ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「パートタイマー・秋子」

2024-01-23 22:42:47 | 芝居
1月16日東京芸術劇場シアターウエストで、永井愛作・演出「パートタイマー・秋子」を見た(二兎社公演)。



夫が失業し、スーパー「フレッシュかねだ」でパートを始めたセレブな主婦・秋子。
しかし、そこは想像を超えたディストピアだった・・・(チラシより)。
2003年に書かれた作品を、作者自身が初演出。
ネタバレあります注意!

秋子(沢口靖子)は会社部長の妻で、ずっと専業主婦だったが、夫の会社が倒産したため、働かざるを得ず、スーパーのレジ係に採用される。
だが他の店員たちは驚く。新店長(亀田佳明)は、人が多いので、むしろ減らそうと言っていたらしい、しかも特にレジ係を。
品出し担当の貫井(生瀬勝久)は大手住宅メーカーの部長だったが、リストラに合い、ここに来た。
秋子は成城からわざわざ1時間半かけて通勤。近所の人には友人のアンティークの店を手伝っている、と言って。
貫井は田園調布に住む。秋子の家は、貫井の会社が設計したものだった。
二人は似た境遇のため急速に親しくなる。
貫井は品出しなので、店員たちが店の品をレジを通さずにくすねているのを知っている。
秋子が驚いて店長に告げようと言うが、貫井は、今店長に言ってもどうにもならない、と止める。
店長は、今月を万引き防止強化月間とする。
そんな時、万引きした男(石井愃一)が連れて来られてひと騒動・・・。
精肉担当の若い男(田中亨)が辞め、店長は秋子に、代わりに精肉担当になってくれと言う。
この店では肉を「リパック」、つまり賞味期限を書いたシールを貼り換えることを常習的に行っていた。
それが精肉担当の仕事だと聞いて秋子は驚くが、店長に説得される・・。
<2幕>
幕が開くと、いきなり店長、貫井、秋子、惣菜担当の窪寺(稲村梓)が他の店員たちの前で歌い出す。
「赤っ恥セール」のテーマソングだ。
それぞれ頭にニワトリ、牛、豚などの小さなかぶりものをつけ、赤い法被を着ている。
これは貫井のアイディアを店長が採用したものだった。
春日(土井ケイト)ら他の店員たちは呆れ、こんなの絶対嫌だ、協力しない、と出ていく。
次の場面で春日は、本社に出す直訴状を仲間たちに読んで聞かせる。
「セールは失敗に終わった・・・」という文面だが、実はこの日は、まだ初日だった。
これがおかしい。
夏の盛りの炎天下、店長と貫井はビラ配り。
途中で貫井がいなくなる。
店長が店に戻ると、店員たちが来て、かぶりものをゴミ箱に捨て、赤い法被も置いて出ていく。
がっくりきた店長は、副店長に「特別な提案」がある、と持ち掛けるが・・・。

こうして書いていくとキリがないが、結局、ここを去ることになる人、居残る人、とそれぞれの人生が交錯する。
始めは純真だった秋子も、この環境で日々過ごすうちに、次第に悪に染まってゆく。
貫井が去る時、彼女は自分のロッカーから、肉のパックをいくつも入れたレジ袋を取り出して、渡そうとする。
不審に思った貫井は「レシートある?」と尋ねる。
すると彼女はいろいろ言ってごまかすが、しばらくたってから詰問するような強い口調で「どうして『レシートある?』って聞いたの?」と尋ねる。
こんな場合、彼女はどうしてそんな強い態度に出ることができるだろうか。
そこはもっとうまく演じてくれないと困る。
危うく「この人シロか」と思ってしまった。
演出家も、ここは大事なところなのだから、しっかり演技指導してほしい。

店長役の亀田佳明と貫井役の生瀬勝久が脇をガッチリ固めているので、骨格がしっかりしている。
生瀬勝久のヨーデルが思いがけずうまくて楽しい。
主演の沢口靖子は、作者が「お嬢さんのまま奥様になって、でも真面目で」と言う通り、この役にピッタリ。
ただ、先ほど書いたラストの違和感の他にも、常に同じ力の入れ具合でセリフを口にするのは考えもの。
もっとサラッと言うべき箇所もあるということ。
メリハリが肝心です。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2023年の芝居を回顧して

