ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「怪談 牡丹燈籠」

2017-08-11 17:35:47 | 芝居
7月15日すみだパークスタジオ倉で、「怪談 牡丹灯籠」をみた(原作:三遊亭円朝、脚本:フジノサツコ、演出:森新太郎)。
浪人萩原新三郎は、ふとしたことから旗本飯島平左衛門の娘お露と知り合う。互いに一目惚れした二人は恋仲となり、お露は夜ごと牡丹燈籠を
下げて新三郎の元を訪れ、逢瀬を重ねるのだった・・・。本作品では新三郎とお露の恋の闇路を中心に、下男伴蔵とその妻お峰の欲望の果て
の転落、飯島家奉公人孝助の仇討、飯島平左衛門の妾お国と源次郎との不義密通など、サイドストーリーにも焦点を当て、幾重にも絡み合う
人間の業を浮かび上がらせる。(チラシより)

2009年夏にシアターコクーンで、同じ演目を見たことがあったのを思い出した。
当時のチラシによれば、演出はいのうえひでのり。段田安則が伴蔵を、伊藤蘭がお峰を、秋山菜津子がお国を、瑛太が新三郎を演じるという
豪華版だった。あの時は筋を全く知らなかったので、あっけにとられて見ていた。何しろ驚くべき話が次から次へと出てくるのでアレヨアレヨ
と引き回される感じだったが、舞台装置が小道具に至るまで作り込んであって美しく、視覚的にも楽しめた。

今回はその正反対。舞台には何もない。ただ始終回っているカーテンのみ。しかも衣装も現代のもの!
同じ演目でこうも違うという見本のような上演だ。
だが脚本がいい。演出もいい。舞台中央で大きなカーテンが始終回っているのは余計だったが。モスクワ・タガンカ劇場の「ハムレット」の
公演を思い出したが、あの時のはそんなにせわしく回ってなかった。

のっけからワル二人の陰謀。主人の妾お国(太田緑ロランス)が密通相手の源次郎(児玉貴志)をそそのかして主人を殺させようとする。
その手口の巧妙かつ周到なこと。その会話を聞いて咎め立てする忠義な召使孝助(西尾友樹)。彼を痛めつける二人。
太田緑ロランスは、2015年5月にイプセン作「海の夫人」で年頃の娘ボレッテを演じるのを見た。あの時は爽やかな美しさに魅了されたが、
今回はぐっと痩せたような印象。大きな目を見開いて、残忍なことをするよう愛人に迫るのが怖い。キモの座った悪女を好演。
お露の乳母役の松金よね子は安定感のある演技。
孝助の義父となる老人役の花王おさむもうまい。この老人はコミカルで、娘を思う気持ちも相まって「ハムレット」のポロー二アスのようだ。
伴蔵役の山本亨とお峰役の松本紀保もいい。
前回は伊藤蘭があまりに可憐で、夫である段田さんの妻殺しに至る心理がイマイチ納得できなかったが、その点松本紀保を起用したのは正解だった。
でかい声は出るし(一回だけ、でか過ぎて聞き取れなかった)。蛇足だが、この人は実に色っぽい声も出せるということが今回分かった。
伴蔵は妻に頭の上がらない貧しい下男から、後半は一転して成り上がり、遊女と浮気してバレてもふてぶてしく開き直るという、役者にとって
実にやりがいのある役。山本亨の演技は説得力があった。
平左衛門役の青山勝と西尾友樹の主従も泣かせる。

ただ前回のコクーン版と比べると、ラストがだいぶ省略されているようだ。
伴蔵がつぶやく2言3言のセリフでは、その後の彼の運命を暗示するには弱過ぎると思う。

いずれにせよ脚本、演出、キャスティング、役者のどれもいい。これだけ満足できた芝居は今年初めてだ。
今年はこれまでずっと芝居の不作を嘆いていたが、これでやっと生き返った感じ。



コメント
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