ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

蓬莱竜太作「漂泊」

2015-05-30 23:45:50 | 芝居
3月30日吉祥寺シアターで、蓬莱竜太作「漂泊」をみた(演出:田村孝裕)。

主婦夏子(市毛良枝)が夫良一(小林勝也)と住む家に、或る朝起きると、佐山と名乗る見知らぬ男(若松武史)がいる。仰天して問いただすが、
彼はどうしてここにいるのか自分でも分からないと言うばかり。そのうち娘美加(清水直子)が起きてきて、夕べ会社の飲み会の後、遅くなった
ので、彼を連れて来たと言う。一応母親にメールしたらしいが、その娘も佐山とは初めて会ったばかりでよく知らない。
この男は全くの他人でありながら、どういう訳かこの家のことをよく知っている。結婚して米国に住む息子がおり、もうすぐ初孫が産まれること
など。少しずつ不気味な雰囲気が漂ってくる。
外は雨だったが、次第に雨足が強まり、大雨警報が出され、町内会から避難するよう呼びかけられる。だが夏子は自慢の家を見捨てることが
できない。家族も近所の人も彼女を説得して避難させようとするが、かたくなに拒む夏子。しまいには本当に水が室内に入ってくる…。

アガサ・クリスティの作品をモチーフにしたというだけあって、「ネズミ取り」に雰囲気が似ている。あれは大雨でなく大雪だが。

今という時代を感じさせる言葉がたくさん出てくる。ニート、外国駐在員、離婚、慰謝料、初孫、三越、東急ハンズ、Eラーニング…。
ただ「バックパッカー」はちと古い。30年位前の言葉だ。

テンポがのろい。特に中心人物である夏子役の市毛良枝のセリフ回しがのろくていちいちわざとらしい。この人は舞台が初めてなのだろうか。
いずれにせよ演出家の責任は大きい。

この作者の作品はいくつも見てきたが、残念ながらこの作品には大きな問題がある。
一家の要である主婦に家族はいくつかのことを秘密にしているが、そのうち最後に暴露される息子に関する重要な情報は、子供(初孫)が生ま
れることよりはるかに重大なことなのに、それを夏子に内緒にしておいて、初孫情報のみ伝えるというのがあまりにも不自然なのだ。

夏子の薄っぺらで俗物なところが鼻について不愉快。彼女は確かに強い女だが、夫と娘は同調せず、諦めずに彼女をたしなめるべきだ。

隣家のニート青年がいい味を出している。
役者はこの俊平役の三津谷亮がいい。まず声が素晴らしい。間の取り方もうまい。今回のめっけもんである。

佐山役の若松武史が奇妙な味わい。なぜかオカマっぽいし、実に怪しい。この男の正体は一体何なのか、謎は謎のまま残るが、それはそれで
面白い。

いつもながら蓬莱作品は言葉の使い方(選び方)が巧み。
ただ、今時こんな、絵に描いたような俗物根性丸出しの人がいるだろうか。

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「田茂神家の一族」

2015-05-23 15:49:36 | 芝居
3月27日紀伊國屋サザンシアターで、三谷幸喜作「田茂神家の一族」をみた(東京ヴォードヴィルショー公演、演出:山田和也)。

とある田舎町で町長選挙が行われようとしている。立候補者は2人だが、彼らは前町長、田茂神嘉右衛門(伊東四朗)の次男(佐渡稔)と
三男(佐藤B作)だった。言わば骨肉の争いだが、そこに長男の嫁(あめくみちこ)と四男(市川勇)、そして嘉右衛門の弟(石井宣一)、
さらに弟の娘の夫(角野卓造)までが立候補することになって、もう大変な騒ぎ。しかもみんな名字が同じ田茂神だというんだからややこしい
こと限りなし。
選挙戦は次第に泥沼化し、互いにネガティブキャンペーンを繰り広げ始める…。

