ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

イヨネスコ作「犀」

2009-04-27 00:01:08 | 芝居
 4月20日、文学座アトリエでイヨネスコ作「犀」を観た(演出:松本祐子)。

 これは私にとって記念すべき「正統派不条理劇デビュー」だった。途中までは冗長な部分もあり、やはりシェイクスピア好きには不条理劇は向かないかも、と思った。例えば二組の友人達の会話が途中から何度か重なっていく場面。作者はそこに面白みを感じたのだろうが、私には退屈だった。アフリカの犀とアジアの犀の違いについての議論も同様。だが後半は、脚本の構成の巧みさに引き込まれ、作劇術のうまさにすっかり心を奪われてしまった。

 主演の大場泰正の熱演が清々しい。他の役者たちも皆よく訓練されている。

 作品の持つ力強さ、ユーモア、そしてそれを具現化してゆく演技陣の訓練された発声法と体の動きが素晴らしい。

 特に後半は、一転してセリフに全く無駄がない。友人が、同僚が、一人また一人と犀に変身してゆく、その恐怖と緊迫感。次第に犀のほうが多数派になってゆき、主人公は孤独と絶望に陥るが・・・。

 それにしても、世の中こういう理に叶った(!?)芝居ばっかりだとどんなにいいことか!今は訳がわからなくても、最後まで見ていればきっと何か意味があるに違いない、でなきゃおかしい、と思っていると、いつの間にか終わってしまい、ついに何が言いたいのかさっぱり分からないという芝居を見せられた時の悔しさ、呆然自失、怒り・・・しかもそういう作家の中に、けっこう人気のある人がいるというのだから世の中分からない。

 愚痴っぽくなってしまったが、これはもちろん別の日の別の芝居のことだ。イヨネスコと文学座は喜びと深い満足とを与えてくれた。
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「シュート・ザ・クロウ」

2009-04-20 14:49:59 | 芝居
 4月14日、O.マカファーティ作「シュート・ザ・クロウ」を観た(演出:田村孝裕、新国立劇場小劇場)。
 
 会場に入ると、まず舞台を見てびっくり。開場から開演までの30分間、役者達が実際にタイル貼りを黙々と続けているのだ。
 高さの違う二つの部屋が階段でつながっていて、なかなか面白い(美術・衣裳:伊藤雅子)。

 翻訳(浦辺千鶴・小田島恒志)は思い切ってくだけたしゃべり口調を取り入れ、リアル感を増した。
 タイトルの「カラスを撃て」というのは、「さっさと仕事を終わらせようぜ(そして飲みに行こうぜ)」という意味だそうだ。

 「サンダーバード」の話が楽しい。

 一人が「出て行け。アウス!」と叫ぶと、わりと大勢の観客がドッと笑ったが、あれは笑うところなのか?アウスはドイツ語の Aus ? 最近こういうのがギャグとしてはやっているのだろうか。

 柄本佑は脱力した演技で今時の若者らしさを出し、好感が持てるが、非常な早口で、しかも滑舌が悪いのでセリフがよく聞き取れない。発声練習が必要だ。

 凡庸なラストには少し失望した。が、北アイルランドの人々の貧しさ、生活の辛さ、単調さは心に残った。
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オペラ「ドン・ジョヴァンニ」

2009-04-14 15:40:34 | オペラ
 4月8日、サントリーホールでオペラ「ドン・ジョヴァンニ」を観た(演出:ガブリエーレ・ラヴィア)。

 サントリーホールが「ホール・オペラ」と称して面白いことを始めた。オケピットがないのを逆手に取って、舞台上にオケを上げてしまい、その目の前で歌手たちに歌わせ、芝居をさせたのだ。

 まず目に飛び込んでくるのは宙に浮く真紅の緞帳。

 オケが客席に背を向けて座り、指揮のニコラ・ルイゾッティはこちらを向いている。お陰で彼の生き生きした指揮ぶりと、変化に富んだハイテンションな表情をつぶさに見ることができた。彼がフォルテピアノを弾き振りしたが、これがまたうまい。時々自由にアドリブを入れて遊んでみせる。突然モーツアルトのピアノ協奏曲第23番第2楽章冒頭を弾き始めたのには驚いた。すると騎士長の石像が大きな十字架と共に舞台下からゆっくりと上がってきたのだった。こんなことしてもいいのか!?と頭の固い私には衝撃だった。たぶんこの辺までがぎりぎりOKだろう。
 
