ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

R. ローズ作「十二人の怒れる男」

2020-09-26 10:58:18 | 芝居
9月11日シアターコクーンで、レジナルド・ローズ作「十二人の怒れる男」を見た(演出:リンゼイ・ポズナー)。
ネタバレあります注意!

蒸し暑い夏の午後、一人の少年が父親殺しの罪で裁判にかけられる。
無作為に選ばれた12人の陪審員たちが有罪か無罪かの重大な評決をしなければならず、しかも全員一致の評決でないと判決は下らない。
法廷に提出された証拠や証言は被告である少年に圧倒的に不利なものであり、陪審員の大半は少年の有罪を確信していた。
予備投票が行われる。・・・有罪11票、無罪1票。
ただ一人無罪票を投じた陪審員8番が発言する。「もし我々が間違えていたら・・・」
陪審員室の空気は一変し、男たちの討論は次第に白熱したものになっていく・・・(チラシより)

映画化されて有名になった作品。
その初日。
ちなみに評者は2009年に同じ劇場で、蜷川幸雄演出の公演を見たことがあった。

コロナ感染症対策のためだと思うが、舞台の背後にも客席を設けてあり、評者はそちらの側だったため、割と多くのセリフが後ろ向きで語られ、
残念ながら聞き取れないこともあった。 

一人の誠実な男の辛抱強い努力によって、検察側の主張に対する疑問が皆の間に生まれ、広がっていき、一人また一人と無罪の側に変わる。
そんな中、最後まで抵抗する陪審員3番と10番。
この二人の頭には、それぞれに違った偏見というフィルターがかかっていて、物事をまっすぐに見ることができない。
被告が犯人だという検察側の主張に対して合理的な疑いが生じたことを、他の人々はついに認めることができたが、二人にはそれが難しかった。
だが最後にはこの二人も、自分の言い分があまりにも感情的なものであり、自分が個人的なことや偏見に囚われていることに気づいたのだった。
無作為に選ばれた彼らの中にはいろんな人がいる。
知的で常に冷静な人もいれば、何でもいいから早く帰りたい人、面倒な議論は嫌だという人、スラム街や下層階級の人々に対して強い偏見や
先入観を抱いている人・・。
そんな人々を相手にたった一人で立ち向かう陪審員8番。
彼の誠実な姿勢に打たれて考え直そうとする人、少しずつ明らかになってゆく事件当日の状況、辛抱強い説得の積み重ねが深い感動を呼ぶ。

とにかくキャスティングがいい。
山崎一、石丸幹二、堤真一、吉見一豊、溝端淳平、梶原善、といった面々が、それぞれ適材適所。
ふさわしい位置を占め、期待通りの、いや期待以上の出来栄え。
特に陪審員3番役の山崎一が熱演。8番役の(つまり主演の)堤真一を食うほど。
4番役の石丸幹二も相変わらず声が素晴らしい。

時代が古い(元々は1954年製作のテレビドラマ)から仕方がないが、陪審員が全員男性なのが、やはり違和感がある。
検察側の証人は老人と中年女性だが、彼らについても、現代ではいささか憚られるような偏見が堂々と語られる。
孤独な老人はみんなから認めてもらいたがっている、中年女性は10歳若く見られたくて必死、など。
だがもちろんそれらは些末なことに過ぎない。
この戯曲から、三谷幸喜の「十二人の優しい日本人」(1990年初演)という傑作が誕生したことも忘れてはならない。
そこでは陪審員の中にちゃんと女性が複数いるし。

今回、演出家は遠くロンドンにいて、日本から送られてくる映像を見ながら指示していたという。
リモートの演出でも十分上演可能だということの証明になったようだ。
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S. シェパード作「心の嘘」

2020-09-16 11:17:42 | 芝居
9月5日俳優座5階稽古場で、サム・シェパード作「心の嘘」を見た(訳:田中壮太郎、演出:真鍋卓嗣)。
ネタバレあります注意!

