ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「イーハトーボの劇列車」

2019-03-08 10:09:59 | 芝居
2月5日紀伊國屋ホールで、井上ひさし作「イーハトーボの劇列車」を見た(演出:長塚圭史)。

こまつ座公演。
詩人にして童話作家、宗教家で音楽家、科学者で農業技師、土壌改良家で造園技師、教師で社会運動家。しなやかで堅固な信念を持ち、夭折した宮沢賢治。
短い生涯でトランク一杯に挫折と希望を詰め込んで、岩手から東京に上京すること九回。そのうち転機となった四回の上京を、あの世に旅立つ亡霊たちや自ら描いた童話の
世界の住人と共に、夜汽車に揺られてダダスコダ、ダダスコダ。行きつく先は岩手か東京か、星々が煌めく宇宙の果てか・・・。
「世界ぜんたいが幸福にならないうちは、個人の幸福はありえない」そう信じた宮沢賢治が夢見たイーハトーボは果てしなく遠かった(チラシより)。

この作品は、2013年11月に紀伊國屋サザンシアターで、鵜山仁演出、井上芳雄主演で見たことがある。
あの時は、途中爆睡してしまい、筋について行けないというもったいないことをして深く反省。
今回は、とにかく寝ないように頑張った。

冒頭、役者が全員登場して宮沢賢治の言葉を様々に口にする。だがそれが、まるで高校の演劇部の上演のよう。どうしてこんなことをするのかさっぱり分からない。

賢治の実家の宗教は浄土真宗だが、彼は法華経の熱心な信徒となる。父親は上京して彼に宗教論争を挑み、浄土真宗の方が優れている、と彼を説得しようとする。
その論争が面白い。そのために父は事前に法華経を勉強してきたのだった。
ただ、その論争の間ずっと、同じ部屋に他の役者3人が座っているのが意味不明。

エスペラント語を習いたいという男(実は刑事)に賢治が授業するのも面白い。

父親役、及び刑事役の山西淳がうまい。
三菱社員役の土屋佑壱も、いつもながらの熱演。
下宿屋の女将役の村岡希美、サーカスの団長役兼文士前田役の中村まことも好演。

このように脇はしっかり固めてあるが、肝心の主役、賢治役の松田龍平は滑舌が悪く、その上、表現力に著しく欠けている。
この人は映画向きなのか。映画「舟を編む」を見た限りではいい印象だったのに。
感情を表に出さずに会話することで、「でくの坊」っぽく見えると考えたのだとしたら、とんでもない間違いだ。
なぜこの人を主役にしたのか。集客のためか。もしそういうことなら、こまつ座の公演には今後行かないことにしなくては。

歌は例によってつまらない(だがこれは想定内)。

結局、宮沢賢治は自分でも認めているように、何をやってもうまくいかない失敗ばかりのダメ人間で、役立たずだった。
知的で、不器用なほどまっすぐで、理想に燃えてはいたが、所詮、甘やかされた、いいところのお坊ちゃんだった。
父親は厳しいようでいて、意外に甘い。特に金銭に関して大甘なのがいけない。息子の体が弱いからといって、金を催促されるたびに言われるままに送金するとは。
息子に対する溢れるほどの愛情には打たれるが、やはり若い時はもう少し苦労させないと、という妙な感想を抱いてしまった。

戯曲としては、途中せっかく面白いところがあるのに、余計な要素を沢山詰め込んでいて、印象がぼやける。
作者としては外せないのだろうが、東北の農家の苦しみ、都会人への恨みつらみがこもっていて後味が悪い。
そんなことを延々と言われても、ではどうしたらいいのか、と困ってしまう。
もっと賢治の人生に集中すればよかったのではないだろうか。


コメント
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