ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「グレンギャリー・グレン・ロス」

2011-06-25 17:03:37 | 芝居
6月11日天王洲アイル銀河劇場で、デヴィット・マメット作「グレンギャリー・グレン・ロス」をみた(演出:青山真治)。

昔テレビで、アメリカ映画「摩天楼を夢見て」をみたことがある。アル・パチーノ、ジャック・レモンなど、今思えばそうそうたる顔ぶれだった。これはその原作。

とある中華料理店の一室。不動産会社の崖っぷちセールスマン4人がそれぞれのやり方でピンチを打開しようと画策している。
レヴィーン(坂東三津五郎)は支社長ウィリアムソン(今井朋彦)に取り入って契約の取れそうな顧客名簿を入手しようと交渉中。かつてはトップセールスマンだったレヴィーンも今では落ち目。今回のセールス・コンテストで4人のうち1位には賞品としてキャデラックが、2位にはステーキ・ナイフのセットが与えられるが、3位と4位は首になる(!)のだから後がない。
別室にはモスとアーロナウがいる。モスは顧客名簿を盗む計画を気の弱いアーロナウにほのめかす。また別の席ではローマ(石丸幹二)が隣席のおとなしそうな
客リンクを相手に熱弁を振るい、契約を取りつけようとしている。
舞台は一転して、すっかり荒らされた会社の事務所。顧客名簿も契約書も電話までもが盗まれている。刑事の事情聴取を受ける男たち。犯人は一体誰か?

冒頭、サックスを吹きながら客席から舞台へ登場する石丸幹二。ストーリーとは何の関係もない。彼目当ての女性客が多い客席へのサービスってことか。

モス役の人は滑舌が悪い。前半のセリフは特に横向きにしゃべるので、あまり聞こえない。演出家はどうして注意しないのだろう。

男たちが罵倒し合う芝居。セールスマンというのは本当に悲しい商売だ。特に作者が1969年に勤めていた不動産会社のように、客に対しては詐欺まがいの
売り方をし、社員に対しては厳しいノルマを課し、互いに苛烈な競争をさせて利益を上げようとするとんでもない会社で働く人々は大変だ。

だいたい、今で言うクーリングオフ(当時すでに米国にはそれがあったというのは感動的だが)の期間を何とかのらりくらりとごまかし通せばこっちのもの、
というやり方が実にけしからん。

最近読んだ、或るIT 解説本にもあった。「売る側がはっきり『魅力がない』と実感している商品を、言葉巧みに他人に売ってはいけません。」
あまりにまっとう過ぎてちょっと恥ずかしいが、まったく仰せの通りだ。
これが商道徳、そして人の生きる道でしょう。


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「ベッジ・パードン」

2011-06-18 11:32:10 | 芝居
6月7日世田谷パブリックシアターで、三谷幸喜作「ベッジ・パードン」をみた(演出:三谷幸喜)。

かの夏目漱石がロンドンに留学した時のことを芝居にした作品。
まず目に入ってきたのは1900年当時のロンドンの地図。何とそれが幕になっている!こういう気の利いたセンスがたまらない。
そして音楽。映画「マイフェアレディ」の名曲‘Wouldn`t it be lovely ?‘が流れ、この時点で早くも心をわしづかみにされる。

ベッジというのは漱石(野村萬斎)が下宿した家の下女アニー(深津絵里)に漱石がつけたあだ名。
訛りが強くて I beg your pardon が bedge pardon と聞こえるから。ここまでは史実。

階下に下宿している宗太郎(大泉洋)、ベッジの弟グリムスビー(浦井健治)、そして大家ハロルド、大家夫人、夫人の妹ケイト、クレイグ先生、牧師、牧師夫人、刑事ブラッドストリート、弾丸ロック、大家の犬ミスタージャック、ヴィクトリア女王、つまりその他の役をすべて一手に引き受ける浅野和之。

ベッジは頭が少々ぼんやりだが、いつも明るく健気で、深津絵里は彼女を魅力たっぷりに演じる。
ある事情から漱石は、日本にいる妻から半年間まったく手紙の返事をもらえなかったこともあって、彼女との距離が縮まってゆく・・・。
大泉洋は体のキレが非常にいい。セリフ回しもいいし、コメディセンス抜群。メリハリのある演技が生きている。

漱石が英会話に苦労していたことを知って、親近感を覚えた。
あの頃は今と違って日本に語学学校などなかったはずだから、渡英前にどうやって会話を学んだのだろうとかねてから不思議に思っていたのだが。

マイフェアレディの曲が流れる中、白黒のメイド姿のベッジが窓を開けてゆくシーンを見ていると、何だかイライザが下女(女中)だったような錯覚に襲われる。
実際には彼女はお屋敷の主人である言語学者ヒギンズ教授の生徒だったのに。

三谷幸喜の芝居を生でみるのは初めて。「オケピ」の時は券が手に入らず涙を呑んだ。感無量です。





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井上ひさし作「たいこどんどん」

2011-06-10 21:49:28 | 芝居
5月24日シアターコクーンで、井上ひさし作「たいこどんどん」を見た(演出:蜷川幸雄)。

井上が自らの小説「江戸の夕立ち」を劇化した1975年の作品とか。
江戸末期。薬種問屋の跡取り息子と忠実なたいこ持ちとが、ひょんなことから品川沖を漂流。東北の港に流れ着いた二人の行く手には波乱の運命が待ち受ける。

舞台奥が時々全面鏡になる。これは蜷川さんのよくやる手だが、この芝居には合わないのではないだろうか。

太鼓持ちの桃八役の古田新太は、相変わらず達者な演技で楽しませてくれるが、冒頭の自己紹介のくだりが聞き取り辛い。意外と滑舌が悪いようだ。
セリフは聞こえてなんぼのものなのだから、ぜひとも練習して改良してもらいたい。

若旦那役の中村橋之助は声があまりよくないが、桃八に迷惑ばかりかける情けない優男の雰囲気をよく出している。

色気と言えばこの人、鈴木京香さんだが、彼女は二人が行く先々で出会う女性を何役も演じ分けて大活躍。
しかも今回彼女が東北弁を流暢に話すのを聴くという得難い経験ができた。
美しく色気たっぷりで、しかもいつもながら凄味のある役がまたぴったり。
今までテレビ女優だと思っていたが、初めてみた舞台は立派なものだった。

山賊に捕まり絶体絶命という時に、桃八が山賊の頭に「考え物」つまりクイズを出す。それが面白い。まるでアラビアンナイトのようだ。

音楽は民謡はいいが、オリジナルの合唱曲が最悪。聞くに堪えない。
民謡の合唱が多く、その歌詞が(日本語なのに)字幕で出るのがありがたい。

東北の猥雑で泥臭い風土が印象深い。思いっきり卑猥な言葉も呆気に取られているうちに過ぎてゆく。
東北弁の快い波に揺られ翻弄されて・・いやあ、えがったえがった。
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