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ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「お気に召すまま」について Ⅱ

2025-08-21 18:10:47 | シェイクスピア論


これは1990年1月に銀座セゾン劇場で上演された「お気に召すまま」のチラシです。
台本・演出は石坂浩二、ロザリンド:原田美枝子、シーリア:藤吉久美子、前公爵:田中明夫、現公爵:勝部演之、オルラン(オーランド―):金田賢一、
オリヴァー:清水健太郎、タッチストーン:阿藤海・・という座組。
当時はブログ開始前だったので、残念ながら内容はよく覚えていないが、シーリア役の藤吉久美子さんが柔和で温かい雰囲気で、生き生きと演じていて
(この役自体もそうだが)魅力的だったのが印象に残っている。
これが、私が初めて見た「お気に召すまま」の舞台だった。

<オーランドーの出世物語>

戯曲「お気に召すまま」は、互いに一目惚れした若い男女が森で再会し、女性の方がたまたま男装しているのをいいことに、相手に正体を明かさぬまま
二人が恋についてさまざまに語り合うところに一番の面白味がある。
最後には、公爵の位を簒奪されていた父は、簒奪者の突然の改心により宮廷に帰還することになり、彼の娘ロザリンドは、晴れて愛するオーランドーと結ばれる。
ついでに(?)彼女のいとこシーリアも、オーランドーの兄(これまた改心する)と電撃結婚し、なんと二人について来た道化のタッチストーンも村娘と結婚、
男装したロザリンドに恋してしまった羊飼いの娘も、彼女が女だと分かると、諦めて自分を慕う青年と結婚と、総勢4組のカップルがめでたく結ばれる。
かなり強引でご都合主義なところがあるのは否めないが、喜劇だからいいでしょう。
明るくハッピーなお話だが、恋愛に関してかなり醒めている道化タッチストーンと、ラストで宮廷に戻る公爵らと別れ、森に残ることにする皮肉屋ジェイクイズ
の存在が効いているため、甘くなり過ぎていないところはさすがシェイクスピアだと思う。
ところで、オーランドーは貴族の家の出だが、ロザリンドとの結婚によって公爵家を継ぐことになる。
考えてみれば、これは大変な出世だ。
だから、この物語はオーランドーの出世物語だとも言われているらしい。

<自分の娘可愛さのあまり、目障りな娘を追放>
 
シーリアの父フレデリックは、公爵だった兄に対して謀反を起こし、その地位を奪う。
兄はアーデンの森に住み着くが、彼を慕う廷臣たち数名も、森に移り住む。
兄の娘ロザリンドはまだ幼かったため、自分の娘シーリアの遊び相手として、そのまま宮廷に留めていた。
だが父親と引き離されたロザリンドは周囲の同情を買い、さらに、成長するにつれ、その美貌と忍耐強さゆえに民衆の敬愛の的となる。
そうなると、父親としては面白くない。彼女のせいで、自分の娘がかすんでしまうと思った。
そのため彼は、ロザリンドを追放する。
彼女と大の仲良しのシーリアが必死に頼んでも聞かない。

フレデリック お前にはこいつのずるさが分からないのか、
       この人当たりのよさと黙って耐える我慢強さが
       世間の人々に訴え、同情を呼んでいるのだ。
       お前は馬鹿だ、こいつがお前の評判を横取りしているのだぞ、
       こいつがいなくなればお前は一層かがやき、お前の美徳も
       さらに際立ってくる。だから口をはさむな!
       こいつに下した俺の宣告は揺るがない、取り消しなど
       もってのほかだ、こいつは追放だ。
シーリア   その宣告を私にも、公爵様、
       この人と離ればなれになったら私は生きて行けません。
フレデリック 馬鹿なやつだ・・・おい、ロザリンド、支度をしろ、
       期限が過ぎてもまだここに居れば、俺の名誉にかけて、
       俺の言葉の威信にかけて、お前の命はない。      (松岡和子訳)

フレデリックは兄を追い出した謀反人で、悪い奴ではあるが、この箇所からは、娘を思う親心が垣間見え、多少なりとも人間的な感じがする。
ちなみに、ここでシーリアは、父親に対してわざと「公爵様」と他人行儀な言い方をしている。

似たような状況は、晩年のロマンス劇「ペリクリーズ」にも見られる。
主人公ペリクリーズは、ターサスの太守クリーオンとその妻に、生後間もない娘マリーナを預けて、いったん自分の国に帰る。
かつて彼は、その国の危機を救ったことがあり、太守夫妻にとっては大事な恩人だった。
月日がたち、美しく成長したマリーナは、王妃ダイオナイザの目から見ると、自分の娘にとって邪魔な存在に映る。
この子がいなければ、うちの娘はもっと民衆に愛されるはずなのに・・。
こうして王妃は、恐ろしいことに、マリーナを暗殺させようと企てるのだ。
ただ、その企ては成功しない。
浜辺で暗殺者が迷っているうちに海賊たちがやって来て、マリーナを誘拐してしまうので、暗殺者は王妃に、お言いつけ通り殺しました、と報告する。
王妃から話を聞いた夫クリーオンは驚愕し、恐れおののくが、彼女は一歩も引かない。

ダイオナイザ あの子のせいで私の娘の影は薄くなり、幸運からも
       見放された。誰も彼もマリーナの顔ばかり見つめ
       私の娘には見向きもしなかった。
       うちの子は馬鹿にされ、挨拶する価値もない
       下女あつかい。私は胸をえぐられる思いだった。
       あなたは私が血も涙もないことをしたと言うけれど・・・
       そう言うあなたはご自分の子供を愛してはいない・・・
       私はあなたの一人娘のために
       親として当然のことをしただけ、むしろ満足です。
クリーオン  天よ、赦したまえ!

この王妃の邪悪な企ても、娘への愛情から出たことではあるが、そのために人を殺すことを何とも思わないとはあまりにも恐ろしい。
悪賢い彼女は、口封じのために暗殺者も毒殺してしまう。
だがそのままで済むはずがない。
天網恢恢疎にして漏らさず。
その冷酷さゆえに、最後には天罰が降るのだった。

 





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「お気に召すまま」について

2025-08-07 16:02:28 | シェイクスピア論
1599年に書かれた「お気に召すまま」は、シェイクスピア円熟期の傑作喜劇です。
前年に「ジュリアス・シーザー」、翌年に「ハムレット」が書かれたという、まさに世界文学史上まれに見る、実り豊かな時期の楽しい作品ですが、日本ではあまり上演されないマイナーな芝居と言えましょう。

<あらすじ>
貴族の末息子オーランドーは、父の死後、兄オリヴァーに虐げられて教育も受けられず、召使い同様の暮らしをしていた。ある日、公爵主催のレスリング試合に出て、公爵の姪ロザリンドと恋に落ちる。だが公爵に憎まれ、アーデンの森へ逃げる。同じく公爵の不興を買ったロザリンドも、従妹シーリアと共に森に向かう。ロザリンドの父は前公爵だったが、弟に爵位を奪われ、彼を慕う臣下たちと共に森で暮らしていたので、その父の元に行こうとしたのだ。娘たちは安全のため、貧しい兄妹に身をやつし、森で羊飼いとして暮らすことになる。
オーランドーも、前公爵の庇護の元、森で暮らすうちにロザリンドたちと出会うが、男装した彼女の正体がわからない。ロザリンドはそれをいいことに、彼の恋の病を治してあげると称して、自分を相手の女性だと思って口説くよう勧める。こうして恋の遊戯を楽しむ二人だったが・・。

