ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「芭蕉通夜舟」

2024-10-29 22:56:20 | 芝居
10月15日紀伊國屋サザンシアターで、井上ひさし作「芭蕉通夜舟」を見た(演出:鵜山仁)。



内野聖陽の、ほぼ一人芝居。
彼の他に男女4人が、他の役を適宜演じつつ進行する。
芭蕉19歳からの一代記。
彼は弟子たちに囲まれていたが、実は一人でいるのが好きだったとか、知らなかったこともあり興味深い。
便秘に悩み、「人生50年のうち、25年は雪隠にいる」と弟子たちに嘆いたとか。
雪隠をくるっとひっくり返すと文机(文箱)になるのがおかしい。
旅に出る時も、それを背中にしょって出かける。

内野は声を変えて何人もを演じ分ける。相変わらず達者なもの。
ただ、まったく面白くない場面もいくつもあって残念。
これは役者や演出家のせいではなく、原作のせい。
観客はみな、笑ったり泣いたりしたくて待ち構えているが、いくら演出家が頑張っても台本自体に問題があるから
うまくいかない。
それに加えて、この日、内野は時々危なかった。
この人は本来うまいはずだが、最近忙し過ぎるのか。しっかりしてほしい。
興が醒めてしまう。

自然の中に潜む「宇宙意志」を感じる芭蕉。
19歳の時は料理人で、俳句もやる、というただの若者だったが、主君が亡くなり・・・。
最初は駄洒落が好きで他の俳諧師たちに馬鹿にされていたが、談林が流行り出すと、にわかに流行の先端を行くようになった・・。

評伝劇だから仕方ないのかも知れないが、ヤマなしオチなしだった(イミなしとは申しません)。

脇を固める女性2人がうまいと思ったら、1人はあの小石川桃子だった。
今年3月、「アンドーラ」で主役の青年アンドリを演じた人。
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「リア王の悲劇」

2024-10-18 23:09:38 | 芝居
10月3日 KAAT 神奈川芸術劇場で、シェイクスピア作「リア王の悲劇」を見た(翻訳:河合祥一郎、演出:藤田俊太郎)。





フォーリオ版での本邦初の公演。その楽日を見た。

冒頭、赤ん坊の泣き声がする。女が赤ん坊を抱いて登場。リア王と家来たちが来て彼女を見ると、女は子供を抱いたまま去る。
家来の一人がリア王に王笏と王冠をぶっきらぼうに渡す。
これは何?こんなシーンないでしょ?違和感が募る。早くも嫌な予感が・・。

音楽(宮川彬良)はカッコイイ。
1幕1場(グロスター伯爵がケント伯爵に庶子エドマンドを紹介する場面)は無い。
舞台の背後に古代ブリテン王国の地図。
「地図を持て」と王が命じるのに誰も持って来ない。
バーガンディ公爵とフランス王は最初からそこにいる。実に変だ。
この二人がすべてを目撃していたのなら、コーディーリアの身に何が起こったかもわかっていたはずだ。
ケント伯爵(石母田史朗)が王(木場勝己)に進言すると、王は「わしに向かってため口か」と言う。
ゴネリル役の水夏希とリーガン役の森尾舞がうまい。

エドマンド(昌平)はジャングルジムみたいなものの上にいる。
手紙は羊皮紙みたいなの。
グロスター伯爵を伊原剛志が演じる。
エドガーを土井ケイトがやるというので、彼女が男の役をやるのかと思ったら、そうではなくて、エドガーを何と女にしてしまっている!
青いワンピース風の服にアクセサリー。長い髪。
これには驚いた。
だが、それでいいのか。
当時、遺産は嫡男がすべてを相続することになっており、娘は相続できない。
では息子がおらず、娘しかいない場合、どうしたか。
娘は未婚のままでは財産を相続できないが、誰かと結婚すれば相続できた。
だからコーディーリアの婿選びが財産分与と同時に行われるのだ。
エドガーが嫡男でなく長女だったら、エドマンドが嫉妬することもないはずだ。
彼は自分が私生児で庶子だから、父グロスター伯爵の財産をもらえないことを恨んでいるのだから。
エドガーが姉だったら、エドマンドは長男として、父の財産を全額もらえるわけだから、陰謀を企む必要もないでしょう。
エドガーを女にするという奇天烈なアイディアがどうして出て来るのか、まったく理解に苦しむ。
責任者出てこい、と言いたい。
エドマンドが何度か「姉上」と言うので、「兄上」のはずなのに、この人滑舌が悪いのか、と思っていた(笑)。

