ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

バーナード・ショウ作「ジャンヌ」

2013-10-28 16:31:53 | 芝居
9月24日世田谷パブリックシアターで、バーナード・ショウ作「ジャンヌ」をみた(演出:鵜山仁)。

15世紀、フランスの片田舎に生まれたジャンヌ(笹本玲奈)は、ある時突然「神の声」を聞く。その声に導かれるまま、彼女はフランス
軍の先頭に立ってイギリス軍を破った。だが「神」と直接話す力を持つジャンヌに、人々は恐れを抱き始める。やがて異端とみなされ
宗教裁判にかけられることに・・。

彼女の周りでは次々に奇跡が起こる。卵を産まなくなった鶏が突然たくさん産み始めたり、ある兵士の死を予言するとそれが現実と
なったり、臣下と服を取り替えていた王太子シャルル(浅野雅博)をすぐに見破ったり、オルレアンではフランス軍が待ち望んでいた
西風が吹いたり・・・。
オルレアンでイギリス軍相手に苦戦していた指揮官デュノア(伊礼彼方)は、この奇跡に驚き「これからはお前が指揮官だ」と言う。
するとジャンヌは膝を折り、彼にすがりついて泣き出す。この時初めて恐れを感じたらしい。実に人間的で胸に迫る場面だ。

彼女の出現は仏軍とフランスにとって救いだったが、宗教家たちにとっては微妙だった。神と直接対話すると公言し、奇跡を起こし、
常に大胆に自信満々に発言する彼女を前にして、自分たちの立場がなくなるのだから当然だろう。
一体この娘、自分たち高位の聖職者たちを差し置いて偉そうに命令するこの娘は、本当に神がフランスに遣わしたもうた救い主なのか、
それともただの狂信者に過ぎないのか?
確かに「マクベス」のように、魔女のような邪悪な存在が人間をそそのかして破滅に至らしめることは、当時の人々にとって大いに考え
られたし、そういうもののけが自分を聖者と思い込ませることもたやすいだろう、というわけだ。

驚くべきことに、結局彼女はイギリス軍に売られたのだった!

かくて裁判が始まる。ジャンヌを救おうとする人々は彼女に妥協するよう説得し、彼女も途中までは必死で助かろうとするが、最後には
驚くべき冷静さで火炙りの刑を選ぶ。それが神のみ心であり自分の取るべき道だと悟ったのだ。

エピローグが予想外にユーモラス。国王となったシャルルの寝室に、死んだジャンヌの霊が現れる。そこに他の死んだ人々の霊やらまだ
生きている人やらも現れ、みな彼女の功績を称えるが、彼女がそれならよみがえりましょうか?と尋ねると、皆うろたえ、それは困る・・
と尻込みしながら一人また一人と去ってゆくのだ。実におかしい。

ジャンヌ役の笹本玲奈(紅一点)は熱演だが、声が甲高くなることがある。
修道士マルタン役の大沢健が好演。
司教役の村井國夫はいつもながら素晴らしい美声を聞かせてくれた。

難解な論争シーンが果てしなく続くので、途中つい睡魔に襲われてしまい、もったいないことをした。またぜひ見てみたい。
次回は原作を読んでから行くつもり。
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「OPUS/作品」

2013-10-10 18:58:19 | 芝居
9月13日新国立劇場小劇場で、マイケル・ホリンガー作「OPUS /作品」をみた(演出:小川絵梨子)。

2006年にアメリカで初演された作品の由。今回が日本初演。

弦楽四重奏団ラザーラ・カルテット(笑)はホワイトハウスでの演奏会が決まっているというのにメンバーの一人ドリアン(加藤虎ノ介)
を解雇し、急遽オーディションを行う。グレイス(伊勢佳世)という若い女性が選ばれ、女の子大好きなアラン(相島一之)は大喜び。
彼らは難曲ベートーヴェンの作品131を弾くことにし、限られた時間の中でできる限りの練習をしようとするが、リーダーである
エリオット(段田安則)はミスばかり。しかも決して自分のミスを認めようとしない。本番まで時間がない。リハーサルは緊迫していく。
カール(近藤芳正)の抱える秘密も発覚し、不穏な空気が漂う中、どうにか無事に演奏会を終え楽屋に戻った4人の前に、突如ドリアンが
現れて・・・。

