ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ヴェニスの商人」

2013-09-16 16:58:10 | 芝居
9月6日さいたま芸術劇場大ホールで、シェイクスピア作「ヴェニスの商人」をみた(演出:蜷川幸雄)。

男優のみ(オールメール)の最新作。

バサーニオ(横田栄司)はアントーニオ(高橋克実)を保証人にして、ポーシャ(中村倫也)への求婚資金をシャイロック
(市川猿之助)から調達。嫌がらせを受け続けた恨み重なるシャイロックは、アントーニオの没落を知り、「返済できな
ければ肉1ポンド」という証文の実行を迫る・・・。

2010年に「じゃじゃ馬馴らし」でカテリーナを演じた市川猿之助が、蜷川さんに「次は?」と問われて即これをやりたいと
言って実現した由。
評者はてっきり彼がポーシャをやるものと前日まで思い込んでいて、そのことにどうも違和感があったが、女役でなく敵役
のシャイロックだというので、なるほどと納得が行ったのだった。

衣装・・冒頭に登場する3人は白くて長くて重たそうで立派な、まるで高位の聖職者のような衣装。ただの商人たちなのに変だ。
裁判のシーンでも、裁判官たちが揃いの赤なのも変だ。あれは司教の服だ。キリスト教徒たちがユダヤ教徒をいじめる話という
側面を強調するために故意にやったのなら、それはやり過ぎというものだ。

音楽・・決めゼリフの後、短く音楽が入ったり雷が鳴ったりする。そんなのは不要だ。バカバカしい。

台本にあちこち手を入れている。
ポーシャのセリフ「ああいう肌の男たちはみんなああいう選択をするといいわ」の「肌の」が適切にも省略されていた。

シャイロック役の猿之助は、例によって歌舞伎の手法も取り入れて演じ、彼を目当ての観客に大ウケ。

しかし、役者が登場しただけで拍手するのはやめてほしい。肝心のセリフがかき消されてしまう。

ポーシャ役の中村倫也が最高。顔よし姿よし声よし演技よし。今年の最優秀女優賞はこの人で決まり・・いや男優賞か!?
今まで舞台でみたポーシャの中で一番かも。裁判の場面でもその素晴らしい声に聞き惚れた。

アントーニオ役の高橋克実は平板で全く面白くなかった。この人は何度か見たことがあり、今までそれほど気にならなかったが、
まるでデク。がっかりだ。

ジェシカ役の大野拓朗が美しくてびっくり。ただ背が少し高過ぎるのが残念。この女性も劇中少年に化けるので。

最後に3組の幸せなカップルとアントーニオが去った後、シャイロックが登場。首にかけられた十字架を引きちぎり、握り締め、
唸りつつ無念の表情で客席の間をゆっくり退場。もちろんセリフは無い。いやあ長かった。途中からライトまで当たるし拍手は
起こるし・・。

インタビューで、猿之助は「法律上の正論は彼(シャイロック)にあるのに、多勢に無勢で詭弁が喝采を受け、彼は罪人に
されていく」と言っていた。
そうだろうか。
もちろんユダヤ人差別は事実だし、利子を取り立てていた彼をアントーニオがいじめていたことは確かだが、アントーニオは
彼の命を取ろうとしたり脅かしたりしたことは一度もなかった。
「目には目を」という。
同情はするが、日頃の恨みを晴らすために、奸計を弄して(だって例の証文をほんの冗談だと信じさせようと骨折っている)
命を狙ったのはどう見たってやり過ぎだろう。
社会自体にも問題があったとは言え、自分で自分の首を絞めたのだと思う。

アントーニオは多くの人から慕われていた。だから裁判の最後に彼の命を救う一筋の道が示された時、居合わせた皆がほっと
して光を見出したように喜ぶのだ。観客もまた、ここで解放されたかのように、ほっと息がつける。それを「詭弁」としか
感じられないならば、残念ながらこの作品を十分楽しむことは難しいだろう。

こんな「ヴェニスの商人」もありだな、と思った一日だった。



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「間違いの喜劇」

2013-09-05 15:47:21 | 芝居
8月24日東京芸術劇場シアターウェストで、シェイクスピア作「間違いの喜劇」をみた(オックスフォード大学演劇協会、演出:
クリストファー・アダムス)。

英国の学生たちが、はるばる日本へ、しかも酷暑の日本へ来て、美しい発音でシェイクスピアの芝居をやってくれるという、毎夏
恒例の嬉しい行事。

生き別れた二組の双子、アンティフォラス兄弟とその召使いドローミオ兄弟。兄たち(主従)を探すため弟たち(主従)は旅に出る。
一方、兄たち(主従)は別の町で健在だった。アンティフォラス兄には妻もいたが、彼女は夫が不在がちなのを嘆いていた。
そんな中、見た目も瓜二つ、名前も同じアンティフォラス弟とドローミオ弟が同じ町に現れる。
皆が皆、彼らを双子の片割れと取り違える。
夫と間違えられ食事をご馳走になったり、逆に自宅を門前払いされたり、渡したはずのお金を払えと迫られたり、投獄されたり・・。
これは運命?それとも偶然?すれ違いが取り違いを呼び、またすれ違う・・・。
「二組の双子」が町中に巻き起こす「間違いの喜劇」。果たして双子たちは無事再会することができるのか・・!?

時代を現代に置き換えている。
細かく効果音を入れているのが、かえって邪魔。

アンテイフォラス弟(以下ア弟)が兄嫁の妹ルシアーナを口説くシーンで、ギターと歌と踊りの3人が2人を見ながら盛り上げる。
しまいにア弟が Give me thy hand と言うと、2人は熱烈にキスし、手を取り合って出て行こうとするので、あれれ~っ!?と目が
点になったが、それはア弟の夢だった。
映画が巻き戻されるようにさっきのセリフの前まで戻り、ルシアーナが冷たくあしらって終わるのだった。うーん、新鮮。こういう
ところは映像世代のアイディアだ。

双子2組を演じる4人が4人共うまい。

人々が狂人(とされた人)を鎮めようとするのは、「十二夜」と同様。

毎度のことながら若さ一杯の演技。

言葉遊びや洒落満載の芝居なので、果たして我々日本人が笑えるか?と心配だったが、字幕もちゃんとしてたし大丈夫だった。
客席は十分盛り上がっていた。

皆さん、ありがとう。また来年お待ちしています。
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