩行中の母子を直撃、母親は死亡。運送会社の整備不良が原因とされたが、自動車会社のリコール隠しが本来の原因であり・・・そこに融資をしている銀行内での勢力争いも絡み・・・・。
池井戸氏の作品はおおよそ勧善懲悪であるから、最初の4分の1くらいで、大筋の結末がわかるのであるが、それが分かっていても面白く、幾多の困難が降りかかってきて、簡単には終わらせてくれない。捨てる神あれば拾う神ありで、読者側も一条の光明にすがって、救いを求める。
文庫本2冊にわたる大作だが、これを半分の1冊で終わらせてしまうことは可能だと思われるのだが、そこは大筋の中に細かい話を何話か挿入して、主人公がどんどん追い込まれつつも、1つ1つ解決していく姿を読者に見せる。こうすることで、ストーリーを引き伸ばしても読者を飽きさせず、小話が1つ解決することに読者は勇気を与えられるという素晴らしい構成になっている。
もう一つ素晴らしいのは、ハブだのプロペラシャフトだの、自動車の専門用語がたくさん出てくるが、自動車のことをほとんど知らないペーパードライバーな私でも、ちゃんと楽しめる話になっている。専門用語がたくさん出てきても、読書が迷子にならないように、よく考えて構成しているのだろう。ちゃんと説明するがくどくならないようにしており、そういう絶妙な匙加減とかバランスとかがとても良いのだ。世間知らずの私も、楽しみながら勉強することができる点がとてもありがたいと思っている。