ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「スターリン」

2024-02-22 11:50:58 | 芝居
2月13日俳優座スタジオで、ガストン・サルヴァトーレ作「スターリン」を見た(演出:落合真奈美)。



一つの戯曲を3人の演出家が、それぞれ違う役者たちと上演するという変わった試み。
しかも今回、出演者の数も3人、7人、5人と、それぞれ違う!
その中の、7人のヴァージョンを見た。

1952年末から1953年初頭。
モスクワから32キロ離れた独裁者の別荘。
別荘は24時間1200人が警備にあたっている。
齢70を越える老スターリンはいまだ意気軒昂。権力の妄執に囚われている。
折しもモスクワで老ユダヤ人役者サーゲリがリア王を演じている。
リア王で自分を揶揄していると勘ぐったスターリンはサーゲリを別荘に呼びつける。

片やリア王を演じてサーゲリの真意を突き止めようとするスターリン。
片や道化となって逆にスターリンの虚像と実像を暴くサーゲリ。
独裁国家だったチリからドイツに亡命した作者が、独裁者とはなにかを問う渾身の劇が始まる(チラシより)。

開演前に用語解説の資料が配られた。まるで劇団チョコレートケーキ(笑)
スターリンというのが実は「鋼鉄の人」という意味の異名で、本名はヨシフ・ヴィッサリオノヴィチ・ジュガシヴィリだというのでびっくり。
予備知識を頭に入れて、いざ観劇。
<1幕>
舞台には、黒っぽい硬い枠が高くそびえて斜めに並んでいる。
その奥に大きなひじ掛け椅子、その後ろには黒電話の載った机、その背後にさらに暖炉らしきもの。
下にチロチロ燃える火が見える。

「にがい道化」と、いきなりシェイクスピアの引用から始まる。
ユダヤ人の老俳優(巻島泰一)と独裁者スターリン(島英臣)が、「リア王」の中のセリフを次々と口にする。
この劇中劇のセリフが古めかしくて独特。私の知っている誰の訳とも違う。
たぶん今回の翻訳・ドラマトゥルク担当の酒寄進一氏がドイツ語の原作を訳したものだろう。

スターリン「リア王は政治劇だ」「シェイクスピアはリアの過去を書いていない。リアは権力を手にするために何をしてきたか。
      きっと・・・。グロスター家の話はリアのかつての姿だ」
サーゲリ「ではリアは(二人の兄弟の)どっちでしょう・・・エドマンドですね」
このように、スターリンは「リア王」の内容を熟知しており、彼の「リア王」論はちょっと変わっているが、なかなか興味深い。

夜中なのに、上で金づちの音がする。
スターリンは夜眠れず、「起きているのが自分だけでないと思いたいがために」こんな時間に改築の仕事をさせているのだった。

サーゲリの一人息子ユーリも劇団関係の仕事をしていて、一時逮捕されたが、釈放されたという。
スターリンには息子が2人と娘が1人いる。長男はドイツの強制収容所で死んだ。
サーゲリとスターリンには共通点が多い。
二人共、貧しい家に生まれ、神学校に入ったが途中で辞めた。
だがサーゲリはユダヤ人。そこが大きな違いだ。
彼はユダヤ人仲間の俳優が暗殺されたと聞いて驚く。
実は彼は、学校時代、迫害を恐れてキリスト教に改宗していた。
だがユダヤ教徒でなくなっても、ユダヤ人であることに変わりはない。
<2幕>
スターリンは疑心に駆られ、政敵ばかりか側近も次々と粛清して来た。
そのため晩年は怯える日々。眠れぬ夜が続く。
彼はソビエト国内の全ユダヤ人をロシア極東へ強制移住ないし虐殺する準備を始める。

暗転の後、サーゲリは縦縞の囚人服を着て手錠をかけられている。
スターリンが彼の姿を見て驚き、けしからん、と言って手錠の鍵を取って来ようとするが見つからず、済まない、と謝る。