<恋の主導権>
ここで恋の主導権を握るのは女性だ。
ジュリエットやヴァイオラ、オリヴィア姫、デスデモーナ、ヘレナ、そしてゴネリルとリーガン等々、シェイクスピアが描く、恋に積極的な女性の系譜に、ロザリンドも間違いなく連なっている。
ロザリンドは、シェイクスピア作品の女役の中で、最もセリフの量が多い。
さらに、当時は女優がおらず、女の役は少年俳優が演じたので、この芝居の場合、少年俳優は、まず(女装して)姫を演じるが、森に来てからは、「男装した女性」を演じることになる。
このように複雑な設定なので、初演時は、よほど演技のうまい少年がいたと思われる。

<発音の問題・・・「~インド」という発音で終わる英単語は少ない>
最近、面白いことに気がついた。
アーデンの森に住むようになったオーランドーは、いとしいロザリンドを讃える詩を書いては
木の幹に紙片を貼り付ける。
ロザリンドはそれを見つけて喜び、読み上げる。
そこには彼女の名前が頻出するが、詩なので当然、韻を踏んである。
例えばこんな風に。(3幕2場、松岡和子訳)
ちなみに、詩なので翻訳者の方々は皆さん苦心惨憺しておられます。
もともと詩を正確に翻訳するなんて不可能でしょう。
韻を踏んで詩の形にするためには、元の意味からすっかり離れてしまっても仕方ないわけです。

東インドに西インド  
競う玉なきロザリンド
風の彼方のワンダーランド
そこでも名高いロザリンド
どこの絵描きも大感動
世にも麗しロザリンド。
会いたい会いたいまた今度
心に残るロザリンド

ちょっと恥ずかしくてつい笑ってしまうような詩だが、調子はいい。
原文の英語はどうだろうか。
From the east to western Ind
No jewel is like Rosalind.
Her worth being mounted on the wind
Through all the world bears Rosalind
All the pictures fairest lined
Are but black to Rosalind
Let no face be kept in mind
But the fair of Rosalind.

英語の詩は、2行で1セットになっており、それぞれの末尾の音を揃えて(脚韻)調子を合わせる。
1行目と3行目の末尾はどちらも「~インド」なのでOKだが、
5行目は「ラインド」、7行目は「マインド」だ。
これでは「ロザリンド」と韻が踏めない。
考えてみれば、英語では「~インド」という音で終わる単語が少ない。
だからオーランド―は仕方なく、「~アインド」で終わる単語で代用してこの詩を作っている。
そして、「ロザリンド」の部分を「ロザラインド」と発音することで、この問題を解決する。
こうしてようやく詩の形になっている。
英語で上演される舞台を注意して聴いていると、ここでロザリンドの部分はちゃんと「ロザラインド」と発音している。
読み上げる女優たちは、その単語の前に、一瞬、間を置いて、「仕方ないわね」という風に
ほほえみながら「ロザラインド」と発音するのだ。
1978年 BBC 制作の映像での若き日のヘレン・ミレンも、2012年のグローブ座での上演もそうだった。
オックスフォード版の原書にも「ここでロザリンドの発音は、長い i で発音する」と注にちゃんと書いてある。

ところで、これを聞いた道化のタッチストーンが、早速茶々を入れる。
「そんな韻の踏み方でよけりゃ八年間ぶっとおしで踏んでやるぞ、・・」
そして早速即興の詩を披露する。

雄鹿と雌鹿がいい感度
そしたら探せロザリンド
猫と猫とが恋なんど
すれば真似するロザリンド
・・・以下略

原文は
If a hart do lack a hind
Let him seek out Rosalind
If the cat will after kind
So,be sure,will Rosalind
Wintered garments must be lined
So must slender Rosalind
They that reap must sheaf and bind
Then to cart with Rosalind
‘Sweetest nut hath sourest rind
Such a nut is Rosalind
He that sweetest rose will find
Must find love’s prick,and Rosalind

ここでは末尾はすべて「~アインド」で終わっている(Hind,kind,lined,bind,rind,find )。
オーランド―の詩では4つのうち2つだが、タッチストーンのは6つ全部がこうなっている。
さほどに英語では「~インド」で終わる単語が少ないということだ。

















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「受取人不明」

2025-07-25 16:11:42 | 芝居
7月17日、赤坂 RED THEATER で、キャサリン・クレスマン・テイラー作「受取人不明」を見た(脚色:フランク・ダンロップ、翻訳:小田島創志、演出:大河内直子)。





マックスとマルティンはアメリカで共に画廊を経営し成功を収めた親友同士。
1932年、ドイツ人のマルティンは家族とともにミュンヘンに帰国。ユダヤ人のマックスはサンフランシスコに残り、
2人の手紙のやりとりが始まる。
そのころ不況にあえぐドイツにはヒットラーが登場。貧困に苦しむドイツに戻った裕福な成功者である
マルティンは、徐々にナチズムに心頭していく。
一方、ドイツで女優活動を行う妹の行方を心配するマックスは・・・。
1938年、アメリカのストーリー誌に発表された往復書簡による小説『 ADDRESS UNKNOWN 』の舞台版(チラシより)。

今回の公演は、ABC 3組の日替わりで、私はA の大石継太と天宮良版を見た。
舞台上手と下手にデスクがそれぞれ1つずつあるのが見慣れない光景だ。
中央奥にラッパのついたレコードプレーヤー。
上手と下手にそれぞれ椅子などがあるが、家具調度が左右で趣が異なるのも目を引く。
「三文オペラ」など、ドイツ音楽が流れる。
幕が開くと、予想通り下手のデスクに米国のマックス、上手にドイツ・ミュンヘンのマルティンが向かっている。
マックスがタイプを打ちながら読み上げる。
マルティンはマックスの妹グリゼレと恋愛関係にあったらしい。しかもそれは妻エルザと結婚後のことだった。
だがそれももう過去の話。
今グリゼレは女優としてドイツにいる。
マルティンの住所を彼女に教えてもいいかと聞くと、マルティンはOKする。
彼はミュンヘンに、部屋が30もある家を買った。使用人部屋、広い庭、子供たちにはポニーを買ってやり、妻には巨大なベッドを・・。
二人は今も仕事でつながりがあり、小切手を送ったり絵を送ったりしている。

マルティンは成功者として帰国したが、祖国ドイツの貧しさを目の当たりにする。
だがヒットラーが登場して、突然すべてが変わったという。
人々は勇気を得、力を得、国全体が活気と希望に溢れるようになったという。
マルティンは公職につき、ナチスの腕章をつけ、ヒットラーに心酔してゆく。
米国でドイツの情勢、特にユダヤ人迫害のことを知り、心配して尋ねるマックスに、彼は「偉大なことが起こる時には犠牲が出るんだ、
君はいつも自分の民族のことばかり・・。ユダヤ人はいつもそうだ。そんなだから虐待されるんだ・・」と書く。
それを聞いているマックスの膝や足が震え出して止まらなくなる。
マルティンは、手紙の最後に「君との間にもう友情はない。もう僕に手紙を送らないでくれ」と書く。
そして、それまでの手紙を全部出して破り、手紙は床に散らばる。
(この後どうするのだろう、と一瞬心配になった。だってこれは二人の往復書簡形式の芝居なのに、と)

そんな中、グリゼレにウィーンとベルリンの劇場からオファーがあり、彼女はベルリンに行くつもりだという。
マックスが危険だと言っても聞かない。
マルティンも、それを聞いて愕然とする。
彼女は偽名を使っているが、顔立ちや、ものの言い方などでユダヤ人だと分かるのではないか。
彼はマルティンに、心配だから彼女の様子を知らせてほしい、と書く。

グリゼレから兄の元に、ベルリンに着いた、と手紙が届く。
芝居の幕が開き、数日は好評だったが、ユダヤ人とバレてしまい、観客からヤジを浴び、気の強い彼女は
「ユダヤ人の何が悪い」と言い返した。
その後、すぐに仲間に助けられて地下室に隠れ、それから密かに南に向かった。
仲間にこう言ったという、「ミュンヘンの友達のところに行く」と。
それを読むとマルティンの顔は苦痛にゆがむ。
マックスが次に妹に手紙を出すと、「受取人不明」というスタンプが押されて返ってきた。
「彼女がどうなったか知りたい!君に頼るしかないんだ」

