ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「ガールズ・イン・クライシス」

2020-12-28 11:34:45 | 芝居
12月7日文学座アトリエで、アンネ・レッパー作「ガールズ・イン・クライシス」を見た(上演台本:小畑和奏、生田みゆき、演出:生田みゆき)。

夫もいる。恋人もいる。でも更に自律した人生を求める主人公ベイビーは、自分の「人形」を求めて旅に出ます。より良く在りたいというシンプルな願いは
どこにたどり着くのか。人間の欲望・エゴ・差別意識・群集心理をファンタジックに描く問題作、文学座アトリエの会に堂々登場!(チラシより)

思いっきりネタバレです!注意!(でも公演はもう終わってるから別にいいか)

いやはや驚いた。
設定(発端)はぶっ飛んでるし、意味分かんない。
横田栄司や亀田佳明ら、役者の何人かは達者だが、だから何だって言うのか。
なぜこの戯曲を上演しようと思ったのか、責任者出て来い、というのが偽らざる思いだ。
時節柄、芝居上演が少ない。
だから中身も分からないこんな芝居でも、文学座がやるんだから、とついダメ元で出かけてしまうこちとら観客の気持ちが分かっているのか。

主役が美女で、その友人がいわゆる「ブス」。
ブスは男たちから避けられ嫌われバカにされ、なのに父親の分からぬ赤ん坊を産む。
美女は彼女に対して初めて嫉妬し、打ちかかって殺してしまう。しかもその赤ん坊まで。
そして彼女にアピールするため自ら人形となった夫と愛人も、彼女によって打ち殺される。
こんな話を男が書いたら、とても上演できないだろうが、作者が女であるばっかりに(?)、かくもおぞましい芝居がこうして人々の目に触れることとなった・・・。
こんな話を見せられて女たちが喜ぶとでも思ったのだろうか。
ただもう不愉快なだけだった。
途中、黒装束の人々が「城」を巡って右往左往するシーンが何度も挿入されるが、全く意味不明。
物語の背景があるのなら、チラシなどで観客に教えてくれないと、あまりに不親切だ。

差別される女たち。
一人は女というだけで単なる男の欲望の対象と見なされ、力づくで支配される。
もう一人は外見が美しくないため無視され軽蔑される。
作者の知る現実はその通りかも知れないが、両者は差別される者同士の連帯へと向かっていくことはできないのか。
なぜ、より強者である美女は、より弱者であるブスを殺してしまうのか。
その上、嬰児殺しまであるのは絶対に許せない。

チラシをよく見たら、作者はドイツ人らしい。
それで納得がいった。
現代ドイツ人の書く芝居にはこれまでも何度かげんなりさせられた経験があるので。
2009年に見たシンメルプフェニヒの「昔の女」とか、ローアーの「タトゥー」とか、リヒターの「崩れたバランス」とか。
彼らはまだ第二次世界大戦の傷が癒えていないのだ。
えっ日本人?我々日本人は、ほら、忘れっぽいから(良くも悪くも)。

美女ベイビーが夫と愛人を捨てて旅に出ると言い出し、彼らの説得にも耳を貸さないと、彼らはお菓子や花で振り向かせようとする。
それでもダメだと分かった男たちは、「じゃあ殴ってみよう、殴れば女はおとなしくなって言うことを聞く」と言って殴りかかる・・・。
作者はこういう経験をしてきたのだろう。
その蓄積された怒りは分かるが、それにしてもなぜ嬰児殺しを・・。

テーマは「怒り」、そして「復讐」。もちろん男に対しての。

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ゼレール作「嘘」

2020-12-22 10:12:25 | 芝居
11月14日俳優座劇場で、フロリアン・ゼレール作「嘘」を見た(演出:西川信廣)。

ポール(清水明彦)とアリス(若井なおみ)は親友の夫婦ミシェル(井上倫宏)とロランス(米倉紀之子)をディナーに招待している。
二人が来たらとっておきのワインを振る舞おうと張り切るポール。
しかしアリスは「ディナーをキャンセルして」と言い出した。
実はさっき街でミシェルが見知らぬ女とキスしているのを目撃し、ロランスに話さずにはいられないからと。
それを聞いたポールは「しゃべっちゃダメ」と大反対。
結局「今夜はキャンセル!」と決めたそのとき玄関のベルが鳴り、やむなくディナーは始まってしまう・・・!(チラシより)

2018年2月に同じ作者の「真実」を見た(文学座公演)。
その時と同じ名前の4人が登場する姉妹作の由。
「真実」と「嘘」という語が頻出。
「嘘こそが友情(愛情)のあかし」というセリフや「デリカシー」という語も。

結局ポールはお人好しで吞気な夫のように見えて、実は相当したたかな奴だということが分かるし、アリスも冒頭、潔癖な女性のように見えたが、実は
それどころか彼女には愛人がいて、その彼の新しい彼女に対して嫉妬に燃えていただけだと分かる。
4人共不倫しているわけだが、それぞれ自分の伴侶が不倫していることは知らない。
あるいは薄々感づいてはいても、相手が誰なのかは知らない。自分の浮気に夢中で、伴侶の裏切りにはさほど関心がない、とも言える。
最後にポールとアリスはやっとそれを知らされる。
ポールは平然とニヤニヤ笑っているが、アリスは愕然と(憮然と?)する。
その後の二人をさまざまに想像させるエンディングが面白い。