2024-01-13 23:15:35 | 回顧
今日は、昨年の観劇のまとめをしたいと思います。
2023年には31コの芝居を見ました。
その中から厳選に厳選して、11コにまで絞り込んだのが以下のものです。
例年通り、見た順に挙げていきます。 
カッコ内は、特に光っていた役者さんです。




  
「対話」         D. ウィリアムソン作        俳優座公演   演出:森一          俳優座スタジオ   
          ※ 文化圏の違いを強く感じさせる戯曲。何より言葉への信頼が厚い。加害者側も被害者側も、みな実に辛抱強く会話する。
            その結果、新しい視座が開け、全員が、立場は違うが後悔と痛みを抱えていることが判明。それによって、忌まわしい事件による
            各自の心の痛みが少しずつ癒されてゆく!役者が皆さん素晴らしい。やはり俳優座のレベルは高い。       

「聖なる炎」       S. モーム作            演出:小笠原響      俳優座劇場
          ※ 非常によくできた戯曲。謎解きの要素もある。役者がみなうまいので、気持ち良くもらい泣きできた。

「ペリクリーズ」     シェイクスピア作    演劇集団円公演    演出:中屋敷法仁     シアターχ     翻訳:安西徹雄
          ※ 演出には違和感があったが、役者たちがみなうまい!さすが演劇集団円。
   
「金閣炎上」      水上勉作         劇団青年座公演    演出:宮田慶子    紀伊國屋ホール (魏涼子・石井淳・横堀悦夫)
          ※ 演出、役者陣、音楽、すべてよかった。三島由紀夫の「金閣寺」とはまた違った描き方が非常に興味深い。

「新ハムレット」     太宰治作           演出:五戸真理恵    パルコ劇場    (池田成志・木村達成)
          ※ 実に面白い。以前読んだ時はシェイクスピアの傑作を妊娠小説に変えたのを苦々しく思ったが、今回、太宰治を見直すきっかけを作ってくれた。

「桜の園」        チェーホフ作       ショーン・ホームズ演出      パルコ劇場 (八嶋智人・松尾貴史)
          ※ 評判通り、斬新な演出だった。ロパーヒン役の八嶋智人が、お得意の軽い身のこなしで意外と好演。

「三人姉妹」     チェーホフ作      大河内直子演出       自由劇場 (上演台本:広田敦郎)  (保坂知寿・霧矢大夢・平体まひろ)
          ※ 実力派女優3人の競演は、期待通り素晴らしかった。これが決定版かも。

「My Boy Jack 」   デイヴィッド・ヘイグ作(原作:キップリング)    上村聡史演出   紀伊國屋サザンシアター (倉科カナ)
          ※ 忘れ難い舞台。役者がみな熱演。

「金夢島」      太陽劇団作       ムヌーシュキン演出      芸術劇場プレイハウス
          ※ フランス人ムヌーシュキンの主宰する劇団は、日本への愛、世界の文化への敬愛を伝えてくれる。観劇の喜びも、改めて感じさせる。

「検察側の証人」   アガサ・クリスティ作      高橋正徳演出        俳優座劇場        (采澤靖起)
          ※ 文句なしの最高傑作。だが、あと20年位、見ない方がいいかも。筋を忘れた頃に、また驚きたい。
            だまされるのがこれほど快感だとは!人間って不思議なものだとつくづく思う。     

「終わりよければすべてよし」  シェイクスピア作    鵜山仁演出       新国立劇場中劇場  (中嶋朋子・亀田佳明・岡本健一)   
            ※ マイナーな戯曲が意外と面白いことがわかった。

*** *** ***

最優秀女優賞:倉科カナ(「My Boy Jack」 のエルシー役)
最優秀男優賞:池田成志(「新ハムレット」のポローニアス役)、采澤靖起(「検察側の証人」のレナード役)


昨年は、この他にも大勢の魅力的な役者さんたちと出会うことができました。
つたない文章を読んで下さった皆様にも、深く感謝申し上げます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
           



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする