ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

佃典彦作「タネも仕掛けも」

2012-11-24 21:47:19 | 芝居
11月5日紀伊国屋サザンシアターで、佃典彦作「タネも仕掛けも」をみた(文学座公演、演出:松本祐子)。

山に囲まれた美登里川町で行われるクリスマス大マジックショーのメインとして呼ばれているのはお茶の間の人気者
ディープ田中。彼のかつての相棒ディープ佐藤は、その昔「脱出王」と呼ばれた孤高の老マジシャン。「シニア奇術団」、
実はカルチャーセンターの素人さん達と田中の前座をやることになったが、彼は田中に対して積年の恨みがあり、到底
前座をやる気にはなれない。二人は大げんかの末、マジックで勝負することに。勝った方がショーのメイン、負けたら
潔く前座を務めることになるが・・。
雪に閉ざされた観光案内所のロビーで行われる世紀の大脱出「人間縦割りギロチン」は果たして成功するのか・・?

弱者に対する作者のやさしい眼差しを感じるとは言え、どこが面白いのか分からない話が延々と続く箇所も。
マジックの部分は楽しいけれど・・。

それに文学座にしては演技が一部お粗末。

この作者は箱状のものから突然人間が出てくるというのが好きらしい。2005年に見た「ぬけがら」では確か洗濯機
から男が出てきたっけ。
残念ながら作品としては「ぬけがら」の方がよかった。



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アーサー・ミラー作「るつぼ」

2012-11-11 23:11:22 | 芝居
11月2日新国立劇場小劇場で、アーサー・ミラー作「るつぼ」をみた(演出:宮田慶子)。

1692年アメリカ・マサチューセッツ州セイラム。農夫プロクターは召使いの少女アビゲイルと不倫関係を持ってしまう。
アビゲイルはプロクターを我がものとするため、神の名のもと彼の妻を魔女と告発する。折しも村人たちの悪魔憑きへの恐怖
や常日頃の相互不信と相まって、村には凄まじい魔女狩りの嵐が吹き荒れる。無実の人々が次々と逮捕、処刑されていく中で
アビゲイルらは聖女として扱われていく・・。

1953年にアメリカで初演されたこの作品は、17世紀末に実際に起きた魔女裁判に取材しながら、1950年代当時の米国
内のマッカーシズムを痛烈に批判し社会現象ともなった作品の由。

戯曲のもつ迫力にとにかく圧倒された。無邪気で純粋に見える少女たちによって、体力・知識・経験すべてにおいて勝った男
たちがいともたやすく翻弄され、ついには一つの村が崩壊への道をたどってゆく。それはおぞましい狂気に支配された世界だ。
「集団ヒステリー」という言葉が当時あったなら、そういう概念が人々の間に共有されていたら、あんなことにはならなかった
だろうに。しかし考えてみれば、これはフランス革命より百年位前の話なのだから無理もない。

自分たちが糾弾されないためには別の誰かを糾弾するしかない、というところに追い詰められた少女たちは死にもの狂いで
村の女性たちを誰彼となく告発する。名を挙げられた女性たちは証拠もないのに逮捕され処刑されてゆく。彼女らはいったん
やり始めたからには途中でやめるわけにはいかない・・。
当時の教会の様子が興味深い。新しい牧師の説教が気に入らず礼拝に出なくなったという主役の農夫プロクターのセリフなどを
聞くと、三百年前も今もあまり変わってないなあと妙に感心してしまう。いやひょっとするとこれは1950年代の米国の教会
事情なのかも知れない。

農夫プロクター役の池内博之は、こういう粗野でセクシーな男がよく似合う。しかし相変わらず激するとセリフがよく聞き取り
にくい。
少女アビゲイル役の鈴木杏は、恋人をわがものとするためには手段を選ばぬ気の強い女を熱演するが、如何せん、根が健康的で
常識的な雰囲気なのであまり怖くない。

音楽(音響)のセンスがいい。下手にメロディのある音楽を流されると、劇の内容と合わない恐れが多分にあるが、単なる音響
を適切に最小限に入れたことが効果的だった。

演出は非常にすぐれている。作者の意図への共感と尊敬とが感じられた。
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「リチャード三世」

2012-11-01 23:13:09 | 芝居
10月15日新国立劇場中劇場で、シェイクスピア作「リチャード三世」をみた(演出:鵜山仁、訳:小田島雄志)。

2009年秋に上演された「ヘンリー六世」の出演者・スタッフが再結集して、その続編である「リチャード三世」をやるという、
ファンにはたまらない企画。

三十年にわたる薔薇戦争を勝ち抜き王位についたヨーク家のエドワード四世。その弟、グロスター公リチャードは王位を狙い、
次々と優位な継承者を破滅させ、対立する貴族たちを処刑、ロンドン市民たちの支持も得、ついにリチャード三世として即位する。
が、絶頂期は長くは続かない。造反貴族たちがヘンリー五世の孫リッチモンド伯ヘンリー・チューダーの元に集結し反旗を翻す。
反乱軍を率いたリッチモンドと王リチャードはボズワースの平原で激しく戦いを繰り広げ、リチャードは壮絶な最期を遂げる。

前方の客席を大きく取り外して舞台を広げている。赤っぽい砂が敷き詰められ、中央に小高い円形部分(美術:島次郎)。
上手に椅子2脚が投げ出されている。奥に真っ赤な太陽のようなもの。

主役グロスターを演じる岡本健一は、気負うことなく、なかなか健闘している。
クラレンス公は冒頭ロンドン塔に引かれて行く時も、最後のシーンでも、あまり弱々しいところがない。
エリザベス役の中嶋朋子は、いつもながらセリフがクリアで期待通りの名演。
音楽はフォーレのレクイエム、シューマンの「子供の情景」、バグパイプで「仰げば尊し」、モーツアルトのピアノソナタ等々。

子役は何と人形!殺されたばかりの王エドワード役の今井朋彦さんが、2体の人形を左右の手に持って黒子として語るのは、大いに
違和感があった。彼の声はもちろん素晴らしかったが、ここはできれば本物の子供に登場してほしい。子供の声を聞きたい。

アンは最後まで真っ黒な喪服。
リチャードは王妃エリザベスの口にキスする!

中央の回り舞台をうまく使っている。横長の旗で2つに仕切り、両軍の陣地にしている。リチャードに殺された人々の亡霊が次々に
現れては眠るリチャードとリッチモンドに向かって「絶望して死ね」「生きて栄えよ」と呼びかける。

ラスト、リチャードは普通リッチモンドと一騎打ちして倒れるのに、一人で奥へ歩いて行く・・。すると奥に子供の遊具である木馬
の映像が浮かび上がり、「子供の情景」が流れてくる。印象的な演出だ。この男は小さい時、実の母にさえ愛されたことがなかった
・・。極めつけの悪党の最期にしては、抒情的、感傷的過ぎるかも知れない。



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