マルティンは「ハイル・ヒットラー」と右手を高々と挙げて叫んだ後、「悪い知らせがある。グリゼレは死んだ」
その日、マルティンの妻が4人目?の出産を控え、家中が慌ただしくしていた。
グリゼレがベルを鳴らした時、召使いたちも忙しく、幸いマルティン自身が戸を開けた。
グリゼレと目が合ったが、その後ろには、もう突撃隊の姿が見えた。
家に入れても召使いに見つかってしまう。
彼女をどこかに隠すこともできない。
家の中を捜索されて発見されたりしたら、この後、我が家はどうなることか。
私にできることはない。
私は彼女に「あっちの公園に逃げなさい」と言った。
彼女は私の顔を見てニッコリ笑い、「あなたに迷惑はかけられないわ」と言った。
戸を閉めると、しばらくして叫び声が聞こえた・・・。
彼女の遺体は、私が葬った・・・。
他にどうしようもなかった。
この後、マックスは笑い出す。その笑いは長く続き、しまいに嗚咽に変わる。

だがこの後も話は続く。
マックスは急に元気を取り戻し、何を思ったか、マルティンに電報を打つ。
さらに長い手紙も。その内容は、沢山の絵の注文。画家の名前、絵の寸法、色調。

次の場面で登場したマルティンは、ワインでなくウイスキーを、それも瓶に口をつけて飲んでいる。
服装も乱れている。
「マックス、自分が何をしているかわかっているのか?
君の手紙は届かなかった。当局の手に渡り、呼び出されて尋問された。
『あれは何の暗号だ?』と言われた。暗号!?『公職を辞めたらどうか』とも言われた」
彼は腕章を外す。
「パーティを開こうとしたら客がみんな断ってきた。妻はまだ何も知らず、不思議がっている。
息子も少年のクラブを辞めた・・」
「こんなことを続けたら、・・・きっとしまいに僕宛ての君の手紙は『受取人不明』と書かれて戻って来ることになるんだよ。
そんなことにならないようにしてくれ」
彼は「懐かしい君との友情」みたいな言い方を盛んにして相手の情に訴える。
以前、「君との友情はもうない。終わったんだ」みたいなことを言い放ったくせに。
「この手紙は帰国するアメリカ人に頼んで密かに君に渡してもらう」

マックスはこれを読んで同情するどころか喜び、さらに同様の怪しげな手紙を送りつける。
熱に浮かされているかのようだ。

次の場面でマルティンは黒い服。その手にもう酒はない。
ノックの音がしきりにする。
彼は諦めて、客席の間の通路を通って出てゆく。
ついに連行されたのだ。
マックスの元に手紙が戻って来る。
「受取人不明」というスタンプが押されて。
マックスは笑い出し、しまいにくずおれる。
独り者の彼は、妹を失い、今また、かつての親友を失った。
しかもそれは、彼が自ら仕組んだことだった。

~~~~ ~~~~ 
これが書かれたのが1938年というのがすごい。
まだヒットラーもナチスも歴史になっておらず、すべてが生々しい時に、よくも書けたものだと唸らされる。
戯曲としても極上の出来だ。
作者のキャサリン・クレスマン・テイラーなる女性は、一体どんな人なのだろうか。
タイトルについて一言。
普通アドレスというと住所とか宛先なので、「アドレス・アンノウン」だと「宛先不明」と訳すのが自然だが、
この話の場合、「受取人不明」としたことによって、相手の人物に焦点が当たり、緊迫感と恐怖がもろに伝わってくる。
適切な訳だと思う。











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「モンタギューとキャピュレットの憂鬱」

2025-07-16 11:17:14 | 芝居
6月27日中野 RAFT で真田真作「モンタギューとキャピュレットの憂鬱」を見た(原作:シェイクスピア、演出:牧凌平)。




演劇ユニット PEACE SHAKE 第3回公演。
舞台はメチャ狭い。
枠構造。カフェで男(真田真)と女(高橋沙友美)が待ち合わせる。
二人は職場が同じ。男は「課長」と呼ばれており、シェイクスピアを元にした戯曲を書いているという。

ここから彼の書いた戯曲の世界へ。
キャピュレット(伊藤嘉信)とモンタギュー(真田真)が、なぜか二人で話をしている。
彼らは幼馴染だが、両家は昔から敵対関係にあるので、表立って仲良くはできないという。
今、二人は子供のことで悩みを抱えている。
キャピュレットは、一人娘ジュリエットに縁談が舞い込んだが、その相手というのがパリス。
(パリスは大公の息子ということになっている)
この男が評判の悪い奴で、キャピュレットはその縁談には大反対。
だがキャピュレット夫人はブランド好きで乗り気。
キャピュレットはそんな妻を説得できない。
モンタギューの方は、一人息子ロミオがまた女に振られて部屋に引きこもって食事もしない、と嘆く。
そのうちふと、モンタギューが思いつく。
「どうだろう、うちのロミオとお宅のジュリエットをくっつけたら?」
キャピュレットは始め、「敵だぞ。ムリだろう」と言うが、次第にその気になり、
「ではうちでパーティを開こう。そこにロミオを呼んで二人を出会わせよう」
彼はジュリエットの乳母を呼んで指示する。
彼女も「パリスはイヤです!」

こうしてロミオとジュリエットはお膳立てされた通りに出会い、その日のうちに一夜を共にした(らしい)。

カフェで男が原稿を書き、女がそれを読む場面が時々挿入される。
乳母(宮本賀奈子)があわてて駆け込んで来る。
ティボルトさまがモンタギューの人間をからかい、ティボルトさまとマキさま(マキューシオのことを乳母はこう呼ぶ)が
救急搬送されたが死んだという。
この後、ベローナ市広報がラジオから流れ、ロミオが追放されたと伝える。
3人は驚く。
その後、また広報が流れ、墓地で乱闘騒ぎがあり、何人か死亡。パリス、ロミオ、ジュリエットの死が確認された、と言うので
男二人はショックを受け、乳母は泣き崩れる。
二人が乳母に尋ねると、彼女は話し出す。
彼女はそこに駆けつけてジュリエットとロミオの死を見届けていた。
「パリスがいけないんですよ」と、またしてもパリス。
彼が世の中を正すとか言って、若い人たちを集め、クスリ、LSD 、大麻、マリファナその他を回し飲みして乱交、暴力沙汰・・
そこにジュリエットとロミオも巻き込まれて死んでしまった、と。

だが、これでは二人はただの乱暴な若者だった、ということになってしまう。
そんな汚名を着せられては二人もイヤだろう・・と考えたキャピュレットは、乳母に二人の出会いの時の様子を尋ねる。
それは最高にロマンチックな出会いだったらしいとわかる。
後世に残る悲しい物語を作ろう。
そうだ、ジュリエットの部屋のバルコニーにロミオが・・・
この辺から、キャピュレットの指示で乳母がジュリエットの役を演じ、モンタギューがロミオをやる(笑)
脚本家キャピュレットの誕生である。
彼はストーリーを考えながら、テキパキと指示を出して劇を進行させてゆく。
パリスとの結婚を私(キャピュレット)が承諾して式の日も決めてしまったので、追い詰められたジュリエットは
死んだふりをする。仮死状態になる薬を飲んで。
その後、ロミオが来て二人は手に手を取って逃げるはずだったが、手違いでロミオは薬のことは知らず、
ジュリエットが死んだことだけ聞いたのだった。
墓地にパリスが来て、横たわるジュリエットの前で嘆くと、ロミオが来て斬り合いになり、パリスは死ぬ。
ロミオはジュリエットを見て死のうとする。
ここでロミオの役を演じているモンタギュー、はたと困って「・・どうやって死ぬの?」(笑)
キャピュレット「薬を飲むことにしよう」
ロミオが死ぬとキャピュレットは(ジュリエットに扮した)乳母に「起きて」と指示。
乳母はジュリエットの最後のセリフを口にして死ぬ。

カフェにて。男「できた」女「いいですね~」と二人は感動と達成感を味わっている。
そこにウェイトレス(星洸佳)が水差しを持って登場。
「水を差してもいいですか」(笑)
そして彼女は言う「二人は死んだんですよ。二人にとって名誉が何でしょう」
男、考え込む。
ウェイトレス「どうすればいいのでしょう」・・・

