ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

2022年の芝居を回顧して

2022-12-31 20:06:37 | 回顧
今年見た芝居は37コ。ようやくコロナ禍以前に戻ったよう、いや、それどころか、かつてないほどたくさん見た年でした。
中には見なきゃよかった、と腹立たしい思いにかられたものもいくつかありますが・・。
その中から特によかったものを選ぶのは骨の折れる作業でしたが、何とか14コに絞りました。
すでに有名なもの、定評のあるものは、敢えて除外しました。
ではいつものように、特に印象深かった舞台を、見た順に挙げていきます。(カッコ内は特に光っていた役者さんです)




  理想の夫  オスカー・ワイルド作       演出:宮田慶子  新国立劇場演劇研修所修了公演
             ※ ワイルドがこんな戯曲を書いていたとは。実に面白いし、興趣尽きない。研修生たちも好演。 

  レストラン『ドイツ亭』 アネッテ・ヘス作   演出:丹野郁弓 脚本:長田育恵 劇団民藝+てがみ座公演
             ※ 戦後ドイツの複雑な状況が少し分かってきた。戯曲としても素晴らしい。

  薔薇と海賊        三島由紀夫作    演出:大河内直子 東京芸術劇場シアターウエスト (霧矢大夢)     
             ※ おとぎ話。最初は普通の芝居のように始まるのに、ラストは面食らった。三島由紀夫の多面性を改めて感じる。
      
  冬のライオン      ゴールドマン作     演出:森新太郎   東京芸術劇場プレイハウス (高畑淳子)
             ※ 麻実れいと平幹二郎版が決定版だと思っていたが、高畑淳子と佐々木蔵之介版も実に面白い!戯曲が傑作だし何度見ても素晴らしい。

  ピローマン       マーティン・マクドナー作 演出:寺十吾   演劇集団円公演 俳優座劇場   
             ※ ひたすら怖いが謎解きの要素もあり、迫力ある展開に目が離せない。マクドナーの生い立ちが改めて気になる。役者はみな好演&熱演。

  ロビー・ヒーロー   ケネス・ロナーガン作     演出:桑原裕子    新国立劇場小劇場 (中村蒼)
             ※ 優れた劇作家に出会えた。演出もいい。

  黒塚~一ツ家の闇   わかぎゑふ脚本・演出      流山児★事務所公演   下北沢 ザ・スズナリ          
             ※ 歌舞伎や能に疎いので全く知らない世界だったが、ゑふさんのお陰で新しい世界が開けた。殺陣は見応えがあり、役者はみなうまい。

  恭しき娼婦     ジャンポール・サルトル作          演出:栗山民也     紀伊國屋ホール (奈緒、金子由之)
             ※ 米国が舞台。サルトルは劇作家としても超一流。

  ザ・ウェルキン   ルーシー・カークウッド作     演出:加藤拓也、シスカンパニー公演、 シアターコクーン (大原櫻子)
             ※ ただもう大原櫻子の演技に圧倒された。女優12人の競演も見応えあり。

  評決        バリー・リード原作 脚色:マーガレット・メイ・ホブス 構成・演出:原田一樹 劇団昴公演    俳優座劇場
             ※ 法廷もの。ベストセラー小説が原作だけに、非常に面白い作品。

  加担者       デュレンマット作 演出:稲葉賀恵 オフィスコットーネプロデュース   (外山誠二)
             ※ デュレンマットは「貴婦人の来訪」しか知らなかったので、驚いた。

  住所まちがい    ルイージ・ルナーリ作  上演台本・演出:白井晃            (仲村トオル)                
             ※ 不条理劇だがとにかく楽しい。膨大な量のセリフと格闘した3人の男優さんたち、お疲れ様。

  検察官       ニコライ・ゴーゴリ作  演出:ペトル・ヴトカレウ   俳優座劇場    (田部圭祐)
             ※ モルドバ共和国の演出家の手にかかるとこんな風になるのかと胸を打たれた。独創的で魅力的。

  建築家とアッシリア皇帝  フェルナンド・アラバール作   上演台本・演出:生田みゆき シアタートラム  (成河、岡本健一)
             ※ ファンタジーだが、二人の名優の熱演がすこぶる楽しかった。

この他、印象に残った役者さんたちは次の通り。

  安藤みどり(田中千禾夫作「京時雨濡れ羽双鳥」「花子」)
  秋山菜津子(デュレンマット作「貴婦人の来訪」)
  要田禎子(リンゼイ=アベアー作「ラビットホール」)
  坂井亜由美(同上)
  賀来千香子(井上ひさし作「吾輩は漱石である」)