「今世間で流行っているジョークを言ってくれ。私を一回笑わせるごとに、ユダヤ人を一人許すことにする」
こうしてサーゲリは懸命にジョークを言い、4回くらいうまくいくが、最後のジョークは笑えなかった。
それは「私についてのジョークを言ってくれ」とスターリンが言い出したからだ・・・。
スターリンは薄い笑みを浮かべて言う。
「君に悲しい知らせがある。君の息子は・・の監獄に移され、〇〇日、心不全で死んだ」
サーゲリ「噓だ!嘘だと言ってくれ!」
彼はショックのあまりよろめく。
そして「リア王」の最後のセリフを言い始める。
「・・・鏡をくれ。
息でおもてが曇るかかすむかすれば
ああ、そうなら、生きている。・・
羽根が震えた。生きている!もしそうなら、
今日までなめてきた辛い思いの数々が
すべて一度に償われる。・・・
可哀想に、俺の阿呆が絞め殺された!もう、もう、命は
ない!
犬にも、馬にも、ネズミにも命がある。それなのに
なぜお前は息をしない?、もう戻っては来ない、
二度と、二度と、二度と、二度と、二度と!
・・頼む、このボタンをはずしてくれ。ありがとう。
これが見えるか?見ろ、この顔、見ろ、この唇、・・・」(ここは正確ではなく、松岡訳からの引用)
こうして彼は倒れる。幕。

いやあ驚きました。
途中までは面白かったのに、最後がいけない。
天才・沙翁の創作した、胸が締めつけられるようなセリフを使えば、観客の心をつかみ、泣かせることができると思ったのか。
これってまさに、「人のふんどしで相撲を取る」ってことじゃないですか!?
実にけしからん。
ずるいし、あまりにも虫が良すぎる。

役者では、何と言ってもスターリン役の島英臣の張りのある声が素晴らしい。
演出については、後ろにうごめく何人もの人たちは、むしろ邪魔だった。
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「兵卒タナカ」

2024-02-13 22:28:00 | 芝居
2月5日、吉祥寺シアターで、ゲオルク・カイザー作「兵卒タナカ」を見た(オフィスコット―ネ公演、演出:五戸真理枝)。





貧しい農家の出身である兵卒タナカは休暇をとり、戦友ワダとともに実家を訪れる。
軍人となった息子が帰ってくることを一家は喜び、贅の限りを尽くして迎え入れるが、村は不作が続き、大飢饉のまっただ中にあった。
自身の軍人という身分が、もっとも身近な存在の犠牲により成り立っている現実を突き付けられたとき、
タナカが信じて疑わなかった世界が音を立てて崩れていく・・・(チラシより)。
ネタバレあります注意!

舞台中央に、一段高くなった菱形の大きな台が設けてある。
白い簡素な服の人々が入って来る。
台の上で4人がゆっくり動くと雅楽が鳴り響くが、途中からグレゴリオ聖歌風の曲が混ざり、両者が渾然一体となって響く。
天井から濃い灰色の球が下がっていて、人々はそれに向かって手を伸ばす。

タナカの実家。
祖父、母、父、近所の人。
タナカがワダを連れて帰省する。
彼は新聞で、このあたりが大飢饉と知り、土産に焼酎と魚の干物を持参したが、両親は酒に白米、大きな魚まで出してもてなす。
「大飢饉なのに、どうしてこんな金がある?」と問うと、母は「へそくりだよ」などと言い、二人共、のらりくらりとごまかす。
そして、妹のヨシコがいない。
実は、ワダはタナカからヨシコの話を聞いて、彼女と結婚しようと思い、二人はそのこともあって帰省したのだった。
ヨシコは?と問うと、両親は「山の方に行った」「山をいくつも越えた所」「大百姓のところに働きに行ってる」と言う。
いつ戻る?と問うと、「何年たったら戻って来るって言ってたかなあ」と母。
父「おれはその時、金勘定してたからなあ」。

<2幕>
舞台奥に「妓楼」と大きく書かれた障子。
兵隊が6人やって来る。タナカとワダとその仲間たちだ。
射撃訓練で良い成績をあげた褒美に外出許可をもらったのだ。
まだ昼間なので女たちは寝ている。
だが兵隊とわかり、おかみは大喜び。
すぐに2階の女の子たちを起こすと言う。
まず一人が来て、歌と踊り。
白地にピンクの着物を羽織り、中は濃いピンクのベビードールのような丈の短いドレス。
6人の兵士はコインを投げて順番を決める。表が出た男が女と共に2階へ。
2人目、3人目、4人目と、それぞれ少し違う踊りをした後、兵士と消える。
最後にタナカが残る。
おかみ「最後にとっておきの子、一番若いコ、まだ歌と踊りはあまり・・」
観客の予想通り、6人目に来たのはタナカの妹ヨシコだった。
タナカ「お前をこんな目に合わせたのは誰だ」「山の大百姓の名は?」
ヨシコが答えないのでタナカはいろいろ想像する。
「男にだまされてここに逃げて来たのか」とか。
ずっと黙って聞いていたヨシコは「両親よ」
「借金の利子を返さないといけないの」
「女衒が私を見て・・・誰でもいいわけじゃないのよ」と、むしろ少し得意気。
タナカはショックのあまり呆然自失。
そこに新しい客が来る。
それは下士官ウメズで、タナカの上官だった。
他に女はおらず、タナカは自分の相手の女郎、つまりヨシコを、この上官に譲るよう店側から迫られる。
とっさに彼は妹を連れて隣室に逃げる。
逃げ回った挙句、もはや逃げられないと観念して妹を刺し殺す。
さらに彼は、驚く上官に向かって刃を突き立てるのだった・・。

<3幕>
軍事法廷。
裁判長は、この不可解な事件の真相に迫ろうとするが、被告であるタナカは黙秘し続ける。
仕方なく裁判長は、彼の凶行の動機をさまざまに想像する。
被害者である上官に対して、以前から何か恨みを抱いていたのではないか、その日、何かちょっとしたことでぶつかったのではないか、
同じく被害者である女郎は、実はお前がかつて付き合っていた女だったのではないか、等々。
だが、いずれもタナカが否定するので皆困惑する。
最後に彼は告白する。
あの女郎が自分の妹だと。
そして、実家の両親はご馳走で自分を歓待してくれたが、それは、妹を売って得た金で買ったものだったと、
それを知ってどれほどショックを受けたか、ということを。
すると裁判長始め、そこにいる弁護士も書記も全員が、うなだれ、黙ってしまう。
彼らは被告の凶行を、兄の心情からして仕方ないこと、同情すべきことと感じたらしい。
気を取り直した裁判長は言う。
女郎殺しの件はもはや問わないが、上官殺害の罪は重罪であり死刑に相当する。
ただし、お前が助かる道が一つだけある。
天皇陛下に願い出て、恩赦をしてもらうことだ、と。
だが、タナカは答える。
相変わらず真っ直ぐ前を向いて、清々しい態度で穏やかな笑みを浮かべつつ答える。
「陛下が謝るべきであります」と。
警護の者たちが慌てて銃を向ける。
こうして、危険思想の持ち主として、タナカは処刑されることになる。

不思議な味わいの空間だった。
舞台は日本のようだが、私たちの知っている日本とはいささか違う。
親が実の息子のことを「軍人さんのタナカ」と呼ぶ。
彼には下の名前がないらしい。
妹にはヨシコというちゃんとした名前があるのだが。

目の前にある一匹の魚のことを「この魚」とか「こんな大きな魚」などと、みなが何度も口にするのも奇妙だ。
日本では「こんな鯖」とか「鰤」とか、必ず魚の種類で呼ぶのだが。
だがこのことも、この芝居全体の寓話的な印象を強めている。

