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ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ザ・ヒューマンズ」

2025-07-09 15:42:06 | 芝居
6月24日新国立劇場小劇場で、スティーヴン・キャラム作「ザ・ヒューマンズ」を見た(演出:桑原裕子)。



感謝祭の日、エリックは妻ディアドラ、認知症の母モモと共に、次女ブリジットとそのボーイフレンド、リチャードが住む
マンハッタンを訪れる。そこに長女エイミーも加わり食卓を囲むが、雑多なチャイナタウンの老朽化したアパートでは、
階上の住人の奇怪な物音や、階下のランドリールームの轟音がして落ち着かない。
そんな中、家族はそれぞれの不安や悩みを語り始め、だんだんと陰鬱な雰囲気を帯びてくる。
やがて照明が消え、不気味な出来事が次々起こり・・(チラシより)。
日本初演。

メゾネットタイプのアパート。舞台では2階中央に外との出入口があり、上手に電話とトイレ。
らせん階段を降りたところが地下1階で、ダイニングルームとリビングルーム。上手奥にキッチン。
正面奥のドアから廊下に出ると、エレベーターやランドリールームがあるらしい。
感謝祭の集まりだというのに、リチャード(細川岳)以外の誰もが辛辣な口を叩き合う。
特に母(増子倭文江)と次女(青山美郷)が互いにとげとげしい言葉を投げかける。
母は次女に小さなマリア像をプレゼントとして持参。
次女は嫌味たっぷりな反応。
両親はカトリックで、娘たちが信仰を捨てたように生きているのが不満のようだ。
母は時々「神様のおかげで」と口にする。

食卓につくと、みんなで手をつないで父が決まり文句のお祈りを唱え始め、みんなも続ける。
最後のアーメンの後、祖母も「アーメン」と言うので皆大喜び。
彼女の「アーメン」をもう一回聞きたい、というので、もう一度繰り返し、最後にみんなで拍手する。
この時ばかりは、和気あいあいとした、幸せな家族の姿だったが。

次第にわかってくる。この一家は皆、辛いものを抱えていた。
長女(山﨑静代)は難病が長引いて、そのために失業。しかも同性の恋人に振られていた。
次女は音大の作曲科にいるらしいが、一番信頼していた教授に、何かへの推薦状を書いてもらえなかった。
母は高卒後、40年も同じ会社で働いているが、自分より若い男たちが上司になり、5倍もの給料をもらっている。
車椅子の祖母(稲川実代子)は認知症で、常に介護が必要。
リチャードは38歳だが、何かの資格を取るのにまだあと1年かかる由。
以前うつ病にかかっていたという。(次女はこのことを言わせまいとしたが)

そして父(平田満)はこの日、娘たちに知らせるべき大事な話があったが、なかなか言えず、妻に何度も促されてようやく話し出す。
彼は28年勤めた私立学校を解雇されていた。
教師と浮気して。
学校がカトリック系だったため、こんな厳しい処分になったのだろうか。
所有していた土地に、そのうち別荘を立てるという楽しい計画もあったが、それどころか、その土地は売り払い、今の家も売って小さなアパートに引っ越すという。
年金ももらえなくなった。貯金もないという。
最近父は夢を見て眠れない。(そりゃそうでしょう)
寝汗をいっぱいかいている、と妻。

途中、みんなが階上にいる時、ソファで寝ていたはずの祖母が、いつの間にかいなくなる。
このトリックが可笑しい。
観客の目はみな階上に集中していたので、恐らく誰も彼女が移動したことに気づかなかった。

次女とリチャードが結婚していないことにも母は不満。
リチャードの母がセラピストだと聞いて、母が次女に「診てもらったら?」と言い、
次女が「義理の母親に診てもらうって素晴らしいわね!」と怒って叫ぶと、母「まだ義理の母親じゃないわよ。結婚してないんだから」。
父が二晩続けて見た夢の話をする。
女がいて、顔を見ると目も鼻も口もない、つまり日本の怪談によく出てくる「のっぺらぼう」。

ラスト、いきなり不条理の世界に突入。
タクシーが来たのでみんな乗り込み、父は母に言われたように、お皿と毛布を手に持つが、
階上の出入口に向かうでもない。
するとなぜか正面の戸が開き、そこから光が射し込む。(この時、停電で舞台は真っ暗)
外の廊下を、階上に住む中国人らしい女性が洗濯物を積んだカートを押して通るのが見える。
父はそちらの方へ歩いて行き、ドアの外へ。
するとドアはひとりでに閉まるのだった・・。

~~~~~~ ~~~~
この芝居は米国では人気で、多くの賞を受賞し、映画化もされたという。
登場人物の抱える問題も、今の日本と置き換えて何の違和感もない。
難病、失業、失恋、低い給料、認知症・・・。
ただ、父親の重大な秘密というのがあまりにありきたりでお粗末。
たかが浮気とは。
だが勤務先がカトリック系だからか、即解雇、しかも年金ももらえなくなるという大変な困難が彼と彼の家族に降りかかる。
彼は自分のしでかしたことを、どんなに後悔したことか。
彼はラストで狂気の世界に入っていくのだろうか。
彼の妻が、裏切られた怒りと将来への不安から、やけ食いに走るのも無理はない。

役者陣は皆さん好演だったが、米国と日本では笑いのつぼが違うため、長く感じられ、芝居としての面白味には欠けていた。


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