~~~~~~ ~~~~~~

ラストのウェイトレスの言葉(水を差しても・・)が白眉(笑)。
大公の「親戚」というだけのパリスを大公の息子にしたり、しかも徹底して悪役に仕立て上げて、後半、何もかもパリスのせいに
しているのが気の毒。まあ、そこは工夫ですよね。でないと話が始まらない(笑)
乳母がマキューシオのファンで、彼のことをマキさまと呼ぶのが可笑しい。
原作ではマキューシオはモンタギュー一族ではなく、乳母は往来で初めて会って、卑猥な言葉を浴びせられて怒るのだけど。
この乳母役の宮本賀奈子という人が熱演&好演。
ラジオから「ベローナ市広報」が流れるのも楽しい。
まったく知らない人たちの公演だったが、シェイクスピアのスピンオフってことで出かけました。
次回の公演は何をやるのだろう。また行きたいかも。

はてなブログに移行しましたが、まだ慣れないこともあり、しばらくはここにも載せようと思います。


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はてなに引っ越しました

2025-07-12 16:38:00 | Weblog
昨日はてなブログに無事移行しました。
何人かの方の記事を参考にしましたが、こういうことに疎い私にはやはり難しく、途中で、もうダメかと諦めかけました。
でも何とか16年分の記事を、無事に、しかも1~2日で移行できました。
まだ手探り状態ですが、少しずつ慣れていくのかなと思います。
これまで拙い文章を読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。
今後は、下記のはてなブログの方を見ていただけたら嬉しいです。
タイトルは、同じ「ロビンの観劇日記」です。

https://wshksp1564.hatenablog.com/

今後ともよろしくお願いいたします。
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「ザ・ヒューマンズ」

2025-07-09 15:42:06 | 芝居
6月24日新国立劇場小劇場で、スティーヴン・キャラム作「ザ・ヒューマンズ」を見た(演出:桑原裕子)。



感謝祭の日、エリックは妻ディアドラ、認知症の母モモと共に、次女ブリジットとそのボーイフレンド、リチャードが住む
マンハッタンを訪れる。そこに長女エイミーも加わり食卓を囲むが、雑多なチャイナタウンの老朽化したアパートでは、
階上の住人の奇怪な物音や、階下のランドリールームの轟音がして落ち着かない。
そんな中、家族はそれぞれの不安や悩みを語り始め、だんだんと陰鬱な雰囲気を帯びてくる。
やがて照明が消え、不気味な出来事が次々起こり・・(チラシより)。
日本初演。

メゾネットタイプのアパート。舞台では2階中央に外との出入口があり、上手に電話とトイレ。
らせん階段を降りたところが地下1階で、ダイニングルームとリビングルーム。上手奥にキッチン。
正面奥のドアから廊下に出ると、エレベーターやランドリールームがあるらしい。
感謝祭の集まりだというのに、リチャード(細川岳)以外の誰もが辛辣な口を叩き合う。
特に母(増子倭文江)と次女(青山美郷)が互いにとげとげしい言葉を投げかける。
母は次女に小さなマリア像をプレゼントとして持参。
次女は嫌味たっぷりな反応。
両親はカトリックで、娘たちが信仰を捨てたように生きているのが不満のようだ。
母は時々「神様のおかげで」と口にする。

食卓につくと、みんなで手をつないで父が決まり文句のお祈りを唱え始め、みんなも続ける。
最後のアーメンの後、祖母も「アーメン」と言うので皆大喜び。
彼女の「アーメン」をもう一回聞きたい、というので、もう一度繰り返し、最後にみんなで拍手する。
この時ばかりは、和気あいあいとした、幸せな家族の姿だったが。

次第にわかってくる。この一家は皆、辛いものを抱えていた。
長女(山﨑静代)は難病が長引いて、そのために失業。しかも同性の恋人に振られていた。
次女は音大の作曲科にいるらしいが、一番信頼していた教授に、何かへの推薦状を書いてもらえなかった。
母は高卒後、40年も同じ会社で働いているが、自分より若い男たちが上司になり、5倍もの給料をもらっている。
車椅子の祖母(稲川実代子)は認知症で、常に介護が必要。
リチャードは38歳だが、何かの資格を取るのにまだあと1年かかる由。
以前うつ病にかかっていたという。(次女はこのことを言わせまいとしたが)

そして父(平田満)はこの日、娘たちに知らせるべき大事な話があったが、なかなか言えず、妻に何度も促されてようやく話し出す。
彼は28年勤めた私立学校を解雇されていた。
教師と浮気して。
学校がカトリック系だったため、こんな厳しい処分になったのだろうか。
所有していた土地に、そのうち別荘を立てるという楽しい計画もあったが、それどころか、その土地は売り払い、今の家も売って小さなアパートに引っ越すという。
年金ももらえなくなった。貯金もないという。
最近父は夢を見て眠れない。(そりゃそうでしょう)
寝汗をいっぱいかいている、と妻。

途中、みんなが階上にいる時、ソファで寝ていたはずの祖母が、いつの間にかいなくなる。
このトリックが可笑しい。
観客の目はみな階上に集中していたので、恐らく誰も彼女が移動したことに気づかなかった。

次女とリチャードが結婚していないことにも母は不満。
リチャードの母がセラピストだと聞いて、母が次女に「診てもらったら?」と言い、
次女が「義理の母親に診てもらうって素晴らしいわね!」と怒って叫ぶと、母「まだ義理の母親じゃないわよ。結婚してないんだから」。
父が二晩続けて見た夢の話をする。
女がいて、顔を見ると目も鼻も口もない、つまり日本の怪談によく出てくる「のっぺらぼう」。

