ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

A.ミラー作「The Price ザ・プライス」

2022-01-25 17:25:59 | 芝居
1月18日 吉祥寺シアターで、アーサー・ミラー作「The Price ザ・プライス」を見た(劇壇ガルバ公演、演出:桐山知也)。




米国の劇作家アーサー・ミラーの1967年の作品。
亡き父の遺品を処分するために16年ぶりに再会することになる外科医と警察官の兄弟。弟にはアルコール依存症の妻がいて、そこへ骨董家具の鑑定人が
加わる。話が進む中で思いがけず知ることになる父の真実。残されたものの価値。そして、それぞれの人生の決断の価値とは?(チラシより)。
《1幕》
舞台は床一面に透明なビニールが敷き詰められていて、人が歩くたびにカサカサ音がする。
背後には天井から透明な幕がたくさん吊ってあり、それにいろんな家具が黒っぽい色で描いてある(舞台美術:堀尾幸男)。
警官の制服を着たヴィクター(堀文明)は50歳。長らく疎遠だった兄に連絡しようと彼の病院に何度も電話するが、看護婦に冷淡に応対され、多忙を理由に
取り次いでもらえない。諦めてアル中の妻と話していると、電話で依頼した家具の鑑定人ソロモン(山崎一)がやって来る。
彼はユダヤ人で「イギリス海軍除隊証明書」を持ち歩いていて、それによると現在89歳!実は、ヴィクターが使った電話帳は古くて、ソロモンはもうほとんど
仕事をしていなかった。彼は久しぶりの仕事に張り切ってはいるが、年のせいか元来の話好きのせいか、なかなかすぐに値段をつけようとしないので、
ヴィクターも観客もイライラさせられる・・・。
母が弾いていたハープや父親のシルクハット、ヴィクターが大学生の頃やっていたフェンシングの道具など、立派な品々がたくさんあるのでソロモンは驚く。
実は、裕福だった一家は父親の破産によって、突然没落したのだった。
ようやくソロモンが提示した金額の少なさにヴィクターが驚くと、彼は言う。「今は使い捨ての時代ですよ」「かつては人は、悩みがあると教会に行ったり革命を起こしたり
した。今では何をするか?ショッピングです!いろんなお店が半年も店を閉めてごらんなさい。虐殺が起きますよ。」(笑)
この作品が書かれた1967年当時の米国は確かにそうだったのだろう。安い商品が大量に売られるようになり、人々はそれらを気軽に買い、壊れたり飽きたりしたら
すぐに捨てて、また安物を買う、という時代。現代では逆に、骨董品は再び高価格で取引されるのではあるまいか。

《2幕》
突然兄がやって来て懐かしそうに話しかけるが、長い間わだかまりを抱えてきた弟は、なかなか打ち解けられない。
二人の会話から、かつて彼らの間に起こった出来事の真相が浮かび上がって来る。
弟が兄に対して一番恨みに思っているのにはっきり言わないことを、妻が我慢できず代わりに言う。
父の破産後、大学を続けるために500ドル貸して欲しいと言いに行ったが、断られた、と。
兄は、その時は確かに断ったが、後悔して数日後、家に電話した、と言う。父が出たので話すと、父は、その必要はない、と言った。
しかも、父はその時4000ドル位持っていた、お前もそれを知っていたはずだ、と言う。妻は驚く。
それに、ここにある古いが高価な家具をいくつか売れば、数百ドルにはなっただろう、とも。つまりお前は自分で自分の進む道を決めたのだ、と。
弟はなかなか認めようとしない。
これは一体どういうことか。
どうも弟は、自分が哀れな父や冷酷な兄の犠牲になった、という物語を作り上げ、その幻想の中で、この26年間生きてきたらしい。
だから、急にそれを指摘されても、すぐには認められない。
結局、兄とは気まずいまま、喧嘩別れのようになってしまう。