チラシでは分からなかったが、リーダーというのはファーストヴァイオリンのことで、それがエリオット。アランがセカンドヴァイオリン、
ドリアンとグレイスがヴィオラ、カールがチェロという構成。
ラスト、メンバー交代のすったもんだの挙句、ヴィオラの名器を巡って仲間同士が激しく争い出すと、カールはそのヴィオラのことを
「こんなもの・・」と言ってとんでもない暴挙に出るが、楽器に罪はないだろう。元々自分のものでもないのにそれを手放そうとしない
エリオットが問題なだけだ。

弦楽器を愛する者にとって、こういう終わり方はあまり愉快でないし、戯曲の構成という点から見ても安直で、ここまでが
面白かっただけに残念だ。

しかし弦楽四重奏の世界を芝居でこういう風に表現できるということを教えられた点はよかった。芝居の可能性が広がった感じ。
だって5人の出演者は誰も担当の楽器を弾けないのに、演奏シーンがたっぷりあるんだから!
役者たちは練習が大変だったと思うが、よくやっていた。少なくとも右手は音楽にほぼ合っていた。たぶんみんな楽譜が読める
に違いない。

後日、人づてに聞いたところによると、劇場内に貼り紙があり「楽器を壊すシーンがありますが、本物の楽器ではありません」と
書いてあった由。そうだろうとは思った。だって上演のたびに1台ずつ壊すはずがない・・。
だがそれでもやっぱりこのラストはいただけない。
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「良い子にご褒美」

2013-10-04 23:02:27 | 音楽劇
9月10日サントリーホールで、トム・ストッパード作アンドレ・プレヴィン作曲の音楽劇「良い子にご褒美」をみた(台本翻訳・演出:
村田元史、指揮:飯森範親、オケ:東京交響楽団)。

日本語上演。休憩なし・約1時間。日本初演。

「正気の人間が刑務所に囚われている」そんなことを口にする奴は反体制の危険人物だということで、アレクサンドルは精神病院に
収容される。「あんなことを言った自分は病気だった。今は治った」そう認めれば釈放すると言われる。だが彼はそれを断るばかりか
ハンガーストライキまでして自分の正しさを主張する。「1足す1はいつも2だ。3と言えと強要されても受け入れるわけにはいかない」
息子のサーシャは父の釈放を願って「もう治った、とウソをついて!」と嘆願する。
アレクサンドルと同じ監房に本物の狂人イワーノフが収容されている。自分の周りにオーケストラが存在すると信じている男だった・・・

この作品が生まれた経緯は少々変わっている。
1974年、プレヴィンがストッパードに、生のフル編成のオーケストラを必要とする芝居を書かないか、と声をかけたのだ。

作者自身1978年版序文に書いているように、「通常、芝居というのは作家の頭の中で、ある特定のことについて書きたいという思い
から生まれるものであり、本来それが望ましい。」まさにその通り。だからここからは、どうしてもこれを伝えたい、という強い情熱が
伝わってこない。作者は実に正直だ。「そもそもオーケストラについても、頭のおかしい人間についても書くべき真の理由はなく、
書くことがなかった」「そろそろはったりもおしまいにしようと思いかけていた」というのだから思わず笑ってしまう。

1970年代だったらもっと感情移入できたと思う。
初演は1977年つまり36年前だ。この間に世界は大きく変わった。

トム・ストッパードと言えば、舞台「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」を古田新太と生瀬勝久の共演で見て、その面白さ
に驚いたのが評者の彼との出会いだ。
その後、彼が脚本を書いた映画「恋におちたシェイクスピア」(1999年アカデミー賞脚本賞受賞)でも堪能させてもらった。
さらに舞台「コースト・オブ・ユートピア」(2009年日本初演)を渋谷Bunkamuraで見たのも懐かしい思い出だ。上演時間9時間の
大作ゆえ昼食と夕食持参で乗り込んだのだった。役者たちもみな高揚していた。彼はこれらでトニー賞を4回も受賞している。
それら綺羅星の如き作品群からみると、この作品は残念ながら地味で微妙だ。
ただプレヴィンの音楽は十分楽しめた。

息子サーシャ役の堀川恭司君(小4)は音程も良く、好演。
他の俳優たちは劇団昴の面々。
東京交響楽団はなかなか芝居っ気があるオケで、この作品にぴったり。


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