ラスト、いきなり不条理の世界に突入。
タクシーが来たのでみんな乗り込み、父は母に言われたように、お皿と毛布を手に持つが、
階上の出入口に向かうでもない。
するとなぜか正面の戸が開き、そこから光が射し込む。(この時、停電で舞台は真っ暗)
外の廊下を、階上に住む中国人らしい女性が洗濯物を積んだカートを押して通るのが見える。
父はそちらの方へ歩いて行き、ドアの外へ。
するとドアはひとりでに閉まるのだった・・。

~~~~~~ ~~~~
この芝居は米国では人気で、多くの賞を受賞し、映画化もされたという。
登場人物の抱える問題も、今の日本と置き換えて何の違和感もない。
難病、失業、失恋、低い給料、認知症・・・。
ただ、父親の重大な秘密というのがあまりにありきたりでお粗末。
たかが浮気とは。
だが勤務先がカトリック系だからか、即解雇、しかも年金ももらえなくなるという大変な困難が彼と彼の家族に降りかかる。
彼は自分のしでかしたことを、どんなに後悔したことか。
彼はラストで狂気の世界に入っていくのだろうか。
彼の妻が、裏切られた怒りと将来への不安から、やけ食いに走るのも無理はない。

役者陣は皆さん好演だったが、米国と日本では笑いのつぼが違うため、長く感じられ、芝居としての面白味には欠けていた。


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「コラボレーターズ」

2025-07-03 16:35:56 | 芝居
6月23日吉祥寺シアターで、ジョン・ホッジ作「コラボレーターズ」を見た(演出:伊藤大、劇団青年座公演)。



「白衛軍」の作者ミハイル・ブルガーコフが、死の前年(1939年)、ソビエト連邦最高指導者ヨシフ・スターリンの評伝劇を
書いていたという史実を基に、創作された作品の由。
クレムリンの地下にある密室でコラボレーター(協力者)としてブルガーコフとスターリンそれぞれの役割が入れ替わるという
奇想天外なブラックコメディ。
1930年代後半のソ連。スターリンによる大粛清は、政治家や党員に限らず、学者、芸術家にまで及び、
市民は相互監視と密告に支配されていた。こうして自身だけでなく家族や周りの者たちも危険にさらされる中、
ブルガーコフは反体制的な芸術活動を続けることができるのか、それともスターリンの協力者となってしまうのか・・(チラシより)。

舞台上手中央に簡易な、しかし大きなベッド。その手前に大きなラッパのついた蓄音機。椅子1脚。
赤い枠が奇妙な窓。奥の一段高くなったところに机。コート掛け。
中央に納戸?下手に長いテーブル。椅子4脚。手前に電話。椅子1脚。やはり赤い窓枠(美術:長田佳代子)。
ベッドに誰か寝ている。
ノックの音がしきりにする。ブルガーコフ(久留飛雄己)がベッドから起きると正面の納戸みたいなところ(後で「キッチンのクローゼット」と
説明される)が開き、煙と共にスターリン(横堀悦夫)登場!
驚くブルガーコフ。と、軽快な音楽が流れ出し、二人はいきなり踊り出す。
ベッドに妻エレーナ(松平春香)がいるが、寝ている。

観客の度肝を抜く、冒頭のこのシーンの後、音楽が止み、スターリンは消える。
これはブルガーコフの見た夢だったらしい。
妻が、夢の中でスターリンてどんな人だった?と聞くので答える。

仲間たちが来る。元貴族の老人ワシリーと教師の女性、若い男性作家と女優。
そこにセルゲイという青年が来て、例の「クローゼット」に住まわせることになる。
当時はそうやって、家が狭くても、他人を受け入れて同居しなければならなかったようだ。

ブルガーコフは体調が悪く、医者に診てもらいに行く。
医者はいい加減な奴で、ブルガーコフの診断結果のことよりも、彼が書いた芝居に出ていた女優を紹介してほしい、と
しきりに言う。

ブルガーコフの家に秘密警察のウラジーミル(小豆畑雅一)と部下のステパン(鹿野宗健)が来て、4週間後のスターリンの誕生日に
サプライズで芝居を上演したい、ついてはスターリンの生涯を描いた戯曲を書け、と言う。
ブルガーコフは反体制派だが、意外なことにスターリンは彼の芝居が大好きなのだそうだ。
ブルガーコフが断ると、ウラジーミルは彼の妻を殺すと脅す。
ウラジーミルたちが帰った後、彼が仲間に話すと、みな、その話は断るべきだと言う。
友人の叔母がレニングラードにいて、そこから何とかしてフィンランドに行けば、あとは自由にどの国にも旅行できる、
という話が出て、友人たちはブルガーコフに勧めるが、彼は祖国を離れる気にはなれない。

ウラジーミルは、戯曲を書けば、彼の書いた芝居「モリエール」の上演を許可すると言う。
「モリエール」は公演初日に上演中止になったのだった。
ブルガーコフは悩んだ末に、この仕事を引き受けることにし、ウラジーミルが用意した部屋でタイプの前に座る。
スターリンの一代記なので、彼についての資料をいろいろ読んだが、なかなか筆が進まない。
するとある夜、家にいると知らない男から電話があり、「地下鉄の○○○○から横道に入り、・・・そこで待て」と言う。
彼は妻には言わず、そっと家を出て、言われた通りの部屋に行くと、扉が開いてスターリン登場。
「実はここは私が作らせた秘密の部屋なんだ。ここで二人きりだ」(その部屋はクレムリンの地下にあった)
「私はサプライズが大嫌いだ。私に秘密にするなんてけしからん」
「筆が進まないんだろう?私が協力しようじゃないか。教えるから書いてくれ」
だが始めてしばらくすると、「私がその奴隷のような仕事をしよう」とスターリン自らタイプの前へ。
そしてブルガーコフには代わりに自分の仕事(書類に目を通してサインする)をさせる。
ブルガーコフは始め、それは法律違反だと言って断るが、押し切られて仕方なくスターリンの代わりにサインする。

その後、彼のアパートではお湯が出るようになり、運転手付きの自家用車まであてがわれるようになる。
だがスターリンの代わりに書類に目を通していたブルガーコフは、困難に直面する。
今年は不作だが、農民たちは自分たちの食べる分と来年の作付けの分を取っておかないといけない。
しかし、都市の労働者たちにも食べさせないといけない。
一体どうすればいいのか・・・
「軍を送って例年通りの食料を出させるしかない。国を治めるとはそういうことだ」とスターリンに説得され、彼は迷いつつもサインする。

彼はエリート向けの病院で診てもらえることになる。
なぜかいつもと同じ医者だが、今回は非常に愛想がよく、元女優の看護婦がそばにいる。
カルテを見て「どこも悪くない。奇跡です」
ブルガーコフはかつて医者だったので、「そんなはずはない」と言うと、
「だから奇跡なんです」「以前の診断が誤診だったのかも」

妻エレーナは大喜びし、友人たちを呼んで夫の病気回復を祝う会を開く。
なぜかウラジーミル夫妻も招かれる。
ワインや肉の食事が始まると、ワシリーが口を開く。
元貴族の彼は領地を持っており、「領民たちの元に軍がやって来て(今年は不作なのに)食料をよこせというので
抵抗したら軍隊が発砲し、何人も死んだ。そして奴らは食料を全部持って行った。
今、そこでは男も女も子供も、人間を食っているそうだ」
ブルガーコフは後ろめたさを感じるが、「それは仕方ないんじゃないか」みたいなことを言い出す。
「国を治めるのは大変な仕事なんだ」
彼の意外な発言に、みな驚く。
ワシリー「・・私が間違っていたようだ」
妙な雰囲気になったので、エレーナが蓄音機を回し、「踊りません?」と言って夫と踊り出す。
みんなも踊り出すが、しまいにウラジーミルの部下ステパンが、ウラジーミルの妻エヴァと無理やり踊り出し、
ウラジーミルがやめさせようとすると、ステパンはウラジーミルを殴り倒す。
驚きの展開だが、次の場面では、二人が今まで通り上司と部下として接しているのが変だ。

ブルガーコフは書類の中に、スターリンの親友3名がスターリン暗殺を計画したと告白する文書を見て驚き、
スターリンに報告すると、彼は逆上。
ブルガーコフは激する彼をなだめ、「さらに精査せよ」とか書いてサインする。
つまり、すぐに処刑するのではなく、もっとよく調べてみよ、というつもりだった。
ところが彼の意図とは裏腹に、この時から、周囲の人々が次々と逮捕され、連行され、あるいは行方不明になったりする。

スターリンがブルガーコフの代わりに書いていた芝居は出来上がり、ブルガーコフは、もう彼の代わりの仕事はしたくない、と言う。
スターリンは承知するが、ウラジーミルは、なぜか、あと一回分必要だと言う。
処刑の真似事をして見せるので、ブルガーコフは仕方なく、最後の一回分を書く。
だがエヴァがいなくなり、ウラジーミルもいない。
ステパンが来て、「ウラジーミルは死んだ」「私が彼の代わりになって、最初の仕事がウラジーミルの処刑だった」
「彼の車も妻ももらった」と言う。
最後の原稿を渡すと、彼は読んで「素晴らしい」と言うが、ライターで火をつけて燃やし、靴で踏みつぶす。
この展開は、もはや悪夢と言うしかない。

スターリンがブルガーコフに言う。
「君を転向させるのが目的だったんだよ・・・」(!!)
ブルガーコフは、(たぶん病気が進行して)ベッドに倒れる。
エヴァが来て、彼が死んでいるのに気がつき、愕然となる。
電話が鳴る。
受話器を取ると、「ミハイルが死んだというのは本当かね?」という張りのあるスターリンの声。
エヴァはその声にハッとなって受話器を置く。終。

