ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

永井愛作「ザ・空気」

2021-02-20 11:01:25 | 芝居
1月29日東京芸術劇場シアターイーストで、永井愛作・演出「ザ・空気 ver 3 そして彼は去った・・・」を見た(二兎社公演)。
「メディアをめぐる空気」シリーズ3部作の完結編。
ネタバレあります注意!

舞台は民間テレビ局の一室。政治評論家横松(佐藤B作)はニュース番組にゲスト出演するため久し振りに局入りするが、検温で37度4分だったため、
別室で待機させられる。ADの青年、チーフディレクター新島、プロデューサーの星野(神野三鈴)らは、横松を何とか出演辞退させようと画策する。
星野はこの日で現場を去り、アーカイブ室長とかいう閑職に異動することが決まっている。
政権に批判的な彼女の姿勢が政界に疎まれ、経営者側に圧力があったらしい。
一方横松は、元々彼らと同じジャーナリストで、権力を監視する側だったが、次第に取り込まれ、変節し、今では逆に保守派の評論家となっていた。
そして彼は、実は肝臓がんで2ヶ月入院して退院したばかりだった。
星野はそのことを上司から密かに聞いて知っており、実際に今熱のある彼を出演させまいとするが、久々のテレビ出演に張り切っている彼は
どうしても出ると言って聞かない。
星野は彼に、彼がかつて親しくしていた同郷の後輩で自殺した男の話をする。
横松はショックを受けて激しく動揺し、控室から抜け出し、局内をうろつき行方不明に。
皆はクラスターを恐れ、手分けして探し回る騒ぎに。
この夜は横松と革新系の女性評論家萩原との討論が予定されていた。
何とか無事に発見された彼は、予定通りリハに臨むが、途中から急に、いつもと違うことを口走り出すのだった・・・。

18年前の横松の映像が流れる。彼が権力者たちを鋭く批判し、彼らの恥ずべき嘘と欺瞞を暴いていた頃の映像。

まさに今のホッカホカの時局ネタが繰り出され、圧巻。
何しろこの夜の討論のテーマが「現政権のこの4ヶ月の振り返り」だし。
横松は政府の秘密文書を持っているが、それは前政権が日本学術会議の、おっと違った「日本学術アカデミー」の候補者たちを調査させて、政府と反対の意見を
言った者をふるいにかけるものだし。
政権側は6名の学者を任命しなかったことについて、決して彼らの思想信条によって切り捨てたわけではないと言い張っているが、この文書が明るみに出れば、
その噓が暴かれ、内閣はつぶれる・・・。

政治への絶望が日本社会を覆うようになってどれくらいたったのだろう。
困窮している人は多いのに、選挙となると、依然何の変化も起こらない。
一人一人の行動が世の中を変えることができるということを、特に若い人が信じていない。
結局日本人は、株価が下がりさえしなければ、あとは別にどうでもいいのかも知れない・・。
そう言えば昔、エコノミックアニマルとか言われていたっけ。
だがジャーナリズムの責任は重い。
まだまだやれることは多いし、今のような(視聴率ばかりを気にした)報道のやり方を続けていてはいけない。
ジャーナリストには高い志と使命感を持ってほしい。

主題は重いが、笑えるシーンもあちこちにあって飽きさせない。
再度検温しようとするスタッフと横松との攻防とか。
特に、横松が星野に頼んで特別に二人だけでリハをする場面がたまらない。
宛て書きなのだろうか、とにかくB作さんの魅力全開。
そして神野三鈴の的確で表現豊かな演技力。いつもながら声も素晴らしい。
若いひとたちも面白い。
もちろんすべて、脚本の力があるからこそだが。

かつて作者の「歌わせたい男たち」を見たことがある。
戸田恵子主演で、やはり当時大きな社会問題だった「君が代」を扱った時事もので、面白かった記憶がある。
なのに、その後どういうわけか作者の芝居を見て来なかった。残念でならない。
この作品も、三部作の完結編だというではないか。
最初から見ておけばどんなに面白かったことだろう。
実に惜しいことをした。

コメント
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