リアが道化(原田真絢)を待っていて、道化が登場すると、音楽に合わせて家来たちもみな歌って踊る。
道化が王に向かって皮肉を言うと、みんな一緒になって笑う。
でもここは王が道化と二人っきりの方がいい、と思う。

嵐。最前列の席だったので、半ば狂ったリアと、狂人に化けたエドガーとのひそひそ話が聞こえた。
「キンチョール」とか「「フマキラー」とか(笑)。
王をドーバーにお連れするところで休憩。

<2幕>
狂ったリアは、エドガーが途中で変装のためにかぶった白い帽子を「この帽子いいねえ。阿呆の帽子より・・」と言いかけ、
阿呆(道化)のことを思い出し、「阿呆、阿呆・・」と呼ぶ。

ゴネリルは陰謀がばれると短剣を出して夫を殺そうとする!
ゴネリルとリーガンは、最後に舞台に出て来て、ドッと倒れて死ぬ。分かり易い。
ラスト、王はコーディーリアを車椅子に乗せて登場。

~~~~~~~ ~~~~~~~

リア王役の木場勝己が素晴らしい。
彼は、今までよく井上ひさしの戯曲で説教臭いことを言う役柄だったので、そのイメージが強くて特に期待していなかったが、
今回、彼のリア王が見られて本当によかった。
コーディーリアと道化を演じる原田真絢も好演。
この二つの役を同じ役者が演じるのは、外国では時々あるようだが、実際にナマで見たのは初めて。

翻訳はよくない。
エドマンドの最後近くのセリフ「愛されていた」を「モテたんですよ」はないでしょう。
現代風にしたつもりだろうが、あまりに軽い。
ここのセリフには、彼の鬱屈した思い、愛されることへの意外な渇望が見えて(悪人ではあるが)胸を打つのだ。
その辺のことがまるでわかってない。ぶち壊しだ。
「王に向かってため口か」も嫌だ。ケント伯爵は命懸けで王の行為を止めようとしているのに、
ここも軽過ぎる。

結局このフォーリオ版が上演されなくなったのは、やはり感動が薄いからだと言えるのではないだろうか。
1幕1場もやっぱりあった方がいい。


   






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「広い世界のほとりに」

2024-10-11 22:47:44 | 芝居
10月2日あうるすぽっとで、サイモン・スティーヴンス作「広い世界のほとりに」を見た(劇団昴公演、演出:真鍋卓嗣)。



英国マンチェスター郊外のストックポートで暮らすホームズ家の物語。
家の修理工ピーターと妻アリス、彼らの二人の息子、そしてピーターの父と母。
ピーターの長男アレックスに恋人ができ、そのことに15歳の弟の胸はざわめく。
また、ピーター夫婦とその父母たちは小さな不満を感じながら生活している。
そんな時、ある事故をきっかけに家族それぞれの思いがすれ違っていく。
結びつきを失った三世代の家族の再生を描く(チラシより)。

その初日を見た。
18歳の長男アレックス(笹井達規)が、彼女サラ(賀原美空)を連れて実家に帰る。
両親に会う前に、15歳の弟クリストファー(福田匡伸)が会いたいと言うので、3人で会う。
クリストファーはサラに一目ぼれしてしまう。
アレックスがタバコを買いに行っている間二人きりになると、「キスして」と言い出す。驚くサラ。
みなよくタバコを吸う。
父母はサラに良い印象を持つ。
クリストファーは祖父母宅に行き、祖父チャーリー(金尾哲夫)のカードマジックを見て感心する。
彼はサラにプレゼントを買うため、祖父から5ポンドもらう。
何に使うのか聞かれて答えると、祖父は「アレックスがプレゼントするのが普通じゃないか?」
「そうなんだよね」自分でも分かっているらしい。
父親ピーター(江崎泰介)にも直接言う。「サラのことが好きだ」
父「お前、一度しか会ってないだろう」「うん、おかしいよね。狂ってるよね」
うーん、この子は・・どうしたものか。
サラとアレックスが実家に泊まると、彼は夜、sexの音がするかどうか壁にコップを当てて耳をそばだてる。

二人は町を出てロンドンに2~3年住む計画でいるが、もう月曜の切符を買ってあるというのに、アレックスはまだ親に言っていない。
それを知ってサラは怒り出す。
アレックスがようやく母親アリス(落合るみ)に伝えると、思った通り母は怒り出す。
特に、自分に話す前に、すでに切符を買ってあると聞いて。

祖父は常に酔っている。
