ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ゼレール作「父」

2019-03-22 00:02:31 | 芝居
2月22日東京芸術劇場シアターイーストで、フロリアン・ゼレール作「Le Pere 父」を見た(演出:ラディスラス・ショラー)。

80歳のアンドレ(橋爪功)が一人で暮らすアパルトマンに娘のアンヌ(若村麻由美)がやって来た。若い看護師が泣きながら電話してきたため駆けつけた
のだが、アンドレは、一人でやっていけるから誰の助けも必要ないと言う。今はどこにいるのか?どちらが真実でどちらが幻想なのか?
アルツハイマーの症状が出始めた自分の変化に困惑する父と戸惑う娘。その驚くほど無防備な愛の残酷さと忍耐の限界をユーモラスに描いた本作は、
現代版「リア王」とも呼ばれ、混迷した父の視点で観客が物語を体験していくという斬新な手法で描かれた哀しい喜劇(チラシより)。

2012年パリ初演。フランス演劇賞最高位のモリエール賞 最優秀脚本賞受賞。ゼレールの最高傑作。30か国以上の上演で絶賛され、待望の日本初演の由。

舞台は、始め、狭い部屋。テーブル1つに椅子が何脚か。場面が変わるたびに、それがほんの少しずつ変わっていく。キッチンの位置が右奥に移動。
左奥に別の部屋への入り口が現れる。ラストではかなり広い部屋になり、施設らしくベッドが1つ置かれ、すべて白で統一されている。

人物が少しずつ入れ替わるミステリーじみた展開に戸惑う内に、観客は、この芝居が、アンドレから見た世界だということが分かってくる。

アンヌは道理の分からなくなった老父に振り回されながらも、決して逃げ出さず、できる限り父のために尽くそうとする。そのために自分の生活を犠牲に
することも厭わない。それが印象的。フランス人というと、何となく、もっとドライかという気がしていたが。
しかも父は、彼女の目の前で、妹のエリーズの方が可愛い、あの子はわしのお気に入りだ、天使だ、と口癖のように言うのだ。アンヌはその仕打ちにじっと耐えている。
日本でもこれほど我慢強い、親孝行な娘は珍しいのではないだろうか。
そんな娘を恋人に持つ男(今井朋彦)が、ついに切れてしまうのも無理はないかも知れない。
他に吉見一豊、太田緑ロランス、壮一帆が共演。

ゼレールの「真実」という芝居を、昨年2月に文学座公演で見た。
4人の登場人物の言うことがそれぞれ食い違い、どれが真実なのかを観客は探り当てて行かねばならない。
そういう意味では、今回の作品ともつながるテーマだ。

この作品は、よい演劇とは何かを教えてくれる。
すべてを語らず、あとは観客の想像力に委ねること、それが肝要なのだ。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする