先日、太宰治の「新ハムレット」を読み直した。
近々これを元にした芝居を見る予定なので、その前にと。
昔読んだ時は、正直、呆れかえってうんざりしたものだが、今回は(年取ったお陰か)面白く感じた。
なお、現在某劇場で上演中の作品なので、ネタバレ注意です。
結末を知りたくない方は、読まないでくださいね。
この作品は、太宰治の最初の書き下ろし長編小説で、昭和16年7月に刊行された由。
作者によると、これは「作者の勝手な、創造の遊戯に過ぎない」「人物の名前と、だいたいの環境だけを、沙翁の『ハムレット』から拝借して、
一つの不幸な家庭を書いた」「狭い、心理の実験である」という。
さらに彼は、これは戯曲の形のようだが、あくまで小説である、と断りを入れている。
自分は戯曲の書き方を知らないからと。
以下、登場人物の名前の表記は現代風に直しています。
冒頭、新王クローディアスは「ですます調」でしゃべる!しかも家臣たちが居並ぶ前で、長々と。
まずここで、評者などはげんなりするが。
ハムレットばかりか、義父も母親もオフィーリアもホレイショーもポローニアスも、みな驚くほど冗舌。
しかもすぐ泣く。実にウェットで嫌らしい。
オフィーリアは妊娠している!
だからハムレットの最大の悩みはそのことだというのだから呆れるじゃあありませんか!
そして先王の亡霊の噂は、ホレイショーからもたらされる。
彼によると、デンマークの城内で起こったこの噂は国中に広がり、何とドイツのウィッテンベルクにまで伝わったという。
でも、それなのに城内にいるハムレットが一度も耳にしたことがない、というのは、あまりにも非現実的ではないか?
ポローニアスはクローディアスの犯行を目撃していた!
そのため彼は、ハムレットの代わりに悩み、正義という言葉を何度も口にする。
ハムレットとホレイショーに、そのことを打ち明けようとするが、邪魔が入ってうまくいかない。
さらに彼は、娘オフィーリアの妊娠を知って苦しみ、とうとうクローディアス王に向かって「あの日、わしは見た・・・」と口走ってしまい、殺される。
そう、ここではポローニアスを殺すのはクローディアスなのだ!
ロゼギル(ローゼンクランツとギルデンスターン)はいない。
ハムレットは復讐せず、王は死なないまま物語は終わる!
いや、そもそも王子は父王の亡霊から復讐せよと命じられていないし。
それでも、これはこれで一篇の作品として面白い。
シェイクスピアの原作を元に、これだけ遊んだっていいだろう。
もちろんツッコミどころはある。
たとえば、ホレイショーはオフィーリアの妊娠を知って「夢のようです」と驚くが、当時、宮廷内では男女の交際はかなりゆるく、大っぴらだったはずで、
ハムレットとオフィーリアもすでに深い仲になっていたというのが上演の際の一般的な演出だ。
当時の大学生と言えば、もう立派な大人だし。
だからホレイショーがそんなことを思ってもみなかったというのはおかしい。
またここではハムレットの年齢は23歳となっているが、30歳というのが定説。
それから、ハムレットは父王の急死の知らせを聞いて留学先のドイツのウィッテンベルクから帰国したわけだが、それから2ヶ月しかたっていないのに
オフィーリアの妊娠を知って悩むというのは、ちょっと無理っぽいのじゃなかろうか。
これもまた、斉藤美奈子の言う、いわゆる「妊娠小説」に、無理矢理仕立てようとしたためだ。
二人が深い仲になるというだけなら、2ヶ月もあれば十分可能なのだが。
面白いところもたくさんある。
たとえば、クローディアスが幼いハムレットから「山羊の叔父さん」と呼ばれていたとか、ハムレットを城の外のいかがわしいところに
連れて行った(!)とか。(だからハムレットは叔父を全然尊敬できないわけだ)
ポローニアスがフランスに遊学する息子レアティーズに与える、やたら細かい訓話で「カンニングはしてもいいから落第だけはするな」と
長々と言って聞かせるシーンとか(笑)
彼は娘に「お前はクイーンの冠を取りそこねた」と言うし。
ハムレットは恋人の妊娠のことでびくびくしており、義父クローディアスのことを「いったい山羊め、どこまで知っているものかな?」と心配するし。
昭和16年という時代だから仕方ないとは言え、ガートルードの女性としての魅力について過小評価されているのが残念だ。
たとえば「総入れ歯」だの「茶飲み友達」だの・・。
これはハムレットのセリフだから、特に息子から見た母親はこんなものなのかも知れない。
ガートルード自身も「みっともない事ですが、このデンマークの為とあって、クローディアスどのと、名目ばかりですが夫婦になった」と言う。
このセリフは戦時中の日本人としては自然なものだろう。
原作ではクローディアスと彼女はバリバリの現役なのだが。
それでもクローディアスがガートルードのことで何とポローニアスに嫉妬する(!)という意外な場面もあってびっくりさせられる。
近々これを元にした芝居を見る予定なので、その前にと。
昔読んだ時は、正直、呆れかえってうんざりしたものだが、今回は(年取ったお陰か)面白く感じた。
なお、現在某劇場で上演中の作品なので、ネタバレ注意です。
結末を知りたくない方は、読まないでくださいね。
この作品は、太宰治の最初の書き下ろし長編小説で、昭和16年7月に刊行された由。
作者によると、これは「作者の勝手な、創造の遊戯に過ぎない」「人物の名前と、だいたいの環境だけを、沙翁の『ハムレット』から拝借して、
一つの不幸な家庭を書いた」「狭い、心理の実験である」という。
さらに彼は、これは戯曲の形のようだが、あくまで小説である、と断りを入れている。
自分は戯曲の書き方を知らないからと。
以下、登場人物の名前の表記は現代風に直しています。
冒頭、新王クローディアスは「ですます調」でしゃべる!しかも家臣たちが居並ぶ前で、長々と。
まずここで、評者などはげんなりするが。
ハムレットばかりか、義父も母親もオフィーリアもホレイショーもポローニアスも、みな驚くほど冗舌。
しかもすぐ泣く。実にウェットで嫌らしい。
オフィーリアは妊娠している!
だからハムレットの最大の悩みはそのことだというのだから呆れるじゃあありませんか!
そして先王の亡霊の噂は、ホレイショーからもたらされる。
彼によると、デンマークの城内で起こったこの噂は国中に広がり、何とドイツのウィッテンベルクにまで伝わったという。
でも、それなのに城内にいるハムレットが一度も耳にしたことがない、というのは、あまりにも非現実的ではないか?
ポローニアスはクローディアスの犯行を目撃していた!
そのため彼は、ハムレットの代わりに悩み、正義という言葉を何度も口にする。
ハムレットとホレイショーに、そのことを打ち明けようとするが、邪魔が入ってうまくいかない。
さらに彼は、娘オフィーリアの妊娠を知って苦しみ、とうとうクローディアス王に向かって「あの日、わしは見た・・・」と口走ってしまい、殺される。
そう、ここではポローニアスを殺すのはクローディアスなのだ!
ロゼギル(ローゼンクランツとギルデンスターン)はいない。
ハムレットは復讐せず、王は死なないまま物語は終わる!
いや、そもそも王子は父王の亡霊から復讐せよと命じられていないし。
それでも、これはこれで一篇の作品として面白い。
シェイクスピアの原作を元に、これだけ遊んだっていいだろう。
もちろんツッコミどころはある。
たとえば、ホレイショーはオフィーリアの妊娠を知って「夢のようです」と驚くが、当時、宮廷内では男女の交際はかなりゆるく、大っぴらだったはずで、
ハムレットとオフィーリアもすでに深い仲になっていたというのが上演の際の一般的な演出だ。
当時の大学生と言えば、もう立派な大人だし。
だからホレイショーがそんなことを思ってもみなかったというのはおかしい。
またここではハムレットの年齢は23歳となっているが、30歳というのが定説。
それから、ハムレットは父王の急死の知らせを聞いて留学先のドイツのウィッテンベルクから帰国したわけだが、それから2ヶ月しかたっていないのに
オフィーリアの妊娠を知って悩むというのは、ちょっと無理っぽいのじゃなかろうか。
これもまた、斉藤美奈子の言う、いわゆる「妊娠小説」に、無理矢理仕立てようとしたためだ。
二人が深い仲になるというだけなら、2ヶ月もあれば十分可能なのだが。
面白いところもたくさんある。
たとえば、クローディアスが幼いハムレットから「山羊の叔父さん」と呼ばれていたとか、ハムレットを城の外のいかがわしいところに
連れて行った(!)とか。(だからハムレットは叔父を全然尊敬できないわけだ)
ポローニアスがフランスに遊学する息子レアティーズに与える、やたら細かい訓話で「カンニングはしてもいいから落第だけはするな」と
長々と言って聞かせるシーンとか(笑)
彼は娘に「お前はクイーンの冠を取りそこねた」と言うし。
ハムレットは恋人の妊娠のことでびくびくしており、義父クローディアスのことを「いったい山羊め、どこまで知っているものかな?」と心配するし。
昭和16年という時代だから仕方ないとは言え、ガートルードの女性としての魅力について過小評価されているのが残念だ。
たとえば「総入れ歯」だの「茶飲み友達」だの・・。
これはハムレットのセリフだから、特に息子から見た母親はこんなものなのかも知れない。
ガートルード自身も「みっともない事ですが、このデンマークの為とあって、クローディアスどのと、名目ばかりですが夫婦になった」と言う。
このセリフは戦時中の日本人としては自然なものだろう。
原作ではクローディアスと彼女はバリバリの現役なのだが。
それでもクローディアスがガートルードのことで何とポローニアスに嫉妬する(!)という意外な場面もあってびっくりさせられる。