ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ゴールドマン作「冬のライオン」

2010-01-27 17:44:23 | 芝居
1月15日東京グローブ座で、ジェームズ・ゴールドマン作「冬のライオン」を観た(高瀬久男演出)。

知らない作者の知らない作品だったが、麻実れい見たさに出かけて行って驚いた。
「1968年アカデミー賞3部門受賞、ブロードウェイでも繰り返し上演されてきた歴史ドラマの名作」というチラシの文句の通り、ストーリーの面白さ、
構成の緻密さ、人間性の捉え方の深さ等々に圧倒された。

ヘンリーは元フランス王妃だったエレノアとの結婚によって広大な領地を手に入れ、イングランド国王ヘンリー二世となったが、三人の息子をもうけた後、彼の愛は別の女たちに移り、エレノアは幽閉されてしまう。今彼の寵愛を受けているのはフランス皇女アレーだ。

三兄弟はそれぞれ親の愛を求めている。母に愛される長男は父の愛を欲しがり、父に愛される三男は母の愛を求め、どちらからも愛されてこなかった次男は時にひがんで見せながらもまだ両親の愛をすっかり諦めてはいない。

何よりもまず平幹二朗と麻実れいのセリフ回しと声が素晴しい。

権謀術数の数々、陰謀、腹の探り合い。7人の登場人物がそれぞれ手を組んだかと思うと離れ、いやもう目まぐるしい。愛憎を巡る重苦しい話なのに、コミカルな場面も多い。作者はサービス精神も旺盛のようだ。

王妃エレノアの部屋のシーンでは、正面の壁にフランス、バイユーの有名なタペストリーが掛かっている。元フランス王妃だった彼女の部屋にふさわしいが、つい4ヶ月ほど前、実物を見て来たばかりなので驚いた。うんと拡大してあるが、その柄といい地の色といい実に美しい(美術:堀尾幸男)。

音楽(永田平八)はシンプルだがセンスがいい。12世紀の物語にふさわしく、大太鼓の刻むリズムにフルートの旋律を乗せるなど、素朴な感じが出ていた。

皇女アレーは一途だが、ただの一途なだけの女ではなく、賢い。アレー役の高橋礼恵は声もよく可憐な姫を好演。この人を以前観たのは何しろ三島の「サド侯爵夫人」のルネ役だったので、今回ちょっと目を見張らされた。役者ってすごいと改めて感心。

若きフランス王フィリップ二世役の城全能成は、いつもながらの美声と明快な演技を見せる。
三男ジョン役の小林十市は、元バレーダンサーらしく軽快な身のこなしで、少々思慮の足りない末っ子を演じた。このジョンが、のちのヘンリー六世やリチャード三世たちの先祖となるのかと思うと感慨深い。

小田島雄志の訳は流麗で美しい。しかもそれを麻実れいの声で聴ける喜び!その声と美貌と存在感には相変わらずしびれてしまう。

昨年1月にはリチャード三世(15世紀)を観、秋にはヘンリー六世(同)を、そして今回ヘンリー二世(12世紀)とだんだん時代がさかのぼってきた。それにしても英語圏にはいい戯曲が多いと改めて思った。
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オルフ「月を盗んだ話」

2010-01-18 19:25:05 | 音楽劇
1月14日新国立劇場小劇場で、カール・オルフ作曲の音楽劇「月を盗んだ話」を観た(札幌室内歌劇場、訳詞・編曲・芸術監督:岩河智子)。

グリム童話を原作に、「カルミナ・ブラーナ」で有名なオルフが自ら台本を書き、1幕の愉快なオペラにした。彼独特のリズムが快い。時々カルミナを思わせる所があって楽しい。特に地底で死者たちが浮かれ騒ぐ場面の音楽が面白い。

語り手役の萩原のり子を始め、歌手はレベルが高い。コミカルな演技もいい。
演出(中津邦仁)も巧み。
衣裳は、語り手と子供たち以外は全員白に統一されていて快い。

岩河智子という人は、「魔笛」でザラストロをあくまでも悪者として描いたり、セリフに全部メロディをつけたり・・などという大胆な試みをしてきたそうだ。
最初に出てくる4人の男たちを女たちに変えたことで、ずい分雰囲気が変わったことだろうが、こういう風に変えることは好ましいと思う。舞台にまず登場し、行動を起こすのはたいてい男なのだから、いつまでもそれではありきたり過ぎる。