ある日、妻エレン(姉崎公美)に食ってかかり、もみ合いになり、彼女が床に倒れたところにクリストファーが来る。
クリストファー「おばあちゃんを殴ったの?!」
二人は否定して取り繕うが、クリストファーはショックを受け、「おじいちゃんなんて腰抜けだ!クソだ!」と吐き捨てて去る。
彼は兄と父にもこのことを話したらしい。

アレックスは何とか母をなだめ、二人は両親に見送られて出発する。
アレックスは母に「今夜電話するよ」。

ピーターは家の内装や修理の仕事をしている。
スーザン(舞山裕子)という女性の家で改装工事を請け負う。
彼女は妊娠中で、場面が進むにつれて、少しずつお腹が出てくる。
ピーターは彼女に「次男が事故死した」と話す。
「人に話すのは初めて」と言うが、我々観客もびっくり。
あの子が、あっけなく死んでしまったのか・・・。

<休憩>

サラはアレックスとけんかして出て行く。
アレックスは実家に戻り、母アリスは喜ぶ。
彼女は「もうどこにもいかないで。ずっと私の目の届くところにいて」と言い出す。
(この人狂ってる!)
アレックス「それは無理だよ」

エレンが息子の家に来て嫁のアリスに会う。
夫が癌だと言われた、と言うのでアリスは同情する。
「あなたは大丈夫なの?」「ええ、私、また働くことにしたんです」「それがいいわ」
と、そこまではよかったが。
話は微妙にそれて行き、「ピーターにもっと優しくしてほしいの」「ピーターは私の息子よ」
「これまであなたのピーターに対する態度を見てきたけど・・」と、姑は言いたい放題。
ついにアリス「出て行って!」

入院中の祖父をピーターが見舞う。
彼の浮気について尋ねる。エレンを殴ったことも。

スーザンは仕事中のピーターにマンゴージュースを渡そうとするが、その前に、なぜか自分で一口飲んでから渡す。

サラはアレックスのところに戻る。
「謝ってほしくて来た」
二人はまた缶ビールを飲む。
アレックスの友人ポール(赤江隼平)は彼らの家に放火し、捕まって刑務所にいるという。
二人は仕事も見つからず(うまく行かず?)、アレックスの実家に戻って来る。

働き始めたアリスが、ある日、会社を出ると、若い男が待っていた。
彼はクリストファーを車ではねたジョン(須々田浩伎)だった。
彼はしきりに謝るが、アリスは聞く耳を持たない。
しまいに彼は、自分の電話番号を書いた紙を無理矢理彼女の手の中に押し込んで去る。

次の場面で二人はコーヒーか何かを飲んでいる。
ジョンは自分の専門の数学の美しさについて語り、アリスは楽しそうに聴いている。
二人は再会を約束する。
二度目には、ジョンの部屋で二人は赤ワインを飲んでいる。
アリスは手料理をご馳走になったらしい。
アリスは夫と出会った時のこと、まだ17歳の高校生で、成績でA を取って大学に行くつもりだったけど、
数回デートしたら妊娠。
いったんは中絶することにしたが、ピーターがプロポーズし、結婚して大学は諦めた。
アリスは次男クリストファーが「そんなに好きじゃなかった」。
「あんなことになって、自分のせいかと思った・・・」
ジョンはアリスにタバコを勧め、アリスは「夫に知れたら・・」と言いつつ吸う。
ジョンが彼女に迫ると、彼女は歯ブラシを借りて歯磨きする。
その姿を見た彼は早合点し、勇んでネクタイをはずしてシャツを緩めるが、アリスは彼を振り切って帰宅。

ピーターは仕事が終わり、スーザンから小切手をもらう。
彼女は丁寧に感謝の言葉を述べ、彼の腕を触る。
(この人も変だ。夫との仲は大丈夫なのだろうか)

祖父はアレックスに、子供の頃、父だか祖父だかによく殴られた話をする。
暴力は連鎖する、と言いたいのだろう。
アレックスもそれを聞いて、少し祖父のことがわかってくる。

ピーターは妻アリスが浮気していると疑っている。
酒を浴びるほど飲む。
帰宅したアリスに「わかってるんだぞ・・」
アリスは相手が事故の加害者であることは告げず、会社の人で・・と言う。
でも寸前で「踏みとどまったの」
そして「あなたに私の頭を乗っけてもいい?」
ピーターは床に横たわり、アリスは彼に寄り添う。

食事会。アリスがチキンを焼き、祖父母、父母、アレックスとサラの3世代が和やかに食卓を囲むところで幕。

~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~

