ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「星ノ数ホド」

2015-01-26 16:37:29 | 芝居
12月6日新国立劇場小劇場で、ニック・ペイン作「星ノ数ホド」をみた(演出:小川絵梨子)。

この秋の2人芝居シリーズ3作品のラストとなるもの。日本初演。

物理学者マリアン(鈴木杏)と養蜂家ローランド(浦井健治)。
2人が出会ったのは雨のバーベキュー場。その時、彼には妻がいた。
あるいは、晴れた日のバーベキュー場で出会い、恋におちた。
いつしか別れてしまった二人が再会する時、ローランドは別の誰かと婚約していた。あるいは…。
あの日、違う受け答えをしていたら?あの日、2人の状況がまったく逆だったら?
さまざまなパターンを繰り返しながら物語は進行し、やがて2人に運命の日が訪れる…。

唯一のものに思える日々の裏には、実は数限りない別の可能性があるのではないか。誰もがぼんやりと考え、
けれど答えの出ない人生の大きな疑問。この作品ではその無数の可能性を、同じようでいながら少しずつ
変化する場面を連続して演じる、という一風変わった手法によって描く。(チラシより)

マリアンは量子力学における考え方である「多元宇宙」について恋人に熱心に語る。2人の会話が何度も
細部を変えつつ繰り返されるこの芝居は、実はこの概念を表しているらしいことが次第に分かってくる。

マリアンは、言葉が少しずつ出てこなくなる難病にかかる。そのため2人は時々手話を交えて話し合うようになる。
その手話のシーンが素晴らしい。特に鈴木杏。この人を今まで何度か見てきたが(「ムサシ」とか「るつぼ」とか)、
今回が一番よかった。昔は硬くて一本調子だったが、最近進境著しい。
浦井健治も好演。この2人は今後も楽しみな役者たちだ。

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オペラ「アイナダマール(涙の泉)」

2015-01-20 18:48:47 | オペラ
11月15日、日生劇場でオスバルド・ゴリホフ作曲のオペラ「アイナダマール(涙の泉)」をみた(指揮:広上淳一、演出:粟國淳、
オケ:読売日響)。

日本初演。アルゼンチン人作曲家がロルカを題材としたオペラの由。スペイン語上演。

全体が3つの情景から構成されている。物語は、ロルカ作品の主演女優でありロルカの親友でもあったマルガリータ・シングによって
ロルカが生きた最後の夏の出来事などが回想される形で描かれている。

タイトルはアラビア語で涙の泉という意味を持ち、スペイン南部の都市グラナダ近郊にある古代の泉の別名。詩人・劇作家フェデリコ・
ガルシア・ロルカは1936年夏、この泉の近くのオリーブ畑でファシストによって銃殺されたのだった。

演出がスタイリッシュ。

詩人ロルカの役を女性が歌い演じるのが興味深い。
歌手の独特の歌い方がエキゾチックで実に魅力的。
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M.パニッチ作「ご臨終」

2015-01-12 11:23:04 | 芝居
11月14日新国立劇場小劇場で、モーリス・パニッチ作「ご臨終」をみた(演出:ノゾエ征爾、翻訳:吉原豊司)。

作者はカナダの劇作家で、この作品は1995年初演の由。

一人暮らしの叔母から、何十年も音信不通だった甥のもとに「年齢(とし)だ、もうじき死ぬ」との手紙が届く。甥は取るものも取り敢えず、
銀行の仕事を辞めて大急ぎで駆けつけ、積極的に世話をし始めるが、叔母は打ち解けない様子で、ベッドで編み物をし続ける。
老婆の部屋で繰り広げられる1年以上にわたる二人の奇妙な共同生活。やがて新年を迎えた二人にある変化が…。

360度客席に囲まれた舞台。

観客はまず、元銀行員であるこの男の異様なセリフの数々に驚かされる。彼は、寝たきりの叔母の前で彼女の葬儀、臓器提供、遺言書等々の
話ばかりする。料理や洗濯などの世話をするが、一方で、まだかまだかとせかし、早く死んでほしいと思っていることを隠さない。

一方、叔母の方はかたくなに沈黙を守る。寝たきりだから動きもない。変化と言えば、目を開けるか閉じるか位だ。後半ほんの数語だけセリフ
があるが、こういう役は俳優にとって辛いだろう。

ちんば、びっこ、気違い等々の非PC語続出で、ドキドキさせられる。翻訳家は完全に開き直っている。

彼の不幸な生い立ちが次第に明らかになってくる。父母はいたが、彼は親の愛を知らない。この年になるまで誰にも愛されたことがなかった…。

季節は春から夏、秋、冬へと移ってゆく。彼は叔母が手っ取り早く死にたくなった時のためにと、装置を作ってクリスマスプレゼントにする。
枕元に据え付けたそれは、電気ショック用と、頭に一撃を与える用と、2つのレバーがあったが…。
女性が編み続けている赤い毛糸の編み物がだんだん長くなってくる。町はクリスマスを迎える。

ある時、彼女に背中をそっと触られると彼はびっくりして飛び退いて言う「ああ、親愛の情ってやつね。略して愛情。でも僕、お返しの
仕方を知らないんだ…。現ナマでどう?」
こうして二人はぎこちないながらも少しずつ距離を縮めてゆくが、しまいに驚くべきどんでん返しが待っている。

すべて芝居には謎解きの側面があり、それが次第に明かされてゆくところに快感がある。この芝居などまさにそれだ。そして観客は、登場
人物の内面的な大変化を目の当たりにする。
人と人との関係。(今では口にしにくくなってしまったが)絆。希望。それらがあればこそ人間らしく生きていけるということを、この
作品はしみじみと教えてくれる。ツッコミどころがない訳ではないが。

演出がいい。
音楽もいい。
翻訳もいい。彼の決定的な問いに対する彼女の返事「うん」には参った。座布団3枚だ。

老婆役の江波杏子は「天守物語」が印象的だったが、今回がらりと変わって、この難役を引き受け、忘れがたい印象を残した。途中、少し
元気になった彼女がピンクの帽子をかぶり、ピンクの服を着て外出しようとするシーンがあるが、その時の彼女の美しさはたとえようもない。
甥役の温水洋一はまさに適役。このキャスティングを思いついた段階で、この公演は半ば成功したようなものだ。

「異色の辛口コメディ」とチラシにある通り、不思議な味わいのユニークな作品だ。


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