アメリカ西部。ある夜、フランキーは兄ジェイクから妻ベスを殺したと電話を受ける。妄想にとらわれた嫉妬により、ベスが浮気していると思い込み、激しい怒りで強く
殴りつけたという。フランキーはベスの生死を確かめるべきだと主張するが、ジェイクは彼女の死を疑わず、聞く耳を持たない。
実際は、ベスは家族のもとで脳損傷の治療を受けていた。
しかしベスは、自分の怪我はジェイクではなく家族によるものだと信じ込んでいた。
家庭内暴力が引き起こした事件をきっかけに、歪んだ認識の中で揺れ動く二つの家族の物語(チラシより)。

1985年米国で初演された由。今回が日本初演。
実に半年ぶりの観劇。チラシで知ったのではなく、夕刊の記事で知った。
DVがらみの話なので、気が重かったが。

ジェイク、その弟フランキー、母、妹サリー、そしてベス、その父、母、兄マイク。
この8人の内の何人かが相当な変わり者で、彼らの会話について行くだけでも大変。
ジェイクの母は息子の嫁ベスのことを知らない。「ジェイクの女のことなんていちいち覚えてられないよ」
ベスの母も娘の婿ジェイクのことを知らない(結婚式には出たのに)。こちらはやや認知症気味。
フランキーが一番の犠牲者。兄のためにと行動するのにどんどんひどい目にあわされる。
さらに、元々変な人たちがどんどんおかしくなっていく。会話はかみ合わないまま続いていく。
まともなのはフランキーとサリーとマイクだけだ。
ラストはほとんど不条理劇。
サム・シェパードのイメージがすっかり変わってしまった。

ところで、新聞記事に「ジェイクは虚言癖がある」とあったが、それは違うのではないか。
むしろ彼は「思い込みの異常に強い男」だ。
妻を殺したというのも、決して嘘をついているのではなく(だって何のためにそんな嘘をつく必要がある?)、そう思い込んでいるだけだし、
亡父の死因についても、「あれは事故だった」と故意に嘘をついているのではない。
事実とは違う風に自分で記憶をすり替えてしまっているのだ。自分でもそっちの方を信じ込んでいるのだ。
それは、その方が生きやすいからに違いない。事故だと思いたいのだ。
そういう人はたまにいる。
故意に嘘をつく人の方が少ないのではないだろうか。
うそをつくことは日常にもある、とジェイク役の志村史人は言っているらしいが、そうだろうか。
できることなら死ぬまでうそをつかずに生きていきたい、と思っている人は多いのではないだろうか。
世の中には、嘘のつけない人と、平気で嘘をつける人がいるが、後者はうんと少ないと思う。

暗くて恐ろしくてただもう絶望みたいな話だが、意外なことに、笑えるところもあった。
だが状況が状況だけに、客席では笑っていいのかなあ、みたいな戸惑いが見られた。
初演時の米国ではどのように受け止められたのだろうか。

ジェイクの母も興味深い。
一心に息子の世話を焼くが、彼を部屋に閉じ込めて外界と遮断し、引きこもり状態にしてしまう。
ここで母さんといれば安心だよ、母さんがお前を守ってあげる、という感じ。相手はいい大人なのに。
米国にもこんな母親がいるのか、と驚いた。

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ドラマ「ハケンの品格 パート2」

2020-09-09 12:11:32 | テレビドラマ
13年ぶりに大好きだったドラマの続編をやるというので、楽しみにしていた。
まず再放送された懐かしい本編を全部見て復習してから臨んだ。

大泉洋と篠原涼子の掛け合いが、相変わらず楽しくはあったが。
脚本家・中園ミホは、今回なぜ一回置きに別の人に脚本を書かせたのだろうか。
そのためかどうか分からないが、全体に、乱暴な印象になったのは確かだ。