妹は死にたがってはいなかった。
兄が勝手に殺したのだ。
彼は、妹が女郎になるくらいなら死んだ方がましだ、と勝手に思ったのだ。
そのくせ自分は買春しようとしていた。
他の家の娘なら別にいいのか。
男は買春しても別に不名誉ではないが、女が売春するのは、死んだ方がましなくらい恥さらしなことらしい。
確かにこれは、つい数十年前まで日本社会にあった考え方だった。
だが今は違う。
買春する男も強く非難される時代になった。
だから、この芝居の、その点に違和感を覚えるのだ。
タナカは何の罪もない妹を殺し、同じく何の罪もない上官を殺した。
そして彼は、強い悲しみと怒りを抱いてはいるが、二人を殺したことについて後悔も反省もする気配がない。

オペラ「蝶々夫人」で蝶々さんは名誉のために死を選ぶが、当時の西洋における日本のイメージは、あれに大きく影響されているのだろう。
女性にとって、操は命より大切という考え。
だがそれが、かつての日本の現実だったのかも知れない。

上官殺害の罪は重罪で死刑に相当するが、妹を殺した罪は不問に付されるというのもすごい話だ。
タナカの供述を聞いて、そこにいる誰もが、そりゃ兄としては仕方ない、妹を殺すのも当然だよな、と思った。
実に不愉快だ。
妹に自殺願望はなかった。
女衒にじろじろ見られて高く買われたことを、むしろ誇りに思っているくらいだ。
もちろん彼女は今後、悪い病気にかかって苦しんだり死んだりするかも知れないが、逆に、金持ちに見初められて見受けされ、
子供をもうけて幸せな母親になることだって、ないとは言えまい。
そんな未来を、兄の一存で断ち切ってしまった。

とは言え作者はヨシコを、「苦界に身を沈めた」という風に描いてはいない。
作者はもっと客観的・俯瞰的に、主人公の行為を、或る種、寓意的に描いている。

軍事法廷の場面でタナカは激しい天皇批判を口にするので、1940年のチューリヒでの初演の際、日本公使館の抗議を受けて
この芝居が上演中止となったというのも、時代を考えれば当然だろう。
だが、天皇に職業選択の自由は(ほぼ)ない。特に当時の日本にはなかった。
戦争に突き進みたい政府が天皇制を利用したのだ。
天皇は神格化されていたとは言え、彼個人が謝ってくれたって状況は何も変わらない。

ここでは当時の日本と違って徴兵制が敷かれてはいないようだ。
だから、兵隊はみな職業軍人で誇り高い。
徴兵制度下ならば、村のどの家にも兵隊に取られた息子や父親がいて、タナカの帰省を村人総出で歓迎するような光景は
見られないはずだ。

多くのことを考えさせられたが、ドイツ人の作者が日本を舞台にこんな戯曲を書いていたというのが、実に興味深い。
作者はナチス政権に弾圧されて苦しい生活を強いられたという。
これは、そんな作者が日本という国に仮託して反戦を訴えた作品だというが、彼の分析力と洞察力には心底驚かされた。

役者はみな滑舌がよく、好演。
特に、裁判長役と下士官ウメズ役の土屋佑壱の過剰なまでの演技が、非常に面白い。
主人公タナカ役の平埜生成の清々しい演技も、この芝居にふさわしく、実に好ましい。






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オペラ「ファウスト」

2024-02-03 10:50:21 | オペラ
1月27日東京文化会館で、グノー作曲のオペラ「ファウスト」を見た(演出:D.G.ライモンディ、指揮:阿部加奈子、オケ:東京フィル)。



舞台はドイツ。老博士ファウストは孤独を悲しみ、「悪魔よ来たれ!」と叫ぶ。すると悪魔メフィストフェレスが出現。
「現世での願いは叶えるから、あの世では私に仕えろ」と持ちかける。若返った博士は、悪魔と共に祭りの場に繰り出し、出征するヴァランタンと
その妹マルグリート、マルグリ―トを慕う少年シーベルと出会う。いまや美青年のファウストは乙女の心を掴むが、
未婚の身で子を宿した彼女を世間は冷笑。ヴァランタンは妹の不始末を恥じてファウストと決闘し落命。
マルグリ―トは赤子を死なせた罪で牢に入る。救いに来たファウストと悪魔の前で、マルグリートは神に慈悲を乞い、男たちを拒む。
天界からの合唱が彼女の罪を赦して幕となる(チラシより)。