一旦終わってカーテンコールの後、再び先ほどの芝居の一部が演じられる。
アリスとミシェルがキッチンに立ち、ポールとロランスが居間に二人きりになると、キッチンの中が丸見えとなり、それぞれのカップルが不倫の仲であることが
観客の目の前ではっきりと明かされる仕掛け。
ずいぶん変わった、思い切った趣向だが、効果のほどは?
芝居の構成としては、個人的にはあまり感心しない。

ポール役の清水明彦はこういう役にぴったりで達者だが、他の3人は微妙。
米倉紀之子さんは、2005年のヨルダノフ作「ゴンザーゴ殺し」で出会ってすぐに、その魅力に参ってしまった。
よく通る低い声とメリハリのきいた演技が印象的だった。
その後も2007年のチェーホフ原作「うつろわぬ愛」、2012年のワイルダー作「危機一髪」と、変わった作品にばかり出ていて、その都度
驚かされ、しかもますます魅了されたが、最近はとんとご無沙汰だった。
久しぶりにキシコさんを拝めると張り切って出かけたのだが、肩すかしだった。
パンフレットで一柳みるが書いている通り、この人は「生きることに貪欲で目的のためには手段を選ばない(中略)腹のすわった女性がよく似合う」。
今回は、ごく普通の女性の役だから、いささか役不足で残念だ。

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古川健作「火の殉難」

2020-12-15 14:26:51 | 芝居
11月10日俳優座5階稽古場で、古川健作「火の殉難」を見た(演出:川口啓史)。

1936年、陸軍の青年将校たちが1500余名の兵を率いた大規模クーデター、2・26事件。
満州国樹立、第二次世界大戦へと突き進む岐路となった事件から見えてくるものとは・・・。
時の蔵相・高橋是清のもとに経済紙記者の神田が訪れる。
稀代の財政家から語られるのは、原敬や犬養毅らとの政争や絆。
「君側の奸」と資本家や政治家を敵視した者たちと「殺された側」の家族の物語(チラシより)。

冒頭のシーンは昭和11年、是清と亡き養祖母(岩崎加根子)との対話(これは彼の夢)。
この後、時系列が前後しつつ芝居は進展する。
日露戦争の戦費調達のため欧米で奔走する(ことになる)是清。ここで役者たち(是清夫妻)は20年位若返る。
こういうのは役者にとって、さぞかしやりがいがあるだろう。

家を訪ねて来た新聞記者に対して、是清が、政治家としてのこれまでの歩みを語る、という構成のため、分かり易いが教科書的で、いささか変化に乏しい。
この大きな流れの中に、時折2・26事件直前の青年将校2人の会話が挿入される。
若い彼らの独りよがりで視野の狭い思い込み、殺伐とした心情が哀しい。
一方で、是清と家族との温かい関係が描かれ、ラストで悲劇が待ち受けていることが分かっているだけに、見る者に悲しみが迫ってくる。

是清は常に大局的な視点を持ち、国のかじ取りを任され、人柄も温厚で政敵とも個人的によい関係を結ぶことができた。
だがそんな彼にも、人の名前を覚えるのが苦手、という意外な弱点があった。
それでは政党総裁は務まらない、と冷静な長男が指摘するのが興味深い。

場面転換が多くて目まぐるしいが、それを除けば非常によくできた芝居。
さすがは「治天の君」の作者だ。

死者を登場させることによって物語にぐっと奥行きが生まれた。
「治天の君」での衝撃を思い出した。
大正天皇は苦難の生涯を終え、ついに死に、死後の世界で厳しかった父(明治天皇)に出会う。
だが父は、そこでもなお彼に対して生前と変わらず厳しいままなのだった・・・。

原敬首相役の島英臣と犬養毅首相役の加藤佳男が好演。
是清役の河野正明は、ダルマというあだ名だった是清に体型もふさわしい。
是清の亡き養祖母役の岩崎加根子は期待通り、味のある演技。




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ボンド作「男たちの中で」

2020-12-03 10:37:35 | 芝居
10月25日、座・高円寺で、エドワード・ボンド作「男たちの中で」を見た(演出:佐藤信)。

父親と息子と敵対企業の、権力をめぐるスリリングな応酬。世界を支配しようとする駆け引き。緊張と滑稽、絶望・・。シェイクスピアの国イギリスの
劇詩人エドワード・ボンドの戯曲は、長大なセリフに仕組んだトラップで私たちに考えよ、と迫ってくる(チラシより)。
銃器製造・販売の老舗企業オーナー、オールドフィールド(大森博史)には養子レナード(松田慎也)がいる。レナードは父の会社の取締役会に入れてほしい、と
父に頼むが、時期尚早と断られる。敵対企業の経営者ハモンド(小須田康人)は、オールドフィールドの会社を乗っ取ろうと画策している。
中小企業の跡取り息子ウィリー(河合龍之介)はそれに加担する。さらにオールドフィールドの秘書ドッズ(服部吉次)は主人から全幅の信頼を得ていながら
裏ではハモンドと結託している。使用人バートレイ(山口賢人)も素性不明で怪しい。

騙し騙され、味方と信じていた男が実は敵と通じていたり、意外な展開が続く。
だが、とにかくセリフが長い。
作者は劇詩人と言われているそうで、確かに詩的な美しさはあるが、シーンによっては非常にくどい。
ウィリーがすねて見せるシーンなど、しつこ過ぎる。

ラスト、主人公はなぜ自殺しようとするのか、その肝心なところが分からない。それではお手上げだ。
人間関係の変化など面白いところもあるが(そして役者たちの演技は達者なものだが)。
この戯曲があまり上演されないのも不思議ではない。

役者では、やはり大森博史と小須田康人が際立って見応えがあった。



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