6月7日彩の国さいたま芸術劇場大ホールで、シェイクスピア作「尺には尺を」をみた(演出:蜷川幸雄)。
今回、図らずも蜷川さんの追悼公演となってしまった。
ウイーンの町を治める公爵(辻萬長)は全権をアンジェロ(藤木直人)に委任し、国外へ出る。実は公爵は修道士の姿に変装して国内に留まり、
権力が人をどう変えるのか観察したいと思ったのだ。公爵の統治下で法に寛容であったことに不満を持っていたアンジェロは、町を厳しく
取り締まる。折悪しく、クローディオという若い貴族が、結婚の約束をした恋人ジュリエットを妊娠させてしまう。厳格な法の運用を決めた
アンジェロは、「結婚前に関係を持つことは法に反する」と彼に死刑を宣告する。クローディオの友人ルーチオは、修道院にいるクローディオ
の妹イザベラ(多部未華子)を訪ね、アンジェロに会って兄の死刑の取り消しをするよう頼む。兄思いのイザベラはアンジェロに面会し慈悲を
求めるが、何とアンジェロはイザベラに恋をしてしまい・・・。(チラシより)
一言付け加えると、彼は恋したのではないと思う。ただ一度肉体関係を持つことだけを望んだのだから。それを言うなら情欲でしょう。
アンジェロ役の藤木直人は熱演だが、セリフの言い出しに力が入り過ぎて、やや生硬。
イザベラ役の多部未華子は全体に声が高過ぎるし、一本調子。
音楽は多過ぎる。特にアンジェロの最初の独白のバックにしみじみとした曲を流すのはいただけない。せっかくの場面に陳腐な色をつけて
しまった。
翻訳は松岡和子。「人は時にエンジェルのように・・・」というセリフが面白い。アンジェロという名前と響き合うように、敢えてこう
訳したのだろう。
演出の工夫のせいか、何度も笑いが起こる。クローディオと妹のイザベラの面会のシーンで何度も笑ったのは初めて。人一人の命がかかっている
というのに、と違和感が残ったが。総じて明るい。
公爵役の辻萬長はいつもながらうまいが、修道士に化けている間、妙に軽く明るいのが気になった。変装がバレないためかとも思うが、仮にも
公爵があんな振る舞いをするだろうか。
相変わらず大事なセリフの直後に雷鳴のような効果音が入るのは、蜷川演出の特徴だから仕方がないが、やっぱりやめてほしい。
この作品は蜷川さんの遺作にふさわしく、ラストも明るく終わる。イザベラに向かって公爵が「私の妻になってくれ」と、皆がえっと驚く
ような申し出をすると、多部イザベラは微笑んで彼の手を取る!普通は言われた側は無反応で、公爵は少し(虚しく)待ってから次のセリフに
移るのだが。
また、死刑を免れたクローディオは身重の愛人ジュリエットと抱き合うが、自分を見捨てた妹イザベラとは手も握らず冷たく無視することが
多いが、ここでは妹ともしっかり抱き合い、さらに高く抱き上げる。
冒頭とラストで、白い衣のイザベラが一羽の白い鳩を手で包んで舞台奥から登場し、鳩を大空に放つ。無垢の象徴。
訳が違うせいか(評者の手元にあるのは小田島訳)、特に後半で新鮮な印象を受けた。
役者について。
立石凉子はとにかく声がいい。この人の声はどんな衣装をつけていてもすぐにそれと分かる。今回は修道院長と女郎屋の女将の役など。
シェイクスピア劇に欠かせない役者だ。
マリアナ役の周本絵梨香(さいたまネクストシアター)は初めて見たがうまい。声もよく、多部未華子が霞むほど。
ルーチオ役の大石継太とポンペイ役の石井愃一も好演。
今回、図らずも蜷川さんの追悼公演となってしまった。
ウイーンの町を治める公爵(辻萬長)は全権をアンジェロ(藤木直人)に委任し、国外へ出る。実は公爵は修道士の姿に変装して国内に留まり、
権力が人をどう変えるのか観察したいと思ったのだ。公爵の統治下で法に寛容であったことに不満を持っていたアンジェロは、町を厳しく
取り締まる。折悪しく、クローディオという若い貴族が、結婚の約束をした恋人ジュリエットを妊娠させてしまう。厳格な法の運用を決めた
アンジェロは、「結婚前に関係を持つことは法に反する」と彼に死刑を宣告する。クローディオの友人ルーチオは、修道院にいるクローディオ
の妹イザベラ(多部未華子)を訪ね、アンジェロに会って兄の死刑の取り消しをするよう頼む。兄思いのイザベラはアンジェロに面会し慈悲を
求めるが、何とアンジェロはイザベラに恋をしてしまい・・・。(チラシより)
一言付け加えると、彼は恋したのではないと思う。ただ一度肉体関係を持つことだけを望んだのだから。それを言うなら情欲でしょう。
アンジェロ役の藤木直人は熱演だが、セリフの言い出しに力が入り過ぎて、やや生硬。
イザベラ役の多部未華子は全体に声が高過ぎるし、一本調子。
音楽は多過ぎる。特にアンジェロの最初の独白のバックにしみじみとした曲を流すのはいただけない。せっかくの場面に陳腐な色をつけて
しまった。
翻訳は松岡和子。「人は時にエンジェルのように・・・」というセリフが面白い。アンジェロという名前と響き合うように、敢えてこう
訳したのだろう。
演出の工夫のせいか、何度も笑いが起こる。クローディオと妹のイザベラの面会のシーンで何度も笑ったのは初めて。人一人の命がかかっている
というのに、と違和感が残ったが。総じて明るい。
公爵役の辻萬長はいつもながらうまいが、修道士に化けている間、妙に軽く明るいのが気になった。変装がバレないためかとも思うが、仮にも
公爵があんな振る舞いをするだろうか。
相変わらず大事なセリフの直後に雷鳴のような効果音が入るのは、蜷川演出の特徴だから仕方がないが、やっぱりやめてほしい。
この作品は蜷川さんの遺作にふさわしく、ラストも明るく終わる。イザベラに向かって公爵が「私の妻になってくれ」と、皆がえっと驚く
ような申し出をすると、多部イザベラは微笑んで彼の手を取る!普通は言われた側は無反応で、公爵は少し(虚しく)待ってから次のセリフに
移るのだが。
また、死刑を免れたクローディオは身重の愛人ジュリエットと抱き合うが、自分を見捨てた妹イザベラとは手も握らず冷たく無視することが
多いが、ここでは妹ともしっかり抱き合い、さらに高く抱き上げる。
冒頭とラストで、白い衣のイザベラが一羽の白い鳩を手で包んで舞台奥から登場し、鳩を大空に放つ。無垢の象徴。
訳が違うせいか(評者の手元にあるのは小田島訳)、特に後半で新鮮な印象を受けた。
役者について。
立石凉子はとにかく声がいい。この人の声はどんな衣装をつけていてもすぐにそれと分かる。今回は修道院長と女郎屋の女将の役など。
シェイクスピア劇に欠かせない役者だ。
マリアナ役の周本絵梨香(さいたまネクストシアター)は初めて見たがうまい。声もよく、多部未華子が霞むほど。
ルーチオ役の大石継太とポンペイ役の石井愃一も好演。