ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

音楽劇「兵士の物語」

2015-08-21 22:47:48 | 音楽劇
7月31日東京芸術劇場プレイハウスで、ストラヴィンスキー作曲の音楽劇「兵士の物語」をみた(原作:アファナシェフ、演出・振付:ウィル・
タケット)。

一人の兵士が休暇で故郷の家に歩いて帰ろうとしている。悪魔が彼を誘惑し、彼が大事にしているヴァイオリンをくれたら、一冊の本をやろうと言う。
読めば巨額の富を得られるというその本とヴァイオリンを交換したものの、悪魔はヴァイオリンの弾き方が分からない。そこで悪魔は、これから
一緒に私の家に来てちょっと弾き方を教えてくれ、と頼む。なに、すぐ近くだ、と言うので兵士はまあいいか、と寄り道するが、そこで3日過ごした
後故郷に帰ってみると、懐かしい人々が皆、彼を見て逃げてゆく。母親までもが…。そして彼の婚約者は別の男と結婚していてもう子供がいた。
悪魔の家での3日は実は人間の世界では3年だった。彼は戦死したと思われていたのだ。絶望のどん底に突き落とされた兵士は、それでも何とか
気を取り直し、放浪の末、幸運にもお城のお姫様を助け、ついに姫と結婚して幸せになれた…かと思いきや、悪魔はまだ執念深く彼に迫って来る
のだった…。

この物語には「浦島太郎」とグリム童話の「金色のガチョウ」のモチーフが見られる。3日が実は3年だった、というのと、生まれてこのかた
一度も笑ったことがない王女、そしてそれを苦にした王様が、娘を笑わせた者に娘と王国をやる、という話。いずれにせよ、興業のために急いで
作った台本だから粗雑ではある。ただストラヴィンスキーの音楽が素晴らしい。

兵士役のアダム・クーパーはミュージカル畑の人らしいが、全身を使っての身体の動きがすごい。弦を張ってないヴァイオリンを手に、一瞬も目が
離せないような華麗な動きを見せてくれる。

語り役の人も一緒になって踊る、この人もバレーダンサーだというので驚いた。だって語りが素晴らしくうまいのだ。まさか本業がダンサーだとは
思わなかった。やはり英国は演劇の国ということか。
王女役のラウラ・モレーラもロイヤル・バレエ・プリンシパルということで、コミカルな動きも取り入れていて面白い。

王女は原作ではセリフがないが、ここでは最後に口をきく。「あなたの故郷に行ってみたい」という場面で。

振付が素晴らしいし、変拍子の多い音楽にぴったり合っているし、4人の役者がまたそれを完全に消化して踊るさまは何とも言えない。まさに
「まばたきするのも惜しい」(チラシ)作品だった。
但し、このプロダクションは耳より目の楽しみを優先させたものだった。オケの音はナマの音のままではなかったし、演奏家たちの名前はチラシに
書かれていなかった。
そして、矛盾するようだが、オケがピットに入ってしまっているので、楽器演奏を目で見て楽しむことができなかった。もちろんダンサーたちがすごい
のでそんな暇はないのだが、普通ならこの作品はそこにも大きな魅力があるのだ。



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音楽劇「ヴォイツェク」

2013-11-12 22:36:01 | 音楽劇
10月8日赤坂ACTシアターで、音楽劇「ヴォイツェク」をみた(原作:ゲオルク・ビュヒナー、脚本:赤堀雅秋、演出:白井晃、
音楽:三宅純)。

兵士ヴォイツェク(山本耕史)は美しい内縁の妻マリー(マイコ)と幼い息子と共にささやかに暮らしている。彼は高慢な大尉の髭を剃り、
尊大な医師の実験対象となってわずかな日銭を稼いでいるが、ある時マリーが男盛りの鼓手長と浮気していると聞かされる。ある時は怪し
げな見世物小屋で、ある時は猥雑な酒場で、ヴォイツェクの目を盗んで鼓手長と会うマリー。ヴォイツェクはいつしか奇妙な幻視と幻聴に
苛まれ、マリーへの不信を募らせていき…。

この作品はアルバン・ベルクの有名なオペラ「ヴォツェック」と同じ原作だが、戯曲の方はタイトルに「イ」を入れて「ヴォイツェク」と
することになっている由。今回初めて知ったが何ともややこしい。

