ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ヘンリー四世」

2017-01-28 10:50:02 | 芝居
12月20日と21日新国立劇場中劇場で、シェイクスピア作「ヘンリー四世」をみた(演出:鵜山仁)。
2部構成の長い作品を、2夜にわたって見た。
 
 ~第1部 混沌~
国王ヘンリー四世は、前王リチャード二世から王位を簒奪した罪悪感に苛まれていた。長男ハル王子は大酒飲みで無頼の騎士フォールスタッフと
放蕩三昧。その頃ノーサンバランド伯の息子パーシーが謀反を起こす。シュルーズベリーに出陣したハル王子とパーシーの一騎打ち。
勝敗の行方は・・・。

冒頭、清らかなバロック音楽が流れる中、国王ヘンリー四世(中嶋しゅう)が奥から登場。中央の白い木の王座に座る。彼が話している間に
他の人々も登場。舞台上空に木材がたくさん不規則に組み合わさっている。前面のものは途中で上に引き上げられる。中央上部に
イングランドの?国旗が歪んで下がっている。舞台前面下手に赤い砂が敷き詰めてある(そこでパーシーが王座を投げたり蹴飛ばしたりする)。

王子ハル(浦井健治)はギンギラの革ジャン姿。ヘッドホンでロックを聴いていて、その音が舞台に響き渡る。彼がヘッドホンを外すと
音は止む。父王の前でもまだ子供っぽくイエーイとはしゃいだりして、父に手真似で「これはやめろ」と言われたりする。

王座はひっくり返して布をかけるとテーブルに早変わり。
フォールスタッフ役の佐藤B作は楽しいが、声が少々つぶれていて始めは聞こえにくい。
彼のホラ話の中で、自分が勇敢に戦ったと称する相手の人数がどんどん増える際、ハルが客席の人に「さっき〇人だって言ったのに・・ね?」
と話しかけていると、「お前、何楽しくやってんだよ。この2ヶ月間おれたちは苦しんできたのに、何お話ししてんだよ」と文句を言うのが
おかしい。かつて見た吉田鋼太郎もアドリブが楽しかった。
ただ他の人はちゃんとフォールスタッフと言っているのに、本人は自分の名前を何度もホールスタッフと言うのは変だ。

パーシー役は岡本健一。今回、滑稽さが前面に出ているような気がする。以前見た伊礼彼方は端的にかっこよかったが。

フォールスタッフとハル王子が「王様と王子様ごっこ」を繰り広げる劇中劇が楽しい。
グレンダワーのウェールズ訛りが、適当な軽い訛りのある日本語にうまく移されていて面白い。
ウェールズ語しか話せないモーティマーの妻のくだりで客席は二度爆笑。

原作がとにかく長いので、削りに削ってここまで3時間。
後半は翌日見た。

 ~第2部 戴冠~ 
フォールスタッフはシュルーズベリーの戦いで手柄を立て、過去の罪状を許されるが、ノーサンバランド伯の討伐軍に加わることになる。
昔馴染みのシャロー判事の暮らすグロスターシアに徴兵に訪れた彼に、ハル王子がヘンリー五世として即位したとの報が。意気揚々と
新王の前に姿を現すフォールスタッフを待ち受けていた運命とは?

「噂」のセリフを6人の男たちが分担して言う。どうしてこんなことをする?一人に覚えさせるのが難しかったのか?
だが「俺」というセリフがたくさんあり、それを6人が口にするので聴いている方としては戸惑ってしまう。

酒場の女ドル役の松岡依都美は色白で豊満な体つきがぴったり。
ピストル役は岡本健一。1部ではパーシーとして大暴れしたし、こういうキャラはこの人にお任せという感じ。
途中乱闘騒ぎになると、We will rock you が延々と流れる。
そのうち突如グリーンスリーブズが流れ出し、場面は田舎へ。
田舎者の判事シャローは、かつてたかお鷹が例によって怪演したのを面白く見た。今回はラサール石井。   

那須佐代子はクイックリー夫人の長い場をやり遂げた後、すっかり変身してノーサンバランド伯夫人として登場。
始め誰だか分からなかった。役者ってすごい。
元々美人でしかも高貴な容貌だが、貴婦人から社会の底辺の女まで演じられる、こういう人は滅多にいない。

演出にがっかりしたのは2点。
1つは音楽。
ハルと父王の和解のシーンでしみじみした曲を流すなっつうの!
昔見たNHKの「フルハウス」を思い出した。
もう1つは役者の動きについて。
サイレンス役の綾田俊樹がコミカルな動きをして観客を楽しませるのはいいが、別の人が舞台の反対側でセリフを言っている時に、
おかしな動作で近くの観客を笑わせるってのは、一体どういう了見なのか??
芝居の邪魔でしょうが。
演出家が知っててやらせたとしたらもう救いようがないし、そうでなくても、こういうことが起こることを予想していなかったとしたら迂闊だった。

