3月15日東京芸術劇場プレイハウスで、ジェームズ・ゴールドマン作「冬のライオン」を見た(演出:森新太郎)。
1183年、イングランド国王ヘンリー二世が迎える心休まらぬクリスマス。
跡目争い、領土紛争、王妃と若き恋人の確執・・・今日こそ決着をつけようと、王妃が、息子たちが、敵国の若き王が、愛妾が、それぞれの思惑を胸に王の城に集まる。
愛と憎しみと欲望と。権謀術数渦巻く、高貴な人々の赤裸々な攻防。その結末は?
1966年にブロードウェイで初演以来、映画化、テレビ映画化され、世界の名優たちが演じてきた歴史ドラマの名作(チラシより)。
評者はこの作品を、2010年1月に平幹二郎と麻実れいの主演で見て圧倒された(演出:高瀬久男、東京グローブ座にて)。
あの時の名優たちの印象が強過ぎて、あれを超えるものはあるまい、と思い、今回いささか躊躇しつつも楽日に出かけた。
ところが!いざ幕が開くと、予想はいい方に裏切られた。
今回もバイユーのタペストリーが用いられる。
王妃エレノア(高畑淳子)はサングラスをかけて登場。彼女は夫である王によって10年間も城の中に幽閉されている。
王ヘンリー(佐々木蔵之介)曰く「俺とリア王は似ている。どちらも3人の子供がいる王だった。だが奴は王国を子供たちに分け与えた。俺はそんなことはしない」。
長男リチャード(加藤和樹)は妃のお気に入り。
次男ジェフリー(永島敬三)は、私は誰にも愛されたことがない、両親は私には無関心だ、と鬱屈を抱えている。
三男ジョン(浅利陽介)はまだ16歳。背が低く、おっちょこちょいでおつむも少々軽い。道化役のよう。
だが父王は、そんな彼をなぜか可愛がっており、王位を継がせようと思っている。
こういう家族だから、そしてそれが王家だから、これは大問題だ。
3人の息子たちの一体誰が父の王国と領土を継ぐのか?!
そこに、フランス王女でヘンリー王の愛人であるアレー(葵わかな)の弟フィリップ(水田航生)が若きフランス王として乗り込み、かつて自分の父であるフランス王が
ヘンリーと交わした約束を実行するようにと迫る。それは、アレーと長男リチャードとを結婚させるか、仏国内のアキテーヌの領土を返すか、どちらかを選ぶ
というものだった。
しかもアレーは7歳の時フランスから英国に渡り、エレノアの手で育てられたという!
まるで、ウッディ・アレンと、彼の妻ミア・ファローの養女で後にアレンの妻となる中国系少女のような関係!?
つまりヘンリーは、自分の息子のフィアンセとなるはずの少女に手を出した、ということらしい。
このように重苦しいストーリーのはずが、演出家が「王道のシチュエーションコメディ」と書いているように笑えるセリフがたくさんあり、実におかしくて楽しい。
王妃エレノア役の高畑淳子が、まるで宛て書きされたかのよう!高貴な生まれの女人のはずなのに、品のないセリフに加えてしぐさも・・・。
時代が12世紀と古いから、人々も素朴でナイーブ(荒削り)なのだ。
それに彼らが性懲りもなく繰り広げるパワーゲームは、演出家の言う通り、喜劇以外の何ものでもない。
そんな喜劇のもつ魅力を引き出すセンスが彼女には備わっている。
今までも彼女を何度か見てきたが、この日、一気に心を鷲づかみにされた。
ヘンリー王役の佐々木蔵之介ももちろんすごい。
ただ、彼は元気一杯で若々しく舞台狭しと飛び跳ね、動き回る。口では自分のことを「老いぼれ」「こんなじじい」と言うが、
(当時の50歳は、本当にもう老人だった)実にセクシー。
そこが魅力ではあるが、自分の後継者を早く決めなくては、と焦っているのを見ていると、まだそんなに焦らなくても、と思ってしまう(笑)。
それがこの戯曲の主筋なのだが。
観劇後、演出家が書いたものをよく読むと、彼はこれが「人生の冬の時期に差し掛かった夫婦の話でもあるので、彼ら二人の不屈のエネルギーを存分にお見せして、
その年代のお客さんにエールを送れるよう」と意図したという。なるほどそういうことでしたか。
客席はほぼ満席で、若い女性が異常に多い。終わると彼女らが、今日も一斉にスタンディングオベーション。誰がお目当てなのかこちとらにはわかりませぬ。
役者たちはみな熱演。王と妃はさすがの貫禄。膨大なセリフを見事に消化していた。
実によくできた芝居だ。
予想に反して、素晴らしい時を過ごすことができた夜でした。
1183年、イングランド国王ヘンリー二世が迎える心休まらぬクリスマス。
跡目争い、領土紛争、王妃と若き恋人の確執・・・今日こそ決着をつけようと、王妃が、息子たちが、敵国の若き王が、愛妾が、それぞれの思惑を胸に王の城に集まる。
愛と憎しみと欲望と。権謀術数渦巻く、高貴な人々の赤裸々な攻防。その結末は?