主役の山本耕史は,精神的に追い詰められてゆく様を細かく工夫を凝らして表現しようとしていたが、もともとこの人は、お金で苦労した
ことがあるようには見えない「いいとこのお坊ちゃん」然なので、そもそも無理がある。ヴォイツェクは貧乏に打ちひしがれている男で、
彼の悲劇は主にお金がないことから起こるのだから。

音楽(三宅純)はクルト・ヴァイルの「三文オペラ」みたいで面白いが、歌を入れないでほしい所に無理やり歌を入れるのは興ざめ。
例えばラスト近く、妻を殺した直後いきなり歌い出されると、高まっていたこちらの気持ちがサーっと醒めてゆく…。
ベルクのオペラでは、音楽が雄弁かつ自然なので何の違和感もないが。



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「良い子にご褒美」

2013-10-04 23:02:27 | 音楽劇
9月10日サントリーホールで、トム・ストッパード作アンドレ・プレヴィン作曲の音楽劇「良い子にご褒美」をみた(台本翻訳・演出:
村田元史、指揮:飯森範親、オケ:東京交響楽団)。

日本語上演。休憩なし・約1時間。日本初演。

「正気の人間が刑務所に囚われている」そんなことを口にする奴は反体制の危険人物だということで、アレクサンドルは精神病院に
収容される。「あんなことを言った自分は病気だった。今は治った」そう認めれば釈放すると言われる。だが彼はそれを断るばかりか
ハンガーストライキまでして自分の正しさを主張する。「1足す1はいつも2だ。3と言えと強要されても受け入れるわけにはいかない」
息子のサーシャは父の釈放を願って「もう治った、とウソをついて!」と嘆願する。
アレクサンドルと同じ監房に本物の狂人イワーノフが収容されている。自分の周りにオーケストラが存在すると信じている男だった・・・

この作品が生まれた経緯は少々変わっている。
1974年、プレヴィンがストッパードに、生のフル編成のオーケストラを必要とする芝居を書かないか、と声をかけたのだ。

作者自身1978年版序文に書いているように、「通常、芝居というのは作家の頭の中で、ある特定のことについて書きたいという思い
から生まれるものであり、本来それが望ましい。」まさにその通り。だからここからは、どうしてもこれを伝えたい、という強い情熱が
伝わってこない。作者は実に正直だ。「そもそもオーケストラについても、頭のおかしい人間についても書くべき真の理由はなく、
書くことがなかった」「そろそろはったりもおしまいにしようと思いかけていた」というのだから思わず笑ってしまう。

1970年代だったらもっと感情移入できたと思う。
初演は1977年つまり36年前だ。この間に世界は大きく変わった。

トム・ストッパードと言えば、舞台「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」を古田新太と生瀬勝久の共演で見て、その面白さ
に驚いたのが評者の彼との出会いだ。
その後、彼が脚本を書いた映画「恋におちたシェイクスピア」(1999年アカデミー賞脚本賞受賞)でも堪能させてもらった。
さらに舞台「コースト・オブ・ユートピア」(2009年日本初演)を渋谷Bunkamuraで見たのも懐かしい思い出だ。上演時間9時間の
大作ゆえ昼食と夕食持参で乗り込んだのだった。役者たちもみな高揚していた。彼はこれらでトニー賞を4回も受賞している。
それら綺羅星の如き作品群からみると、この作品は残念ながら地味で微妙だ。
ただプレヴィンの音楽は十分楽しめた。

息子サーシャ役の堀川恭司君(小4)は音程も良く、好演。
他の俳優たちは劇団昴の面々。
東京交響楽団はなかなか芝居っ気があるオケで、この作品にぴったり。


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巨大なるブッツバッハ村 --- ある永続のコロニー

2010-12-04 23:40:50 | 音楽劇
11月20日東京芸術劇場中ホールで、クリストフ・マルターラー演出の「巨大なるブッツバッハ村 」を観た。

舞台は室内のように見えるが、そこにはガレージ、ベランダ、カウンター、果ては街灯まであり、窓ガラスの向こうには事務室のような部屋も見える。どうも破産した事務所の内部らしい。家具には次々と売却済みの札が貼られ、持ち出される。俳優たちはシューベルト、ベートーヴェン、マーラーなどの歌曲やリリー・マルレーンなどのヒットソングを歌う。
そう、これは「音楽劇」というジャンルに属するそうだ。

