ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「トロイアの女たち」

2013-01-19 22:35:03 | 芝居
12月17日東京芸術劇場プレイハウスで、エウリピデス作「トロイアの女たち」をみた(演出:蜷川幸雄)。

日本人俳優と、イスラエル国籍のユダヤ系とアラブ系の俳優たちがそれぞれの母語で演じるという大胆な企画。

有名な「トロイの木馬」の奇襲作戦によりギリシャ軍に殲滅されたトロイアの都。残された女たちは悲惨な末路をたどる。
王妃ヘカベは奴隷に、その娘である巫女カッサンドラはギリシャの将軍アガメムノンの愛人に、嫁のアンドロマケは敵将の妻
に迎えられ、幼い息子は城壁からたたき落とされる。一方その美しさが戦争の発端となったヘレネは、元夫であるスパルタ王
メネラオスの前で平然と無実を主張。ヘカベはメネラオスに、ヘレネを殺すよう詰め寄るが、その色香に手を下すことができ
ないメネラオス。無残に殺されたアンドロマケの息子の死に装束を飾るヘカベの背後でトロイアが炎上する。

音楽は声明風。そこに時折槌の音が入る。
王妃ヘカベ役の白石加代子について。うまい役者というのはどんな時もセリフが客席に届くように語れるのではないだろうか。
全幕を通して嘆いてばかりのヘカベゆえ、うつむいたりしゃがんだりすることも多いが、それでもセリフはちゃんと聞こえる
ように工夫して発声してほしい。いやそれ以前に、今回この人、後半になるとセリフが危なくなってきてほんとにヤバかった。

コロスは日本人・ユダヤ系・アラブ系それぞれ5人ずつで構成され、同じセリフを3回繰り返す!こりゃ長くなるはずだ。
それに退屈!!蜷川さんも認めているが、コロスの場面では芝居の流れが完全に止まってしまう。ヘブライ語とアラブ語の
響きや抑揚は興味深いが。

カッサンドラ役のオーラ・シュウール・セレクターが素晴らしい。
アンドロマケ役のラウダ・スリマンは美しく気高い女性を好演。
メネラオス役のモティ・カッツは説得力のある演技で印象深い。
ヘレネ役の和央ようかは・・この人が宝塚の元トップスターって本当なのか?背が高くてモデルのようだが、口を開けば声は
悪いしセリフは聞き取りにくいし、何より男をとろかす肝心の色気がない。完全なミスキャスト。このあとイスラエルでも
上演するようだが恥ずかしい限りだ。この人は、言わば性転換に失敗したってところか。

ラスト、トロイアの都の炎上と共に舞台も客席も赤い光に照らされる。例によって機関銃の音、赤ん坊の泣き声。
蜷川さんらしく、いつもながら視覚重視の舞台。

後半、コロスもヘカベもどんどん危なっかしくなり、観客もハラハラドキドキ。実際何度かセリフがかぶったり詰まったり
した。もう帰りたくなった。3か国語(しかもどれもマイナーな言語)での上演ゆえ、今どのセリフが言われているのか
特にコロスの俳優たちが完全に把握するのは難しい。観客には字幕があるが。
残念ながらこの企画はアイディア倒れだったようだ。

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「地獄のオルフェウス」

2013-01-13 23:52:12 | 芝居
12月12日東京芸術劇場シアターウェストで、テネシー・ウィリアムズ作「地獄のオルフェウス」をみた(tpt公演、
演出:岡本健一)。

アメリカ南部の小さな町に、蛇革のジャケットを着た若い男ヴァルがギターを手に流れ着くと、人々の満たされぬ欲望が
炎となって渦巻く。なかでも情熱をかき立てられたのは、長年愛のない夫婦生活を続けてきたレイディ・トーランス。
ヴァルとレイディが手にした愛と自由は、しかし、差別と偏見に満ちた土地では大きな代償を伴うものだった・・・。

始めの部分で、近所の女たちによって状況説明がなされるが、役者たちのセリフが早口過ぎて聞き取り辛い。いつも書く
ことだが、公演前に、誰かまだこの戯曲を知らない人に、客席に座って聴いてもらってほしい。自分たちはもうよく
知っているから、役者が雑に発声してもちゃんと聞こえてしまうのだ。

変わり者がぞろぞろ出てくる。まず自分で「露出狂なの」と認めるイカれた若い女、警官の妻でエキセントリックな絵描き
の女、ネイティヴの男もよく分からない。

レイディの夫が妻の前で、かつて妻の実家と葡萄園に放火したと言い放つのはなぜか?この男はなぜレイディと結婚した
のか?そこがさっぱり分からない。妊娠し恋人に逃げられた彼女の方は、生きるために中絶して今の夫と結婚した。が、当時
中絶はそれほど簡単なことではなかったと思うが(ここでも陳腐だが婚前交渉が災いした)。

これは、死んだ妻を救いに竪琴を手に地獄へ降りていったオルフェウスの神話をモチーフにした芝居だという。なるほどと
思うが、それにしてもあまりに救いがない。しかも後味が悪い。
1960年にシドニー・ルメット監督、アンナ・マニャーニ/マーロン・ブランド主演で映画化された由。

レイディ役の保坂知寿は声もよく、演技もうまい。
ヴァル役の中河内雅貴も好演。
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オペラ「病は気から」

2013-01-08 17:11:50 | オペラ
11月25日北とぴあ さくらホールで、音楽付きコメディー「病は気から」をみた(作曲:シャルパンティエ、台本:
モリエール、潤色:ノゾエ征爾、演出:宮城聡、オケと合唱:レ・ボレアード、指揮:寺神戸亮)。

病気でもないのに調子が悪い気がする中年男。医者に言われるままにあれこれ薬を飲み、医者を尊敬し過ぎてとうとう
娘を医者の息子と結婚させようとする。これを阻止するために娘や恋人たちが企てたのは、とんでもない儀式。おかげ
でこの男、なんと最後には自分が医者になる!?

これは芝居なのかオペラなのか、頭を悩ますところだ。
フランスの喜劇作家モリエールが最後に書いた傑作喜劇「病は気から」に同時代の人気作曲家シャルパンティエが曲をつけた。
音楽部分と芝居の部分が組み合わされていて、歌手たちが受け持つ場と役者たちが受け持つ場とがほぼ交互に現れる。

筋は単純だが、音楽やら寸劇やらが間に入るし、とにかく盛り沢山でおかしい。
父親が娘と結婚させたい青年というのが、変わり者のノータリンだったり、若い後妻が典型的な財産目当ての女で、家政婦の
機転で彼女が罠にはまり本音を吐いてしまうシーンなど、素朴だが実に楽しい。

歌手には有名な人も多く、外国からの優れた歌手たちもいて、みな素晴らしい。
役者たち(SPAC静岡県舞台芸術センター)は知らない人ばかりだが、これがみなうまい。

演出も潤色も非常によい。日本の聴衆向けに、実に分かり易くされている。例えば人物名だが、長女アンジェリックをアンジに
したり、大活躍する家政婦トワネットをトットにしたり、と言い易い。アンジの恋人クレアントはなぜかケロッグだが・・。
覚えてもらい易いため?
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