セリフの訳語がちょっと難しい。
サッカーのチームや人気選手の名前が頻出。
2時間50分という長尺。短いシーンがくるくると続くが、全体にダラダラした印象。
登場人物はほとんどが奇妙でアブノーマルで感情移入できない。
長男を偏愛・溺愛して縛り付けるアリス。
優柔不断で、見ていてイライラさせられるアレックス。
職人にジュースを差し出すが、先にそのコップに口をつけて飲む女。
やたらとビールを飲みへべれけになる酔っ払いたち。
何かというとタバコ、タバコというヘビースモーカーたち(15歳の子も!)。
ヤクも吸うし、汚い言葉を平気で口にする人々。
ワイフビーター(妻を殴る男)。
息子の嫁に余計な口出しをして嫌われる女。
まともなのはジョンくらいか。

役者では祖父チャーリー役の金尾哲夫が好演。
アリス役の落合るみは声がいい。

この作品は、2006年にローレンス・オリヴィエ賞最優秀新作プレイ賞を受賞したという。
こういうことが時々あるから、最近では賞というものが信じられなくなった。

当日パンフを見て知ったが、作者は「ハーパー・リーガン」を書いた人だった。
そうと知ってたら来なかったかも。
だってあれは、あまり好みではなかったから。









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「セチュアンの善人」

2024-10-04 22:10:03 | 芝居
9月26日俳優座劇場で、ベルトルト・ブレヒト作「セチュアンの善人」を見た(脚色・上演台本・演出:田中壮太郎)。



人間が人間を搾取する架空の町セチュアン。
そこに住む男娼のシェン・テは、神様に一晩の宿を提供し、そのお礼にちょっとしたお金を手に入れる。
シェン・テはそのお金で小さな店を開くと、噂を聞きつけた知人や親戚が店に押し寄せ、居候。
困ったシェン・テは架空の人物、従兄のシュイ・タに変装。
優しいシェン・テがこさえる問題を、時折現れる従兄のシュイ・タが冷徹に解決していくのだが・・・(チラシより)。

俳優座創立80周年・俳優座劇場創立70周年・桐朋学園芸術短期大学創立60周年記念事業。

ブレヒトの有名な戯曲を初めて見た。

善人シェン・テ(森山智寛)は夜、公園で首を吊ろうとしている男ヤン・スン(八柳豪)を見つける。
ヤンはパイロットになる資格を取ったが、職がなく、絶望して死のうとしていた。
彼女は恋に落ちてしまい、金があればパイロットになれる、という彼の話を信じる。
じゅうたん屋の夫婦が金を200貸してくれる。
ヤンの母親(青山眉子)が来て、息子がパイロットになれそうだが、そのために500いる、と言う。
シェン・テは、その場でじゅうたん屋が貸してくれた200を渡してしまう。

女家主ミー・チュー(坪井木の実)がシェン・テに半年分の家賃を請求する。
シェン・テは店を売りたいと言い出す。
売った金(300)で恋人にパイロットになってもらうつもりなのだ。
だが、その後シュイ・タ(森山智寛の二役)がヤンから話を聞くと、航空会社に知り合いがいて、一人辞めさせれば、その代わりにパイロットになれるが、
そいつはベテランで落ち度がない、と言う。
どうも難しそうだ。

水売りの少年ワン(渡邊咲和)は床屋シュー・フー(加藤頼)に手を殴られ、傷つき、右手が使えなくなる。
訴えるから証人になって、とその場に居合わせた人々に頼むが、みな後ろ暗いところがあるので警察と関わりたくない、と断る。
一方、床屋シュー・フーはシェン・テに惚れる。

ヤンは、残りの300をもらいにシェン・テの元に来る。
そこにいたのはシュイ・タ。
スンは彼に「シェン・テは頭が悪い、あの女には理性なんてないんだ・・」と言う。
シュイ・タ(実はシェン・テ)はやっと男の正体に気がつく。
シン(山本順子)はシェン・テに、床屋と結婚するといい、と勧める。
シェン・テもその気になる。
床屋とヤンが鉢合わせし、そこにシェン・テが来て・・だがヤンが泣き出すと、シェン・テはすぐにほだされ、抱き起こしてキスする。
驚く床屋を置いて二人は出てゆく。

結婚式。スンは赤いスーツ。彼の母はシェン・テの従兄シュイ・タを待たなきゃ、と主張する。
シェン・テは二人に、シュイ・タは来ません、と言うのだが。
シュイ・タはなかなか来ない。(そりゃそうだ)
牧師は、次の式の時間があるから、と行ってしまう。
