11月22日、池袋サンシャイン劇場で、グレアム・グリーン原作、ジャイルズ・ハヴァガル脚色の「叔母との旅」を見た(加藤健一事務所公演、演出:鵜山仁)。
2年前、勤めていた銀行を53歳で早期退職、庭のダリアをいじるだけの平穏な暮らし、それがヘンリーの日常。父は40年前に他界、86歳で亡くなった母の
葬儀で、母の妹であるオーガスタ叔母さんに再会。年齢や常識にとらわれないエキセントリックな叔母から出てくる話はどこか怪しくて・・・。思いがけず一緒に
行くことになった旅先で、スーツケースに金塊は入ってるし、ホテルに警察は乗り込んでくるし、関わる男は指名手配犯?おまけに留置場まで体験してしまった。
叔母に巻き込まれたスリリングな日々は、これまで静かに暮らしてきた男の本能を刺激し始める。人生に、今更スタートできないものなんて無いのかもしれない
(チラシより)。
その初日を見た。
この芝居は、2010年に青山円形劇場で見たことがある(演出:松村武)。
役者は段田安則、高橋克実、浅野和之、鈴木浩介の4人。狭い舞台でほとんど何の装置もなかったが、緻密に練り上げられた構成、ベテラン俳優たちの軽快な演技、
工夫を凝らした演出で、非常に面白かった。
今回も、男優4人が入れ替わりで主役のヘンリーに扮するなど、計24人を演じ分ける。
この日は初日のせいか、セリフをとちったりする残念な場面もあった。
3人の役者が目まぐるしく交代で主役ヘンリーを演じるというやり方は面白いが、時として、芝居の輪郭を分かりにくくしているようにも思えた。
ヘンリーは叔母に誘われ、ブライトン、パリ、そして何とオリエント急行でイスタンブールへまで旅行する。そしてそこでも怪しい男と出会うことになる。
彼は母の遺灰(日本だと遺骨だけど、西洋だから少量の遺灰だ)を麻薬とすり替えられたらしく、麻薬所持の容疑で警察に追われる身となり、とうとう捕まって
留置場に入れられる。だがその場面で、ヘンリー役の男が3人一緒に入れられるので、実に奇妙だ。とんだ災難なのに、3人もいると仲間が一緒みたいで
恐怖とか孤独とか追い詰められた感が伝わって来ない。
ヘンリーの趣味と言えば、庭でダリアを育てることだけ。文字通りの草食系だ。彼に好意を寄せているらしい女性がいるというのに何も行動に移さない。
その彼が、破天荒な叔母と出会ったために、それまでと打って変わった日々に突入する、という典型的な巻き込まれ型の芝居だ。
だが、そこに少しずつ明らかになって来ることがある。つまり謎解きの要素もある。たまにチラッと出て来るヒントから、必ずしもくっきりと明確にではないが、
ヘンリーの実の母が誰だったかがおぼろげに見えてくるのだ。
それが観客の興味と想像力を搔き立てて止まない。
だが彼自身の口から、そのことについての言及は、最後までない。そこが風変わりでもあり、ちょっと予想を裏切っていて面白い。
イギリス人気質ということなのかも知れない。
今回、叔母などを演じた加藤健一の味のある演技は期待通り。
そして清水明彦、天宮良といった芸達者な役者たちのお陰で楽しいひと時を過ごすことができた。