~~~~~~ ~~~~~~

スターリンがすらすら戯曲を書くが、手記ならともかく戯曲というのは特殊なので、そんなに簡単に書けるわけはない。
などなどツッコミどころはあるが(ブラックコメディだから目くじら立てることはないか)、非常に面白かった。
役者陣が皆さん、うまいっ!
特にスターリン役の横堀悦夫が素晴らしい。
ブルガーコフ役の久留飛雄己も熱演。
エレーナ役の松平春香、ウラジーミル役の小豆畑雅一も印象に残った。
ダンスも面白くて見応えがあった(振付:中村蓉)。


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ドイツ旅行・ライプツィヒからアイゼナハへ ⑤

2025-06-30 22:44:39 | 欧州旅行
2008年のドイツ旅行の記録の続きです。

朝9時に駅のAutomat で100€おろし、トーマス教会へ。
今日はStadtplan を見ながら私が先に立って歩く。
昨晩アウアーバッハス・ケラーに行った道を通る。
教会に入ると、ラッキーなことに誰かがオルガンの練習をしていた。
左側のオルガンで、その辺りだけ明かりがともっている。
練習とは言え何かの曲を途中で止まらずに通して弾いてくれているのが有難い。
この人がKantor だったらバッハの後継者だ。

ショップに行くと「10時から」と書いてあるので、近くのニコライ教会へ。
天井がガイドブックの写真ほど派手でなく、色も薄くて美しい。
ここにもショップがあるが、明かりもついておらず、人もいない。

10時になったので、トーマス教会のショップに戻った。
夫がコーヒーカンタータの一節が書いてあるマグカップを買ったが、私は結局何も買わなかった。
結局、ショップに執着していなかった夫のために戻ったようなものだった。

帰り道で、トイレを借りようと、入場無料の現代史博物館に入った。
せっかくなので見学。
東独の功罪をさまざまな角度から展示している。写真多数。
1989年11月のあの日のビデオが延々と映されていて、胸に迫るものがあり、つい涙。
夫はショップでアンペルマンのマグネットをゲット。

次に旧市庁舎の前を通って予定通り造形博物館へ。
巨大!かつモダン。
ここでもバッグをロッカーに入れねばならなかったが、そのやり方が変わってる。
一人5€の入場券を入口で払った時に教えてくれればいいのに、またもロッカーの扉が閉まらないので苦労していると、
通りかかった係の人が、代わりにやってくれた。
何と、コインの形をしたものを入り口でもらって、それを入れるらしい。
とにかく広いので、どこに行くにも大変だ。
エレベーターに乗ったら、これがまたでかい。
夫「美術品を運ぶのにも使うんだろう」
彼と別れて一部屋ずつ見て行くが、全然面白くない。
時代別に分けてあるが、モダンばかりで、ラファエロなんかが好みの私にはさっぱりだ。
一階のショップで彼と待ち合わせることになっているが、時間が余って困った。
ベンチで読書。
地下1階のトイレを探して係の女性に聞くと、彼女はあるドアのそばのボタンを押した。
するとドアが開いたのだった!
もうびっくり。いちいちやってもらわないといけないのか?
ショップで夫と会って、つまらないと言うと、クラーナハもあったでしょ?と言う。
驚いて2階(日本式に言うと3階)に戻り、さんざん探し回り、諦めて係の女性に尋ねてやっと「クラーナハの部屋」にたどり着いた。
大きな「アダムとエバ」など。

ショップで絵葉書2枚と小さな童話の本をゲット。
駅に戻り、一昨日入った「エルンテブロート」に行く。
お目当ての玉ねぎケーキがないと言うので、夫はハワイアン・ツンゲ、私はトマトとチーズのピツァにした。
ミネラルウォーターと合わせて11、80€。
13時頃、ライプツィヒからタクシーでライプツィヒ・ハレ空港へ。
13:30頃着。酔い止めを飲む。

夫が買った義母へのお土産のジャム(250ml)が検査で引っかかった。
モニター画面に映ったらしい。
100ml以上のものは機内持ち込み不可とのこと。
夫「しまった、忘れてた」
係員「誰か(ドイツ)国内にもらってくれる友人はいないか?」
夫「ナイン」
すると女性が「カリタス?」と聞いてきた。
男性が「gift to church ?」と言い直してくれたので、" Ja , OK "
15:05発のフランクフルト行が、遅れて16:40になった。
ベンチで読書したり眠ったり。
17:35フランクフルト着。
到着の少し前に、蛇行するマイン川が見えてきた。
ここの空港でアンペルマンとお土産のレープクーヘンを探したが無い。
早目にパスチェックを済ませてB 45の方に来てしまったので、土産物屋が1つしかない。
仕方なくスイスのチョコを買った。

19時。スタンドでグーラシュ・スープとパンを食べた。4,9€。
空港内は、当たり前だが、どこも値段が高い。
スニッカーズが1€とかするし、夫が昨年秋にリューデスハイムで1,5か1,8€で買ったワイングラスと同じようなのが25€もする。
私はなぜか飛ぶ前から眠くてたまらず、待合室でもぐっすり1時間とか20分とかまとめて熟睡。
搭乗口に日本人がどんどん集まって来る。
フライトアテンダントも日本人女性が多い。
20分遅れで21:05発。

23時に夕食が出た。私は鮭ご飯を選んだ。
夫は何とまたグーラシュ!
2日間で3回グーラシュを食べてる。
飲み物は水。夫はビールと赤ワイン。
この飛行機は日航なのでパーソナルテレビがついているというのに、そしてSATC とかいろいろ見られるというのに、瞼が開かない。
食事の後、機内が暗くなると、すぐまた寝て、(日本時間の?)5:30頃明るくなり、おしぼりが配られてようやく目覚めた。
6時に食事が出た。
オレンジジュース、クロワッサン、ソーセージ、卵焼き、キノコ(マッシュルームか)、フライドポテト、ヨーグルト、カットフルーツ、チョコレートケーキ。
飲み物は緑茶(うーん、最高💛)。夫はコーヒー。
その後も結局眠っていてせっかくの映画は見損なった。
今回は特に体が凝っている。
足がむくんで首が凝って・・。

日本時間の15:10成田着。
トイレでメイク落としシートを使ってさっぱり。
何と11時間の間、一度もトイレに行かなかった!新記録だ。
パスポートチェックの後、みんなが自分の荷物が出て来るのを待っているのを横目に見ながら税関に行くと、
「他に荷物は?」「どちらに行かれたんですか」と不審そうに聞かれた。
夫「荷物が少ないと疑われるんだ。あなたがいてよかったよ」

東京はやっぱり暑い。
東京行きの快速に乗り、上着とブラウスを脱いでほっとした。
周りもみんな半袖だ。外ではセミが鳴いている。
自宅近くの駅ナカで、握り寿司と岩ノリ汁の夕食をとり、帰国を実感。

こうしてこの年のドイツ旅行は無事に終わりました。

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カレル・チャペック作「母」 ブルノ国立劇場版

2025-06-16 21:25:23 | 芝居
5月29日新国立劇場小劇場で、カレル・チャペック作「母」を見た(チェコ・ブルノ国立劇場来日公演、演出:シュチェパーン・パーツル)。