1966年にブロードウェイで初演以来、映画化、テレビ映画化され、世界の名優たちが演じてきた歴史ドラマの名作(チラシより)。
評者はこの作品を、2010年1月に平幹二郎と麻実れいの主演で見て圧倒された(演出:高瀬久男、東京グローブ座にて)。
あの時の名優たちの印象が強過ぎて、あれを超えるものはあるまい、と思い、今回いささか躊躇しつつも楽日に出かけた。
ところが!いざ幕が開くと、予想はいい方に裏切られた。
今回もバイユーのタペストリーが用いられる。
王妃エレノア(高畑淳子)はサングラスをかけて登場。彼女は夫である王によって10年間も城の中に幽閉されている。
王ヘンリー(佐々木蔵之介)曰く「俺とリア王は似ている。どちらも3人の子供がいる王だった。だが奴は王国を子供たちに分け与えた。俺はそんなことはしない」。
長男リチャード(加藤和樹)は妃のお気に入り。
次男ジェフリー(永島敬三)は、私は誰にも愛されたことがない、両親は私には無関心だ、と鬱屈を抱えている。
三男ジョン(浅利陽介)はまだ16歳。背が低く、おっちょこちょいでおつむも少々軽い。道化役のよう。
だが父王は、そんな彼をなぜか可愛がっており、王位を継がせようと思っている。
こういう家族だから、そしてそれが王家だから、これは大問題だ。
3人の息子たちの一体誰が父の王国と領土を継ぐのか?!
そこに、フランス王女でヘンリー王の愛人であるアレー(葵わかな)の弟フィリップ(水田航生)が若きフランス王として乗り込み、かつて自分の父であるフランス王が
ヘンリーと交わした約束を実行するようにと迫る。それは、アレーと長男リチャードとを結婚させるか、仏国内のアキテーヌの領土を返すか、どちらかを選ぶ
というものだった。
しかもアレーは7歳の時フランスから英国に渡り、エレノアの手で育てられたという!
まるで、ウッディ・アレンと、彼の妻ミア・ファローの養女で後にアレンの妻となる中国系少女のような関係!?
つまりヘンリーは、自分の息子のフィアンセとなるはずの少女に手を出した、ということらしい。
このように重苦しいストーリーのはずが、演出家が「王道のシチュエーションコメディ」と書いているように笑えるセリフがたくさんあり、実におかしくて楽しい。
王妃エレノア役の高畑淳子が、まるで宛て書きされたかのよう!高貴な生まれの女人のはずなのに、品のないセリフに加えてしぐさも・・・。
時代が12世紀と古いから、人々も素朴でナイーブ(荒削り)なのだ。
それに彼らが性懲りもなく繰り広げるパワーゲームは、演出家の言う通り、喜劇以外の何ものでもない。
そんな喜劇のもつ魅力を引き出すセンスが彼女には備わっている。
今までも彼女を何度か見てきたが、この日、一気に心を鷲づかみにされた。
ヘンリー王役の佐々木蔵之介ももちろんすごい。
ただ、彼は元気一杯で若々しく舞台狭しと飛び跳ね、動き回る。口では自分のことを「老いぼれ」「こんなじじい」と言うが、
(当時の50歳は、本当にもう老人だった)実にセクシー。
そこが魅力ではあるが、自分の後継者を早く決めなくては、と焦っているのを見ていると、まだそんなに焦らなくても、と思ってしまう(笑)。
それがこの戯曲の主筋なのだが。
観劇後、演出家が書いたものをよく読むと、彼はこれが「人生の冬の時期に差し掛かった夫婦の話でもあるので、彼ら二人の不屈のエネルギーを存分にお見せして、
その年代のお客さんにエールを送れるよう」と意図したという。なるほどそういうことでしたか。
客席はほぼ満席で、若い女性が異常に多い。終わると彼女らが、今日も一斉にスタンディングオベーション。誰がお目当てなのかこちとらにはわかりませぬ。
役者たちはみな熱演。王と妃はさすがの貫禄。膨大なセリフを見事に消化していた。
実によくできた芝居だ。
予想に反して、素晴らしい時を過ごすことができた夜でした。