俳優たちは歌も楽器演奏も驚くほど達者。役者が演奏しているというより、音楽家が芝居をしているのかも。

この作品はリーマンショック後の金融危機による経済破綻を描いているらしいが、私にはよく分からなかった。
大好きな「詩人の恋」やバッハの「マニフィカート」などが次々と流れるのは嬉しかったが、それは芝居とは直接関係ないようだ。
特にファッションショーが延々と続くシーンが退屈で困った。

ドイツの芝居はやはり私には向いていないようだ。ドイツ語の勉強にはなったが、これからは避けようと思う。
今までで面白いと思えたのはブレヒトの「三文オペラ」だけだから・・・。
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オルフ「月を盗んだ話」

2010-01-18 19:25:05 | 音楽劇
1月14日新国立劇場小劇場で、カール・オルフ作曲の音楽劇「月を盗んだ話」を観た(札幌室内歌劇場、訳詞・編曲・芸術監督:岩河智子)。

グリム童話を原作に、「カルミナ・ブラーナ」で有名なオルフが自ら台本を書き、1幕の愉快なオペラにした。彼独特のリズムが快い。時々カルミナを思わせる所があって楽しい。特に地底で死者たちが浮かれ騒ぐ場面の音楽が面白い。

語り手役の萩原のり子を始め、歌手はレベルが高い。コミカルな演技もいい。
演出(中津邦仁)も巧み。
衣裳は、語り手と子供たち以外は全員白に統一されていて快い。

岩河智子という人は、「魔笛」でザラストロをあくまでも悪者として描いたり、セリフに全部メロディをつけたり・・などという大胆な試みをしてきたそうだ。
最初に出てくる4人の男たちを女たちに変えたことで、ずい分雰囲気が変わったことだろうが、こういう風に変えることは好ましいと思う。舞台にまず登場し、行動を起こすのはたいてい男なのだから、いつまでもそれではありきたり過ぎる。

切れのいい演奏も上質。

全体に、札幌室内歌劇場の総合的なレベルの高さに感銘を受けた。
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音楽劇「三文オペラ」

2009-04-08 15:06:37 | 音楽劇
 4月6日、ブレヒト作クルト・ヴァイル作曲「三文オペラ」を観た(演出:宮本亜門、シアターコクーン)。
 チラシに「超刺激的な個性派キャスト」とあるように、ピーチャム役にデーモン小暮閣下、進行役兼女王役に米良美一、と大胆な布陣。結果は、好みにもよるだろうが、おおむね成功と言えるだろう。

 ジェニー役の秋山菜津子が出色。芝居はもちろん歌も素晴らしい。逆さ吊りになっても歌い続けたのには驚いた。マイクを使っていたからできたのだろうけれど。
 ポリー役の安倍なつみは声が可愛くて適役。
 ピーチャム夫人役の松田美由紀はセリフに妙な抑揚がつき過ぎていて聞こえにくい。演技も元気が良すぎる。もっと抑えてほしい。

 一つ違和感を覚えたのは、劇中歌の際、マイクで増幅し過ぎて声が割れてしまい、歌詞がよく聞き取れなかったことだ。非常に損をした気分。

 冒頭から進行役を務めた米良美一が、終幕真紅のドレスで女王陛下として登場。眩しくきらめく舞台が美しい(美術:松井るみ)。暗く汚い世界の話に、ブレヒトらしく皮肉っぽい形ではあっても最後に明るい救いの場面が用意されているのは聴衆にとっても有難い救いだった。

 ポリー役とジェニー役の音程が時々少し低めで、聴いていて辛かったが、恐らく退廃的な雰囲気を出すためだろう。でもそんな工夫をしなくても十分退廃ムードは出ているのだから、できればやめてもらいたい。

 衣裳(岩谷俊和)は刺激的かつ官能的。

 全体に、面白く、楽しませてもらったが、マイクの使用をもっと控えてくれたら歌詞がよく聞こえてくるのに、と残念だった。しかも、今回の歌詞は、主演の三上博史自らが担当したというのだからなおさらだ。こんなことも、稽古中に第三者に客席に座って聴いてもらえば解決することなのだが。

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