 歌手たちはみな素晴らしい。特にレポレッロ役のマルコ・ヴィンコ、そしてドンナ・アンナ役のセレーナ・ファルノッキア。

 字幕の日本語が上質(字幕翻訳:田口道子)。ツェルリーナのセリフ「だんなさんと?」とかマゼットの「メンツ丸つぶれだよ」とか、実に的確で分かり易い。

 演出(ガブリエーレ・ラヴィア)が素晴らしい。躍動感溢れる舞台だ。

 照明(喜多村貴)もドラマチックで素晴らしい。まるで映画を見ているような、奥行きのある陰影に富んだ舞台がそこに醸成された。

 衣裳は変。村人たちは黒服に赤色などが入った格好で、とても村の結婚式に集まった人々には見えない。女たちは仮装パーティの客のようだし、男たちはまるでマフィアだ。ツェルリーナは白いドレスの下にしましまのソックス、しかも左右長さが違うのを履いているし、ドンナ・エルヴィーラは恋人を追って旅する貴婦人というより私立探偵のようだ。でもツッコミドコロ満載なのもそれはそれで楽しい。

 それにしても、アリアが終わるたびに拍手が起きるのは何とかならんもんかのう。その都度物語の流れが途切れるではないか。歌手もオケも指揮者もみんな我慢して、拍手が終わるのをじっと待っているのが分からんのか。
 どうしても感動を表わしたいのなら、カーテンコールで歌手が一人ずつ出てくるのだからその時好きなだけ拍手するなり叫ぶなりすればよろしい。

 2年前メトロポリタン歌劇場が来日してこの演目をやった時は、上野の客の質がなぜか最悪で(席も悪かったが)、あまり楽しめなかった。アンナ・ネトレプコは評判通りよかったが。
 しかしこの夜は、久々に至福の時を過ごせた。来年は同じくラヴィア演出ルイゾッティ指揮で「コジ・ファン・トゥッテ」をやるという。今から楽しみだ。

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音楽劇「三文オペラ」

2009-04-08 15:06:37 | 音楽劇
 4月6日、ブレヒト作クルト・ヴァイル作曲「三文オペラ」を観た(演出:宮本亜門、シアターコクーン)。
 チラシに「超刺激的な個性派キャスト」とあるように、ピーチャム役にデーモン小暮閣下、進行役兼女王役に米良美一、と大胆な布陣。結果は、好みにもよるだろうが、おおむね成功と言えるだろう。

 ジェニー役の秋山菜津子が出色。芝居はもちろん歌も素晴らしい。逆さ吊りになっても歌い続けたのには驚いた。マイクを使っていたからできたのだろうけれど。
 ポリー役の安倍なつみは声が可愛くて適役。
 ピーチャム夫人役の松田美由紀はセリフに妙な抑揚がつき過ぎていて聞こえにくい。演技も元気が良すぎる。もっと抑えてほしい。

 一つ違和感を覚えたのは、劇中歌の際、マイクで増幅し過ぎて声が割れてしまい、歌詞がよく聞き取れなかったことだ。非常に損をした気分。

 冒頭から進行役を務めた米良美一が、終幕真紅のドレスで女王陛下として登場。眩しくきらめく舞台が美しい(美術:松井るみ)。暗く汚い世界の話に、ブレヒトらしく皮肉っぽい形ではあっても最後に明るい救いの場面が用意されているのは聴衆にとっても有難い救いだった。

 ポリー役とジェニー役の音程が時々少し低めで、聴いていて辛かったが、恐らく退廃的な雰囲気を出すためだろう。でもそんな工夫をしなくても十分退廃ムードは出ているのだから、できればやめてもらいたい。

 衣裳(岩谷俊和)は刺激的かつ官能的。

 全体に、面白く、楽しませてもらったが、マイクの使用をもっと控えてくれたら歌詞がよく聞こえてくるのに、と残念だった。しかも、今回の歌詞は、主演の三上博史自らが担当したというのだからなおさらだ。こんなことも、稽古中に第三者に客席に座って聴いてもらえば解決することなのだが。

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