ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ペリクリーズ」

2015-04-19 22:39:23 | 芝居
2月27日、本多劇場で、シェイクスピア作「ペリクリーズ」をみた(加藤健一事務所35周年記念公演、演出:鵜山仁)。

「カトケンが命を懸けて恋をする…(中略)ツロの領主ペリクリーズと美しい姫セーザとの恋の行方はどうなる?(中略)これで面白くない
訳がない!!2015年の演劇界に衝撃が走る、見なきゃ損するカトケンのシェイクスピア…」(チラシより)

小田島訳。

山崎清介はかつて東京グローブ座で、やはりアンタイオカス王を演じた時、お腹に大きな詰め物をしていたっけ。確か真っ赤な服で。
(主演は上杉祥三だった。)今回は真黒の服でやせ細った体型。
主演の加藤健一は、年齢的にギリギリセーフか(ラストは年相応だが)。でももちろん演技は確かだし、人柄が分かるような温かいセリフ回しで
魅力たっぷり。
ヘリケーナス役の田代隆秀は声と滑舌がいい。
ガワー役などの福井貴一は、今回非常に巧みだが、日本語の上手な外人のような、妙な訛りのあるしゃべり方になることがあるので、
注意してほしい。
乳母リコリダ兼女郎屋の女将役の那須佐代子が出色の演技。この人は、これまでも何度もみてきたが、いつも安定感があった。
この2つの役を兼ねるのは、役者としてさぞ楽しかろう。
残忍な太守夫人ダイオナイザ役の矢代朝子も好演。

ところで、この芝居には2組の父娘が登場する。近親相姦の王とその娘。そして、後に主人公の義父となる善良で愛情深い王と、同じく後に
妻となるその清らかな姫。この2組の父娘を同じ2人が演じるというのは初めて見た。衣装と表情は全然違うが、やはりいささか苦しい。

ライシマカス役の加藤義宗は声がいい。

演出は非常に巧み。何度も笑えたし。ただ、冒頭の殺された者たちの首は、もうひと工夫してほしい。

女郎屋のシーンのラスト、亭主が突然「神様、神様…」と言い出して退場、女将があわてて後を追うのには驚いた。こんなシーンは原作には
ない。だけど面白い。女郎屋までがマリーナのせいでかくも変わってしまうほど、彼女の影響力が強かったということがよく分かる。

ラスト。ダイアナの神殿でペリクリーズが自分の身の上を語ると、それを聞いていた尼僧セーザが失神する場面で、彼女は舞台に現れず、
声のみ流し、その後、意識を回復した後に客席の間を通って登場。
ここで母と娘を同じ人が演じるのはよくあること。今回は、幕にカラーで娘の姿を投影させ、セリフのほんの一部分だけ流した。
(残念ながら客席から笑いが起こってしまった。)

女郎屋の女将のセリフ「いろんな肌の色の男とお付き合いできるんだよ」の後に「黒、白、黄色、緑…緑はあんまりいないけど」という原文
にないセリフをつけ加えているが、面白いから充分オッケーです!

いやあマジで楽しかった。チラシに偽りなし!でした。
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オペラ「シンデレラ」

2015-04-05 22:39:12 | オペラ
2月7日新国立劇場中劇場で、E.ヴォルフ・フェラーリ作曲のオペラ「シンデレラ」をみた(東京オペラ・プロデュース公演、
原作:シャルル・ペロー、指揮:飯坂純、演出・振付:太田麻衣子)。

日本初演。イタリア語上演。
この作曲家は、近代イタリア・ドイツオペラの貢献者だそうで、この作品はヴェリズモ・オペラ全盛時代の母国イタリアでは残念ながら
不評だったが、ドイツでは成功し今日でも歌劇場の重要なレパートリーとなっている由。

シンデレラと言えば、あらすじを紹介するまでもなく誰でも知っている話だが、このオペラは細部が少し違う。

1幕 シンデレラ(以下C)は薄暗い台所(地下室?)で継母のボンネットを縫っている。亡くなった母を慕って泣き寝入りしてしまうと、
奥に白衣の人々が現れて「従順な人は幸いだ」とか「ホザンナ」とか歌う。
てっきり妖精が助けに来ると思っていたのでちょっとびっくり。するとその集団の奥から一人の白衣の女性が現れてシンデレラの名を
呼び、「お前が泣くのは今日が最後よ」と告げる。これは死んだ母らしい。Cは目覚め、お母さん、と後を追いかける。「お母さんの
夢を見たのだわ」そこに継母と姉たちが登場。例によって「ただ飯食い」と罵り、「舞踏会に行きたい」と言うCをからかい、脅して去る。
またCが泣き寝入りすると、「花の妖精」たちが大勢現れる。まず少女たち、最後に大人の女性3人、みなオレンジ色の衣装にバラの花
を一輪ずつ手にしている。彼女らは泣き疲れたCに同情し、青い袖の白いドレスを着せ、ネックレスなどで着飾らせ、花の神輿に乗せて
(たぶんお城まで)引いてゆく。Cは母が守ってくれていることを感じる。