藤原歌劇団創立90周年の公演。
ゲーテの劇詩を題材に、1859年に作曲されたグランドオペラ。
全5幕。字幕付きフランス語上演。
このオペラは、2005年にレニングラード国立歌劇場の来日公演を見たことがある(武蔵野市民文化会館大ホール)。

幕が開くと、ファウストが長めの机の前に、こちらを向いて座っている。
机は布で覆われており、中に黒子が数人いてうごめいている。実に気持ち悪い。
しばらくして黒子たちが出て来て部屋の中を動き回る。
メフィストフェレスが背後に現れ、ファウストの様子をうかがう。彼には赤い照明が当たっている。
ファウストが「悪魔よ、来い」と言った途端、メフィストは彼の肩に手をかけ「来ましたよ」。
ビビるファウスト。
契約を持ちかけられてファウストが迷うと、メフィストは若い娘マルグリートの幻影を見せる。
そそのかされたファウストは、ついに契約書にサインする。

暗転(場面転換)の後、酒場。
驚いたことに、大勢の男女がいるのに全員が真っ黒な衣装。
よくよく見ないと男か女かも分からない。
こんなつまらない舞台ってあるだろうか。ここは衣装担当者の腕の見せ所なのに。

マルグリートの兄ヴァランタンは出征前に、マルグリートを慕う少年シーベルに彼女のことを頼む。
マルグリートら兄妹の母親は、すでに亡くなっているという。
メフィストとファウストが入って来る。
メフィストはヴァランタンの手を見て「私の知っている人に殺される」と不吉な予言をする。
さらにシーベルの手を見ると「触った花がしおれる」と嫌な予言をする。
メフィストが「金の仔牛の歌」を歌い、奇怪なことばかりするので、人々は彼が悪魔だと気づき、男たちは剣を逆さに持って十字の形にし、メフィストに向ける。

<2幕>
シーベル登場。
ここはマルグリートが毎日来て祈るところだと言う。
彼が花に触れると、花はみるみるうちに枯れる。
昨夜メフィストが不吉な予言をしたからだ、とショックを受ける。
そばに聖水があり、彼は思いついて、手をその聖水に浸す。
すると悪魔の呪いは消えて、花に触れても枯れない。
喜んだ彼は、白い花束をマルグリートに捧げようと、テーブルの上に置いて去る。
メフィストとファウストが来る。
メフィストはシーベルの置いた花束を床に投げ捨て、宝石箱を取って来てテーブルの上に置く。
二人が去ると、マルグリートが登場。
宝石箱を見て驚き、迷いながらも開けて、早速イヤリングやネックレスをつけてみる。
鏡も入っていたので、自分の姿を見てうっとり。「これはマルグリートじゃない、お姫様よ」
マルトが来て「それはあなたに騎士からのプレゼントよ」「私の亭主とは大違い」
メフィストとファウストが戻って来る。
メフィストは邪魔なマルトを引き離そうと話しかける。
「ご主人が亡くなりました」
ショックを受けるマルト。
だがメフィストと話をするうちに、すぐに気を取り直す。
「いつも旅してばかり」「若いうちはいいけど、年取ったら寂しいでしょう」とか話が進む。
マルトは何と、メフィストと再婚する気になる!
メフィストの方は「この人、ちょっと熟れ過ぎだな」と独り言を言い、逃げ腰なのが可笑しい。
一方、二人きりになったファウストはマルグリートに愛を告白。
いったんは盛り上がるが、マルグリートが「怖いわ」と尻込みし、ファウストは「あなたの清らかさに負けた」
「また明日」と言って別れる。
メフィストが来て「先生は勉強し直さないといけませんな」(笑)と言って、マルグリートが一人、星を見ながら祈っているところを見せる。
マルグリート「あの人は私を愛している!・・生きてるって素晴らしいわ・・」
これを見て勇気を得たファウストは彼女に近づき、二人は抱き合う。
メフィストは高笑い。
<3幕>
マルグリートが一人、白い長い衣に身を包み、赤い布にくるんだ赤子を抱いている。
子供たちが彼女をからかう声。みんなが私を侮辱する、と嘆くマルグリート。
立ち上がって赤い布をパッと広げると、中から白い紙片が散らばる!
何と!?赤子じゃなかったのか?
「あなたはどこにいるの?私、待ちくたびれた」「あなたに会いたい」と切々と歌うマルグリート。
シーベルが来て優しく話しかける。
「あなただけは優しいのね」
「あいつに復讐してやる」「君をだました男・・」
だが「まだ彼を愛してるの?」と聞かれると、彼女は「ええ」と答えるのだった。