今年は久々に、賞を送りたい役者さんたちがいます。

  最優秀女優賞:大原櫻子(「ザ・ウェルキン」)
  最優秀男優賞:外山誠二(「加担者」)、田部圭祐(「検察官」)

さて、今年も拙い文章を読んで下さってありがとうございました。
こうして自分の感想を発表する場があること、読んで下さる方々がおられること、たまに賛同してくださる方々がおられることが、
どれほどありがたく、また励みになっていることか。
  どうか、今後ともよろしくお願いいたします。        



        



       


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「ショウ・マスト・ゴー・オン」令和版

2022-12-26 23:23:55 | 芝居
12月20日、世田谷パブリックシアターで三谷幸喜作「ショウ・マスト・ゴー・オン」を見た(シス・カンパニー公演、演出:三谷幸喜)。



ネタバレあります。注意!
何とこの日も立ち見客の姿が!そして場内アナウンスは、まさかの劇作家本人が!

この芝居は、1994年の東京サンシャインボーイズによる公演を、2010年にテレビで見たことがある。
その時は、西村雅彦が舞台監督役をやり、座長(主演男優)役は佐藤B作さんだった。
今回のは三谷さん自身が書いているように「令和の時代に合わせてリニューアル」されており、大枠だけ同じで、中身はだいぶ違っていた。

幕が開くと、プロコフィエフの「ロミオとジュリエット」が重々しく流れる中、本番を控えた楽屋はてんてこ舞い。
この日、スタッフが何人か急に来られなくなり、舞台監督(鈴木京香)は代わりの人を手配したり、芝居の内容を一部変えたり
可能な限り手を尽くす。
舞台監督が男性から女性に変わっただけでも雰囲気がだいぶ違う。
小道具のマクベスの首の張りぼては、今回も重要なモチーフ。
その他のモチーフとしては、マラカス、松の木、大太鼓、差し入れのドーナツ、ダルマ弁当と赤いリンゴ、注射、ジャンヌ・ダルク・・・。
この劇団の主演男優(尾上松也)はマクベス役だけでは飽き足らず、マクベス夫人も敵役のマクダフも自分がやると言い出し、誰も反対できなかったらしい。
演目は、シェイクスピアの「マクベス」を劇作家(今井朋彦)が翻案したもののようだが、彼の台本は、元の形をとどめないほどに変えられていた。
それを知った彼が「私の名前は削ってくれ」と言うと、「もう削ってあるみたいですよ」と言われる。
あわててプログラムを見ると、確かに台本のところに主演男優の名前が書かれ、その後に「スペシャルサンクス」として自分の名前が書かれていた・・(笑)
この騒動の中、若いスタッフの父親、薩摩弁の大男、老医師、女性社長などが入り乱れ、楽屋はますます混乱してゆく。
音楽は荻野清子のピアノと、マラカスなどの打楽器の生演奏も。

シルビア・グラブが劇中劇の魔女と兵士の役を務める女優役。
兵士としてマクベスに「お妃様がお亡くなりに」と伝える場面の後、舞台監督に、(主演男優の調子が悪くて)次に進めないから場をつないでくれ、と言われ、
困った彼女は「生き返られた!奇跡だ!」「今夜は祝いじゃ・・・」と言い出す。当然、あちら側にいるはずの観客は「引いている」。
しばらくして舞台監督が「もう大丈夫、先に進んでいい」と伝えると、また「大変だ!お妃様がお亡くなりに・・・」
こうして彼女は舞台監督の指示に従って即興で言葉を紡いでいく。
「祝いの宴には何がいいかな、お妃様はまだ治られたばかりだから何か柔らかいものがいい、そうだ、酸辣湯(サンラータン)だ・・」などと続ける声が
舞台の方から聞こえてくる。こちらの客席は大喜び。

この劇団は主演男優と女優と門番役を降ろされて出番を失った男優の3人しかいない。
あまりにリアリティに欠けるが、ま、いいか。
裏方の方がはるかに大勢いるが、バックステージものだから、ま、いいか。
他の劇団員たちはどこか見えないところにいるのかも知れないし。