アーサー・ミラーの芝居には、時々、何でも人のせいにする人が登場する。
いや、人のせいにする、と言うより、身内の行動に大きなショックを受けて、そのために自分の生き方がすっかり変わってしまった人と言うべきか。
「セールスマンの死」では、長男が、父親の浮気を知ったせいで、高校卒業のための追試を受ける気がしなくなる。
どうしてそう自暴自棄になるのか。父は父、自分の将来のためには自分でちゃんと理性的に行動しないと、と見ているこちらは思ってしまうが。
日本と違って米国では、父親というものは息子から大いに尊敬されているらしいから、彼の行動にはそういうことも影響しているのかも知れない。
つまり、彼にとってヒーローだった父のダメな姿を見て幻滅し、夢破れ、もう何もかもどうでもよくなったというわけだ。
この作品では、夫が経済的な理由から大学を中退し警官になって、いつまでもその仕事を続けていることを苦にして、妻はアル中になる。
どうしてそんなことになってしまったのだろうか。
いろいろ想像してみて、ようやく少しわかりかけてきた。
彼女が彼と婚約した時、彼は将来、兄と同様、医者になるはずだった。つまり彼女は「医者の奥さん」になるつもりだったわけだ。

戯曲自体のせいだと思うが、前半のやり取りが少々退屈だった。
山崎一は期待通り好演。


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アスキンス作「カミノヒダリテ」

2022-01-18 10:52:23 | 芝居
1月11日俳優座劇場で、ロバート・アスキンス作「カミノヒダリテ」を見た(翻訳・演出:田中壮太郎)。


舞台は狭い三角形で、それを挟んで2方向に客席が設けられている。途中で幕が上がり、部屋が現れる。
教会の地下の一室。一年前に夫を亡くしたマージョリー(福原まゆみ)は、グレッグ牧師(渡辺聡)に言われて子供たちに人形劇を教えている。
生徒はティモシー(小泉将臣)、ジェシカ(後藤佑里奈)、そして息子のジェイソン(森山智寛)の3人だが、ティモシーは何を勘違いしてかマージョリーに迫ってくるし、
皆、やる気なさそうで前途多難な感じ。ジェイソンとジェシカが2人きりでいる時、いい感じになるが、ジェイソンの使う指人形のタイロンが余計なことを言い出すので、
ジェシカは去る。ジェイソンは母と車で帰宅途中、もうパペットをやめたいと言い出し、怒った母は車から降りろ、と言って、彼を道に置き去りにする。
教会で牧師はマージョリーに、あなたを助けたい、と告白。彼女は驚いてきっぱり断る。牧師はショックを受け、急に冷たくなって去る。
この時マージョリーは、脳内で何かがプツンと切れたのか、突然大声を挙げてそばにあった椅子を投げつける。そこにティモシーが入って来ると、彼女は彼を誘い、
二人はもつれながら奥へ・・・。次に生徒3人が集まった時、ティモシーはタイロンの挑発に反発して、マージョリーとあったことを自慢する。皆啞然とする。
タイロンは突然ティモシーに飛びかかって耳たぶをかみちぎる。悲鳴を挙げて転げ回るティモシー・・・。

変わった芝居で、解釈に困る。テーマは悪魔。若者の操る指人形が、彼の意思と関係なくしゃべったり動いたりして彼を困らせる。しまいには彼にも嚙みついて
血だらけにするのだから恐ろしい。何者かが人形に乗り移っていることは確かなようだ。
彼の母は夫を亡くしたことが原因なのか、精神的に相当参っていて、息子に優しく接する余裕がない。そのため元々内向的な息子も鬱屈している。
そういう人間に、悪魔は目をつけ、取りつくようだ。ラストで母子がようやく和解に至るのが救いだが、悪魔はまだ消滅したわけではないらしい。

役者はみなうまい。特に、ジェイソン役の森山智寛がパペットのタイロンになった時がすごい。
俳優座の今の実力に、瞠目させられた。


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2021年の芝居を回顧して

2022-01-11 15:46:16 | 回顧
2021年に見た芝居は25コ。コロナ禍にもかかわらず、予想以上の数でした。その中から特に印象深かったものを7点、例年通り、見た順に挙げていきます。
カッコ内は、特に光っていた役者さんです。

           


1月    ザ・空気 ver.3 そして彼は去った    永井愛作        演出:永井愛   (神野三鈴、佐藤B作) 
             ※ ホッカホカの時局ネタ(日本学術会議への首相の人事介入を巡る)が圧巻。説得力ある構成が胸に迫る。こういう芝居を熱烈に支持する
               人が大勢いるという現状を知ると、日本もまだ大丈夫だと思える。B作さんの魅力も全開。          

