ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

アーサー・ミラー作「るつぼ」

2019-03-18 22:17:34 | 芝居
2月12日新国立劇場小劇場で、アーサー・ミラー作「るつぼ」を見た(演出:宮田慶子)。
新国立劇場演劇研修所修了公演。

1692年、米国マサチューセッツ州、清教徒の町セイレム。夜の森で、裸で踊る少女たちが目撃される。その一人アビゲイルが、かつて不倫関係にあった農夫
プロクターの妻を呪い殺すための儀式だった。一人の少女が原因不明の昏睡状態に陥り、「魔女の仕業だ」という噂が駆け巡る。アビゲイルたちは自分たちの
したことを隠すため、無実の村人たちを次々に魔女だと告発する。次第に聖女として扱われるようになったアビゲイルは、ついにプロクターの妻も魔女として
告発する・・・。

この作品は、かつてここの中劇場で、同じ演出家による上演を見たことがあったが、会場の大きさが全然違うので、印象もだいぶ違う。
ここくらい小さい方が、この芝居には合っているかも。
あの時は、池内博之と鈴木杏の共演で、評者は原作を知らずに臨んだこともあり、異常なほどの迫力に圧倒された。

主役プロクターは3人の子供のうち末の子に、まだ洗礼を受けさせていない。今の牧師の説教に疑問と不満があり、彼に自分の子供の頭に手を置いて
ほしくないからだ。今の牧師になってから、月に1回しか礼拝に出ない、日曜日に畑仕事をする、など、模範的なクリスチャンとは言い難く、彼の「敵」に
つけ入るスキを与える材料をいくつも抱えている。
村には2つの派閥があり、牧師を支持する人々と、牧師に反発する人々との対立がある。

ジョン・プロクター役の河合隆汰は熱演だが、叫ぶことが多く、その際、言葉が少々聞き取りにくい。そして全体に、動き過ぎる。
エリザベス・プロクター役の人は、感情というものがまるでないかのようだ。病弱という設定には合っているようにも見えるが、重要な役なのにこのキャスティング
には疑問を感じた。
副総督役の西原やすあきは声に張りがあって素晴らしいが、波があり、時々言葉が小さ過ぎて聞こえないことがある。音を飲み込むように発声するからだと思う。
ぜひ自分の声を録音して、よく聞いてみてほしい。

村人たちの讃美歌の合唱は、中音域の音程がよくなくて、あまり快くない。

「人間らしい」という言葉を、ジョンもエリザベスも口にする。これがキーワードか。

何と言ってもこれは17世紀末の出来事。つまりフランス革命より100年くらい前のことなのだった。日本はまだ徳川時代前期。

なぜアビゲイルは「娼婦」と罵られるのか。別にそういう商売をしているわけではないのに。
それは(シェイクスピア時代の英国でもそうだったが)当時、夫以外の男性と関係した女のことをこう呼んだからだ。
だから、お金をもらったわけではないが、彼女はこの烙印を押され、村にいられなくなり、最後には逃亡したのだった。

演出家は、修了公演の演目をこの作品にしたのは「相当大きな決断」だった、と言う。
「人間の存在の大きさと小ささ、信じることと疑うこと、愛することと裏切ること、尊厳、自己喪失、罪悪感・・・極限状態の人間の真実と希望を描く
この戯曲の、崇高かつ底知れぬ恐ろしさ」のゆえに、「無謀この上ないことだと自覚」している、とも。
まったく同感だが、とにかく戯曲が素晴らしいので、役者にはうまい下手があったが、楽しむことができた。

アーサー・ミラーと言えば「セールスマンの死」が有名だが、評者に言わせれば、あんなもの、どこがいいのか、「るつぼ」の方がはるかに素晴らしいと
思う。

コメント
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