12月20日と21日新国立劇場中劇場で、シェイクスピア作「ヘンリー四世」をみた(演出:鵜山仁)。
2部構成の長い作品を、2夜にわたって見た。
~第1部 混沌~
国王ヘンリー四世は、前王リチャード二世から王位を簒奪した罪悪感に苛まれていた。長男ハル王子は大酒飲みで無頼の騎士フォールスタッフと
放蕩三昧。その頃ノーサンバランド伯の息子パーシーが謀反を起こす。シュルーズベリーに出陣したハル王子とパーシーの一騎打ち。
勝敗の行方は・・・。
冒頭、清らかなバロック音楽が流れる中、国王ヘンリー四世(中嶋しゅう)が奥から登場。中央の白い木の王座に座る。彼が話している間に
他の人々も登場。舞台上空に木材がたくさん不規則に組み合わさっている。前面のものは途中で上に引き上げられる。中央上部に
イングランドの?国旗が歪んで下がっている。舞台前面下手に赤い砂が敷き詰めてある(そこでパーシーが王座を投げたり蹴飛ばしたりする)。
王子ハル(浦井健治)はギンギラの革ジャン姿。ヘッドホンでロックを聴いていて、その音が舞台に響き渡る。彼がヘッドホンを外すと
音は止む。父王の前でもまだ子供っぽくイエーイとはしゃいだりして、父に手真似で「これはやめろ」と言われたりする。
王座はひっくり返して布をかけるとテーブルに早変わり。
フォールスタッフ役の佐藤B作は楽しいが、声が少々つぶれていて始めは聞こえにくい。
彼のホラ話の中で、自分が勇敢に戦ったと称する相手の人数がどんどん増える際、ハルが客席の人に「さっき〇人だって言ったのに・・ね?」
と話しかけていると、「お前、何楽しくやってんだよ。この2ヶ月間おれたちは苦しんできたのに、何お話ししてんだよ」と文句を言うのが
おかしい。かつて見た吉田鋼太郎もアドリブが楽しかった。
ただ他の人はちゃんとフォールスタッフと言っているのに、本人は自分の名前を何度もホールスタッフと言うのは変だ。
パーシー役は岡本健一。今回、滑稽さが前面に出ているような気がする。以前見た伊礼彼方は端的にかっこよかったが。
フォールスタッフとハル王子が「王様と王子様ごっこ」を繰り広げる劇中劇が楽しい。
グレンダワーのウェールズ訛りが、適当な軽い訛りのある日本語にうまく移されていて面白い。
ウェールズ語しか話せないモーティマーの妻のくだりで客席は二度爆笑。
原作がとにかく長いので、削りに削ってここまで3時間。
後半は翌日見た。
~第2部 戴冠~
フォールスタッフはシュルーズベリーの戦いで手柄を立て、過去の罪状を許されるが、ノーサンバランド伯の討伐軍に加わることになる。
昔馴染みのシャロー判事の暮らすグロスターシアに徴兵に訪れた彼に、ハル王子がヘンリー五世として即位したとの報が。意気揚々と
新王の前に姿を現すフォールスタッフを待ち受けていた運命とは?
「噂」のセリフを6人の男たちが分担して言う。どうしてこんなことをする?一人に覚えさせるのが難しかったのか?
だが「俺」というセリフがたくさんあり、それを6人が口にするので聴いている方としては戸惑ってしまう。
酒場の女ドル役の松岡依都美は色白で豊満な体つきがぴったり。
ピストル役は岡本健一。1部ではパーシーとして大暴れしたし、こういうキャラはこの人にお任せという感じ。
途中乱闘騒ぎになると、We will rock you が延々と流れる。
そのうち突如グリーンスリーブズが流れ出し、場面は田舎へ。
田舎者の判事シャローは、かつてたかお鷹が例によって怪演したのを面白く見た。今回はラサール石井。
那須佐代子はクイックリー夫人の長い場をやり遂げた後、すっかり変身してノーサンバランド伯夫人として登場。
始め誰だか分からなかった。役者ってすごい。
元々美人でしかも高貴な容貌だが、貴婦人から社会の底辺の女まで演じられる、こういう人は滅多にいない。
演出にがっかりしたのは2点。
1つは音楽。
ハルと父王の和解のシーンでしみじみした曲を流すなっつうの!
昔見たNHKの「フルハウス」を思い出した。
もう1つは役者の動きについて。
サイレンス役の綾田俊樹がコミカルな動きをして観客を楽しませるのはいいが、別の人が舞台の反対側でセリフを言っている時に、
おかしな動作で近くの観客を笑わせるってのは、一体どういう了見なのか??