兵隊たちが町に帰って来る。迎える女たち。
マルグリートの兄も戻って来て、シーベルを見て妹は?と聞く。
シーベルは「マルグリートを責めないで」と言いつつ、家に入ろうとする兄を止める。
メフィストとファウストが来て、ファウストはマルグリートに会おうとするが、メフィストは適当に歌いながら邪魔する。
兄は事情を知り、ファウストに向かって剣を抜く。
ファウストはマルグリートの兄と知って戸惑うが、メフィストが「私の力で守ってあげる、大丈夫」と言う。
兄は、妹にもらってずっと身につけていたメダルを地面に投げ捨てる。
メフィスト「後悔するぞ」
二人は戦い、兄は刺されて倒れる。
ファウストとメフィストは逃げる。
倒れた兄にマルグリートが駆け寄ると、兄「来るな、お前は悪の道を選んだ。神はお前を赦すだろうが、この世では
お前は呪われる」と言い残して死ぬ。
人々「最後にこんな不幸な言葉を・・神を冒涜する・・」

<バレー>
ここでバレーが挿入される。しかも長い!
前回見た時も感じたが、未婚の少女がたった一人の肉親である兄を殺され、恋人にも捨てられたと思って赤子を自ら殺すという大変な時なのに、
ここで延々とダンサーたちのバレーを見せられるって一体・・・。
こちらはもう、続きが気になって気になって落ち着かないんですけど。
フランスのオペラだから仕方ないけど、我々とはやっぱりちょっと違うと思った。
でも音楽がいいし、ダンサーたちもうまいので、結局は見とれてしまったけど(笑)
ちなみに、このオペラで一番有名なのは、ここのバレー音楽。

バレーが終わると、マルグリートは子殺しの後らしく、牢獄の中。
ファウストが話しかけると、マルグリートは嬉しそうに答え、彼と初めて会った時のことを懐かしそうに思い出す。
メフィストが現れると、マルグリートは「悪魔が!」と驚く。
メフィストはファウストに言う、「牢番は眠っている。これが鍵だ。早く連れ出して一緒に逃げよう」
庭に処刑台が作られている、とか言う。マルグリートはすぐにでも処刑されるようだ。
ファウストがしきりに誘うが、マルグリートは「いや」「ここにいる」「神様・・・」と祈り続ける。
彼女の白衣にさらに白い照明が当たり、神々しい。
するとなぜか黒衣の女性たちが現れて彼女を取り巻く。
しまいに一人が彼女を抱きしめる。
赤い照明がメフィストに当たり、メフィストとファウストは出口の方に退く。幕。

今回の演出は、赤子の布の一件を始め、いろいろと納得のいかない点が多かった。
衣裳も手抜きでつまらない。予算の関係もあるのだろうか。
歌手は、メフィストフェレス役のカッチャマーニ、シーベル役の向野由美子、マルグリート役の砂川涼子が好演。
題名役の人は、この日、調子がよくなくて残念だった。
ダンサーの方々は、素晴らしかった。
いろいろ不満はあったが、めったに上演されない作品を久し振りに見ることができてよかった。


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