ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「叔母との旅」

2010-09-28 14:35:23 | 芝居
9月16日青山円形劇場で、グレアム・グリーン作「叔母との旅」を観た(演出:松村武)。

ヘンリーは50代の独身男。銀行を早期退職し、庭のダリアの世話をする静かな暮らしが、母親の葬儀で叔母オーガスタに会ったことから、思いも寄らぬ日々が始まる。

グレアム・グリーンの同名小説をジャイルズ・ハヴァガルという人が劇化した作品の由。

青山円形劇場というのは文字通り円形で、360度を客席に囲まれている。これほど恐ろしい舞台があるだろうかと、いつも役者さんたちの度胸に感心してしまう。

一枚の写真からヒントが生まれ、疑いが生まれる。骨壷には日本では遺骨だが西洋では「遺灰」を入れるらしい。従って大きさもうんと小さい。

衣裳もメイクも変えずに男女20人を超える役を4人で演じる。リアリズムでない芝居は苦手だと公言してきた筆者はこれを聞いて少しがっかりしたが、蓋を開けてみると意外にも、心をがっしりとわしづかみにされるほど魅了された。この軽快さ。緻密に練り上げられた構成。
段田安則、高橋克実、浅野和之のベテラン俳優たちが心地よさを味わわせてくれた。
鈴木浩介も、スペイン語をよく練習していて好印象。

一糸まとわぬ、もとい、一糸乱れぬ息の合ったチームワークを堪能できた。







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文学座「トロイアの女たち」

2010-09-21 14:40:31 | 芝居
9月9日文学座アトリエで、エウリピデス作「トロイアの女たち」を観た(演出;松本祐子)。

狭い文学座アトリエの中央に舞台を、その両側に客席をしつらえてある。舞台の床はペンキで赤く塗りたくられている。椅子が何脚か、その陰に酒瓶が倒れ、グラスや子供靴が落ちている・・すべて血塗られたように赤ペンキでべったり(美術:乗峯雅寛)。
アコーディオンの生演奏。時々役者たちの歌(曲も歌唱もあまりよくない)。

冒頭、戦争前の幸せな時代と、ギリシャ軍の攻撃、そして惨めな敗北と女たちに襲いかかる残酷な運命を、早い展開で見事に表わす。

衣裳はほとんどの人が黒一色。デザインは様々。ヘレネは真紅。カッサンドラは白(ただしあちこち汚れている)。

ヘカベ役の倉野章子は気品があり、滅び行くトロイの悲劇の王妃にふさわしい。
カッサンドラ役の吉野実紗は熱演だが、健康的で丈夫そうで、どう見ても悲劇の女予言者には見えない。
アンドロマケ役の塩田朋子は初めて見たがうまい。

原作の作劇術のうまさに改めて感心した。王妃ヘカベ、王女カッサンドラ、嫁アンドロマケが順に登場し、戦争に負けた祖国と己の運命を嘆き悲しみ、当然の流れとして、この戦争の原因である一人の女、敵国の女にして今は嫁の立場にある罪の女ヘレネへの憎しみを語る。そこに寝取られ亭主、ギリシャのメネラオスが妻ヘレネを連れ戻すべくやって来る。そしていよいよご本人登場。
絶世の美女は傲然とこうべを上げて「悪いのは私ではない」とすべてを他者のせいにする。曰く、自分を「拉致」した王子パリス、彼を生んだ姑ヘカベ、果ては女神アフロディテにまで罪を着せて言い逃れをはかる。一人だけ真紅のドレスを身にまとい、ひたすら自分の保身を図るこの女は、他の女たちと違って、この長い戦争で誰も肉親に死なれていない。他の女たちは夫を息子を殺され、娘を犯され自殺に追いやられたというのに。
今またこの女は、処刑を逃れようとかつての夫メネラオスに対して手練手管を用い、男も彼女の魅力に易々と懐柔されてしまう。舞台にはこの女に対する憎しみが渦巻く。

ところで、私にとってヘカベは何よりもヘキュバ・・・ハムレットのセリフにある「ヘキュバはあの男にとって何だ、あの男はヘキュバの何なんだ」のヘキュバだったので、今回これが「あの」ヘキュバか、と感慨深かった。ちょっと順番が違うけど。

全体に少しセリフを削った方がいいかも知れない。気短な現代人には繰り返しが多過ぎて、感情の波が続かない。


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「ハーパー・リーガン」

2010-09-14 17:30:03 | 芝居
9月6日パルコ劇場で、サイモン・スティーヴンス作「ハーパー・リーガン」を観た(演出:長塚圭史)。(ネタバレあります)