スンは「俺はシュイ・タと妙に気が合うんだ。あいつと俺は一心同体なんだ」と、これまた妙なことを言い出す。
牧師が帰ったので式もお流れとなり、みな帰り、スンは歌う。
<休憩>
また3人の神様が来る。
ワンと話す。シェン・テの結婚がダメになったことなど。
神様「経済のことはちょっと・・・」(笑)
他の人々が来ると、神様3人は下手に退き、ジャングルジムに登って顔を葉っぱなどの描かれた紙で隠す。

床屋は太っ腹なところを見せようと、からの小切手を切ってシュイ・タに渡し、好きな金額を書き込むようシェン・テに言ってくれ、と言う。
シュイ・タは「1万」と書く。周りの人々は驚く。
この金で店は大きくなり、シュイ・タは居候たちを雇って働かせることにする。
スンと母親も来る。
母親は「息子はもらった200を使い込んでしまいました。とんだドラ息子・・」と嘆く。
シュイ・タはスンも雇う。
彼はうまく立ち回り、現場監督になる。
突如ショスタコーヴィチの5番が鳴り響き、場面は2年後。
Shentes Coffee という銀色のライトが頭上にきらめく。
スンはシュイ・タに、コーヒーにニコチンを入れたらどうか、と密かに提案。

ある日、シュイ・タは青いスカーフを肩にかけ、口紅を塗ろうとしてシンに見られる。
シンは驚くが、口止め料の代わりに役員にしてくれ、と要求。
役員会はシュイ・タと役員2名だったが、これで計4名になる。
ここで車のブレーキの大きな音が響く。
4人での初の会議で、シュイ・タは、昨晩スンが車に轢かれて死んだ、と報告。
だが事故か事件かわからない、とも。
彼が「シェン・テに会いたい。会わせろ、でないとコーヒーにニコチンが入ってることをばらすぞ」と自分を脅していた、とも。
そして、自分は近々ここを去らなければならない、しばらくシェン・テの代わりをするつもりだったが、長くい過ぎた、とも。
みな驚いて反対するが、シュイ・タは聞かない。

シュイ・タは店の従業員たちの前に立ち、実は・・と告白。
だが皆、さほど驚かない。前から気がついていたらしい。
そこにワンと神様たちが来る。
ワンは明るい色の服を着て、ペットボトルの水をたくさん載せた車を引いている。
「湧き水を見つけて売ったら、観光客が買ってくれて、しかも高くするほどよく売れるんだ。お陰でちょっとした小金持ちになったよ」
シェン・テとワンは再会を喜び合う。
めでたしめでたしかと思いきや・・
シン「ちょっと待って!じゃあシュイ・タがシェン・テだったってわかってなかったのは私とスンとワンと神様たちだけだったっての?」
これがおかしい。
この後、死んだヤンも出て来て、シェン・テと再会したり・・
ワンが「カフェとコンビニと百均があれば・・」と愉快なことを言ったり・・
神様たちは、この世になぜ悪がはびこり、善人が報われないのですか?と問い詰められると、
困った顔をして言う。
「そうですか・・・では、これからは善も悪もありません。・・・多様性・・でしょうか。
2000年後に、また来るかも知れません。来ないかも知れません」
・・・ワンは「だって」と言って客席の上方を見上げる。
暗転の後、舞台上に「2000年後」の文字が掲げられ、みな楽しげに歌い踊る。幕。

~~~~~~~ ~~~~~~~ ~~~~~~~

少年ワン役の渡邊咲和が声もよく通り、演技もうまい。
シェン・テとシュイ・タ役の森山智寛も声がいい!
神様役の3人のうち1人は危なっかしい。セリフが止まりがちでハラハラ。
他の役者さんたちは、みなうまい人がそろっていて楽しい。

ブレヒトの言いたいことはよくわかるし、この人は真面目で誠実な人だと思う。
途中、皆でこの世の不条理を神に問いかけ、歌い踊るシーンが圧巻。
神様たちが、まるで頼りなくて自信なさげなのがおかしい。
3人なのは、三位一体を表しているのだろう。
キリスト教を揶揄し、茶化し、おちょくっているけど、面白い。

今回、疑問が一つ、シェン・テは「男娼」とパンフにあり、確かに男性俳優が演じているが、
彼に求愛する二人の男は、相手を男だとわかって求愛しているのだろうか?
かつて、例えば日本では、市原悦子や栗原小巻がこの役を演じたというが?

音楽の使い方がうまくて快感。
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