モーティマー夫人役の女優は出番が一場だけ、と少ないので、原作にはない「居酒屋の看板娘」という役を作って舞台に華を添える、など
面白い工夫はあった。

ノーサンバランド伯役の立川三貴は高貴な役にぴったり。倒れ方も美しい。

B作さんはアドリブが楽しい。
金袋からコインを出した時、1つころがって行ってしまった。と、コインに向かって「どこへ行くんだ」。
また、彼が観客に話しかけていると、ラサール石井も負けじと「独り言が長い。さあ、こちらへ」「誰に話してるんですよ?」
するとB作「たくさんの、名も知れぬ方々にだよ」。しかもそれをしみじみした口調で言うからおかしい。
とまあこんなふうに、とにかくアドリブ合戦の趣で、間延びしそうな所を引っ張って観客を飽きさせない。
そういう点、今後のシェイクスピア劇上演の方向性を示すものだとは思う。








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チェーホフ作「かもめ」

2017-01-21 17:18:06 | 芝居
12月15日吉祥寺シアターで、チェーホフ作「かもめ」をみた(劇団地点公演、演出:三浦基)。

作家志望のトレープレフは恋人ニーナに自作の芝居を演じさせるが、有名な女優である母アルカージナに酷評され、失敗に終わる。
しかも名声に憧れるニーナはアルカージナの愛人である作家トリゴーリンの元に走り、二重に傷ついたトレープレフは拳銃で自殺を図る。
二年後、彼は作家となるが、まだ道を模索中。そこにニーナが戻ってくる。トリゴーリンとの間に生まれた赤ん坊は死に、トリゴーリンは
ニーナを捨てて、またアルカージナの元に戻ったのだった。そして、そんなことになってもまだ、ニーナはトリゴーリンを愛していた・・・。

壁際にピアノ。マーシャらしき黒衣の女性が「二人の擲弾兵」を弾いている。
ニーナらしき白衣の女性がいろいろ解説しながら紙コップの紅茶と小さな焼き菓子を客に配って歩く。他の役者たちも配る。
ロシア語の説明も。かもめはチャイカ、とか。明治時代ならともかく、こんな説明が必要だろうか?
人名とその愛称。コンスタンチンがコースチャとか。そして、あろうことか、劇のあらすじを説明し始める!
こりゃたまらん。早くも帰りたくなった。

コースチャは始めから頭に包帯を巻いている。
日本語の抑揚をわざと無視した話法が耳に突き刺さる。
こういうのも異化効果と言うのだろうか。
マーシャ役の女優は終始子犬のようにキャンキャン吠える。
醜悪。デカダン。

一週間後の「桜の園」のチケットも購入済みだったが、よっぽど行くのをやめようかと思った。
でも一応思い直して行ったので、その感想は後ほど。



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オペラ「眠れる美女」

2017-01-15 22:20:23 | オペラ
12月10日東京文化会館大ホールで、川端康成原作、クリス・デフォート作曲のオペラ「眠れる美女」をみた(演出:ギー・カシアス、オケ:
東京藝大シンフォニエッタ)。

東京文化会館開館55周年・日本ベルギー友好150周年記念公演。日本初演。

「すでに男ではなくなった安心できる客」が、薬で眠らされた若い女の温かい体に寄り添い一夜を過ごすことのできる、奇妙ではかない逸楽の館。
友人の紹介でこの館を訪れた江口由夫は、ここで「眠れる美女」と出会うのだが・・・。

現代音楽ゆえハナから腰が引けていたが、途中調性のある部分もあった。バッハ風だったりロマン派風だったり。
客の男と館の女主人とを、それぞれ2人の歌手と2人の俳優とが歌い、演じるという変わった構成。
それに4人の女性合唱、そして上空で1人の女性ダンサーが踊るという欲張りな?演出。

俳優陣は、初老の男・江口を長塚京三、館の女主人を原田美枝子が演じる。

男のセリフに部分的に不愉快な感じがした。
彼は、1人の客が死に、その遺体を、館の人間が、夜陰に乗じて密かに近くの温泉宿に運び出したことを嗅ぎつける。
そこで彼は女主人に向かって、なぜそんなことをする?その旅館とこことどういう関係なのか?としつこく尋ねる。
客の名誉を守るためだという彼女の答えを軽く馬鹿にしたように笑う。
とにかく不愉快な男だ。