      墓場なき死者        サルトル作       演出:稲葉賀恵     
             ※ フランス人がフランス人を拷問し虐殺するのは格差ゆえ。階級社会ゆえ。貧しくて教育を受けていない民兵たちは、教養ある
               レジスタンスの人々への憎しみを、拷問することで吐き出す。サルトルの戯曲の例に漏れず、圧倒的な迫力。
     
6月    キネマの天地       井上ひさし作       演出:小川絵梨子 (高橋惠子、那須佐代子、鈴木杏)
             ※ 作者お得意のどんでん返しが楽しい。何度見ても面白い、よくできた芝居。演出には一部疑問あり。
  
9月    熱海殺人事件      つかこうへい作      演出:稲葉賀恵、文学座公演 (石橋徹郎、奥田一平)    
             ※ 有名な戯曲をやっと見ることができた。あの頃の熱い空気が懐かしい。熱に浮かされたような芝居。
   
10月   子供の時間       リリアン・ヘルマン作    演出:西川信廣 (佐々木愛、新井純、原田琴音)
             ※ よく練られた戯曲。映画「噂の二人」との違いがわかり、興奮。興味は尽きない。

11月   鷗外の怪談       永井愛作・演出        (味方良介、瀬戸さおり、木野花、池田成志)
             ※ あまり知られていない文豪の私生活が興味深い。大逆事件を巡る、友人との論戦には引き込まれた。

      ダウト         J.P.シャンリー作       演出:小川絵梨子 (那須佐代子、亀田佳明)
             ※ 見る者に息もつかせぬ迫力。何度見ても素晴らしい。いつか戯曲を手に入れて読みたい。

この他、印象的だった役者さんたちは次の通り。

川平慈英(井上ひさし作「藪原検校」での語り役)
若村麻由美(蓬莱竜太作「首切り王子と愚かな女」)
富田靖子(井上ひさし原案、畑澤聖悟作「母と暮らせば」)
木村有里(ケッセルリング作「毒薬と老嬢」)
戸田恵子(リンゼイ=アベアー作「グッドピープル」)
サヘル・ローズ(同上)

例年3月頃、桜の開花と競い合うようにアップする、お恥ずかしい我が「回顧」ですが、今回は1月中という快挙!
そもそも回顧などというものは年内にするものでしょうが、評者の場合、これでもすごい進歩だと自画自賛しております。
次なる目標は、年内にアップすることです。
今後ともよろしくお願いいたします。


          




    

     





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マクファーソン作「ダブリンキャロル」

2022-01-04 12:04:55 | 芝居
12月7日東演パラータにて、コナー・マクファーソン作「ダブリンキャロル」を見た(演出:荒井遼)。




ダブリンの葬儀屋で働く男、ジョン。家族から逃げ出した彼のもとに、10年ぶりに娘のメアリーが訪ねてくる。
クリスマス・イヴに「現在」と「過去」と向き合うことになるジョン。彼は「未来」をどう切り開くのか(チラシより)。

葬儀屋の主人ノエルが病気になったため、彼の代わりにジョン(首藤康之)がこの葬儀屋を取り仕切っている。
ノエルの甥で20歳のマーク(小日向星一)が、ここでバイトしている。
クリスマス・イヴの日。ジョンの娘メアリー(山下リオ)が突然やって来て、彼の妻ヘレンが癌で入院していて、彼に会いたいと言っていると告げる。
ショックを受けて動揺するジョン。さあどうする・・・。

休憩無しの90分という短い芝居だが、アル中のダメ男が人生を振り返って、若い男相手にグダグダと語るというありがちな設定。
はっきり言って退屈。
役者もいけない。首藤は風貌は雰囲気があるが、如何せん、肝心のセリフ回しがなってない。
膨大なセリフをよく覚えたと、そこは認めないといけないが、それだけではこちらに迫ってくるものがない。
久しぶりに娘がやって来るというのもありがち。
ただ、マーク役の小日向星一は、なかなかの好演。この若者には注目していこうと思う。

この作品は、作者自身アル中になったという経験から生まれたという。
だが、いずれにせよ言いにくいが駄作。
マクファーソンの戯曲では、やはり「海をゆく者」(The Seafarer )がベスト。あれは是非ともまた見たい。


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