冒頭、29歳の派遣社員・福岡亜紀(吉谷彩子)が田舎の親と電話で話している。
相変わらず派遣社員を続けている、と言うと、誰かいい人いないの?結婚したら?とか言われたらしく、「あたしだってそげん人おったら、したいっちゃけど」と答える。
この短いやり取りで、彼女の出身地域、そして現在の状況が手に取るように分かるところは、さすが手練れだと思ったが。
一方、春子はと言うと、その頃スペインのバルでフラメンコを踊っている。
本編オープニングでは、現地の友人たちとピクニックに行って、みんなでパエリア食べてるという鮮烈な出だしだった。
同じではまずいと思ったのだろうが、日本でスーパー派遣であり続けるだけですごいことなのだから、フラメンコの本場で踊れるほど上達しているという設定は
どうか。しかも現地の青年からの、取ってつけたようなプロポーズ。一体どういうつもりなんだか。
(この後、彼女は彼にすげなく別れを告げて帰国するが、別に頭の片隅に東海林のことがあってというわけではなさそうだし)

前回はそれほどでもなかったが、今回アラが目立つ。
ツッコミどころを挙げていくときりがないが、例えば
① カレーマイスターの資格を持つ春子が、カレー作りには玉ねぎを弱火で長時間炒めることが肝心だという初歩的なことを知らないのはおかしい。
② 春子が明け方、会社の調理室で密かにアジフライを作っていると、ドローンが飛んできて「やめなさい」と警告したり、それを彼女が壊したり・・って、
  あまりにも荒唐無稽でバカらしい。笑わせたいのか?
・・等々
春子の態度がますます偉そうになっているのも気になった。
何よりも、13年前の本編では、大泉演じる東海林武が篠原演じる大前春子と出会って惹かれ、求婚して玉砕する、という大きな流れがあったのに対して、
今回、二人は再会するものの、彼らの関係にはまったく変化がない。
相変わらず二人は会社で衝突を繰り返し、春子は仕事上の危機を幾度も土壇場で救い、東海林の彼女への思いは変わらない。
二人はお互い気になる存在のようなのに、どうしてそこから新たな展開へと持って行かないのか?
東海林は上司にへつらい、部下の手柄を自分のものにする、薄っぺらい嫌な奴だ。
長所は親友を大事にするところくらいだが、それでも彼の一途な思いは報いられるべきではないだろうか?
本編で、春子にすげなく振られた後に、彼女の踊る姿を見つめていた東海林の切ない表情が忘れられない。
このままの状態が今後も続く・・みたいなラストはいかがなものか。
多くの人が、二人がどうにかなるのを期待していたのではないだろうか。
このフラストレーションの持っていき場がありません。

それから東海林の親友・里中賢介を演じる小泉孝太郎という人について。
かつて初めて見た時は、爽やかな好青年だと思ったが、この人は、残念ながら演技にあまり幅がない。
特に、困った時に困った顔ができないという困った人だということが改めて分かった。
脚本家は彼に合わせて宛書きしているようなので、だいたいはうまく行くが、それでも時々は困った状況に陥るので、どうしてもボロが出る。
例えば今回、親友がリストラの対象になっていると知った時も、特に苦悩とか苦悶とか感じられなかった。
見ている方は、あちゃ~だ。
そう言えば、13年前エレベーターの中に閉じ込められて絶体絶命という回があったが、その時でさえ彼は(さすがにいつものように爽やかな笑顔ではなかったが)、
それでもやっぱり笑顔なのだった。
ちなみにこの里中という男は、今回の最終回で、日本語のリテラシーのない、はた迷惑な草食系だと分かるわけだが。

前回ドラマを彩ってくれた脇役の何人かの不在も残念だったが、新たに梅沢昌代さんなど、演技派の人々が脇を固めていたのは救いだった。
芸達者な大泉洋と篠原涼子の演技対決?も楽しめた。
驚いたのは、札幌支社から東京の本社に戻って来た東海林が、春子に再会するシーン。
課長として戻り、得意満面の東海林だが、篠原が彼に向かってにっこり微笑むと、サッと表情が変わり、呆然とする。
だって春子が彼に向かって微笑んでくれたことは、今までなかったから。
これは、ひょっとして関係改善?脈ありってこと??・・・そう彼が思うのも無理はない。
ところが、春子の笑顔が少しずつ消え、目がギラギラし出して、ついにはにらみつけ・・。
これには東海林も驚いて同様ににらみ返すしかなくなり・・。
ここの台本、どんな風に書いてあるのだろう。
とにかく、この二人以外の俳優さんにはなかなか真似できない技です。
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