作者は現代イギリスの劇作家らしい。「ライス国務長官」という一語で時代が分かる。
11人の人物を7人の役者が演じ分ける。
ハーパーという変わった名前を持つ女性。失業中の夫と17歳の娘を抱え、会社員として働いているが、故郷の父が糖尿病で危篤という知らせを聞く。休暇を願い出るが、会社のボスは、この忙しい時に、とにべもない。悩んだ挙句、クビを覚悟で衝動的に飛行機に乗ってしまうハーパー。しかし父の容態は急変し・・・。

彼女の夫は数年前、少女の裸を撮影した罪に問われ、そのために失職。彼女らはその町に居づらくなり引っ越してきたのだった。

少しずつ嘘や誤解がはがれ、真相が見えてくる。彼女自身、夫は無実だと主張していたが、実は信じていたわけではなかった。父は長年彼女のヒーローだったが、父の死後、嫌っていた母の話をいやいや聞いてみると、父はどうも思っていたようなイメージの人ではなかったらしいことが分かってくる。だが「いやな奴」という言い方は解せない。ごく普通の父親のように思えるが・・。

一番分からないのは酒場で会った男ミッキーに対するハーパーの振舞い。彼女は突然グラスを彼の顔に叩きつけてケガをさせ、借りていたジャンパーを着たまま立ち去る。オイオイ、何があったにせよ泥棒はいかんぜよ。「そうされるだけのことをした」と彼女は言うが、これもさっぱりだ。

次に分からないのはラスト。それまで舞台中央にデンとあった灰色の分厚い重苦しい壁が突如上空に取り払われ、まぶしくも美しい緑の庭が現れる(美術:松井るみ)。時は朝の8時。ハーパーは秋植え球根を植えている。夫が起きてくると、彼女は朝食を勧めながら、行きずりの男との情事を告げる。決して「告白」ではなく、むしろ「よい」思い出として語るのだ。何??一度夫を裏切ったことで「復讐」できて、ふっ切れたのか?
そこに娘が起きてくると、夫は10年後の夢を語り出し、妻も何やら話すが、まるでかみ合っていない。娘は目をパチクリだ。
これは一体何なのか。形だけの平穏?そもそもハーパーは解雇されなかったのだろうか。

台本(原作)は傑作とは言い難いが、役者、特に娘サラ役の美波がうまい。張りのある声はよく通るし、切れのいい演技で思春期の女の子をくっきりと鮮やかに描き出す。

松井るみの美術もいつもながら素晴しい。







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トマ作「ダブル」

2010-09-04 16:44:59 | 芝居
8月26日ル・テアトル銀座で、ロベール・トマ作「ダブル」を観た(演出・上演台本:G 2)。

結婚して半年のフランソワーズには伯父から相続した莫大な財産がある。夫リシャールはそれをいいことに酒と賭博に溺れ、その借金返済のために、暴力でもって彼女に小切手を切らせる。そんな生活に嫌気が差し、彼女が離婚を考えている時、家政婦ルイーズの恋人がリシャールと瓜二つの弟ミシェルであることを知り、彼を替え玉にして離婚の手続きを済ませてしまおうと思いつく。だがミシェルは兄と違って大変な臆病者で・・・。

顔は瓜二つだが性格は正反対の兄弟を一人で演じる。これほど役者冥利に尽きる仕事があるだろうか(この作品ではもうひとひねりしてあるが)。その二役、夫リシャールとその弟ミシェルを橋本さとしが好演する。

台本(G 2)が面白い。仏という字についてのセリフなど自在な筆で笑わせてくれる。

妻フランソワーズ役の中越典子は美しく、策士に見えて実はあまり嘘が上手くない女を熱演するが、如何せん、ラストは貫禄不足だった。

演出について一言。ラストでヒロインの告白を聞いた3人は驚愕するはずなのに、それを全く表現させないのはどういうつもりなのだろう。陳腐を避けたかったのか。それとも雷に打たれたように凍りついていたのか。でも不自然だ。

実は、ヒロインの一番最後のセリフを聞いた途端、閃いたことがある。すっかり忘れていたけど、この芝居をずっと昔テレビで観たことがあった!主演は草笛光子。ただし思い出せるのはそこまで・・・。嗚呼・・。

トマらしく、最後に大きなどんでん返しが待っている。そして観終わった後はすっきり爽やか。ただ途中から終わる直前まで、実に心臓に悪い。フランスのヒッチコックと言われるだけあってハラハラドキドキ、かなり疲れた。

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