ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

ロベール・トマ作「罠」

2010-05-22 22:03:01 | 芝居
5月18日天王洲銀河劇場で、ロベール・トマ作「罠」を観た(演出:深作健太)。

幕が開くと、山荘の一階らしい居心地の良さそうな室内(美術:朝倉摂)。右手にキッチンに通じるドア、左手にはもう一つのドア、正面には玄関ドアと二階へのゆるやかな階段。

ダニエルは3ヶ月前に結婚したばかりだが、妻エリザベートが口げんかの末出て行ってしまったので、警察に捜索願いを出してここでじっと彼女を待っている。カンタン警部が心当たりを尋ねても彼は妻の親戚や友人のことをよく知らないと言う。
そこにマクシマン神父に付き添われてエリザベートが戻ってくるが、ダニエルは「彼女は妻ではない」と言い張る・・・。

警部はこの「妻」にいろいろ質問するが、彼女はどんな質問にも素早く答えることができ、しかもちゃんとした身分証も持っている。だがダニエルはこの女が自称「神父」の男とグルになって妻のふりをしている詐欺師だと主張する。女はダニエルが前から時々精神的におかしくなることがあった、医者に静養したほうがいいと言われてここに来た、と言う。一体どちらが正しいのか、誰がうそをついているのか、観客も分からなくなってくる。
ところが、警部のいないすきに女と「神父」は妙な行動を取り、どうもこの二人はグルらしいと分かってくる。そこで観客は気の毒なダニエルに味方し感情移入してゆく。
ダニエルは何とかしてこの女が偽者だということを警部に証明したい。とそこに本物の妻を見たことがあるという絵描きと看護婦が登場し、さあこれで詐欺師たちをあばいてやれる、と思いきや・・・女と「神父」は次々にあくどい手を使って邪魔者を排除してゆく。

ついに殺人事件まで起こってしまい、ダニエルは精神病院に入院させられることになるが・・・。

休憩無しの2時間があっと言う間。後半は悪夢のような展開で、いやもうハラハラさせられた。特に、絵描きが男の妻の容姿について話している時に二階から女が姿を現し、じっと聞き耳を立てている時は怖かった!

まさか不条理劇よろしくこのまま何も解決しないで終わるのでは?と心配だったが、最後はすべての謎が解けてすっきり。

エリザベート役の辺見えみりは、声はハスキーだが芝居はうまいし立ち姿も美しい。ワルそうな笑い声が怖い。

警部役の岡田浩暉は時々セリフが聞き取れない。とてもおいしい役なのに惜しい。

作者ロベール・トマの仕掛けた罠に、我々観客もまんまとはめられてしまった。でも後味は悪くない。


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モーム作「2人の夫とわたしの事情」

2010-05-14 23:47:20 | 芝居
5月11日シアターコクーンで、モーム作「2人の夫とわたしの事情」を観た(ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出)。

全3幕。幕が開くたびに違った部屋が現れる。
時は第一次大戦が終わったばかりの英国。有産階級の妻ヴィクトリア(松たか子)は夫ビル(段田安則)の出征中長男を出産するが、夫は戦死。一年喪に服した後、夫の親友フレディ(渡辺徹)と再婚。次男も誕生した。とそこへ、戦士したはずの前夫(?)が生還してくる。戦死は誤報だったのだ。

とまあ、設定は分かり易い。

ヴィクトリアの母シャトルワース夫人役の新橋耐子は輪郭の鮮やかな演技。この人はもうだいぶ昔、井上ひさしの「頭痛肩こり樋口一葉」で幽霊の役をやったのを観て以来だ。この時は端役だったのにこの人の名前だけしっかり覚えてしまったほど思い切りのよい面白い演技だった。今回もうまい。

前夫ビル役の段田安則と現夫フレディ役の渡辺徹は相変わらず達者な演技。

主役ヴィクトリア役の松たか子はどうか。結論から言うと、真面目で努力家で優等生の彼女にはこの役は似合わない。この女はもっと本能的で抜けてて脳みそからっぽ(のように見せることができて)、セクシーで可愛くて子供二人生んでもまだキュートで、放っておけないような魅力を持った困ったちゃんなのだから。ゴールディ・ホーンみたいな人にやってほしい。

夫たちは互いに身を引こうとするが、それはどうも美しい自己犠牲の精神からではなく、夫を翻弄するわがままで勝手なヴィクトリアからこの際逃れよう、との思惑かららしいことが次第に明らかとなってくる。しかしそこにまた第三の男、人妻である彼女におおっぴらに会いに来るレスター・ペイトンなる成金男が現れ・・・。

第2幕、コックが急に辞めて出て行ってしまったので、彼女は新しいコックを募集する。その面接に来た女(池谷のぶえ)に「前のコックはなぜ辞めたんですか」と聞かれ、彼女はすかさず答えて曰く「寿です!」。このセリフ(日本語訳)には感心した。ただ高飛車で横柄なこの女には「不思議ですねえ、どこでもそう言われるんですよ」とまったく信じてもらえないが。

このポグスン夫人は最後に後ろを向いていろいろ叫ぶが全然聞こえない。かろうじてドアの前でこちらを向いて「これからは労働党に入れる!」というのだけ分かった。

「ブス」という言葉はそろそろ死語にしたらどうか。聞いている人の何割がこれで笑えるだろうか。逆に不愉快になる人のほうがはるかに多いと思うが。

コックもメイドたちも突然辞めて出て行ってしまうのはやはり女主人であるヒロインに問題があるのだろうが、その辺がもっとはっきり描かれていたら面白いだろうに。

第3幕、事務弁護士役の猪岐英人の演技(セリフと仕草)が時々意味不明。笑いを取りたいらしいが不発に終わること多し。演出が変だ。

「一回り年上」って原文は何なんだろう。(英語圏には干支はないよね?)この訳もうまい。

男たちは自分の子供に対して驚くほど関心がない。子供の存在は、ただ戦争から帰った前夫が4ヶ月の赤ん坊を見て、自分の子供にしては小さ過ぎる、と驚き怪しむシーンでのみ意味を持つと言ってもいい。
男たちは妻と別れるかどうか悩む時、子供との別れについては一切考えない。それどころかラストでヒロインが家を出て行く時も、一人で身軽に出て行く(と言っても実家に帰るだけだが)。その時子供たちは子守と一緒に子供部屋にいるのだろうけれど、作者モームにとって子供というのがいかに意味のない存在かが分かる。

映画「メアリー・ポピンズ」を思い出した。女性のコック、メイドたち、子守兼家庭教師・・・。

ラストはにがいような甘いような、でも落ちるべき所に落ちたという感じか。何にせよ軽い話だ。





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