歌手は英語で歌う。
舞台上部では女性ダンサーが歌の間ずっと踊ったりアクロバティックな動きを見せたりする。
舞台奥に映像も挿入される。
ラストは1人の若い女の子の死。そしてそれにも関わらず女主人は別の女を勧め、男は呆れて立ちすくむ。

次の日に見た評者の夫のコメントが面白い。
曰く、これはオペラじゃない。俳優はミスキャストで、奥田瑛二と小泉今日子の方がいい。音楽がつまらない。
途中擬古典調になる意味が不明。上でくねくねしてる人の存在も意味不明。歌手と役者とが同一人物を演じるのはいいが、
交互に出てくるならともかく同時に舞台に並んでいるのは理解できない、とのこと。
評者に劣らず歯に衣着せぬ物言いですみません。この人はセミプロの音楽家なので、音楽に関しては要求水準が非常に高い。
だから期待を裏切られた結果の発言なのでしょう。
評者には現代音楽の善し悪しはさっぱり分からないが、役者に関しては同感。
原田美枝子はこの役柄には上品過ぎるし、もっとずっと高貴な役が似合う。長塚京三だって真面目で誠実な慈父のイメージだ。
ひょっとして、奥田瑛二だったら、かえってセリフにさほど不愉快さを感じなかったかも知れない。

設定を読んだだけで分かるように、川端の原作は官能と退廃の極みであり、時に男性目線、女性蔑視という批判にもさらされるが、
これまで多くの人にインスピレーションを与えてきたらしい。13ヶ国語に翻訳され、国内外で何度も映画化されている。

川端はレビューの踊り子を引き抜いて本格的にバレーを習わせたり、作品にも舞踊を描いたものが非常に多いなど、生涯を通じて
舞踊は重要なテーマでありモチーフであったという。
従って、今回ダンスの要素を取り入れたのも、原作者へのオマージュととらえれば、特に違和感はない。
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「スルース 探偵」

2017-01-05 10:13:19 | 芝居
11月30日新国立劇場小劇場で、アンソニー・シェーファー作「スルース 探偵」をみた(演出:深作健太)。
トニー賞受賞の傑作推理劇を、今回は探偵バージョンとスルースバージョンで上演する由。
その探偵バージョンの方を見た。

舞台は三角形。奥の部屋と2階に通じる階段。時計の音が大きく響いている。クッションの模様が妙に落ち着かない。
推理小説作家アンドリュー・ワイク(西岡徳馬)が原稿を読んでいる。警察官のセリフ、そして探偵のセリフ。そこへ来客のベルの音。
入って来たのはマイロ・ティンドル(新納慎也)。緊張している。それもそのはず、彼は実はワイクの妻マーガリートの愛人で、それを知ったワイク
に呼ばれて来たのだった。
マーガリートは浪費家らしい。ワイクには別の愛人がおり、マーガリートと離婚してもいいと言う。ただ「貧乏な君にはとても彼女を養っていけない
だろうから、うちの金庫に入れてあるルビーのネックレスを盗んだらどうか」と奇妙な提案をする。自分には保険金が下りるし、と言うのだ。
ティンドルの父はイタリアからの移民(30年代に英国に来たと言うと、ワイク「ああ、ユダヤ人」)。父はティンドリーニという名前を英国風に
ティンドルに変えたが、今はイタリアに戻っている。マイロは旅行会社をやっている。

部屋の隅に水兵服を着た等身大の子供の人形があり、テーブルのボタンを押すと、けたたましく笑う。

ピエロの扮装が気に入り、子供のようにはしゃぐティンドル。ワイクに言われるままに彼の立てた筋書きに従って強盗のふりをするが・・・。
1幕ラストでティンドルはピエロの格好のまま撃たれて倒れる・・・。

2幕、ワイクは鼻歌を歌いつつご機嫌で酒を飲もうとしていると、一人の老刑事がやって来る。ティンドル失踪事件の捜査中と言う。
ティンドルは金曜の夜以来家に帰っていない。家にワイクが書いたメモが残されていたことから、ワイクは金曜の夜に起こったことを話す羽目に
なる。ただ、最後の弾は空砲で、マイロを脅かして懲らしめるためだったと言うが・・・。

新納慎也はナマで見たのは初めて。非常に声がよく、しかも演技もうまい。大河ドラマ「真田丸」に出ていたが、その時はただ、甘い声だなあ、と
思っただけだった。背も高く、舞台映えする。

中盤で、二人は大いに盛り上がり、愉快に楽しく語り合う。見ている方も嬉しくなる。ここでやめておけばよかったが、ティンドルの復讐は
いささか過剰なほど続き、ついにワイクのプライドをことごとく打ち砕き・・・。

確かに面白い劇だ。少し納得のいかない点もあるが、まあそういうことは時々あるし。
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