夫をアフリカでの戦いで失ったドロレスには5人の息子がいた。
長男は医師として、次男はパイロットとして、それぞれの使命を果たして死んだ。
双子の三男と四男は内戦に巻き込まれ、戦いの中で2人とも殺される。
亡くなった者たちは霊となってドロレスに話しかける。
戦火が激しくなり、戦争への参加が呼びかけられる中、唯一生き残っている末息子のトニは
軍への入隊を志願し、死んだ父と兄たちはトニの決断を支持する。
トニまで失うことはできないと必死に抵抗するドロレスだが・・・(チラシより)。

開幕早々、いきなりチェコ語でまくし立てる兄弟。これは五男と三男か。字幕は日本語と英語。
二人は亡父のチェス盤で対戦したり、大声で喧嘩したり、戦争ごっこを始めたり。
時々日本語を使ってくれるのが嬉しい。
「コチラ○○」「オート―セヨ」「オマエハ、モウシンデイル」(笑)とか。
父は英雄として死んだので、息子たちは父に憧れている。
(この段階では、父と長男は死んでいるが、他の息子たちはまだ生きている)
母登場。息子たちの喧嘩をやめさせ、部屋を片付けて座ると父登場。
母は、そっちを見ていないのに、なぜか父に気づいていて、話しかける。
どうしてあなたが戦争に行かなくちゃいけなかったの?
5人の子の父親のあなたが?
五男は父の死後生まれたのだった。
「生まれる前に死んだくせに」「あの子は私のもの」
夫「『援軍が必要です』と上官に進言したら、全将校の前で『少佐のくせに怖いのか』と言われた。だから行った。お前には分からん」
そこに長男も登場。
彼は医者で、マラリアの研究のため奥地にいた時、マラリアにかかって死んでいた。
するとそこに次男が来て、父や兄と話す。
母、気がついて「ちょっと待って。兄さんたちが見えるの?どうして?死んでるのに」
次男「母さん、怒らないで」
パイロットの彼は、実験で高度を上げ過ぎ、飛行機の具合(翼の一つ)が悪くなり、墜落死したという。

機関銃の音がする。
三男と四男は双子だが、敵味方に分かれている。
三男が来て、四男が捕まったと言う。
母は理解できず、口論になる。
母は四男に食べ物と着替えを持って行く、と言う。
そこに四男が来たので、母が良かった!と喜ぶと、この子も「母さん、怒らないで」と言う。
彼は処刑された、と言う。
母はショックで倒れる。
四男はヘルメットを叩いて皆を呼ぶ。
みんな出て来て母の頭の下にクッションをあてがうなどして世話をする。
父は四男に、どうして処刑されたのか、と問いただす。処刑されるなんて恥ずかしい、と。
だが、今は時代が違う、と言われる。
他の兄弟が「父さんは英雄だよな」と言うと、父は憮然として、「実は」と真実を話し出す。
「あれは母さんのための作り話だ。実は軍に置いてきぼりにされ、原住民に拷問されて死んだんだ」と。
息子たちは皆、驚いて黙り込む。

母が気がついたので、皆消える。
そこに三男と五男?が来て「怒らないで、四男が死んだんだ」
「もう知ってた?」
<休憩>
客席に向けてテレビが置かれている。
「放送局はどうなってる?」と四男がテレビをつけると、市街戦の最中の様子。
三男が画面に映り、市民に戦闘への参加を呼びかける。
五男も兄たちのように戦地に行こうと考えるが、母は唯一残った彼だけは戦争に行かせるまいと、必死で説得する。
心優しい彼は、諦めて母に従う。
母と彼は舞台中央の四角い穴から地下室に隠れる。
すると父と四人の兄たちが来て、今の戦況について話し、テレビをつけ、情勢を見る。
母が地下室から出て来て「あんたたち、何しに来たの」
「母さんに会いに」
「私じゃないでしょ」
母はみんなの目的に気がついている。
五男を戦争に行かせたいのだ。
それだけはダメ!
彼女は夫には「五男を抱いたこともないくせに」と責め、長男から始めて一人一人に、
子供の頃、彼が五男にしてやったことを思い出させ、五男が戦争向きな子じゃない、と言わせようとするが、みな無言。
テレビをつけると女性リポーターが「国のために全男性よ、立ち上がって!戦いに加わって!」
と呼びかけるので、母は反発し、叫び、テレビを消す。
父は「死者も戦いに加わるんだ」と妙なことを言う。
死んだ五人は地図を囲んで作戦会議。
戦争ごっこが楽しくてたまらない少年たちのようだ。