先日終わったばかりの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」に出演していた俳優たちが大勢出ているのだから、立ち見が出るのも当然だろう。
何しろ尾上松也と鈴木京香とシルビア・グラブという京都側の主要な人たちがいるし、鎌倉側の新納慎也、小林隆、浅野和之、秋元才加もいるし。
まさに「三谷組」総出演の様相を呈している。
しかも日頃の憂さを晴らすのにぴったりの「爆笑喜劇」だと評判の芝居なのだから。
ただ、削った方がいいところもある。
最初の方のネコの一件(警備員がネコを探しに来たり、3人の警備員が子猫たちを抱いて登場したりする)は、まったくない方がいい。
主演男優がわがままだったり子供みたいなところがあったりするのは、ハーウッドの「ドレッサー」に似ている。

28年前の公演では登場する女性が2人しかいなかったが、今回は7人に増えて、しかもそれぞれが、ちゃんと個性的だ。
三谷さんは「女性が書けない劇作家」と言われたことがあるらしく、それを気にしているようだが、全然そんなことはない。
例えば劇団チョコレートケーキの座付き作家・古川健氏と比べたら、はるかにうまく女性を書き分けている。
その点は、もっと自信を持っていいと思う。

ただし、そんな三谷さんにも注文がないわけではない。
今回、笑いたいお客が笑いを期待して来ている。彼らは隙あらば笑おうと身構えている。
だが、それに甘えてはいけないと思う。
「開幕して3分で笑いが沸点に達し、そのままラストまでずっと煮えたぎっている」と三谷さんは書いているが、どうだろうか。
それはちょっと自分に甘過ぎるのでは?
実際にはさほど面白くない場面もあった。
人数が多過ぎて、人物紹介のセリフが早口になり、観客の方の消化が追いつかない面もあった。
ま、こういうことを書くのも三谷さんに期待すればこそなので気を悪くしないでほしい。

ラストはほろ苦い大人の味わい。
28年前の公演の時もそうだったが、今回も役者さんたちは、みな楽しそうに演じていた。
見ているこちらにも、その喜びが伝わってきた。


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「建築家とアッシリア皇帝」

2022-12-07 23:24:32 | 芝居
12月6日、世田谷パブリックシアターで、フェルナンド・アラバール作「建築家とアッシリア皇帝」を見た(上演台本・演出:生田みゆき)。




絶海の孤島に墜落した飛行機から現れた男は自らを皇帝(岡本健一)と名乗り、島に先住する一人の男を建築家(成河)と名付けて、
近代文明の洗礼と教育を施そうとする。お互いの存在を求め合いながらも、ぶつかりあう二人。そのうち二人は、いろいろな人物の役を
演じはじめ、心の底にある欲望、愛憎、そして罪の意識をあからさまに語り出す。その行為はやがて衝撃的な結末を生みだすきっかけになっていく・・・(チラシより)。

ネタバレあります!注意!
休憩をはさんで2時間50分という長さ。
会場には立ち見客が!こんなの見たのは何年ぶりか。SNSで評判が広まったのだろう。

冒頭、成河が島にいると、雷が落ち、飛行機が墜落する轟音が響く。舞台には段ボールがいくつもあり、彼はその一つを頭にかぶる。
岡本健一が来て、「助けてください!私はたった一人の生存者です!」と言うと、成河が箱から顔を出し、何やら未開人風の言葉を発し、逃げるので、
岡本は彼を追いかけ回す。暗転。
明るくなると、そこは2年後。岡本は成河に言葉を教えたので二人は会話できるようになっている。
岡本は世界のことを話す。自分がアッシリアの皇帝で、等々。
彼は成河に文明社会のことを教えてやった。SNS にコカ・コーラに SDGs ・・・(笑)。
二人はさまざまな人物に扮して芝居をするようになる。岡本の母、女奴隷たち・・。
成河は驚くべき力を備えている。何やら呪文をとなえて昼を夜に変えたり、鳥に頼んで水を持って来させたり、蛇に頼んで子豚の丸焼きを持って来てもらったり。
遠くの島を動かすこともできる。
岡本の母は彼を憎んでいた。いや実際のところ彼の方が母親を憎んでいたと言うべきか。
彼には妻がいたが、その結婚も、妻によれば、彼が母親を困らせるためにしたことだという。
岡本は裸になり、小屋にこもる。成河が「出て来いよ」と言っても出て来ない。
彼を小屋から出そうとして、成河は「女が来た」と言い、その女といい感じになってるとこを一人芝居して岡本の気を引こうとする(それがメチャおかしい)。
だが岡本は出て来ない・・。