切れのいい演奏も上質。

全体に、札幌室内歌劇場の総合的なレベルの高さに感銘を受けた。
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無名塾「マクベス」

2010-01-09 09:54:39 | 芝居
先日テレビで、‘09年10月上演の無名塾公演「マクベス」を観た。

「上演台本:隆巴」とのこと。訳は小田島訳を使っているが、自由にカットしたり付け加えたりしている。

チェロの生演奏付き。

舞台奥の扉が開けられると、その奥に呼び物の広々とした野原と森が見え、客席からは拍手が。確かにこれは見ものだ。

マクベスは仲代達矢。ひょっとして史上最高齢のマクベスではないだろうか。ギネスブック級。どう見てもダンカン王、いや一番近いのはリヤ王だ。初めて登場した時から疲れたような、どこか呆然とした様子で、とても勇猛果敢な武将には見えない。残念ながら口元も覚束無く、セリフも早口ではしゃべれない。こんなマクベスは初めてだ。

池辺晋一郎の勇ましい音楽が、武人たちのシーンで流れる。
それはいいが、マクベスの独白の時、同時にチェロが弾かれるのはどうか。曲は美しいしセンスもいいが、いちいち重く、情緒的過ぎて、押し付けがましい。急流を一気に下っていくような、この芝居のスピード感が損なわれる。

マクベス夫人役は若村麻由美。メイクでだいぶ印象が違う。途中まではうまいと思ったが・・・。

衣裳では、夫人の青いドレスが美しい。ダンカン王暗殺直後、武人たちは白くて長い寝巻き姿で集まってくる。侍女たちの服装の色の取り合わせがいい。

ダンカン王殺害後、二人は血まみれの手を高く上げて抱き合うので、見ているほうは血が服につかないかとハラハラしてしまう。ちょっとでも血がついたら間違いなく怪しまれ、計画はオジャンなのだから。ここで無理して抱き合うことはないのに。

バンクォー殺しの場は様式化されている。フリーアンスはすぐに逃げずにしばらくじっとしているし、バンクォーは歌舞伎っぽい発声と所作。不自然だ。

王の宴会の場。照明が時々消え、その間にバンクォーの亡霊が出入りする。
「おれたちはまだ青いな」でなく「おれは・・」とマクベスは言う。しかもこのセリフで暗転してしまうのはどういう訳か。

マクダフ夫人は夫がイングランドへ行った、と聞き、「イングランドへ?」と驚く。どうしてわざわざ不自然にセリフを変える必要があるのか。たぶん分かり易くしたつもりなのだろう。子供は二人いて、セリフも分け合う。三人いっぺんに殺される。

イングランドで王子マルコムは、何と女と戯れている!その後の「実はまだ女を知らない」というセリフもカット。この辺いいとこなのに他のセリフもだいぶカットされている。なぜ高潔な王子を貶める?これはもはやシェイクスピアではない。「翻案」と言ってほしい。隆巴、一体何を考えていたのか。

マクベス夫人狂乱の場。不自然な発声と仕草、動きが多い。ここで重要なことは、彼女が罪の意識に脅えているということなのに、それが伝わってこない。ただ美しく踊るように演じるばかりで精神性のかけらもない。

医者はもっと恐ろしそうに話すべきだ。しみじみと笑いながら言ってどうする。どうもこの医者、事の重大さに気づいていないようだ。

主役はなかなか死なない。階段をどんどん登って、またどんどん降りて、しまいにこちら向きに座ったところをマクダフが後ろから刺し殺す。それはないだろう。彼はそんな卑怯な奴ではない。戦場でマクベスの後ろ姿を見つけた時、彼は「こっちを向け!」と言ったではないか。
それに死ぬのにこんなに時間をかけるくらいなら、セリフのカットをもっと減らしてほしい。

というわけで、新年早々注文の多い?文章になってしまった。



コメント (2)
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