芝居の邪魔でしょうが。
演出家が知っててやらせたとしたらもう救いようがないし、そうでなくても、こういうことが起こることを予想していなかったとしたら迂闊だった。
モーティマー夫人役の女優は出番が一場だけ、と少ないので、原作にはない「居酒屋の看板娘」という役を作って舞台に華を添える、など
面白い工夫はあった。
ノーサンバランド伯役の立川三貴は高貴な役にぴったり。倒れ方も美しい。
B作さんはアドリブが楽しい。
金袋からコインを出した時、1つころがって行ってしまった。と、コインに向かって「どこへ行くんだ」。
また、彼が観客に話しかけていると、ラサール石井も負けじと「独り言が長い。さあ、こちらへ」「誰に話してるんですよ?」
するとB作「たくさんの、名も知れぬ方々にだよ」。しかもそれをしみじみした口調で言うからおかしい。
とまあこんなふうに、とにかくアドリブ合戦の趣で、間延びしそうな所を引っ張って観客を飽きさせない。
そういう点、今後のシェイクスピア劇上演の方向性を示すものだとは思う。
2部構成の長い作品を、2夜にわたって見た。
~第1部 混沌~
国王ヘンリー四世は、前王リチャード二世から王位を簒奪した罪悪感に苛まれていた。長男ハル王子は大酒飲みで無頼の騎士フォールスタッフと
放蕩三昧。その頃ノーサンバランド伯の息子パーシーが謀反を起こす。シュルーズベリーに出陣したハル王子とパーシーの一騎打ち。
勝敗の行方は・・・。
冒頭、清らかなバロック音楽が流れる中、国王ヘンリー四世(中嶋しゅう)が奥から登場。中央の白い木の王座に座る。彼が話している間に
他の人々も登場。舞台上空に木材がたくさん不規則に組み合わさっている。前面のものは途中で上に引き上げられる。中央上部に
イングランドの?国旗が歪んで下がっている。舞台前面下手に赤い砂が敷き詰めてある(そこでパーシーが王座を投げたり蹴飛ばしたりする)。
王子ハル(浦井健治)はギンギラの革ジャン姿。ヘッドホンでロックを聴いていて、その音が舞台に響き渡る。彼がヘッドホンを外すと
音は止む。父王の前でもまだ子供っぽくイエーイとはしゃいだりして、父に手真似で「これはやめろ」と言われたりする。
王座はひっくり返して布をかけるとテーブルに早変わり。
フォールスタッフ役の佐藤B作は楽しいが、声が少々つぶれていて始めは聞こえにくい。
彼のホラ話の中で、自分が勇敢に戦ったと称する相手の人数がどんどん増える際、ハルが客席の人に「さっき〇人だって言ったのに・・ね?」
と話しかけていると、「お前、何楽しくやってんだよ。この2ヶ月間おれたちは苦しんできたのに、何お話ししてんだよ」と文句を言うのが
おかしい。かつて見た吉田鋼太郎もアドリブが楽しかった。
ただ他の人はちゃんとフォールスタッフと言っているのに、本人は自分の名前を何度もホールスタッフと言うのは変だ。
パーシー役は岡本健一。今回、滑稽さが前面に出ているような気がする。以前見た伊礼彼方は端的にかっこよかったが。
フォールスタッフとハル王子が「王様と王子様ごっこ」を繰り広げる劇中劇が楽しい。
グレンダワーのウェールズ訛りが、適当な軽い訛りのある日本語にうまく移されていて面白い。
ウェールズ語しか話せないモーティマーの妻のくだりで客席は二度爆笑。
原作がとにかく長いので、削りに削ってここまで3時間。
後半は翌日見た。
~第2部 戴冠~
フォールスタッフはシュルーズベリーの戦いで手柄を立て、過去の罪状を許されるが、ノーサンバランド伯の討伐軍に加わることになる。
昔馴染みのシャロー判事の暮らすグロスターシアに徴兵に訪れた彼に、ハル王子がヘンリー五世として即位したとの報が。意気揚々と
新王の前に姿を現すフォールスタッフを待ち受けていた運命とは?
「噂」のセリフを6人の男たちが分担して言う。どうしてこんなことをする?一人に覚えさせるのが難しかったのか?
だが「俺」というセリフがたくさんあり、それを6人が口にするので聴いている方としては戸惑ってしまう。
酒場の女ドル役の松岡依都美は色白で豊満な体つきがぴったり。
ピストル役は岡本健一。1部ではパーシーとして大暴れしたし、こういうキャラはこの人にお任せという感じ。
途中乱闘騒ぎになると、We will rock you が延々と流れる。
そのうち突如グリーンスリーブズが流れ出し、場面は田舎へ。
田舎者の判事シャローは、かつてたかお鷹が例によって怪演したのを面白く見た。今回はラサール石井。
那須佐代子はクイックリー夫人の長い場をやり遂げた後、すっかり変身してノーサンバランド伯夫人として登場。
始め誰だか分からなかった。役者ってすごい。
元々美人でしかも高貴な容貌だが、貴婦人から社会の底辺の女まで演じられる、こういう人は滅多にいない。
演出にがっかりしたのは2点。
1つは音楽。
ハルと父王の和解のシーンでしみじみした曲を流すなっつうの!
昔見たNHKの「フルハウス」を思い出した。
もう1つは役者の動きについて。
サイレンス役の綾田俊樹がコミカルな動きをして観客を楽しませるのはいいが、別の人が舞台の反対側でセリフを言っている時に、
おかしな動作で近くの観客を笑わせるってのは、一体どういう了見なのか??
芝居の邪魔でしょうが。
演出家が知っててやらせたとしたらもう救いようがないし、そうでなくても、こういうことが起こることを予想していなかったとしたら迂闊だった。
モーティマー夫人役の女優は出番が一場だけ、と少ないので、原作にはない「居酒屋の看板娘」という役を作って舞台に華を添える、など
面白い工夫はあった。
ノーサンバランド伯役の立川三貴は高貴な役にぴったり。倒れ方も美しい。
B作さんはアドリブが楽しい。
金袋からコインを出した時、1つころがって行ってしまった。と、コインに向かって「どこへ行くんだ」。
また、彼が観客に話しかけていると、ラサール石井も負けじと「独り言が長い。さあ、こちらへ」「誰に話してるんですよ?」
するとB作「たくさんの、名も知れぬ方々にだよ」。しかもそれをしみじみした口調で言うからおかしい。
とまあこんなふうに、とにかくアドリブ合戦の趣で、間延びしそうな所を引っ張って観客を飽きさせない。
そういう点、今後のシェイクスピア劇上演の方向性を示すものだとは思う。