まるで井上ひさしの芝居のように、時々歌と踊りが入るのにはびっくり。

小さな町の選挙ゆえ、1票の重みが断然違う。しかもスキャンダルが一つ暴露されるたびに票が動くのがおかしい。

ラストはやはり三谷式エンディング。みんなでワイワイやってて結論が出ないままというやつ。

作家本人がこの作品について、第一稿をB作さんに「人間が描けていない」と厳しいダメ出しをもらって書き直した、と言っている。
第2稿は「とても良くなった」と褒めてもらえたというが、何だかなあ…これで期待しろと言う方が無理です。
B作さんが元気になって、いつものメンバーが仲良く楽しそうにやっているのはめでたいけど。
やはり量産すると、いろいろあるものです。
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「ミセス・サヴェッジ」

2015-05-15 22:15:48 | 芝居
3月6日新国立劇場小劇場で、ジョン・パトリック作「ミセス・サヴェッジ」をみた(演劇研究所公演、演出:山下悟)。

アメリカのとある施設に、未亡人ミセス・サヴェッジが3人の子供に連れられてやって来る。3人は先妻の子で、未亡人が莫大な遺産を「メモリアル
基金」として気前よく支援に使うことを阻止するために、施設に入所させたのだった。
施設の入所者たちから温かく迎えられるミセス・サヴェッジと、彼らをも巻き込んで起こる子供たちとの駆け引きは…。

この作品は、2008年文学座で日本初演をみた。
少し変わった話だが、ラストは思いがけぬ展開に涙が止まらなかった。
今回は筋を知っていたせいか、残念ながらそういうことはなかった。
ひょっとしたら、女性職員ミス・ウィリーを、文学座の某女優のように、気の強そうな威張った感じの人が演じた方が、意外さによる驚きで、
胸を打たれるのかも知れない。
当時のブログを見ると「役者は皆、それほどうまくなかったが、涙が止まらなかった。初めてみる芝居ではそういうことも起こる」と書いている。

今回は卒業公演なので、何と言っても年齢的に制限がある。
題名役の女優は、評者が演出家だったらメイクでしっかり老けさせるところだ。
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オペラ「メッセニアの神託」

2015-05-04 23:11:57 | オペラ
3月1日神奈川県立音楽堂にてヴィヴァルディ作曲のオペラ「メッセニアの神託」をみた(音楽監督:F.ビオンディ、演出:弥勒忠史、
演奏:エウローパ・ガランテ)。
F.ビオンディによるウィーン版(1742年)の再構成版。日本初演。全3幕。

父王を反逆者ポリフォンテに謀殺され、隣国へ身を隠していた王子エピーティデが、クレオンの名で密かにメッセニアへ帰還。おりしも
ヘラクレス神殿では一つの神託が読み上げられる。「メッセニアは二匹の怪物から解放されるであろう。勇敢な行為と怒りによって。
そして勝者は王家の血を引く囚われ人と結婚するであろう」。怪イノシシ退治で名を挙げたクレオンは恋人エルミーラと再会するが、一方
ポリフォンテの謀略で、母メローペはクレオンの処刑を命じてしまう…。しかし土壇場でどんでん返し。エピーティデは王権を奪還し、
母と花嫁と共に神託の成就を祝うのだった。

ストーリーは「ハムレット」を思わせる。父を殺された王子。殺人者は王子の母に求婚(ただし母は10年間拒み続ける)。
母と息子のクローゼット・シーンのような場もある。

それぞれの役に素晴らしいアリアが用意されていて堪能できた。しかも今回の歌手陣の水準の高さは驚くべきものだった。

歌手の半分(主に男性)は日本の伝統的な狩衣などの衣装。扇を手に舞うような所作もあちこちに見られる。

オペラだから、ストーリーにツッコミどころは多々ある。
一番不思議なのは、母が実の息子を見分けられない点。しかも彼女は彼を、息子を殺した犯人だと思い込み、処刑しようとする!
息子もさすがに愛想が尽きたか、ラストでようやく誤解が解けて母が抱きつこうとすると、「そんなことをしている場合ではない」と
すげなく突っぱねるのがおかしい。

この作品はパスティッチョと言って、自分の過去の楽曲、あるいは別の作曲家の楽曲を組み合わせて一つのオペラに仕上げたものだそうだ。
楽譜が失われているので幻のオペラとされてきたのを、ビオンディが台本を元に復元した。演出付きとしては今回が「世界初」になる由。

ヴィヴァルディの名は有名だが、こんな楽しいオペラを作っていたとは知らなかった。
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