2幕 城では生まれてから一度も笑ったことがないという憂愁の王子が隅の方にうずくまっている。王と王妃は心配している。まるで
「ハムレット」の1幕2場のよう。道化がおかしなことをやっても無駄。
舞踏会が始まり、着飾った男女が大勢踊っていると、継母と姉たちが到着。遅れたのはCのせいだと彼女らが怒っていると、退屈した
王子が近づいて、家来の一人を指して、あの人が王子だから話しかけるといい、と3人をだます。3人はその男に迫る。
そこに妖精たちの引く神輿に乗ってC登場。みな彼女の美しさに見とれる。王子はその場に固まってしまう。
Cはまず王妃に挨拶し、次に王に挨拶し、皆の踊りの邪魔をしたことを詫びる。王子「あなただ。あなただ。」
王子の合図で皆再び踊り始める。王子はCと話す。
C「ほほ笑みのないあなたの顔が怖いわ」王子「笑ったことがないんだ」Cは両手を王子の頬に当て、口角を上げさせ、笑うことを教える。
彼は笑えるようになる。だがもう時間が迫っていた…。
姉たちはさっきの男とその仲間たちに絡まれ連れ去られる。母は娘たちを探す。
奥に巨大な月があったが、それが突然時計に変わり、12時の鐘が鳴り始める。C「最後の鐘が鳴り終わるまでに帰らないと死んでしまう」
(えっ!?馬車がかぼちゃに戻り、ドレスがボロ服に戻るだけじゃないのか!そりゃ大変…)
帰ろうとするCを見て王子は嘆き悲しみ、引き止めて「また会える?」C「私を捜して」(このセリフたまらない。)お約束通り階段の途中に
青く光るガラスの靴を片方うまいこと落としてC走り去る。王、王妃、道化その他みんなが出て来ると、王子は靴を抱きしめ「私は笑えた。
今、私は泣くことができる」と言うや床に突っ伏して泣く。(評者ももらい泣きが止まらず困った。こんなところで涙が出るとは思わなかった)

3幕 Cは相変わらずボロ服を着て働いている。町に役人がやって来て御触れを読み上げ、娘たちが大勢集まって来る。継母はガラスの靴が
かなり小さいらしいことを知り、娘たちの足を見ると、二人共Cの足より大きいようだ。そこで彼女らはCを洗濯部屋に閉じ込めてしまう。
国中の娘の足を調べても、合う娘はいない。
その時、一人の重臣が「御触れには裸足かどうか全く書かれていない」「初めからやり直すべきだ」と言い出し、またまた混乱する。
姉娘の一人の足がうまく合うが、痛がるのでよく見ると、靴に血がついている。彼女は自分の足の指を切ったのだった。3人は追い出される。

王子が名簿を取り上げて「まだ一人調べていない人がいる、ヴィオレッタ・ピアだ」と言うと、道化が彼女を捜し出そうとする。
ピアはさっきの継母と娘たちの名字なので、人々はまた彼らを呼んで問いただす。3人は、下の継子は死んだとか逃げたとか言い逃れるが、
近所の人たちに「けさ見かけた」と言われてしまう。
道化と家来はピア家の洗濯部屋から無事Cを助け出す。王子と再会し、二人がひしと抱き合う前に、一応足を靴に入れるよう促されるのが
おかしい。そこにまた、裸足はいけない、と言う男がいるので、王子は薄いハンカチを敷き、Cにその上から足を入れさせる。
王夫妻も現れ、二人は挨拶する。と、戴冠式が始まり、二人は新しい国王と王妃と呼ばれる。継母たちも一時はがっくりしていたが、
最後は自分たちを責める者が誰もおらず、Cが王妃になれば自分たちにもいいことがあるかも、と話し合ったらしい様子で、みんなと
一緒になって喜び祝う。めでたしめでたし。

題名役の鈴木慶江が素晴らしい。この人は可憐で薄幸の美少女を演じさせると右に出る者がいない。今回もその美声と容姿の美しさとを
堪能させてくれた。森麻季と共に、評者が同時代に生きていることを感謝する歌手だ。

他にも、道化師役の羽山晃生、継母役の河野めぐみ、姉ピツィキーナ役の工藤志州、姉ヴァネレッラ役の前坂美希、王子役の三村卓也
など、歌手陣はなかなかの高水準だった。

シンデレラ(ツェネレントラ)の本名がヴィオレッタだったとは、初めて知った。いや、台本作家が勝手につけた名前か。
笑える所も泣ける所もあり、なかなか奥の深い作品だ。特に孤独な王子の造形が秀逸。継母たちの企みさえもが哀れだ。
面白いので、つい長々とストーリーを紹介してしまったが、他愛もない話も優れた音楽によって命を吹き込まれている。
ただ今回の演出には一部納得できないところあり。特に冒頭の白い集団は不気味。何とかならないだろうか。



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