ある日、成河はカヌーを作って別の島へと出て行く。岡本が止めるが、聞かない。
一人になった岡本は、自分の服を棒に着せ、裸になり、女の黒い下着をつけ始める。
そうして、かつてやったルーレットのことを皇帝陛下に向かって話すのだった。
それは、彼が勝利したら神が存在することの証明になるという奇妙な賭け事だった・・。

岡本はふと、成河は一体いくつなんだろう、と思い、彼が年に一度、髪を切っていたことを思い出す。
成河が切った髪を入れた紙包みを岡本が数えてみると、千個以上あるので呆然となる。
その時、上空に成河がヘルメットをかぶって登場。
「お前、何歳なんだ?」「わかんないよ。1500か2000かな」(!)
そこでカルミナ・ブラーナの運命の曲が響き渡って幕。

  休憩中、何と成河が舞台上に散らばった紙を黒いゴミ袋に入れて片づけ出した。お客も気がついて笑い出す。

<2幕>
岡本と母親との関係が次第に明らかになる。
彼の母は、ある時から行方不明になっていた。
成河は裁判官の仮面をつけ、岡本を母親殺しの容疑で裁く裁判を始める。
岡本の妻、弟、母の友人、偶然通りかかった酔っ払い・・が次々と証人として発言する、と言っても、彼らはみな岡本自身が扮するのだった。
弟によると、岡本は15歳の時、10歳だった弟を風呂場で性的虐待したという。
彼の母親は「いつか息子に殺される」と言っていた、と彼女の友人は証言する。
そして実際その通りになったらしい。
岡本は成河に、死刑にしてくれ、と言う。
成河は、もう裁判のお芝居はやめよう、と言うが、岡本は聞かない。
そして「ハンマーで俺の頭を打って殺してほしい、その後、俺の体を食べてほしい」と言い出す。
成河は戸惑いつつも、言われた通りにする。
メモが小屋にあり、「俺を食べる時は母の服を着てくれ」とあるので、成河はあわてて岡本の荷物の中から母の服を取り出し、
コルセットと赤い胸当てをつける。(岡本を打ち殺すシーンはない)
ナイフとフォークを持ち、まず足を切ろうとするが、硬くて切れない。のこぎりでもダメ、斧でやっと切れる。
こうして足を食べ始め、次に頭に穴を開け、脳みそをストローでチューチュー吸う。
こうして成河は岡本の脳を自分のものにしたが、その後、自分の話し方が岡本のようになったのに気づく。
と同時に、動物や自然を操ることができなくなっていた。(命令口調になっちゃったし)
成河は死体を置いた台の向こう側に死体を落とし、自分もそちら側に行く。
しばらくすると、同じ服を着た岡本が登場!
さらにしばらくすると、雷が鳴り、飛行機が墜落する爆音が。
岡本が段ボールを頭にかぶると・・・冒頭の岡本の服装をした成河が登場!
「助けてください。私はたった一人の生存者です」
すると岡本は何やら未開人ぽい言葉を発して逃げ、成河が彼を追い回すのだった・・・(!)

奇妙な味わいのおとぎ話のような作品だが、二人の名優の熱演のお陰ですこぶる楽しいひと時だった。
何と言ってもキャスティングが素晴らしい。
まるで二人に宛て書きされたかのようだ。
演出も面白い。
上演台本もいい。絶海の孤島に一人住む男にSDGs を教えるって一体・・・実におかしい。
小鳥に水を持って来て、と頼むと、鳥がペットボトルの水をくわえて来たり、学芸会のような楽しさがある。
ただ、途中で波の上に戦車が見えたのは何だったのか。

音楽は名曲のオンパレード。カルミナ・ブラーナ、ヘンデルのオペラ、モーツアルトのレクイエム、ヴェルディのレクイエム・・・。

少し冗長なところは削ってもよかったかも。
チラシによると、作者はスペインに生まれ、フランスに移住した人で、これはフランス語で書いた代表作で衝撃的な問題作とのこと。
「1967年のパリ初演から55年を経た今でも色褪せない、残酷で倒錯的な世界・・」とあるので少々怖気づいたが、
実際に見てみたら心配したようなことはなかった。
たぶん、死体を食べるシーンがあるのが「残酷」ということなのだろう。

開場前にロビーで松岡和子さんを発見!
こんなに近くで拝見するのは初めてで、いささか興奮した。





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