五男が地下室から出て来る。
母がまたテレビをつけると、女性リポーターが船について報告中、しばらくその場を離れ、イヤホンで戦況を聞き、戻って来て
船が爆撃を受けて沈んだ、と告げる。「私の息子が乗っていました」と言って、画面から少し離れ、地面にしゃがみ込んで泣き伏す。
男性アナウンサーが、敵の爆撃による死者は、ほとんどが女性と子供で、小学校が爆撃され、子供たちが多数死んだ、と言う。
母は後ずさりし、「子供たちが・・」とつぶやくと、五男に銃を渡し、「行って」と言うのだった。
~~~~~~ ~~~~~~
ここには男性原理(戦いの本能)と女性原理(生み育てる本能)の対比が極端な形で描かれている。
リヒャルトの父親はカット。
この母は強い。
息子たちはみな、自分が死んだことを彼女に告げる時、まず「怒らないで」と言うのが可笑しい。
一度だけ、母は「私のわがままかも知れないけど」と言う。
その言葉を聞きたかった。
その言葉に救われる。
2021年5月に吉祥寺シアターで、オフィスコット―ネプロデュース公演(増子倭文江主演)で、この芝居を初めて見た時も、
やはり同じことを感じた。

現在、世界各地で出口の見えない戦争が続いている。
この時代に、ブレヒトの「肝っ玉おっ母」やチャペックの本作品が上演されることの意味は大きい。






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「マライア・マーティンの物語」

2025-06-07 17:53:16 | 芝居
5月19日サンモールスタジオで、ベス・フリントフ作「マライア・マーティンの物語」を見た(演出:寺十吾、On7公演)。



・・・赤い納屋には暗い秘密が隠され、発見されるのを待っている・・・。
1827年、イギリスの田舎町で実際に起こった殺人事件を基に、一人の女性のきらめくような「生」を、
彼女を愛した女性たちの目線から鮮烈に描き出す、人間の尊厳と愛についての物語(チラシより)。

冒頭、真っ暗い中、黒い影がゆっくり動き出したと思ったら、それが主役のマライア(吉田久美)。
彼女は自分がこの納屋で殺されたと語る。
「一年前、ピストルで撃たれ、首を絞められ、さらに彼は畑にスコップを取りに行き、それで頭を何度も殴って
私にとどめを刺した」
「誰かが私の死体を見つけてくれるのを待っています」
「死んでみて思うのは、死んだら罪とか責任とかから完全に解放されるってこと」
「死ぬまでの数週間、私は頭がおかしくなっていると思った。彼を誘惑した悪い女なんだと思ってた。でも頭を勝ち割られた瞬間にわかった。
そうじゃないと。私は悪い女じゃなかった。悪いのは彼の方だと」

このショッキングな場面から一転、次の場面では子供時代のマライアと仲間の女の子たちがにぎやかに登場。
彼らはチャレンジクラブというのを作っていて、そこにまた一人、メンバーを入れることになり、
一人一人の紹介が始まる。と言っても、その子の特技だけだが。
マライアは奉公先の奥様に文字を習ったので、字が読めるし、いろんな言葉を知っているという。

彼女は小さい頃からお屋敷に奉公に出ていたが、10歳の時、母が死んだため、奉公をやめて、
朝4時に起きて赤ん坊の世話をし、一日中働いた。
だが一年後のある日曜日、教会から帰ると、知らない女の人がいて、いきなり「早かったのね・・」などと話し出す。
マライアが「あなた、誰?」と尋ねても答えず、いろいろ話し続ける。
マライアは「父に会いに来られたのなら、ここでお待ちください。今、お茶を入れますから」と言うと、
ようやくその女が、マライアの父が再婚しようとしている相手だとわかる。
「あんた11歳だろ?しっかりしてるねえ。父さんが自慢するはずだ」
「私が11の頃は救貧院?にいたからねえ、何もできなかった」
「あんたがいやだって言ったら父さんとは一緒にならないよ。父さんにはあんたが一番大事だからね」
マライアが「わかった」と言うと、女「それ、いいってこと?」
マライアがにっこり笑って手を広げ、「わが家へようこそ」と言うと、二人は抱き合う。
女「私の初めてのわが家だよ」
こうして「二番目の母ちゃん」=アン・マーティン(西尾まり)が来てから、マライアに、また子供時代が戻ってきた。
友人たちと遊ぶ日々が。

ある日、村の領主レディ・クック(渋谷はるか)が彼らの家にやって来て、「毎月第2木曜は貧しい人に施しをすることにしているの」
と嬉しそうに告げ、食べ物をくれる。
マライアは農場主トマス(有川マコト)に言い寄られるが、全然好みじゃない。
一度キスされたが、ひっぱたいてやった。
仲間の一人が男の子と関係し、出産。
「いつの間にか私たちは大人になっていた」
マライアの父が農場の仕事をクビになり、一家は食べるものにも事欠くようになる。
マライアは、自分からトマスにキスし、関係を持つ。
レディ・クックに呼ばれてお屋敷に行き、トマスとのことを聞かれ、彼の父が身分違いだと結婚に反対している、と言うと、
奥様は「まあ、身分だなんて。地主じゃあるまいし」と応援するようなことを言うので、マライアは喜ぶ。
だがマライアが妊娠し出産すると、トマスは一度も会いに来ない。
次にレディ・クックが食べ物と赤ん坊のケアの品々を詰めたかごを持参すると、アンが出て来て「赤ん坊は死にました」と言う。
「マライアより私の方が泣けて・・」と言うと、奥様はがっかりし、戸惑いつつもかごを渡して去る。

ある日、マライアはレディ・クックに「お風呂に入ってから来てね」と言われてお屋敷に行くと、
3人の女性がいて、彼女はピンクのドレスを着せられ、モデルを務めさせられる。
そのドレスのまま帰ろうとすると、レディ・クックの弟、ピーター・マシューズ(有川マコト)に会う。
彼はマライアの美しさに目を留め、話しかけるが、彼女は戸惑い、「いつもは違うんです。もっと汚いと言うか・・」
「でもあなたはそれでもきっと素敵だろうなあ」「送っていこう」
断ると、「でも外は大雨ですよ」と傘を貸してくれる。
驚いたことに、彼女は(そして仲間たちも)傘というものを差したことがないらしく、その後、みんなで大はしゃぎ。
「彼、私のこと気に入ったみたい。もし彼と結婚したら、週に一度、みんなをお茶に呼ぶわね」と言うので盛り上がる。



ある日、マライアとピーターは馬車で遠出し、そこで泊まることになる。
二部屋取ってあると言う彼に、「一つは断って」と彼女は言う。
このように、ピーターはあくまで紳士的なのだが、マライアは再び妊娠。
ある日、レディ・クックに呼ばれる。
以前とは打って変わって冷たい態度。
マライアが「だって以前は身分なんて、とおっしゃってたじゃありませんか」
だが奥様にしてみれば、たかが農場主であるトマス・コーダーが相手なら別に構わないが、領主である自分の弟が相手だなんて
とんでもないということだろう。
「これからどうやって暮らすつもり?」
「彼、事業を始めるつもりなんです。まず投資をして資金を貯めて」
「父は相続対象から弟を外しました」とレディ・クックは冷たく言い放つ。
そこにピーターが来て姉に抵抗するが、結局二人は別れることになる。
彼は母の形見のイヤリングを彼女に手渡す。

マライアは出産して子育て。
その後、彼女はトマスが湖で溺れかけるところを目撃し、助けようとするが、彼は溺死。
すると彼の弟ウィリアムが親に呼ばれて村に戻って来て後を継ぐ。
マライアと彼はすぐに恋に落ちる。

彼女はレディ・クックに会いに行き、ピーターから毎月子供の養育費が届いていたが、今月はまだ届かない、
と言うと、ウィリアムのことを聞かれる。
結婚する、と答えると「じゃあ、いいじゃない」「ウィリアムも結婚が決まったのよ」

その頃からマライアは精神的に不安定になってゆく。
彼女はまたしても妊娠し、離れた町にウィリアムが用意した家で出産。
そこに友人二人が訪ねて行くが、マライアは彼女らを部屋に入れず、赤ん坊を殺したとか、彼が殺したとか、訳の分からないことを言う・・。
友人たちは何とかなだめて落ち着かせる。

その後、マライアは急にいなくなる。
仲間の一人が「マライアは納屋にいる」と言い張る。
夢で見たと。
だが誰も信じない。
ある日、とうとう彼女は納屋で、床下に埋められたマライアを見つける。

裁判で、仲間たちは証言することになる。
だが、それぞれに内心の葛藤を抱えている。
テリーザ(尾身美詞)は、夫が、マライアは自殺したんじゃないか、と言っている、と言う。
彼女の夫はモラハラ野郎だった。彼女は仲間に説得され、ようやく夫への不満を爆発させ、その呪縛から解放される。

ルーシー(渋谷はるか)は生前のマライアに会って、「友達を召使いみたいにしようっての?」と食ってかかり、
「もう二度と顔も見たくない」と言ったという。
実は、彼女はコーダー家で働いていたらしく、ウィリアムにちょっかいを出されていた。何度も。
そしてある日「マライアとは別れようと思う」と言われ、キスされ、最後まで許してしまう。
「奇跡が起こったと思った」
「帰宅して、母にウィリアムと結婚するかもと話すと、母はすごく喜んでくれて、一晩中二人で将来のことを話し合った。
翌日会うと、ウィリアムは私と目も合わさない。
何もなかったような素振り。
帰宅して母に話すと、母は全部私の妄想だと言った・・・。
私は(マライアと違って)殺される値打ちもなかった」

もう一人は、ウィリアムがマライアにとどめを刺そうとスコップを取りに行く途中で、彼と出会っていた。
彼女は「スコップなら畑に一つありますよ」と教えてやった。
まさか彼がそれで友人にとどめを刺すつもりだなんて、知るはずもなく・・・。

事件が大々的に報道されると、多くの人が事件現場の納屋に来るようになる。
友人4人はそれが嫌だ。
一人が、夜中に納屋に火をつけて燃やしてしまおう、と言い出す・・。

~~ ~~ ~~ ~~

長々と書いてしまってすみません。
脚本があまりにいいので、どうにも省略できなくて。
殺された女の話なのに、こんなに明るく楽しいってどういうこと?
格差、身分、階級社会。傘を知らない庶民!
たくましい庶民の女たち。
主人公は美貌と健康に恵まれていたようだが、何とも懲りない人だ。
頭が悪いとも一概には言えないが、無学で社会構造に無知だったことと自信過剰が悲劇を招いたのだろうか。

役者は皆さん好演。
特にルーシーを演じた時の渋谷はるかが良かった。
地味で目立たないルーシーは、これまで男から声をかけられたことがなく、母親にほめられたこともなかった。
男の気まぐれに振り回され、束の間の夢を見たばっかりに、その夢が跡形もなく消えた時の衝撃は、どんなに大きかったことだろう。
彼女の心のうちを思うと胸が痛い。
「二番目の母ちゃん」役の西尾まりもうまい。
彼女とマライアとの心温まる出会いのシーンが素晴らしい。
11歳にして、これほど礼儀正しく、働き者で心優しい娘が、あんな最後を遂げるとは、誰が想像できるだろう・・。
この作者の名前は覚えておこうと思う。
もちろん On7という劇団のことも!



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